知り合い同級生トーナメント開始
来て欲しくない日が来ちゃったよ。
貸し切りの闘技場は、少し小さめだが屋根付きで、丸く高い壁の上に観客席がある。
地面は土だな。踏みしめやすい。多少の無茶は結界がなんとかしてくれるだろう。
「だれがここまでガチのやつ借りろっつった! お前この金俺たちから出てねえだろうな!」
「安心しろ。ふっかけたのはこっちだ。そしてスポンサーが出してくれた」
「スポンサーですわ!」
観客席にヒメノ一派がいる。
「おーい不審者がいるぞ。誰かつまみ出してくれ」
「はいアジュ様、カシューナッツですわ。これを食べて、わたくしも食べてくださいまし」
「誰がおつまみ出せっつった不審者。お前ベタなボケで俺の不信感ゲットしてんじゃねえぞ不審者!!」
本当になぜいるのだろう。戦闘前に精神的な攻撃は卑怯じゃない?
「ご安心を。これはわたくしという愛あるスポンサーからのプレゼント。愛を与えられればいいのですわ」
「ストレスだよ。お前から与えられるもんはストレスだけだよ」
「これも運命。きっと二人は運命の赤いストレスで結ばれているのですわ」
「赤いストレスってなんだよ! 血か? ストレスで胃に穴が開いてんだろうが!!」
「すいやせん旦那、あっしらでフォローしておきやす」
「頼む。切実に頼む。もう拝むこともやぶさかじゃないぞ」
せめて真面目に事故なく終わりたい。トラブルは避けるんだよ。
「予定を変更して、まず個人戦からやっていくわ」
「神入れての乱戦はメインイベントじゃな」
「体力なくなっちゃうものね~」
プログラム変更があったっぽい。まあいいけどさ。
「そういやどうやるんだ? まさか総当りか?」
「死ぬわ。流石のオレでも死ぬわ」
「というわけでトーナメントやって、戦いたかったら、個人戦を勝手に後でやってね」
「雑だな。まあ仕方がないか」
参加選手は俺、リリア、シルフィ、イロハ、ヴァン、ヒカル、ももっち。
見届人にミナさん、コタロウさん、ベルさん。
なぜかいるヒメノ一味。
「はいルーレットどん!!」
なんか壁にかかったルーレットが回転している。
このためだけに無駄なもん作るな。くじ引きとかでいいだろ。
「一回戦はリリアさんVSヴァンさんです!」
「出番かい?」
「早速じゃな」
「おー……こりゃまた意外だねえ」
「我の愛の予想をもってしても、まったく予想がつかんな。期待しよう」
二人以外は全員観客席へ移動。
いきなり当たらなくてよかった。
むしろ俺がヴァンに当たらなくてよかった。
「ほどほどにがんばれよ」
「うむ、やってやるのじゃ。そこで見ておれ」
軽く手を振って、振り返される。死にゃしないし、見守ろう。
現状どれくらい強いのか気になるし。
「ヴァン、何か言いたいことがあれば、我が聞いてやるぞ」
「なんつうかね、アジュ」
「俺?」
ヴァンが無駄に深刻な顔してやがる。今さら嫌になるタイプじゃないだろうに。
「これは試合で、戦うってことは当然攻撃するわけだ。当然傷もつくし、勝敗も決まる」
「そりゃそうだろ」
言いたいことがまーったくわからん。こんな歯切れ悪い喋り方しないだろ。
「だからこれが理由で殺されても困る」
「俺のことなんだと思ってんだあぁ!!」
「いや、一応だよ。一応確認しておく。それが日々を安全に送るコツっていうかだな」
「なんにもしねえよ! 正式な試合で勝とうが負けようが、反則技でも使わない限り、当人同士のことに首突っ込まねえよ!!」
俺を秩序も倫理もないバーサーカーみたいに言うのはやめろ。
あくまで普通の一般人だ。そんな警戒されるような危険人物じゃない。
「アジュはそういうスタンスよ。私たちも、リリアを傷つけられても恨まないわ」
「オレが勝っちまったらどうすんだよ?」
「戦うんだから、どっちかは絶対勝つだろ。適当に次は勝てるとか、気にすんなとか慰めときゃいいんだよ。無理やり試合に引きずり込んでいるわけでもねえだろ」
「というわけで安全じゃ。どんとこい」
いつもの黄金剣を構え、扇子に魔力を流したリリアと向かい合う。
魔力で柄の部分を作っているのは、刃を滑らせてくる敵への対策かな。
「でははじめ!!」
真正面から二人の武器がぶつかる。
押し合いが始まるが、その力が拮抗しているのか、どちらも動かない。
「オレってさ、結構力自慢的なところがあるわけよ」
「うむ、力強い太刀筋じゃな」
「……自信がぶっ潰れそうだぜ」
そして剣戟の幕開けである。
暴風のように襲いかかる、暴力そのものなヴァンの剣。
それを時に正面から打ち合い、舞うように避けては攻撃に転じるリリア。
「…………やっぱお前さん相手に手加減はしねえ」
「よい心がけじゃ」
「ほう、ヴァンと正面から戦えるとは面白いぞ」
「ルーンちゃんあんな強かったんだねえ」
あいつはあらゆる才能の塊。天才の頂点らしいからな。
筋力だけでも戦えるほどスペックが高い。
そして努力している。修練を欠かさない。
「そろそろ魔法も使うとするか」
「色々やってみるのはよいことじゃ」
全属性魔法が次元を超えて接射される。
光ったり爆発したり、もう何がどう飛んでいるのかすらわからん。
「いきなりそれかよ!」
「にゅっふっふ、こんなものではないのじゃよ」
「爆裂剣!!」
触れれば爆発する斬撃を飛ばす。
正直よくわからんが、できるものはできるらしい。
「興味深いのう」
わざわざ結界出して爆発させている。解析する気だな。
「なるほどのう……複雑に混ざっておる。一定のリズムではないようじゃな」
「全力! ぶった切り!」
「おおっと。そうはいかんのじゃ」
手加減など本当に考えていないんだろう。ヴァンの全力斬撃が飛ぶ。
「まともに打ち合うのはやめておくのじゃ」
転移魔法で素早く移動。上空に出現し、魔法の連射へつなぐ。
「爆熱オロチ!!」
黄金剣を蛇腹剣へチェンジ。そのまま爆発の魔力を乗せて伸ばしている。
「甘いのじゃ」
ヴァンの右手に拳くらいの岩が次元転移。
「うおっつ!?」
内側から指にぶつかったせいで、剣を落としてしまう。
「頑丈に鍛えた者でも、足の小指ぶつけたら痛い理論じゃ」
ちなみに超人には通用しない。
小指まで防御力高いし、神話生物は痛覚と神経がなかったりするからだ。
「おおぉ……アジュみてえなことしやがって……結構痛かったぞ」
「あやつみたいな……それはちとショックじゃな」
双方別のダメージを受けている。アホか。アホなのかお前らは。
「ショックついでに電気ショックじゃ」
精神に無駄なダメージを負いながらも、ヴァンの足元に放電魔法陣を張っている。
「ぬおおおぉぉぉ!?」
剣を拾う前に魔法の雨が降り注ぐ。
「フレアドライブ!」
ヴァンの全身が赤いオーラに包まれる。
期末試験で見た気がする。
「おぉ? 前見たやつだな。ちょっと違うけど」
「あれの防御力上げたやつだ。短期決戦ならこれでいい。負担少なめ、時間も少なめ。リベリオン? とかいう魔法と同じさ」
「ちょいちょいパクリやがるな」
「癪だが魔法のセンスと運用法においちゃあ、お前さんが上さ」
魔法が降り注いでいる最中に会話する余裕があるか。
「分厚く重い鎧じゃな。生半可な魔法では傷つかんか。しかし機動力は落ちるじゃろ」
「ああ、だから死ぬ気で動く!」
さっきよりも速度が上がっている。完全にフィジカルで無理矢理動いてやがる。
「うーわ無理しやがる」
「筋肉と基礎体力があるからこそできる芸当ね」
「根性だねー。がんばれーヴァンちゃーん」
「ちゃんはやめろ!」
リリアから魔力じゃない、妖気が漂い始める。
「ちょっと本気でやってやるのじゃ」
久々に九尾リリアだ。今回はしっぽ二本。
透明な妖気と殺気がモヤのように戦場を漂い満たす。
「やっぱ隠し玉アリか」
「秘奥義のひとつやふたつなければ、あやつの隣にはおれんのじゃよ」
リリアが完全に消えた。
そして何かがぶつかる音と、壁に激突するヴァンが見えた。
「う……っが……」
「ヴァン!」
「あらあら~やっぱり強いわね~」
「いってえ……強化魔法が効いてねえのか?」
あの頑丈で激重のヴァンを何十メートルも殴り飛ばすんだ。
そりゃ何か細工もあるだろう。いや素でやってるかもしれんけど。
「それはあくまで魔法。ならば打ち破る方法もあるのじゃよ」
「参考までに聞かせてくれ。全力で参考にすっから」
「俺も興味あるな」
「実施で教えてやるのじゃ。まずいつもの魔法変換」
突っ込んでいくヴァンを紙一重で避け、腹に掌底をぶちかます。
「うごっ……!?」
体がくの字に曲がり、それでも全身を爆発させて距離を取る。
丈夫だねえ。あいつどんな鍛え方してやがる。
「おぬしの強化魔法は魔力の鎧。性質を変化し、無効化するか、触れた部分をわしへの強化魔法に変換するのじゃ」
「本当にぶっ壊れ性能だねルーンちゃん」
「うむ、我も見たことがない。見事……魔法の極地であろう」
「敵じゃなくてよかったわ」
「なるほど……オレの弱点が見えてきたぜ」
「それが目的だろ?」
俺たちを引っ張り出したのは、自分がどれくらい超人予備軍に通用するのか、自分の欠点を知りたいという名目もあるだろう。
「思った以上に成果があって嬉しいねえ。フレアエクスプロージョン!!」
妖気の霧を、魔力の爆発でふっ飛ばしている。
疲労も蓄積されているはずなのに、あれは本当に限界超えているだろう。
「どうせなら、ガチってどこまでいけるか試してやる」
「ならば応えてやるのじゃ」
それを最後に二人の姿は見えなくなった。
ただ暴風が観客席の結界にぶつかり、土煙が舞い、響く音は打撃か魔法かの区別すらつかない。
「いけリリア!!」
「がんばれー!」
「愛ある限り、その生命を燃やすのだ友よ!」
みんなで届いているかもわからん声援を送る。
「オオオオオォォォ!!」
赤い光が流星のように暴れ回り、それを光と妖気が叩き続ける。
ヴァンも音速突破はしているのだろう。
だがリリアは確実に高速を超えている。
パワーもスピードも上回る相手だ。
「オオオリャアアアァァァ!!」
「せえええええいい!!」
だが俺の目には白と赤の光しか映らない。
つまり、体が映らない。攻撃を浴び続けてなお、速度を維持しているのだ。
「本気なんでございやしょう」
「マジでリリアさんに勝つつもりなんっすね」
「見上げた野郎だ……かっこいいじゃねえか」
そんな攻防も無限に続くわけではない。
ヴァンの強化魔法は未完成だ。やがて赤いオーラがはっきりと見えてくる。
「次で決める」
「言い切りおったな。ならば受けて立つのじゃ」
距離を取り、完全に足を止めた。
恐ろしいほどの密度で魔力を練り上げ、それ自体が凶器となっている。
「ガアアアアァァァ!!」
ヴァンが咆哮とともに切り込む。
自身の魔力と合わさり、その姿は赤い鬼と化す。
「せええええいっ!!」
交差する一閃。二人から魔力が消え、リリアの扇子が砕けた。
それを見ながら、ゆっくりとヴァンが倒れる。
「……そうかい。届かねえか……オレの負けだ」
「届いておったよ。見事じゃ」
「勝者、リリア・ルーン!!」
すぐに駆け出すソニアとクラリス。
ヒメノも回復に混ざっているので、命に別条はないはずだ。
そもそもあいつら魂くらい引き戻しそうだな。
「お疲れ。いい勝負だった」
こっちに来るリリアに回復魔法をかけてやる。
手の甲から血が流れているのを確認した。
「うむ、やはり勇者科は成長が早いのう」
「どこか怪我したの? 見せて」
言いながらシルフィとイロハも回復に参加。
「凄い試合だったわ。見ごたえがあったわよ」
「うんうん。っていうかあじゅにゃんと私はこういう人と戦うの?」
「考えるのはやめとけ」
回復にももっち参加。袖をまくったりして、怪我の具合を見る。
リリア自身も回復魔法が使えるからか、もう傷はない。
「はー……いや負けちまったぜ」
ヴァンが客席まで上がってきた。回復はえーよ。
「一命をとりとめましたわ」
「危なかったんかい」
「私とクラリスでなんとかなるわよ。ヒメノさんもいれば、即死だろうが引き戻すわ」
「本人の前で言うなっつうの」
もう元気なようだ。体力ならもう超人レベルじゃないのかね。
「まだ本物相手にゃ足りねえか」
「いいや、よい戦いじゃった」
「そうかい。次はもっといい戦いにしてやるよ」
軽く握手を交わしている。全力出して戦うと、スポーツマンシップとやらが芽生えるんだろうか。
「おっと、悪いなアジュ」
「気にするな。そういう握手はマナーとか礼儀とかあるだろ」
これは問題ない。健闘をたたえているのだ。事実見事な試合だった。
「アジュが穏やかだ……」
「俺はいつも温厚だろう」
「疲れたのじゃ。しばらくゆっくりしたいのう」
「特別に膝に座ることを許す」
俺もたたえてやろう。無言で膝に座ってきた。
それを止めるやつもいない。
「そっちもなんかしてやれ」
「オレが? それがご褒美になるのはお前らだけだぜ」
「じゃあソニアが膝枕とかしてあげるのは?」
ナイスシルフィ。俺だけ恥ずかしいのは避ける。
そんな俺の意思をしっかり読み切る。素晴らしい。
「えぇ!? いやでも人前で……」
「んじゃ頼むわ。魔力使い切っちまってな。立ってんのも辛いのさ」
「ソニアがやらないなら~、わたしがやっちゃうわよ~」
「…………しょうがないわね」
こうして次の抽選を待つのであった。
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