ホノリと武器談義イン図書館

 真夏。それはつまり暑いということ。そんな中、俺は外に出ている。

 こんなん賞賛されてしかるべきだろ。


「ふはあ……死ぬ……」


「サカガミ? 学園に残ってたんだな」


 大図書館の中で涼んでいた俺に声をかけてきたのは、久々登場ホノリ・リウスだ。

 半袖半ズボンの制服で、手には武器関係の本が握られている。


「ああ、魔法の講習とかに行っていた」


「暑いのによく外に出る決心がついたな?」


「連日外に出ている俺を褒めてもいいぞ」


 誰でもいいから俺を褒めろ。図書館から出る気がなくなるじゃないか。

 魔法の初心者向け教本とかもあって、好きなシリーズもある。

 『よくわかる攻撃魔法・小賢しさ全開応用編』が最近の愛読書だ。


「健康的だな。すごいすごい。フルムーンたちはいないの?」


「いない。今日は別行動で……そうだ。武器でおすすめ聞いてもいいか? 鍛冶科だったよな?」


 武器屋にも行っておかないといけない。

 ソードキーみたいな限定品以外は消耗品である。


「フルムーンの武器は手に入ったんだろ?」


「いや俺の」


「……サカガミの? 必要ないでしょ。あの綺麗な剣と初心者向けの剣どうした?」


「あれは強すぎるから、まだ初心者向けのやつ使ってんだけどさ」


 腰に挿してある剣を鞘ごと渡す。もちろん刃は出さない。

 だって図書館で刃物出すとかおかしいじゃないの。


「使い続けていたらぼろぼろ。変えたいんだけど、安くてこれよりちょっとだけ初心者向けを探している」


 二階テラスに誰もいない……まあ暑いからなんだが。

 危険がないことを確認し、テラスに出たリウスが剣を抜く。

 完全に刃こぼれしています。あと数回使ったら砕けそう。


「完全に初心者向けだからなあ。っていうか私だけ外に出すなよ」


 暑いので、テラスに出たリウスを室内から見守る。

 熱気が開いた扉から来るのがもうしんどい。


「その件については本当に済まないと思っている」


「剣だけにか?」


「……そうっすねリウスさん」


「相談に乗ってやらないぞ」


「全面的に俺が悪かった」


 この空気、嫌いじゃないわ。

 リリアたちとも、それ以外のやつとも違う空気感だ。

 男友達ってこんななのかね。


「素の俺は素人なの。だからそれでもちょっと重い」


「極端なやつ……鎧着たら強いんだろ?」


「ああ、つまり素人に毛が生えそうか、宇宙を粉々にできるかの二択だ」


「どんだけだよ……」


 我ながら極端だねえ。まあそれが楽しいんだけれど。


「つい折れないと思って使っていたらこのザマさ」


「手入れしないとダメだぞ。武器は意外と繊細だったりするんだから」


「そのへんの知識さっぱり」


 これは改善しようか悩む。そもそも改善できることなのかわからないからだ。

 初心者用の武器くらい買える。なら馴染みの武器屋でも作ろうかなと思ったり。


「こういう刀っていうか片刃の剣で、ちょっと軽い方がいいんだけれど」


 室内に戻り、長めのソファーに座って、お互いに本を読みながら雑談続行。

 テーブルを挟んで向かい合っているが、実に快適だ。

 靴脱いでソファーに寝転がっちゃおう。涼しいし人が来ないし極楽である。


「難しいな……初心者用なんて山ほどある。だから本人が地道に探すしかなくってなあ……」


 申し訳なさそうに頬をぽりぽりかいているリウス。

 別に世間話の延長だし、そこまでマジにならんでもいいのに。


「重い剣に慣れていくというのはどう?」


「俺は一撃離脱型。今のところはな。だから重すぎると機動力が削がれて死ぬ」


「戦闘スタイルとの兼ね合いか。ますます本人しか解決できないぞ」


「だよなあ」


 訓練してみて、やっぱり小細工スタイルが一番だと結論づけた。

 リベリオン・トリガーもあるし、機動力を大事にしよう。


「すまんかった。リウスは武器作ってんのか? それちょっと気になってきた」


「作っているさ。この暑い中で」


「……うへえ。ジュースくらい奢ってやろう」


 俺は絶対に鍛冶科には行けない。確信しました。リウスさん半端ないっすね。


「武器作るんならさ、学園より実家の方がいい設備あったりしないのか?」


「あるけど……夏期講習の応募が多くてね。人でごった返すより、学園でじっくりやる方がいいのさ」


「なんじゃそら。夏期講習?」


「サカガミは高等部からの編入組だったか。生徒からの応募だったり、逆に有名所がオファーしたりで、夏休みに少しの間だけ教えを乞う制度だよ」


 短期合宿というか、職場体験というかまあ……なんかそんなあれらしい。


「今のうちに有望株に唾つけとこうってことか」


「そんなとこ。うちは素材集めてもらったり、その素材で作った武器をあげたりもやってるぞ」


「興味があります」


「勘弁してください」


 ホノリさん全力のお願いである。声がマジっぽさ100%ですよ。


「即答かい。素人には手を出せない領域か」


「いや、前に言ったよね? フルムーンの貴族だって」


「言ったぞ。だからいけるんじゃないかって」


 まったく縁のない貴族の家よりは、断然理由に説得力がある。


「真逆だって。フルムーンの! 貴族なんだぞ? 自分の家に王族とその友好国のお姫様が来るんだ。それはもう接待づくしになるぞ」


「ああ……そいつは困るな」


 まともな講習にはならないだろう。

 死ぬほど気を遣われて、誰も得しないことが容易に想像できる。


「親父の神経擦り切れる。どうせルーンも重要人物だったりするんでしょ?」


「表じゃ全然知られていないけれど、魔法のプロトタイプ作ったり、神様と世界救ったりした伝説の一族だよ」


「ほんとにもうどんだけだお前ら……しかも絶対に四人で来るよね?」


「当然だ。絶対に四人一緒だ。そこは譲らない。できないなら行かない」


「来ないでくれ。お願いだから。うちの使用人の胃がぶっ壊れる」


 使用人とかいるのね。やっぱりお屋敷もでかいのだろう。


「貴族って大変なんだなあ……」


「なぜ他人事だ。無償ってわけにはいかないけど、素材があれば武器作成を請け負ってくれる人はいるぞ」


「そいつの力量がわからん。リウスに素材渡したらできるか?」


 ソードキーが軽すぎるから、重さのある初心者用を使っているわけだ。

 そこさえ改善できればいい。


「素材次第だな」


「レッドドラゴンの牙と爪と眼球あるぞ」


「なんで!?」


「それで初心者用の使いやすくて訓練にもなる剣を作ってくれと依頼するわけだ」


「バカにされている気がするな」


「そこですよリウスさんや」


 ドラゴンを素材に使うのだ、そりゃあ強くてかっこいい剣を作れと依頼するものだろう。

 何が悲しくて初心者用の剣なんぞ作らねばならないのか。

 からかっていると受け取られる可能性がある。


「興味はある……馴染みの武器屋を紹介してやることもできる。けど自分で探すのも楽しいぞ。それこそギルメンと一緒に出かけてやれって」


「……まあ、悪くはないな」


「そう思ったら行動する。空いているメンバーに連絡できるでしょ?」


 リウスは気配りのできるタイプだな。

 ももっちのようなタイプといるとそうなるのかね。


「俺から誘うのってなんか恥ずかしくないか?」


「乙女か。サカガミのメンタルが理解でないぞ」


「乙女なんぞより格段に繊細だぞ」


 とりあえず連絡は入れた。

 待ち合わせ場所も決めたし、あとは時間通りに行くだけ。


「なぜ私を巻き込んだの?」


「武器の専門家がいると楽だから」


 リウスにも付いて来てくれと頼んだ。

 了承してくれて安心している。他人がいれば無理にいちゃつきはしまい。


「私は誘えるのか。あとホノリでいいよ。そっちのギルメンもホノリでいい」


「了解。あいつらは特別なんだよ」


「ちょっとあなた」


 さて、出かける頃には涼しくなっているといいな。


「聞いてるの?」


 女がこちらに歩いてくる。知らん女だ。誰こいつ。

 金髪で制服。容姿は並くらいかね。見覚えがない。


「ん? 俺か?」


「みたいだぞ」


「あなたたち以外に誰がいるのよ?」


「いや、初対面だ……よな? だから俺だとは思わなかった。すまない」


 マジで初対面だろう。そこまで考えて、近くに人がいないとはいえ、流石にうるさかったかなと気づく。


「あー騒ぎすぎたかも。悪いな」


「ん、確かに。うちらが悪かった」


 とりあえず謝罪とかしてみる。無駄に喧嘩売ることはない。

 俺は温厚で善良な一般人枠です。


「じゃ、行かなきゃいけない所があるんで」


「逃げるの? ちょっとくらいお話してもいいんじゃないかしら?」


「パス」


「ギルメン以外に興味もてって」


 さっさと行こうとしたら、ホノリに引き止められる。

 知らんよ。女なんて本当にどうでもいい。


「お前達、逃がすんじゃないわよ」


 女の後ろにまた女。しかも取り巻きっぽいのもいる。


「まずいことになりそうだぞ」


 ホノリが小声で話しかけてきた。こちらもできる限り声を潜めて返す。


「ああ、図書館って本に血がついたらダメだよな。灰……は本につけたくないし」


「殺しはもっとダメだぞ。殺す前提はやめろ。躊躇しよう。お願いだから」


 ここは涼しくて好きなスポットだし、汚したくない。

 依頼人の可能性もあるしな。仕方がないか。少しだけ話を聞いてみよう。

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