ヒメノに親衛隊とかいるらしいですよ

 図書館で変な金髪女に絡まれる俺とホノリ。今は図書館の中庭だ。

 運がいいことに外へ出ろと言われた。暑いけれどこれで図書館を汚すことはない。

 この後の予定が遅れるので、できれば敵であってくれ。


「こっちのギルドメンバーがお世話になったようね」


「人違いだろ」


 よりによってこんな偉そうな女のいるギルドなんぞ、関わり合いになりたくない。

 そこから何人か名前を出されたが、全て知らん。


「誰だよ。本当に人違いじゃないだろうな」


「試験の時いたぞ。覚えていないの? やたら絡んできた三人組いたぞ」


「知らん。マジでわからん」


「ギルメン以外に興味もてって」


「無理」


 ぼんやりとしか覚えていない。容姿も出てこないわ。


「最低ねあんた」


「自覚はあるよ。ってまさか、試験でやられた腹いせに、そっちに依頼したってのか? 勇者科のやることかよ」


「勇者っぽい振る舞いについては、サカガミが言えたことじゃないぞ」


 ですよね。いやでもなあ……仮にも勇者名乗っといてチンピラと同レベルって。


「それはまあ……でもリベンジに他人使うか? 自分で殴るから気持ちいいんだろ? あとホノリはアジュでいいよ。まあ好きに呼べ」


「ギルメンに怒られないか? 怖いぞ」


「そんなことで怒るタイプじゃないさ」


「こっちを無視して話してんじゃないわよ!」


 切れ出す金髪さん。すまんね。本格的に興味が湧かないんだ。

 これからも一生思い出す必要がないだろう。


「悪い。で、なんだ? 俺しかいないところを狙ってリベンジか?」


「ワタシの仲間を試験の部隊でコケにした。それだけでも気に食わないのは事実よ。あんたは調子に乗らないように。本来あんたなんかに負けるわけないのよ」


 そもそも素の俺が撃ったプラズマイレイザーに負けませんでしたっけ。

 リリアの協力もあったが、素の俺に負ける珍しい人間だったはず。

 言わないであげるのが優しさなのかなあ。クソ女に優しくしたくない。


「でも事態はもっと深刻。あなた……ヒメノお姉様にまとわりついているみたいね」


 一瞬思考が停止した。ヒメノとお姉様ってセリフが、知らない人から出ると結びつかない。


「えぇ……お姉様って……姉妹か何か?」


「思い出したぞ。アジュ、この人達は親衛隊だ」


「そうよ、ヒメノお姉様の親衛隊。覚えておきなさい」


 偉そうにしやがって。だがまあ納得はいった。


「親衛隊ね。そういうことか」


 あいつ腐っても上級神だしな。部下もフリストとやた子だけじゃないか。


「またなんかヒメノから依頼か? ちょっと忙しいから、そっちで解決できるならしてくれって伝えてくれないか?」


「何言ってるの?」


「……ん? 何って?」


「あんたなんかに何を依頼するっていうの?」


 話が食い違っている。なんか伝わっていないぞ。首を傾げて変な顔してやがる。


「んん? ちょっと待て何言ってんだ? ヒメノの親衛隊なんだよな? やた子とかフリストの同僚だろ?」


「やた子さんやフリストさんにも唾を付けようってのね。この変態が」


「待て待て。本当に何なんだよ? お前らもヴァルキリーか?」


「ヴァルキリーってなによ? 適当なこと行って逃げる気?」


 なんで話が伝わらないんだ? 意味がわっかんないぞ。

 こいつらは親衛隊。やた子とフリストを知っている。

 じゃあなんで俺どころかヴァルキリーすら知らないんだよ。


「アジュ、多分だけど……親衛隊の意味間違ってるぞ」


「どういうことだよ? ヒメノ直属の部隊じゃないのか?」


「ざっくり言えばファンクラブだよ」


「……………………はあああぁぁぁぁ?」


 もうなんなの。本当に思考が追いつかないことすんのやめてくれないかな。


「あのはた迷惑な色ボケアドリブ女神にファン? 正気か?」


「お姉様を悪く言わないで!」


 親衛隊とかいうアホどもからブーイングである。うざい。


「お姉様が優しいからって、馴れ馴れしくしている悪い虫に、自分の立場をわからせてあげようと思って」


「いや、むしろ迷惑しているのは俺なんだけど」


 あいつの既成事実への執着とフリーダムさは半端ない。

 なにやら不穏な計画をしているらしいので、今後行動に移るようなら、潰さねばならないほどだ。


「生意気ね。お気に入りなら手を出されないとでも思ってるわけ?」


「リウスの娘がいるから守ってもらえると思ってるんでしょ。浅ましい」


 ひそひそ話し始めた親衛隊のみなさま。こいつらの思考がわからない。

 むしろホノリがいるせいで皆殺しにできないのに。


「完璧に思い出したぞ。勝手にファンクラブ名乗って、過激なことをやりだしたから、一回ヒメノさん本人と部下に潰されてるはずだぞ」


「えぇ……」


「ちっ、余計な口を挟まないでくれるかしら。そこから必死に再建したのよ」


 ヒメノに迷惑だと言われ、それでもやめないから潰されたらしい。

 馬鹿なんだな。ただの狂ったアホじゃないか。


「親衛隊の邪魔をしないでもらえる? リウスさん、あなたは関係ないのよ」


「もういいだろ。こっちも予定があるんだよ」


 アホ軍団から一歩離れようと踏み出した。


「やれ」


 突然複数の人間が現れ、俺に剣を向けてくる。

 どいつも暑い中マスクやらで顔を隠していますが、しんどくないのかね。

 首筋に当たるギリギリで刃は止められている。


「アジュ!? やめろ! シャレにならないことになるから!」


「動かないで。この男の首が飛ぶわよ」


 ホノリには襲いかからないようだ。俺だけを狙っているのだろう。


「凄いでしょう。アジュとかいったわね。あなたニンジャって……ご存知?」


「いやまあ知ってるけどさ」


 よく見れば刀を持っているやつが多いな。

 全部で俺の近くだけで六人くらい。気づかなかったし、手練の忍なんだろう。


「抵抗は無意味よ。そのニンジャはプロも混ざっているわ。うちで雇っているプロで、学園の卒業生よ。高等部一年で勝てる相手じゃないの」


 別に腕輪のオートガード機能があるから、攻撃とか効かないんだけれどさ。


「今からちょっとだけ痛めつけるけれど、これはお姉様に近づいた罰よ。戦闘訓練で怪我したとでもいいなさい。いいわね? でなきゃいくらリウスの娘がいるとはいえ、お仲間ともどもただじゃすまないわよ」


 なんだ殺していいメスか。


「これに懲りたら二度とお姉様に近づくんじゃないわよ」


 もういいや。ここで皆殺しだ。一匹も残さない。


「…………ももっち?」


 ガードバリアを展開しようとしたその時、親衛隊連中の後ろでこそこそしている人影を発見。なんとなくその姿が気になった。


「知り合い?」


「いいいいいいいや、誰のことかさっぱりででで……ひ、人違いじゃないかな」


「いやもう完全にももっちだろ。今回は敵なんだな」


「違うんだよあじゅにゃん!」


 猛スピードでこっちに詰め寄り、弁解を始めるももっち。

 周囲があっけにとられている。


「違うの! わたしも好きでやってるんじゃないの!」


「殺していいメスじゃないってことか?」


「相変わらず全力で不気味に怖いねあじゅにゃん。クエストでガードを雇えるって知ってる?」


「護衛の依頼とかだろ?」


 ボディーガードの依頼は普通に存在する。

 ダンジョンの調査とか、自分の研究を盗まれないよう研究室に見張りを立てたり。

 嫌がらせをしてくる犯人を探偵科に探させつつ身辺警護させたり。

 そういった依頼もある。


「まあ依頼は色々だよな」


「そう! それなんだよ単位稼ぎ! あじゅにゃん相手とか知らなかったんだよ! お願い信じて!」


 物凄い必死に詰め寄られる。なぜそんなに怯えているのか。

 依頼失敗で単位が消えるのが怖いのかな。遊び呆けているから、夏休みもクエストやってんのかもしれないし。


「なに敵と喋ってるのよ! 依頼主はワタシよ! 言うこと聞きなさい!」


 戸惑うももっち。これが板挟みというやつか。まだ若いのに大変だな。

 そして昼を告げる鐘がなる。綺麗な音で、読書に影響しないくらいのいい塩梅。

 魔法なのか技術なのか知らないけれど、これが嫌いじゃないのよ。


「終わった! 依頼期間終わり! 職務は全うしました! みんな撤収!!」


 忍者の数名が、ももっちと一緒に離れる。

 それが面白くないのだろう。さらにヒステリー全開になる女。


「そいつの味方をするの? その男は触れてはならない領域に踏み込んだの。その時から、深淵はそいつを見ているのよ」


「いまさら深淵ごときに何ができる」


 ぶっちゃけ冥府の神とか戦神とかぶっ殺しているので、いまさらそんな微妙なもんに出てこられても困る。


「頼む、退いてくれ。私とももっちじゃアジュを制御できない。ストッパーがいないんだ。お願いだから挑発しないで」


「できたらもうかかわらないでね。わたしは二度とあなたの依頼は受けない。他を当たって」


「もういい、とっととどこかへ行け! 親衛隊が直接手を下すわ!」


「ぐっだぐだだな……」


「テンポが悪いよねー」


 指揮能力とか、リーダ的行動って大変だよな。俺も苦労する。


「くっ、うっさいのよこのゲスが! ファイアシュート!」


 指先から火の弾が飛んでくるが、そんなもんオートガードで弾く。

 ついでに忍者の皆さんも弾き飛ばしておこう。


「お前なあ……当たったらどうするんだよ」


「ちょっと熱いだけよ。お姉様に近づかないと約束して、ワタシたち親衛隊に謝りなさい」


「お前らに謝る理由は何だよ?」


「口答えしていいって言ってないわよ? いいから謝りなさい」


 やっぱ殺すか。ヒーローキーを刺そうとした時、聞き慣れた声がした。


「なんじゃ妙なことになっておるのう」


「リリア? お前なんでここにいる?」


「どうせ図書館でぐーたらしておると思って来てみれば。面白いことやっとるのう」


 俺が涼しい場所から出てこないことを考慮した立ち回りか。やるな。


「なに? こいつの仲間?」


「うむ、強いて言うなら将来を誓いあったヒロインじゃな」


「そう、邪魔しないでもらえるかしら? こいつに制裁を加えるところなの。あなたも痛い思いはしたくないでしょう?」


 忍者がリリアにも刀を向ける。それを扇子でくるりと回し、逆に忍者を地面に叩きつけた。


「無粋な連中じゃな」


「ワタシたちに手を上げるなんて、宣戦布告とみなすわよ」


「俺たちに刀突きつけるのはセーフなのか?」


「うるさいうるさい! ファイアシュート!!」


 よりによってリリアに撃ち込みやがった。

 当然無事だ。炎は回復魔法に変換され、リリアは無傷。


「わしがこんなもので傷つくわけ無いじゃろ」


 だからといって許す気はない。やっちゃならんことをしたな。


「傷つくまで遊んであげるわ。逆らうとどうなるか、その身に……」


『ヒーロー!』


 光速ですれ違い、女の右目を奪い取る。

 無理やり指突っ込んでぶっこ抜いてやった。

 血が吹き出し、慌て始めたクソ女。


「あ……え……? う、うああぁぁぁぁ!!」


 さて、クソ女拷問ショーの始まりだ。

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