第138話 VSユニコーン 真の処女厨を決めろ

 授業が終わり、俺とユニコーンによる真の処女厨を決める争いは始まった。

 チェルシー先生とリリアが立会いのもと、召喚獣を連れ歩ける公園を選んだ。

 召喚獣は指定された場所意外では呼び出せないし、行動させてはいけない。


「さて、最初は軽くいくか。あそこに金髪と銀髪と赤毛の女三人組がいるな?」


 丁度いいところに女生徒が三人歩いている。

 五十メートルは離れているため、こちらの会話も聞こえないだろう。


「金髪のみ処女だ」


「正解。流石ユニコーン……ってほどでもないな。小手調べの域を出ないか」


 俺の感覚はこっちの世界で磨かれている。きっと鎧を着ていた経験も込みだろう。

 だからこの程度は遠目からでも理解できるわけだ。

 基礎スキルだな。即答できなくてどうする。


「これは何が行われているのでしょう?」


「アホによるアホのためのアホ祭りじゃ」


「では我も倣おう。恋人の有無も答えよ。あの一人で座っている紫の髪の者だ」


 紫のロングヘアーで、人を待っているのか時間を気にしている女がいる。


「処女だ。ただし彼氏アリ」


 処女であることは即座に見抜いた。そしてあれは恋人を待つ女だ。

 服と髪型を気にしているところからデートか。気に入らないな。


「デートとかして女に媚びるやつは死ねばいいのにな」


 リア充は大嫌いです。デ-トなど女に媚びてご機嫌取るつまらんものだ。

 女などというゲスに媚びているやつなど死ねばいい。


「サカガミくんはデートがしたいのでしょうか?」


「単に自分より幸せな者か、自分には無縁の幸せを手に入れている者が嫌いなだけじゃな」


 はいリリア大正解。呆れ顔だが気にしない。これは俺とユニコーンの勝負だ。


「ふん、もうすぐ穢れるな、あの女」


「ユニコーンの嗅覚なら間違いないか。ちっ、どいつもこいつも色気づきやがって」


 女は顔のいい彼氏がやってきて、腕を組んで歩いていった。

 イケメンという連中はなぜこうも胸糞悪いんだろうな。


「ああやって非処女が増えるんだな。イケメンはあの女がいなくても別に女を作れるってのによ」


「そして非処女が増える……か、気に入らんな」


「そういやユニコーンって、一部じゃ非処女をツノで刺し殺すとか聞いたが?」


「くだらん風評被害だ。非処女が少なくなれば、男は処女を抱こうとする」


「なるほど、防波堤として生かしておくのも大切ってことだな」


 処女が愛もなく性知識やらもなく、適当にイケメンに抱かれるなどあってはならない。

 逆にそれ以外でほいほいイケメンに処女をやるやつなど不要だ。

 その時は本気でその男が好きだったと言われても知ったことではない。


「それと鼻は使わん。対等な勝負ではなくなる」


「対等かなんて関係ない。俺は全力のお前に勝ちたいんだ。同じ業を背負っているものとしてな」


「謝罪しよう。貴殿の心意気を見抜けなかった。ここからは全力だ」


 やはり神話に残る猛者だ。面白くなってきやがった。


「さて、処女を当てるだけじゃあ無意味だ。そいつが清らかな乙女とされるには」


「心も清らかでなくてはな」


 処女とは膜の有無だ。だが清らかな乙女となれば、そんなものは最低条件だ。

 心の醜い乙女など認めん。俺とユニコーンにはその程度は共通認識である。


「基本的に年齢が上がれば上がるほど処女率は下がる」


「だが幼子など処女で当然。もとより性の対象に入れてはならぬもの」


「だから条件としては十五歳以上だな」


「うむ、妥当だろう」


 処女に対する認識ならリリアより上だなこいつ。

 ウォーミングアップは終わりだ。ここからは戦いも苛烈さを増していくだろう。


「ルーンさん。私はもう帰りたいです。ギブアップです」


 チェルシー先生は呆れながらちょっと顔が赤い。

 そうか、この会話セクハラだな。まあ召喚契約のためだ。我慢してもらおう。


「わしも帰りたい……しかしユニコーンと二人にするわけには……せっかくわしのターンなんじゃし」


 外野が疲れてきているな。ちょっとペースあげよう。


「で、なにをする気じゃ?」


「ふむ、では理想の処女を選ぶというのはどうだ? 我はこの施設になれておらぬ。よって貴殿が選びし清らかな乙女を一人、連れてくるのだ」


「んじゃそれでいくか。安心しろ、俺の知り合いは出さない」


 リリア・シルフィ・イロハはそれぞれ別ジャンルだが、清らかな乙女のほぼ究極の形だ。

 出せば勝ちが確定する。この勝負のジョーカーだ。だから使わない。


「ではアイドル科も練習に使っている、近くの自然公園までゴーです。ハリー。ハリーですよ」


「アイドルか……どうせ非処女だろうけどまあ……いいか」


「偏見爆発じゃのう」


 どうせアイドルってのは男アイドルとやりつつファンを見下している連中だろう。

 正直興味はないが、まあいい。決着がつけばいいのだからな。


「異論はない。決着をつけるとしよう」



 決戦の舞台へやってきた。ここは召喚獣とたわむれる人々や、自然を愛する人の憩いのスポットである。めっちゃ広いからか、様々な科の生徒が自主練習に使っている。


「いい環境だ。精霊の住みやすい場所であるな」


「わかるのか」


 ここは空気が澄んでいる。緑も多いし、整備されているいいスポットよ。


「これでもユニコーンだ。神聖さも他の召喚獣とは桁が違う」


「学園は自然を大切にしています。精霊も作物も自然が第一。大きな研究所もありますが、魔法が発達しているのですから、それに合わせてなるべく自然と共存しようという場所も多いのです」


 学園は空気がうまい。俺のいた世界では田舎にしか存在しないだろう環境だ。

 生き物が住むには快適なんだろうさ。


「乙女探しだが、真面目に練習している人間は邪魔しない方向でいこう」


「うむ、何かに真剣に取り組む乙女というのは素晴らしい。異論はないぞ」


 よしよし、騒ぎになると俺の評判が悪くなってうざい。

 幸いなことに、召喚獣を連れている生徒もいるからそれほど目立たない。


「はずなのに……妙に見られている気が……」


「ユニコーンが珍しいのじゃろ。召喚術を使えるものの中で、それなりに知識があるものに見られておるのう」


「それでは先生立会いのもと、真の処女厨を決める最終戦だ」


 ちゃんとルールも決めた。

 俺がユニコーンの気に入るような処女を選ぶ。

 制限時間は三十分。リリアを選ぶのは禁止。生徒の邪魔をしない

 理由もしっかり述べよ。連れてくれるのが失礼ならば全員で向かう。


「もう召喚獣としての契約とか完全に忘れとるのう」


「召喚科の講師として、不思議な気持ちですが……バトルスタートです」


 先生の合図で探索に入る。なんだろう。なーんか違和感がある。


「ここの人間は優秀なようだな」


 さっそく筋トレしている生徒達を見ているユニコーン。


「スポーツ少女か。恋愛などしている暇がないやつでも見ているのかね」


「わしらはどうするのじゃ?」


「一応アイドルっぽいのがダンス練習しているだろ? あれを中心に見ていくぞ」


 二人でアイドル候補を遠くから見学。何組か踊ったりしているけれど……難しいな。

 見た目もよくないといけないし。心も見抜く必要がある。


「めぼしいのはおるかの?」


「ううむ……単純に処女っぽいやつは多い。けど清らかな乙女としてユニコーンを負かせるかっつーと微妙」


 単純に処女を見つけるなら、踊っているアイドル達のほとんどはそうだろう。

 ちょっと意外だが、学園はそのへんもしっかりしているのかも。


「ユニコーンに勝つことが重要だ。俺の好みだけじゃあダメなのさ」


「好みについて詳しく」


「断固拒否で」


「どうせヒメノが好みなんじゃろ」


「その話ひっぱるんかい」


「素直に答えんからじゃ。ここでわしらの名前がすっと出るようになるととてもよい」


 それは無理じゃないかな。イケメン意外がやっちゃいけないやつだろそれ。

 そういうキモい行動をしないことが平凡な生活には大切なんだよ。


「女性への嫌悪感は消えとらんじゃろ?」


「もちろん。でもお前らにはあんまり感じなくなったな」


「成長しとるのう。そのままわしらは特別なんじゃと意識してもやもやするがよい」


「なんだよもやもやって」


「普通に性的にむらむらすればよいじゃろ」


「しないっつーの」


 してたまるか。同居人にそんなん悟られたらきっついぞ。

 男女で同居して、そんなんばれたら生活できん。


「むらむらしましたと申告することで、わしらがご奉仕!」


「せんでいい。せんでいい」


「ちょっとくらいかわいいなーとか、手を出そうという気にならんのか。同棲しておるんじゃぞ」


「そういう不純な気持ちで同居人を見るのはなんかこう、裏切ってる感じしねえ?」


 仲間を恋愛とか性的対象として見るのはどうなのかね。

 相手が仲間だと思って接してくれているなら裏切りじゃね?

 いやこいつらはまた別ケースだけどさ。


「…………キスしたくせに」


「おいやめろ意識させるな」


「キスしたことを忘れるくらい、普段どおりに生活させてやったらこのていたらくじゃ……やれやれじゃのう」


 実際こいつが普通にしていたことで、なんとか日常生活を送れている。

 非常に助かっているんだけれど、申し訳ない気持ちもあるわけで。


「わしが意識しておらんとでも思っておるのか?」


「ちょっとくらい意識してねえのかなーと疑問だった」


「まったく……こっちはずーっと待っておったというのに……こんなに鈍く卑屈になりおって」


 やれやれといったポーズのリリアさん。呆れ顔である。

 実は寂しいということは雰囲気で察した。それくらいは理解できるようになった。


「悪いな。あと助かってるよ。どう接したらいいか絶対に戸惑っていた」


「一回したんじゃから、もっとこう甘酸っぱい思い出が始まると想像しておったのに」


「急には無理だろ。キスだって何度もできるもんじゃない」


「イロハともしたくせに」


「痛いとこ突いてくるな」


「どうせ受身だったんじゃろ?」


「大正解だ」


 リリアの距離が近い。完全にくっついてくるわけでもなく。

 かといって離れているわけではない。なんとも絶妙に意識してしまう。

 狙ってやっているとしたら、リリアの術中にはまっているわけだ。


「楽しい思い出を作ってくれると約束したというのに」


「ああ、一番楽しい思い出を始める。それはもう決めた」


「なら期待しておるぞ」


「気長に頼むわ」


「まったくもう……わしら以外には攻略不可能じゃなこれは」


 微妙にすねている感じだな。それでも一緒にいてくれるのは助かる。

 この世界でようやく人生楽しくなってきたんだからさ。


「ならちょうどいいさ。他のヤツにどうこうされるつもりはない」


 楽しむならこいつらとがいい。他のやつなんて知ったことか。


「サカガミくん。ルーンさん。生徒は見つかりましたか?」


 ちょっと離れた場所にいた先生が話しかけてくる。

 そういや見届け人でしたね。


「パーフェクトに忘れていましたね?」


 はい忘れていました。先生がすね始めている。子供か。


「羨ましいですね。青春していて」


 それはなんてコメントするのが正しいのさ。


「約束の時間だ」


 ユニコーンが来たか。探索中に準備はした。あとはどれだけ情報を持ってきてくれるかだな。

 この勝負は真剣に取り組みたい。処女厨の大先輩への敬意というやつだ。


「準備はできたか?」


「ああ、ぎりぎりな」


 違和感の正体がわかった気がする。これならいけるはずだ。俺の予想が正しければ。


「そちらの少女は禁止されている」


「わーってるよ。リリアは使わない」


「大丈夫かの?」


「やるだけやってみるさ」


 さて、ユニコーンが気に入るかどうか……ちょいと賭けだが、やってみるとするか。

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