第139話 ユニコーン戦 決着
ユニコーンとのラストバトルだ。俺が見つけた勝利の鍵。
それはまさに灯台下暗し。切り札は手元にあったのさ。
「俺が選ぶ身も心も清らかな処女……それは……チェルシー先生だ!!」
先生は金髪でグリーンの瞳の巨乳女教師。しかも耳がとがっている。
今日は膝まであるスカートと黒いタイツで、教師と魔法使いの中間っぽい形容するのが難しい服の上から薄いローブを着ている。
「………………私っ!?」
「なっなんじゃとおぉ!?」
「…………ほう。気付いたか」
驚いている先生やリリアとは正反対に。不適な笑みのユニコーン。
そうだ、お前なら気付くはず。だが、同時に俺は避けて通るだろうと考えるはず。
「ユニコーンよ。お前はこう思った。先生は面白い素材だ。料理人の手にかかれば極上の素材になる。だが、扱いが難しすぎる。ゆえに若い処女を見つける方に心が流れるだろうと」
「そうだ。にもかかわらず、貴殿はその者を選んだ。ならば見事料理してみせよ!!」
「言われなくてもやってやるさ!」
「いっいえあの……あの私は別にその……そこまで遅れているわけではありませんよ?」
多少困惑しながらも、なんとかフォローしようとする先生。
まあいきなり暴露されればそうなるだろう。
「さて、同志サカガミよ。その者は教師であろう。歳を重ねれば、過去に恋人の一人や二人はいてもおかしくはあるまい?」
「そいつは違うな!」
俺と向かい合うユニコーンへびしっと反論していこう。
こいつだって処女だということはわかっているはず。
これは答え合わせであり、勝負の場だ。俺は試されている。
「俺はずっと違和感があった。先生は処女の話題になると口数も少なくなった。そして俺達の話題にほんのり頬を赤らめていた。あんな反応を大人の女性がするだろうか? 呆れるか、不快感だけに支配されてもいい」
ちゃんと俺の話を聞いてくれるユニコーン。ありがたいぜ。
リリアは呆れて椅子に座りながら紅茶飲んでいるけど、まあ邪魔しなけりゃいいや。
「だが処女であれば、より嫌悪感を持ってもおかしくはない。いや、むしろ性に憧れのようなものを持っている場合、より嫌悪が増すのではないか?」
「そうだな。だから決め手としては弱すぎる。あくまでもとっかかりさ。次に目をつけたのが距離感だ。ユニコーンに必要以上に近づくことも無く、ローブを着ている。明らかに全身を隠すように着ている。歩きづらさを無視してまで」
「肌寒いのではないか?」
「そいつは違うな。最近はむしろ暑い。ローブの下も寒い服じゃない。わざわざローブを着込んでいるのは、ずばりお前の鼻で処女だと悟られないためさ」
もっとも、こいつの鼻はそんなもんじゃ騙せないようだけどな。
「では処女だと推定し、清らかな乙女であると証明せよ!」
「いいだろう。ここからは俺だけじゃない。みんなの力で、先生が清らかな乙女であると証明してみせる!」
「本人の承諾もなくですか……これはヘビィですね」
先生がさらにローブで体を隠し始めた。今日は暑いというのに。
「さていくぜ……イロハ!」
「ここにいるわ」
どこからともなくイロハ登場。この場所に来る前と処女探しの最中に、仲間へと指示を出しておいた。
「む、その者は……」
「安心しろ。こいつは助手だ。あくまで先生が主役さ!」
「むしろ脇役をプリーズ。メインになりたくないです」
「さあイロハ! お前が調べたことを教えてくれ!」
「チェルシー・リット、二十八歳。独身で、召喚科の先生を務める。学生時代から魔法関係の科で優秀な成績を修め、召喚科を主席卒業する。現在に至るまで彼氏どころか男友達もなし」
流石フウマ忍軍だ。完璧に調べてくれている。
「いなかった理由も答えよ。できるか?」
「先生は天才よ。召喚魔法により様々な精霊と契約し、その脱力系で不思議な佇まいから、むしろ女性人気があった。ふとした瞬間に見せる優しさで、さらに人気は上がる。もともと美人でもある先生は、男性には近寄りがたいほど完璧だったのよ」
「ふはうぁ!?」
先生がダメージを受けている。どうやら調査は正しいようだ。
「逃げるように魔法に没頭。おかげで主席卒業できたし、無事に教師にもなれた。でも異性にモテる要素を知らないまま、自分から行く勇気もなく、今に至る。私からは以上よ」
「サンキューイロハ!」
「処女であることは認めよう。だが、現実としてありうるのか? 職場恋愛もあるはずだ。言い寄ってくる男がいないとも思えん。処女ではないだけで、恋人がいてもおかしくはない」
「そいつはどうかな。頼むぞ……ヨツバ!」
「お任せください……ってなぜ私はこんなことを……」
ヨツバも登場。イロハとは別の件を調べてもらっていた。
「付き合いで誘われることはあるでしょう。しかし、先生はそれにも参加していないのです。人一倍憧れはあるものの、免疫のない先生は誘いも断り、異性との接し方もわからず、高等部レベルの淡い恋愛をしたいのに、周りは大人の付き合い。どうすることもできずに、夢見る乙女として育ち続けているのです!」
「うぐはああぁ!?」
先生ががっくりと膝をつき、四つん這いになって震えている。よし、正解だ。
「さらにこの学園で教師をやるためには、並の人間では到達できないレベル、その道の達人でなければなりません。異性にチャラついているようでは、到底たどりつけないのですよ」
「そのため、社交的であってもゲスはいない。真剣にその道を往く人間の邪魔をしようという、奇特な人も少ないのさ」
戦闘系の科だけじゃなく、調理科や、後衛のイメージのある魔法科の先生ですら強い。
素手でドラゴンを解体できるくらいは基本だ。誘うにはハードル高い。
「よほど相性がいい人間がいれば別だけどな。助かったぜヨツバ」
「なるほど、環境がよいゆえに誰も手を出せぬままか……それも一つの処女の形であろう」
「ここからは先生の素晴らしさついて解説しよう。先生は恋愛に憧れを持つも、それで仕事を疎かにはしない。むしろ生徒を大切にする。そして部屋にかわいいぬいぐるみとか集めている。しかも恋愛小説をこっそり買っているんだぞ」
先生がぴくっとする。だがそれだけ、証拠がなければ俺の虚言であるとみなされるためだろう。
「なぜわかる? 貴殿はそれほど親睦を深めているとでも?」
「ま、そうくるわな。ここで証人を呼びたい」
「許可しよう」
「オーケイ、頼んだぜ……リリア!」
「ほいほい、わしの出番じゃな。召喚ゲートオープン。カマーン、召喚精霊」
魔法陣から、水色の髪をした綺麗な女性が出てきた。
女神が着るような白い布を体に巻いた、神聖さのある精霊だ。
「なっ、なぜ私の召喚ゲートを!? しかも上位召喚!?」
「授業で見せてもらったからのう。解析して使うなどたやすいのじゃ」
「そんなバカな!? 見せたのは一度なのに!?」
リリアの一族は魔法と密接にかかわっている。俺とヒメノくらいしか知らない秘密だ。
ぶっちゃけ現代魔術の始祖なのさ。他人のゲートを解析して自分で使って、しかも精度の高い召喚ができる。いんちきくさいね。
「イフリートの代理で来ました、ウンディーネです」
「では証人、先生の私生活を軽く頼むのじゃ」
「はい、ぬいぐるみと恋愛小説は本当です」
「ちょっとおおおぉぉぉ!? 私の召喚精霊でしょう!? なんで言っちゃうんですか!」
「最近傾向が変わってきまして。学生恋愛から、ちょっとだけ大人の恋愛へ。そして仕事のできるお姉さんを癒してくれる、私だけのイケメン男子生徒、というジャンルを熱心に……」
「ストオオオオォォップ! 戻って! もう戻ってウンディーネ!」
先生がウンディーネを、召喚ゲートへぐいぐい押し込んでいる。
「こういう男子生徒がいたらという願望をとりあえず書き出してみたり……」
「帰って!!」
ウンディーネさんは帰ってしまった。ゲートも閉じられたよ。
だが収穫はあったぜ。証人はしっかり仕事をしてくれた。
「助かったぜリリア。わかるかユニコーン。先生はこんなにもピュアだ! この愛らしさが、若すぎる生徒に出せるかな?」
顔を真っ赤にして肩で息をしている先生は、まさしく処女の……いや乙女の鑑だ。
「うぅぅ……どうしてこんなことに……」
「うむ、我にも伝わったぞ。その者の清らかさが!」
「ああ、先生はもともと、美人というよりかわいい系だ。十代だといわれても違和感はない。実年齢とのギャップ。そしてピュアさ」
「ピュアでありながら教師。大人と子供の両方を汚さずに持ち合わせているわけだな」
先生が膝を抱えて座り込んでしまった。体育座りが妙に哀愁を漂わせている。
「私を……私を見ないで」
「大丈夫ですよ先生。俺達は誰にも言いません。むしろ知らせてはいけないんです」
「どういうことですか?」
「知られていないからこそ、先生は純粋なんです。その先生を、軽い男が汚すことはあってはならない。そんなのは耐えられませんから」
精一杯の優しい声で話す。ここは説得しないといけない。
処女とは決してマイナスポイントではないんだと。
「でも……この歳で処女で……男の人とデートしたこともなくて」
「チェルシー先生は身も心も清らかだ。それは誰にも負けない長所です。これから出会う本当にいい男は、きっとそれを喜んでくれる。俺は、心からそう思います」
「素晴らしい! 感動したぞ! これより貴殿の召喚獣となろう!」
どうにかこうにか終わったみたいだな。処女厨勝負はひとまず俺の勝ちだ。
「我が同志よ、もう一度名を聞こう」
「アジュ・サカガミ。これからよろしくな」
「ああ、共に往こう。処女を愛する仲間として!」
召喚板を使い、ユニコーンと俺の魔力を合わせていく。
板の中央にはめ込まれた魔石には、しっかりと契約完了の光が灯るのであった。
「さらばだ! 再び会うまで腕を磨くのだぞ!」
「そっちもな。でなきゃ追い越しちまうぜ」
召喚ゲートを通って、ユニコーンはもといた場所へと帰っていった。
「終わったな」
「やれやれじゃ。長かったのう」
「急な調査だったけど、なんとかなってよかったわ」
「お館様のお役に立てましたか?」
一部始終を見守っていたみんなを労おう。今回は世話になったからな。
「助かった。みんなのおかげだ。よくやってくれた」
「よいよい、面白いものが見られたわい」
「あはは……こういうのも、たまにならいいですよ?」
「これがフウマ忍軍の力よ。頑張ったから、あとでご褒美が欲しいわ」
「そうだな。なにかしないと……ん?」
そこで背後に気配を感じる。何気なく振り向くと、そこにはチェルシー先生が。
「ううぅぅ……サカガミくん」
先生に涙目で詰め寄られる。顔も赤い。今更ながら悪いことをしたと思っている。
ユニコーンと勝負できるということにテンション上がり倒したからな。
俺もちょっとやりすぎた。素直に謝罪しよう。
「すみませんでした。先生について色々と詮索して、失礼なことを」
「失礼です。ええ失礼です。でも、もうそれは終わってしまったこと……大切なのはこれからです」
肩をがしっと掴まれる。このプレッシャーはなんですか。
「責任を取ってください」
「はい? 責任……ああ、ちゃんと秘密にします。誰にも言いません」
ここで吹聴するなどもってのほかだ。そもそも俺がそんなこと言い出したら不審者でしかない。学園で生活できなくなる。
「違います。いえそれもそうですが……ここまで辱められたんですよ? どこにお嫁にいけというのです?」
「いや、今回のことを知っているのは俺達だけで……」
「いずれ会うかもしれないイケメン男子生徒……まあ、しばらくはサンプルを取らせて貰いましょうか」
「あちゃー……まさかの展開じゃな」
「どうしてこうなるのかしら……とりあえず、ハーレム入りは認めないわよ」
俺も完全に予想外だ。これはどうごまかすのが正解なんだろう。しっかり断るとどうなるかわからないし、なんか怖い。
「入れるつもりはない! っていうかやけっぱちにならないでくださいよ!」
「ヤケにもなります! 生徒に自分の恥ずかしい秘密を知られちゃったんですよ!」
「人聞き悪いです!」
結局落ち着かせて、解散するのに小一時間かかってしまった。
そのせいで家に帰るのが遅れてしまったじゃないか。
これ以上守る人間は増やせない。リリア達三人だけで十分だよ。
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