妖怪と神を倒せ

 妖怪だか思念体だか幽霊だかを殲滅しよう。


「王族はひとかたまりになって、戦闘はしないように……しないでって言ってるでしょジェクト様!!」


 ジェクトさんが暴れています。ちゅよい。いやじっとしてて。


「すまん。しばらく休んでおく」


「そうしてください」


 黒フードの骸骨を切り裂いていく。骨しかないやつって切るの難しいな。

 肉がないし、致命傷ってやつがない。骨を叩き折るか、完璧に切断するくらいしかないぞ。


「うおわあぁぁ!?」


 兵士から悲鳴が上がる。取り憑いてきた霊に、魔力が吸われているようだ。


「この!!」


 それでも腕力で振り払えているあたり、強敵ではないな。


「魔力を上乗せして、力で斬るのじゃ」


「それしかないか」


 長巻を作っておいてよかった。魔力も通しやすいし、武器が大きいからパワーも乗る。俺に足りないものをカバーできるのだ。


「ふっ! せい!!」


 サンダーフロウで刃に電流を流しつつ、目についた敵を切っていく。

 カラフルな天女もどきといい、ここは妖怪と幽霊ゾーンなんだろうか。


「問題はなさそうね」


「上までくる敵が少ないからねー」


「それだけ下の騎士団が優秀なんじゃろ」


 とはいえ、あまり長期戦も困りものだ。当然体力は有限だし、こんな夜に戦闘は迷惑だよ。


「コバルト団長」


「もうすぐ終わる」


 コバルトさんが空に手をかざすと、思念体が空中に集まっていく。

 突然空中に出現しては集まっているが、別に合体するわけではないらしい。


「すべての魂を読み取り、敵だけを吸い寄せる。屋内の敵もテレポートじゃな」


「なるほど」


 さすがは最強のサイキッカー。便利だな。


「潰れろ。悪しき者共よ。選ばれし力が冥府への導きとなろう」


 右手をぎゅっと閉じると、敵が圧縮されて消滅した。


「よくやったコバルト。まったく、夜中に迷惑な奴らよ」


「どうやら魔の導き手がいるようだ。魔力が一箇所に送られている。小癪な真似を」


 つまり妖怪が魔力を吸い取って、誰かが吸収しているっぽいよ。

 騎士団なら魔力も高いし、悪い策ではないのかも。


「特定はできますかい?」


「当然だ。既に騎士団以外の生命反応はわずか。そして……む?」


「どうしました?」


「宵闇に紛れ、我々の魂魄を掠め取ろうという下賤な輩がいる。だがこれは……人ならざるものか?」


 つまり敵が人間じゃないと。遠回しだなもう。理解すんのめんどい。


「どうします? 自分とイーサン団長で追いますか?」


「いや、ならば私がテレポートで……」


 夜に響き渡る爆音と、膨大な魔力。

 巨大な蛇が四匹、遠くに出現した。ヒュドラか。だが昼よりも二回りは大きいぞ。


「どうやらあれの召喚に使ったようだな」


「どうするんだい? アタシが行くか?」


「既に念話で付近の団長に掃討を要請した。私に抜かりはない」


「クフフッ、こちらがあたりですか」


 知らない声がした。反射的に全員が振り返る。


「クフッ。強そう」


 黄金の鎧に身を包み、こちらを睨みつける金髪金目のおっさん。

 目がぎょろぎょろと動き、見開かれていて大変気持ち悪い。


「何者だ」


「神」


 腰の左右についている金のククリ刀を抜き放ち、尋常じゃないスピードでコバルトさんに斬りかかる。


「無作法な」


 コバルトさんが右手をかざすと、がきんと音がして、男の剣が止まる。


「念動力ですか」


「わかったところで、私からは逃れられんぞ。神を語る愚か者よ」


「ならフルムーンからいただきましょう」


 一瞬でコバルトさんを抜き去り、シルフィへと刃が迫る。


「させん!!」


「シルフィ!」


 フルムーン一家とロンさんで受けるも、左手の刃が振り下ろされる。


「ぐぐぐぐ……なんという剛力!」


「洒落になりませんね。アレスとかいうやつよりやべーですよ、こいつ」


 ギリギリで耐えているだけだ。五人がかりで反撃に移れない。


「さあ、まだまだいきますよ」


 振りかぶられた左のククリ刀が、そのまま止まる。


「世界の英雄たる私を差し置いて、王族と戯れるか」


「なかなかの力ですねえ。それは認めてあげましょう」


 どうやら念動力で止めているらしい。そのままテレポートして横腹に蹴りを入れている。

 だが動じない。神に半端な攻撃は通らないのだろう。


「あなたも大変ですねえ。全力を出せば、私を動かすくらいはできるでしょうに。下は騎士団でごった返し、屋上という場所、王族という護衛対象。せいぜい出せるのはこの程度の力」


「頭の回る神がいるようだな」


「私もそうですよ。クフフ。状況はさらに悪くなりますよ」


 爆発音に視線をやると、ヒュドラの首が七本に増えている。

 それと同時に、空からも下からも幽体が湧き出していく。


「ならば発生源と術式を探して砕くのみ」


「この私を倒さずに、ですか? そんな余裕が」


 天へと黄金の魔力が伸びていく。こいつの放った魔力の渦が、雲を全て散らし、星空を見せてくれた。


「あるのですか? 片手間では倒されてあげませんよ?」


「団長および隊長クラスへ。位置特定と念話を一時切る。各自奮戦を期待する!」


 コバルトさんを加えて六人で切りかかっているのに、それでもまだ敵には余裕があるように見える。


「強い!」


「援軍が来るまで持ちこたえましょう! いきますよサクラ!」


「わかったわ。お母様に合わせる!」


 予想外だったが、どうやらレイナさんも魔法がかなり使えるらしい。

 マジックアイテムを複数つけてブーストかけているが、フルムーン親子四人とも強いことが判明した。


「誰も来ませんよ。ねえフルムーン。なぜポセイドンもヘファイストスも来ないと思います?」


「お前らが足止めしたからか?」


「違いますよ。こちら側だからです」


「その程度でフルムーンの動揺を誘えると思うてか?」


 あいつらが裏切り者。その可能性はゼロじゃない。だが限りなく薄い。

 考えるだけ無駄だろう。まず友好的な上級神と俺に勝てないからだ。

 どっちと敵対したいかという、シンプルな損得で考えてもわかる。


「ちょいと旗色悪いか。どうする?」


「今は雑魚散らしじゃ」


「必要なら私がシルフィと一緒に戦うわ」


 俺とリリアとイロハは、アカネさんの指示のもと、周辺の雑魚の殲滅を担当している。

 あまりごちゃごちゃするのも、かえって邪魔になるからだ。


「クロノスの力を出しなさい。このまま全員なぶり殺しにされたいのですか?」


 状況は悪い。霊体が取り付けば魔力を座れ、ヒュドラに還元される。

 ヒュドラがそもそも強い。救援に行こうにも、まずこの神が強すぎる。

 せめてヒュドラと霊体さえどうにかなれば。


「ヌハハハハ!! おまたせしちゃいましたかねえ!!」


 豪華な装飾の入った、いかにも伝説とかありそうな十字槍を持ったルルアンクさんが乱入。これにより、少しだが戦闘に余裕ができる。


「どこに行っていた?」


「コバルトさんに頼まれちゃいまして! レクイエムでも賛美歌でも、準備オッケーですよ! ヌハハハハハハ!!」


「どういうことです?」


「ルルアンク団は、楽団を兼ねた騎士団だ。この街全域を音楽で浄化するつもりなのさ」


 なるほど……いやいやすっげえ力技だな。可能なのかよそれ。


「ならばそれを止めればいいだけ。指揮者がここにいては、最高の演奏はできないでしょう?」


「ご心配なく! 軍師も副団長も優秀でして。ヌハハハ!!」


 全員でのラッシュは確かに神を下がらせた。

 押し込んでいる。大人数による連携で、二刀流をも上回っていく。


「音楽家がどこまでできるのかと思いましたが、なかなかどうして、やるじゃありませんか」


「戦闘楽聖ルルアンク、その名に含まれる意味は一つではない」


「どこをどう斬れば、どんな悲鳴が出るかすらわかる。斬り刻んだ敵軍がまるで歌っているように、一つの楽団のように聞こえるから、というのもあるんですよ。ヌハハ」


 舞台役者のような動きで、舞っているかのような華麗さで、それでも一切の無駄なく美しく光速を超えるルルアンクさん。

 これが戦場じゃなければ、拍手喝采だっただろう。


「足りない。それでも足りませんね。クロノスの力を使えと言っているのですよ」


 攻撃に入った全員を吹き飛ばし、サクラさんへと迫る。


「一瞬でもいい、その煌めきを見せなさい」


 シルフィがサクラさんの前に割って入る。


「させない!!」


「そうそう、そうやって全力を出しなさい」


「よく言うわ。さっきから止めようとしているのに、まったく止まらないじゃない」


 時間停止も、部分的に止める手段も、その全てが不発に終わる。

 正確には神力で上回られている。よって通じていない。

 だから自分を加速させたりして使うしかない。


「このままでは、そちらを天へ送る歌になりそうですね」


 下から音楽が聞こえ始めた。それに反応し、苦しむように妖怪が消えていく。


「終わりだ」


「いえいえ、ヒュドラは消えていません。もしかして、指揮者がいて、音楽を超能力で遠くに飛ばす作戦だったのでは?」


「正解だよ。あんたが強すぎる。戦術を個の力で突破されちゃあ、たまったもんじゃない」


 なるほど、音を広域に飛ばすのか。それなら一気に浄化もできる。

 それをこいつとの戦闘中にできるかと問われれば、まあ無理だ。


「……行って」


「シルフィ?」


「クロノスの力が見たいんでしょ? ならわたしが残る。みんなは行って」


 味方に動揺が走る。そりゃそうだ。護衛対象置き去りにするんだからな。


「馬鹿言っちゃいけませんよ姫。王族残して逃げるとか、自分ら騎士団名乗れませんぜ」


「なら私が残るわ」


 ここでイロハが立候補。シルフィと二人で戦うつもりだ。


「残ってどうするの。まだこの状況を突破できるかは……」


「ちなみに、妖怪を倒し続けて、ヒュドラもなんとかすれば、この試練はクリアですよ」


「そりゃどうも。具体的にどうすりゃいい?」


「全部をささっと一掃するか、私に描いた霊体召喚術式を破壊するかですねえ。それでザコは消せますよ」


 黄金の鎧の内側が、なにやら赤く光り輝いている。


「さ、どうします?」


「大丈夫、わたしは負けない。こんなところで負けられない」


「ですが、少々荷が重いですよ、お嬢さん」


「フェンリル!!」


 神の足元から、影の刃が群れをなして斬りかかる。


「ほう、これはこれは。次元の違う神ですか」


 豪快に影を蹴り飛ばし、バックステップで距離をとった。


「私を忘れないことね」


「アジュ、リリア、ここからずばーっと巻き返すから!」


「アカネさんだけ残ってくれたらいいわ。もう屋上まで敵は来ない」


 演奏のおかげか、屋上からは敵が消えていた。


「お願いみんな。人が多いと、多分巻き込んじゃう」


「随分な自信じゃありませんか」


「クロノス・トゥルーエンゲージ!!」


 ダイヤより美しく輝く剣を出す。あれは今という時間と未来をつなぐ想いの結晶だ。赤い鎧は隠して、剣だけでいくらしい。


「本気でいきます」


「……いいでしょう。神の名において見逃します。さっさと騎士団は出ていきなさい。でなければ本気で無差別にこの街を破壊しますよ」


 シルフィの力に興味を持ったか。実力から考えて、味方が取れる最適解だろう。


「シルフィ様、危なくなれば、いつでもコバルト団長かルルアンク団長を呼んでください」


「信じているわシルフィ」


「必ず、家族全員で帰るぞ」


「もちろん。だから、みんなわたしを信じて!!」


 別れの言葉もそこそこに、全員が下へと飛び降りていく。

 残されるのは、神と俺たち五人だけ。


「いくわよシルフィ」


「いつでもいけるよ、イロハ」


 王国最高の楽団がBGMを奏でる中、神々の戦いが始まる。

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