激化する神々の戦い

 夜の屋上にて、BGMつきで戦闘を開始する、シルフィ・イロハ組と謎の神。


「いきますよ」


 二刀のククリを回転させ、膨大な魔力と神格を隠しもせずに突っ込んでいく。

 それはまるで、黄金の戦車のようであった。


「フェンリル!」


「いくよ!!」


 側面に回り、影と剣を左右から叩き込む。

 だが刀の回転に阻まれ、攻撃が本人まで届かない。


「クフフフフ!!」


「影縛り!」


 敵の影にクナイを刺す。だがガン無視で突っ込んでくるし、クナイは砕ける。


「小細工は無用。力のすべてをぶつけなさい」


「上からなら、どうだあ!!」


 トゥルーエンゲージで作られた剣でも、その走行を突破できずに弾かれる。

 魔力の壁と神の剣技が圧倒的に上なのかもしれない。


「影の兵よ! 進め!」


「無駄無駄。雑兵に倒される神などいません」


 影で作り出した兵が、戦車によってなぎ倒されていく。

 当然だが影でも切れるようだ。それはいい。その影に紛れて、シルフィが全力で攻撃できればいいのだ。


「今よシルフィ!!」


「フルムーン流奥義!」


 影の槍が左右から伸び、神の剣を止める。

 その隙に加速したシルフィが、正面から懐へ侵入した。


「破邪斬月!!」


「ほほう」


 神聖な力と神の力が混ざった一撃が、弧を描くように切り上げられる。

 当たった……はずだ。時間を操作できないなら、確実に当たっているはず。


「いい攻撃です。ですが、私は邪神ではありませんので」


 なのに、こいつは怯まない。黄金の鎧も砕けていない。

 シルフィも半ば想定内なのか、そこから急速離脱して、再度剣を構える。


「うえー……どうしようこれ」


「とりあえず包んでみましょうか」


 影で作られた巨人が、両手で神を握る。

 内部には影のトゲやノコギリが入っているだろう。

 握力も尋常じゃないはず。


「まだまだですねえ」


 突然影が消失し、中から無傷の神が出てくる。

 その頃には、床一面が黒く染まり終えていた。


「頭を使ってきますか」


「それが人間というものよ」


 影から複数の柱が伸びる。

 影の柱で自分を隠し、床の影を移動する。これなら止めることも可能かもしれない。


「無駄です」


 金の斬撃が飛び、一本の柱を切断する。その奥には、間一髪で斬撃をかわしたイロハがいた。


「くっ、見切られている……」


「ほらほら、止まると危険ですよ」


 移動する柱に斬撃が置いてある、という感じだ。完全に先読みされている。


「物量でいきましょうか」


 地面から生える膨大な数の影の手。それらが一斉に、神に向けて拳を飛ばす。


「これでどうかしら!」


「嫌いではありませんよ」


 自分に飛んできた拳だけを正確に切り落としている。

 厳しいな。全力を出して、手の内を見せすぎるわけにもいかない。


「もっと、もっと、加速する!!」


 装備抜きの全力加速だ。光を追い抜き、そこから数百倍の加速で攻撃を続ける。

 常人では視認すら許されない領域だが、どうしても神を崩せない。


「影筆!!」


 神の鎧に影が張り付き、文字となる。影筆の術か。しばらく見なかったが、威力と発動条件が変わっている。いや、応用が効くほどものにしているのだろう。


「せめて鎧だけでも破壊する! クロノスよ、わたしの力となって!」


 シルフィの斬撃も加わり、鎧の破壊へと舵を切る。

 はじめから装備していなかったという未来と、破壊の影との挟み撃ちだ。

 どちらかは通用するだろう。


「あなた方は強い。先程の団長クラスと比較しても遜色ないでしょう。ですが、私はこれでも神なのですよ」


 黄金の鎧が輝きを放ち、腰から上の部位だけが弾け飛ぶ。


「きゃあぁ!?」


「うあああぁぁ!!」


 いくつかの破片が二人にあたり、衝撃で派手に吹っ飛ぶ。

 ガードはしたようだが、着弾と同時にさらに爆発が起こる。


「危ない!!」


『ガード』


 とっさにガードキーを使い、俺とリリアを守る。

 横ではリリアが結界で屋上を包み、下へだけは破片が飛ばないように止めていた。


「おやおや、オーディエンスへの気配りを怠りましたね。これは失礼」


 洒落にならん。一発一発が国ごと消えるレベルじゃないか。


「しかし彼女たちを守る余裕はなし、ですか。なぜ王族の横にいるのか不思議でしたが、それほど強くはないのでしょうかね」


「守らなくていいからさ」


 屋上から弾き出された二人が、上空から神に斬りかかる。


「ほほう」


 これには神も感心したように笑っている。まだまだ二人ともやれるな。


「今は二人とお前の勝負だろ。なら俺は手を貸さなくていい」


「余計な邪魔などせんでも、シルフィとイロハなら勝てるじゃろ」


「なるほど、真剣勝負に水をささないと。立派ですね。認識を改めておきますよ」


 二人は神になど負けない。心配なんてする必要はない。俺はただここで見守るだけだ。絶対に負けないと、誰よりも俺が知っていなければいけない。


「まだまだやれるよ!」


「ここからが本当の勝負よ」


「いいでしょう。そのガッツには敬意を評します」


 さらに膨れ上がる魔力。だがそれはこちらも同じ。


「イロハ! 浮かせるよ!」


「わかったわ」


 神の足元が盛り上がり、そのまま空中へと投げ出される。


「お次はなんですかね」


「屋上は狭すぎるもの。広い方がいいでしょう?」


「ここからフルパワーだあああああぁぁ!!」


 空高く飛べば、周囲に気を遣わなくてもよくなる。俺がボス相手に宇宙に行くのもそれだ。


「せええええい!!」


「その首……もらうわ!!」


 赤と青の光が、月明かりに照らされ舞い踊る。

 夜空を彩り星が霞むほどに煌めけば、そこから生じた衝撃が、轟音が、火花が、その幻想的な風景を戦場だと再確認させた。


「クフフフフフ!! 素晴らしい! 強く、そして美しい! これほどの人間がいるとは!!」


「まだまだまだまだあああぁぁ!!」


「ぬうああありゃあ!!」


 初めて神が吼えた。その一撃は筆舌に尽くしがたいほどの剛剣であった。

 シルフィの剣を叩き折り、殺しきれなかった衝撃がぶつかり、シルフィを屋上へと叩きつけた。


「うあうっ!!」


「シルフィ!!」


 倒壊を始めるホテルから、さらに鮮烈な魔力を放つシルフィが飛び出す。


「こんなところで、負けるもんか!!」


「神であろうが、私の友達を傷つけるあなたを、許しはしない!!」


 雲の上から急降下し、神へと急襲をかける。


「麗しい友情ですね。ですが」


 電光石火の一撃を紙一重で避け、カウンターの回し蹴りがイロハの腹部に入った。


「がっ……はっ!?」


「イロハ!!」


「あなたは激情にかられるタイプではないように……これは!?」


 上の足を掴んだままのイロハ。その背中から、巨大な右腕が現れる。


「この瞬間を待っていたわ!!」


「神の腕……しかも神格からして上級神か! こんな隠し玉を!!」


 大きく振りかぶられたテュールの腕から逃れようと、剣を構える神の動きが止まる。


「両腕だけだけど、やっと……止められた!」


「神の時を止めただと!!」


「これで……終わりよ!!」


 渾身の、決死の一撃が神を襲う。

 ただ破壊力を突き詰め、極限まで高めた神の右ストレートだ。


「ぬぐっ……がああぁぁぁぁ!!」


 流石に受け止めきれなかったのだろう。ド派手にぶっ飛び、数少ない建物を貫通し、地面に巨大な跡を作りながら、土煙とともに遠ざかっていく。


「やった!」


「まだよ。あれくらいで死にはしないでしょう」


「ホテルが崩れるぞ! こっちに来い!」


 とりあえず近くの建物の屋上へ避難だ。四人で軽く飛び、倒壊する建物を横目に、神の出方を伺う。


「追ってこないわね」


「反応が動いておらぬ」


「生きてはいるんだな」


「致命傷でもないはずじゃ」


 戦う気がなくなったのか? 気絶しているってわけでもないだろう。

 イロハの力を侮るわけじゃないが、あれで倒れるとも思えない。


「いえいえ、効きましたよ。ガツンとね」


「なにっ!?」


 俺たちの背後に、現れる笑顔の神。少しだけ、ほんの少しだが、わずかに疲労の色が見える。ダメージはゼロではなかったのかもしれない。


「お見事でしたよ。次はお互いに全力でやりたいところですが」


 そして俺たちだけを半透明な結界が包む。


「ご安心を、防音結界です」


「防音?」


 もう戦意が感じられない。俺に神の真意を読めというのは不可能だろう。


「ポセイドンとヘファイストスは無事です」


「あんたなんで……」


「裏切り者は神だけではないかもしれません。ですがそれは、ここにいる五人だけの秘密です」


「よいのか? そんな事を話しても。おぬしどっち側なんじゃ?」


 こいつの立ち位置がわからん。そもそも神陣営はどうなっているのだろう。


「両陣営のあぶり出し要因、といったところです」


「ダブルスパイか」


「いい表現ですね。採用します」


 ノリ軽いな。っていうかそれ認めていいのかよ。こいつは本当に意味わからん。


「何者なんじゃ。アレスやヘルメス以上の神格を隠しておるじゃろ」


「イアペトス。農耕神クロノスの兄弟です」


「なんだと!?」


「それではお気をつけて。親愛なるフルムーンよ、また会うことを楽しみにしています」


 そして音もなく消えていった。後にはなんと声を発すればいいかわからない俺たちだけが残り、ヒュドラ討伐の報告が来るまで、しばし頭を悩ませることとなる。

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