第三騎士団長と軍師さん

 暇なので城を探索中だ。シルフィの案内で、入っていい場所をめぐる。


「こういうの久しぶりだね。小さい頃は探検したけど」


「そうなのか?」


「お城でシルフィと遊んでいたことがあるわ」


「そうか、昔からの馴染みか」


 仲良く育ち、揃って学園に入学したんだっけ。曖昧だがまあ、そんな話だった気もする。


「仲良しです!」


「そうね。小さい頃からの親友よ」


「はいここがレクリエーションルームです! 軽くゲームしたり運動したり、雑談や軽食をとったりと多目的です」


 シルフィが解説の役割を果たす。いつもはリリアの役目で新鮮なのか、なんとも楽しそうである。


「姫様!?」


 一斉に敬礼してくる。統率が取れているな。困惑しつつも礼を優先したのだ。


「楽にしてください。わたしたちは城を見て回っているだけです」


「お誕生日おめでとうございます!!」


 兵士一同からの祝辞である。慕われてんなあ。


「ありがとう。ゆっくりしてくださいね」


「はっ!!」


 兵士のリラックスタイムを邪魔しそうなので退出した。

 王族いたら落ち着かないよね。


「次にリラクゼーションルーム! アロマとかマッサージとか、音楽を聞きながら読書とかします!」


「姫様!?」


 さっきと同じくだりを完全再現されたので退出。


「図書室! お城にしかない、貴重な書物が保管された場所もあります!」


「姫様!?」


 はい三回目でございます。ちょっと本に興味あったのに。

 次に行くぞ次に。そして紹介された部屋全部がめっちゃ広い。


「これは兵士が少なくて、機密に触れない場所に行く必要があるぞ」


「なかなかに難易度が高いわね」


「だからといって外出はできんからなあ……」


 城に襲撃かけてくる可能性は低いから、なるべく城内で遊びたい。


「お母様の魔導研究室にでも行く?」


「データ解析の邪魔とかしたくないが……」


「あだだだだだだ!!」


 なんか野太い男の声がする。叫び声にも聞こえるが。


「なんだ敵か?」


「中庭よ」


 また神でも出てきたら洒落にならん。とりあえず中庭へ行ってみる。

 石畳と草と噴水で彩られた庭園で、声のする方をそっと覗き見ると。


「ほうらどうしたー。まだまだ伸ばせるぞー。お前の柔らかさはその程度かー」


 とてつもないマッチョで変なおっさんが、変なイケメンにプロレス技をかけられている。


「なにこの状況……」


「どうしてこんなに身体が固くなったんだー」


 サラサラヘアーの金髪金目のイケメンさんと。


「いだだだだだだ!! 書類仕事ばっかりやってたからです!」


 スキンヘッドでめっちゃマッチョのおっさんがいるよ。

 赤い目なのは泣きそうだからじゃないだろう。


「それは仕事を溜め込むからでしょう」


 他の団員たちが笑いながら見ている。事件じゃないっぽいな。


「あの……」


「姫様?」


「しー、あれはなにをやってるんですか?」


「運動前のストレッチです」


「えぇ……」


 よく見れば身体をほぐす、二人一組のストレッチの動きだ。


「あっ、姫様じゃないですか」


「なにい!! おおシルフィ様!!」


 こちらへ物凄い満開の笑顔を向けてくるマッチョ。


「ど、どうも」


「知り合いなんだな」


「騎士団長よ」


「ええぇぇぇ……」


 騎士団長って変人以外はなれない決まりでもあんのか。


「ほらほらどうした。まだ曲がるはずだー。姫様に体が固くてごめんなさいって言うんだ」


「姫に謝ることー!?」


「姫様に報告もご挨拶もせず、さっき厨房でつまみ食いしてごめんなさいって言えこの野郎」


「それはほんとにごめんなさーい!」


 もうなんだよこの空間。マジで意味わからんぞ。説明をくれ。


「空いたのか? お腹が空いたからつまみ食いしたのか?」


「おなかがすいちゃいましたー!!」


「姫様、第三騎士団軍師ロン、帰還いたしました」


「このタイミングで!? しかも団長のオレを差し置いて!? お誕生日おめでとうございます!! ますますお美しくなられましたな! 第三騎士団長イーサン、帰還いたしました!!」


 声がでかい。リュートさんのように意図的に声を張っているわけではなさそうだ。


「ありがとう。その、痛くはないの?」


「痛くなければ示しがつきませんからね」


 団員が笑ってみている以上、これは日常のひとコマなんだろう。


「イロハ様もお元気そうで何よりです!!」


「ありがとうございます。そちらもおかわり無いようで、安心しました」


「つまみ食いは変わって欲しいんですけどねえ。行軍中にやったら死罪にするからな」


「オレだってわきまえとるわい!」


 とりあえず俺たちも自己紹介をして、なんとなく悪い人じゃないのは理解した。


「とりあえずこっちで警備は強化しておきます。まだまだ来られる限り、団長が来るみたいですよ」


「わたしたちのために……すみません」


「姫すら守れず、なーにが騎士団かってんですよ! どーんと任せてください! 国王からの招集なんて、気合が入るってもんです」


「ジェクト様は、昔から心配性で家族思いの人ですからね。子供の頃から家族とか仲間に世話焼きすぎるんですよ」


 ジェクトさんの子供時代を知っている? どういう関係なんだろ。


「お父様、そんな感じだったんだ……よく知ってますね」


「こちとらジェクト様が生まれる前から軍師ですから、そのくらいはわかりますよ」


「うま……れ?」


 うそやん。俺と同い年くらいじゃないのかよ。いや同年代もおかしいけどさ。


「オレとこいつは学園の同級生でしてね。なんの因果か、コンビで団長と軍師なんぞやっとります」


 しかも同級生だと。見た目完全に十歳以上違うやん。


「気をつけてください。どうもこの一件、妙なきな臭さを感じます」


 ストレッチを止め、真剣な顔でこっそり話してくれる。


「騎士団は集めます。しかし、全軍を戦いに出すのは危険です」


「いざとなりゃ、団長だけで外敵なんぞ潰してみせます。兵は国の守りに集めたっていい。民も姫も、オレらがしっかり守りますよ」


「ありがとう。わたしは平気だから、みんなも死なないで」


「当然ですよ。給料以上に無茶をさせる。けど死なないがうちの団長だけのモットーなんで」


「オレだけ!? オレだけこきつかわれてんの!?」


「他の兵士にそんなことさせませんよ。自分は良心的な軍師なんで」


 不思議な関係だな。俺には形容する言葉がない。仲良さそうなのは理解できる。


「まあそっちの坊っちゃんに期待ってところですかね?」


「おぉ? どういうことだロン?」


「団長も変なとこにぶいな……この非常事態で、姫の横にいる一般人なんて、実は王族か、王族を守れるくらい強いかでしょう」


 いかん強いとバレるのは大変よろしくない。軍師勢は勘がいいのかカマかけてんのかわからんな。警戒しておくか。


「俺はあくまでごく普通の一般人です」


「ならそれでいいですよ。邪魔をせず、姫を守ってくれりゃ、自分は何も言えた義理じゃないんで」


「うむ、まずは己の職務をまっとうする。下を動かすなら、まず自分が示す! それが第三騎士団のモットーだ!!」


 ほほう、俺とは真逆のタイプだな。頑張ってほしい。第三団長ってことは、この人別格で強いはず。なんか予想外だ。


「そう言っておけば、背中で語るかっこいい男になれると思ってんですよ、団長は」


「それ言っちゃだめなやつでしょうがー!?」


 愉快な人達であることは間違いないな。


「お話中失礼します、少々お耳に入れたいことが」


 ミナさんが音もなく出てきた。どうやら俺たち四人だけを呼んでいるようだ。


「おおミナさん!! 今日もまたお美しいですな!!」


「ありがとうございます。シルフィ様をお借りします」


「どうぞ、自分たちは勤務に戻ります」


 あっさり行かせてくれる。事情があると察してくれたのかな。

 超人レベルの軍師なら、そういうの予測できても不思議じゃない。


「失礼します」


 軽く挨拶してから、五人で廊下を歩く。

 少し空気が重い気がするのは、警備の兵が増えているからだけじゃないだろう。


「なにか進展が?」


「リリア様のご先祖様についてです」


「なるほど」


 さて葛ノ葉はなにをやらかしていたのやら。ここは真面目に聞いておこう。

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