シルフィVSヘカテー

 一夜明けてさらに夕方。城壁の内部に設置された闘技場は、シルフィとヘカテーの勝負を見に来た連中で埋まっていた。


「まったく、何でシルフィなんだか」


 朝から会議があったらしく、そこで決まったことをまとめる。

 ・過激派がそんなに戦いたければ、正式な場を用意してやる。

 ・これが最終戦。神の代表はヘカテー。人間側はシルフィ。

 ・過激派は勝ったら冥府での懲役で済む。負ければ潔く死ぬがいい。


「しょうがないわ。私とお父様じゃ死んじゃうもの」


 広く清潔な控室に、ギルメンとフルムーン一家、そしてイーサン団長とリク団長がいる。


「私は連戦で負傷したってことで、代役がシルフィという設定よ」


「大丈夫だって! わたしに任せて!」


 強敵ではある。だがどうしても勝てないレベルの敵ではない。

 シルフィならいけるはずだ。


「そういやフルムーンは大丈夫なんですか? 長いこと空けていますが」


「そこは抜かり無い。第二騎士団長ユングがまとめている」


 第二騎士団長……見たことがないな。どんな人かすら知らん。


「フルムーンでもトップクラスの大貴族で、実力で団長になった人よ。民衆と貴族両方から支持がある、まあ広告塔ね」


「騎士団ってそんなこともやるんですね」


「そうね。というか他にいないのよ」


「リクは裏方を好む軍師タイプ。オレは戦闘はできるが、いまいちアイドルのようにはなれん。三日月は何やらかすかわからんからなあ」


 イーサン団長の評価は当たっているのだろう。その三人は広告塔として民に愛されるのとは違う気がする。


「ルルみたいに楽団やってるやつもいるが、国を守る騎士としての代表って感じじゃないからな」


「ユングは上品な顔立ちの男です。まあちょうどいいでしょう」


「貴族派がおとなしいのも、団長がきっちり抑え込んで騎士団やっているからです」


「貴族派って?」


 急に知らん単語を出さないで欲しい。初耳だぞそれ。


「騎士団の活躍が気に入らない、貴族が上じゃないと満足しない連中です」


「オレもそうですが、フルムーンは騎士団がやたら目立っていましてね。貴族にライトが当たらないのが気に入らないって連中もいるんですよ」


 団長二人が少し困ったような顔をして視線をそらす。

 ジェクトさんも小さくため息をつく。どうやら根深い問題らしい。


「団長は副業とか多彩でしょう? ルルもそうだし、フィオナはファッション関係とモデルやって、リクは軍略とか兵法の本を出している。オレは筋肉を鍛えたり食べ歩きしてるし」


「お前だけ遊んでいるな。まあそんな風に遊んでいるように見える連中が気に入らんというわけだ。業務は全て完璧にこなしているというのに」


 昔からの貴族には、やはりテンプレ傲慢なやつとかいるんだろう。

 めんどくさい……ホノリの親父さんは胃を痛める優秀な人だったのに。

 どこまでいってもピンキリなんだなあ。


「おっと、今話す話題でもないですね。ご武運を祈っております!」


「姫、決して無理はなさらぬように」


「信じているわ、シルフィ」


「国を背負うなどと、気負う必要はありませんよ。勝っても負けても、あなたは私たちの大切な娘です」


「行って来い。すべてをぶつければ、神にだって勝てるさ」


 団長と家族に見送られ、俺たちの前に立つ。

 後ろの扉を開ければ、そこはもうヘカテーの待つ試合会場だ。


「これが終わったらお誕生日会よ。楽しみにしていなさい」


「わしらは信じておる。必ずまた三人一緒に、アジュ攻略を目指すのじゃ」


「後のことは気にするな。何かあれば、俺がどうにかしてやるよ」


 ふいにシルフィが抱きついてくる。少し震えているようで、やはり恐怖心もあるのだろう。そのまま頭を撫でてやり、気持ちゆっくりめに話す。


「お前の強さは、俺が一番よく知っている。あんなやつに負けるほど、お前は弱くない。勝つまで見ていてやるから、気楽にやってこい」


「うん、また一緒に……四人で一緒に暮らせるよね」


「そのために俺がいる。国くらいどうにでもしてやるから、さっさと勝ってきな。全力出せば楽勝さ。クロノスの力は、半端な神じゃ勝てんよ」


「そうだね。長く続いたクロノスの……あれ? どっちの因縁だっけ?」


「そういや二人いるんだったなクロノス。まあどっちでもいいさ。使えるもん使っとけ」


 時間を操る力がある。それでいい。力なんて結局は道具だ。シルフィが楽しく生きていければそれでいいんだよ。


「雑に励ましおって」


「いいんだよ。いまさらあんな神に負けるわけねえだろ」


「ずっと隣で見てきた私が保証するわ。あなたは強い。強くて優しくて、大切な私の親友よ」


「イロハ……そうだね。ここで止まるわけにはいかないね!」


 俺から離れたシルフィに、もう不安の色はなかった。


「ありがとうみんな……わたし、行ってきます!!」


 門をくぐり入場していったのを確認し、俺たちも続く。

 あとは高い壁をジャンプで飛び越えて客席に行けばいい。

 みんなジャンプ力高いからできるショートカットだ。


「シルフィ! 頑張って!」


「やっちまえ!」


 ローマの闘技場を新築したような、ぐるりと武舞台を囲む客席だ。

 そこには団長たちと、隊長や軍師などに混じって神もいる。

 イアペトスもポセイドンもいた。


「姫様ー! やっちまってくださーい!」


「無理だけはしないで欲しいのー!」


「さて、ここからじゃな」


 ヘカテーの能力は多種多様である。ある程度はリリアによって説明があったが、隠し玉がゼロってことはないだろう。

 それでも、こちらに手を振るシルフィが負けるところなど想像できん。


「手なんか振っちゃって、ずいぶん余裕じゃないかい」


「あなたに負けるようじゃ、この先やっていけないからね」


「言うじゃないか。ならそれなりに戦えるんだろうね!」


「クロノス! トゥルーエンゲージ!!」


 ヘカテーが魔力を開放するのに合わせて、シルフィも必殺の剣を出す。


「面白い。ならこっちも真の力を見せてやるよ!」


 深い紫の鎧がヘカテーを包む。どう見ても普通の素材ではない。

 同一素材なのか、同色の剣も持っている。


「冥府の女神ヘカテーが、あんたを冥府の一番下まで送ってやるよ!」


「フルムーン王国第二王女、シルフィ・フルムーン、参ります!」


 中央でぶつかり合う剣と剣。だが神そのものであるヘカテーに分があるのか、シルフィが押し負ける。


「この程度かい。やはり人間は脆いねえ」


「まだまだあ!!」


 光速の数万倍で打ち合うも、ヘカテー側には余裕が見られる。

 それもそのはず。剣では鎧に傷をつけられないのだ。


「硬い……今のわたしじゃ斬れない」


「これが神と人の差だよ!!」


 右手から紫の波動が放たれ、シルフィを吹き飛ばす。

 嫌な気配のする魔力だ。冥府の神だからか、その魔力も神格も薄暗い。


「うあうっ!?」


「そらそらどうしたんだい!」


 魔術の連打から逃れるように、自分を加速して動き回っている。

 決定打が与えられるかどうかで、この戦闘はがらりと展開が変わるだろう。


「こんなもんかい……あっけないもんだ。あの赤い鎧のやつさえ出しゃばらなきゃ、人間なんてこの程度さ」


 紫のビームが天を貫いていく。

 特殊結界がなければ、観客席にも被害が出ているだろう。


「遅いんだよ!」


 どうやら接近戦もできるらしい。自分を加速させ続けるシルフィよりも速く動き、背後を取って蹴りつけている。


「きゃあぁぁ!?」


「シルフィ!」


「姫様!!」


「このままじわじわと死んでいきな!!」


 身体能力の差は覆らない。このままでは押されっぱなしだろう。


「やっぱりこれじゃダメか。しょうがない!」


 シルフィに、俺の籠手と同じデザインの装具が現れる。

 勝ち目がないと悟ったか、魔力を高めて神力を収束したのか。


「出し惜しみはしない! いきます!」


『クロノス!』


 真紅の鎧に包まれたシルフィは、時空神クロノスの力をその身に宿し、全開で使い続けられる。


「ほう、面白いじゃないかい」


「その余裕もここまでだ!」


 本日最速で肉薄し、ヘカテーの剣をすり抜けて、すれ違いざまに一撃入れた。


「バカな!?」


 とっさに左腕でガードしたのだろう。鎧の腕部分に大きなひびが入っていた。


「いける! 今のわたしなら戦える!」


「調子に乗るなあ!」


 猛烈な乱打戦へと突入し、火花とともに金属がぶつかる音が無数に響く。


「もっと速く、もっと強く! クロノス、わたしに力を貸して!!」


「ちっ、使えない装備だねえ。小娘の攻撃に耐えられないなんて」


 ヘカテーはいまだ余裕がある。どうも壊れているのは鎧だけで、本人へのダメージが見られない。


「硬い……これが神……」


「案外がんばったねえ。だがここまでだよ」


 さらに神力が跳ね上がり、それを独特な魔術でブチ上げ続けているようだ。


「それ以上強くさせるな!」


「わかってる! せいやあああああ!!」


「んん~? やっぱりこんなものかい?」


 素手でシルフィの剣を掴んでいる。血も流れず、動かそうにも動かせないようだ。


「そんな!?」


「アタシは装備だけの女神じゃないんだよ!!」


 剣を握り砕き、シルフィを壁まで殴り飛ばした。


「がはっ!? うぅ……」


「こっちは冥府の女神だ! 簡単に勝てると思わないことだね!」


 壁に叩きつけられたままのシルフィを掴み、強化魔術の混ざった拳が叩き込まれていく。


「シルフィ!!」


「いかん、姫様が!!」


「うああああぁぁ!!」


「そらそらそら!」


 ただでさえ敵は強い。今までの神も強かったが、ティターンは間違いなく上級神だろう。

 だがそれでも、シルフィは勝つ。あいつがこんなところで負けるはずがない。


「さあ、こんなつまらない茶番は終わりだよ!」


 ヘカテーの大振りの右ストレートが迫る。だがその胸に、シルフィ渾身の一刺しが入った。


「なんだと!?」


「お願い届いて! フルパワーだああぁぁ!!」


 ヘカテーの体内に直接クロノスの力を流し込み、ここで勝負を決めに入った。


「無駄なんだよぉ!!」


 敵の書き換えと未来の選択ができないのだろう。

 トゥルーエンゲージは、格上の神を屠るには火力不足らしい。


「諦めない! もっと力を!!」


「いけシルフィー!」


「そこじゃ! 全力出しきるんじゃ!」


「このガキがあああぁぁ!!」


 紫の炎がシルフィを包み、容赦なく続く攻撃で剣を握る手が緩む。そこを掴まれて投げられてしまった。


「うわあああぁぁ!!」


 勢いを殺しきれず、シルフィは闘技場中央に叩きつけられた。

 ヘカテーの鎧はすべて砕け、普通の服に戻っているが、胸以外の外傷はない。

 あいつ想像を超えてタフだ。女神ってのはこんな頑丈なもんなのか。


「くそっ! ふざけやがって! よくもアタシに傷を!!」


 シルフィの剣を脇腹から引き抜き、醜悪な表情で睨みつけている。血が噴き出そうとも気にせず怒りをあらわにする姿は、もう女神と言われても信じないだろう。よくて邪神だな。


「まだ……まだ負け……ない……」


 魔力で炎をかき消し、懸命に立ち上がった。

 いつも元気なシルフィが満身創痍である。会場 も静けさを増していった。


「姫様が……せめて我々が加勢できれば……」


「ダメじゃ。シルフィはそれを望んでおらぬ」


「血は出てる。けど弱点は心臓じゃない……それだけじゃ死なない?」


「神がその程度で死ぬか! 間抜けめ!!」


「なら刺せるだけ刺してやる!」


 再び剣を作り出し、ヘカテーとの間合いを詰めていく。

 だが決死のカウンターは何度も決まるものじゃない。


「やせ我慢はおよし。このままなぶり殺されるだけだよ?」


「まだ負けたわけじゃない!」


「シルフィ! まだ私もお父様もいるわ! 危なくなったら棄権して!」


「お優しいことだねえ……でもギブアップなんてさせないよ」


「するつもりもない!」


 捨て身に近い攻め方で、ヘカテーに切り傷を負わせていく。

 だがその何倍も打たれ、シルフィに傷が増えるたびに、自分の時間を戻して立ち上がる。


「傷が……完治しない……」


「神の攻撃を、半端な力で戻せるものか!」


「それでも……それでも勝たなきゃいけないんだ!!」


 そしてシルフィの剣が消えていく。いくら戻そうとしても、その手には何も戻らない。


「そんな……」


「ふははははは!! 終わりだよ! 人間の分際で、神の力を永遠に使えるはずがない!」


 無限に近いと思われていたパワーも、上級神が相手では尽きてしまう。

 そこからは防戦一方だ。徐々に反撃の機会すら奪われていく。


「シルフィ様! もう戻って!」


「あとは騎士団がやります!」


「姫様! もういい! もう気持ちは伝わりました!!」


 騎士団長も家族も引き留めようと必死だ。


「逃しやしないよ! 哀れなお姫様。国のため、家族のため、死ぬ寸前まで頑張って、結局勝てやしない。あんたの弱さで国が滅ぶんだよ!!」


「わたしのせいで……」


「違うわ! シルフィのせいじゃない! 神が攻めてこなければ!」


「くだらないわ。ねえお姫様、泣いて命乞いをなさい。国を差し上げます。だから国民を殺さないでくださいって」


 まーたくだらんこと言い出したな、あのおばさん。そんなん聞くかよ。


「神を敬い、崇めるならば民は殺さない。人類が消えても無意味なの。おわかりかしら? あなたの態度一つで、ここにいる人間も、国に残してきた人間も救われるのよ」


「みんなが……助かる……」


「もういいわシルフィ様! そんなことせずに戻ってきて!」


「サカガミくん、君からも止めてやってくれ! 君の言葉なら聞くだろう!!」


 命乞いはさせず、だが降参させる方向で外野の方針が固まりつつある。

 そして俺に止めろと言う。何を期待しているか知らんが、会場はゆっくりと静まり始めた。

 つまらん連中だ。今のシルフィが何を考えて、何を迷っているかもわからんくせに。


「シルフィ、よく聞け」


「アジュ……」


 死にかけようが、迷っていようがシルフィだ。だが、あんな本調子じゃないシルフィは、俺も見ていたくない。だからあいつの呪縛を解く。


「勝て。いつまでシルフィ・フルムーンでいるつもりだ」


「おいあんた! 今の状況わかってんのか!!」


「サカガミ君! 何を!!」


「俺がいつ国のために戦えと言った」


 あいつの勘違いを、余計な雑音を取り払うだけでいい。


「お前を送る時、俺はなんて言った? 国だの民だの、そんな漠然とした曖昧なもんを、お前一人に守れと言ったか?」


「それは……」


「国なんて騎士団に守らせろ。王位なんてサクラさんが継いでくれる。お前が戦う本当の理由は、本当に欲しいもんは何だ?」


「わたしが欲しいもの?」


「どっちに転ぼうが、国は国で、シルフィはシルフィだ。お前のなりたいシルフィに、なりたい未来に向かって進め」


 クロノスは国に尽くすことなんて望んじゃいない。

 それ以上に、国のために死ぬことを俺が認めない。

 真面目で純粋なシルフィは、人の感情を読み取れてしまうシルフィは、それでも気負って生きていく。それが気に入らない。


「…………そうだね。わたし、難しく考えすぎてた。最初から言ってたのに……国なんてどうとでもしてやるって」


「国程度の生贄としてくれてやるほど、お前は安くないぞ」


「ふふーん、わたしはもう国のものじゃないんだね」


「いいからさっさと勝ってこい」


「はーい」


 よし、いつもの雰囲気になったな。ああなっちまえば勝てるだろう。

 何度もシルフィと一緒に戦っているからわかる。あいつには秘めた力が残っているんだ。


「やる気出したところでどうだっていうのさ。あんたはクロノスの力を使い果たしたんだよ」


「それでも、神様くらい倒せなきゃ……あの人の側にはいられない」


 シルフィから時空神クロノスの力がほぼ感じられない。

 だからこそ、別の力がはっきりと浮かび上がり始める。


「きっとこれからも、敵に神様が混ざっていく。だからわたしたちは、神を超えなきゃいけない」


 今まで時間操作で解決できていた領域を超え、その血統が開花し始めている。


「あの人に届くまで、わたしは止まらない。隣を歩くためにも、この程度じゃ終われない!」


 立ち上る魔力に、明らかに別種の何かが混ざっている。

 シルフィ本人と、クロノスと、あと一個混ざっていく。


「勝つんだ……勝って、わたしはあの人と添い遂げる!!」


「黙って待っていると思ってんのかい! 死にな!!」


 ヘカテーの左手に魔力が集まり、シルフィを存在ごと焼き尽くそうと炎が迫る。


「力を貸すんじゃない。まるごとわたしのものになれ! クロノス!!」


 炎よりも速く駆け抜け、ヘカテーの左腕を斬り飛ばした。


「アタシの腕が!?」


「あれは……鎌?」


 確かに鎌だ。黒いクリスタルの中に、いくつもの煌めく光がある。

 それはまるで宇宙と星々のようで、刃と柄をつなぐように、一際大きな光があった。空に輝く月のように、シルフィを守るように。


「どういうことだい! これは……この鎌は!!」


「クフフ、農耕神クロノスの鎌ですね」


 一部の神が納得いったとばかりに頷いている。


「そうですか。どこを探しても見つからないと思えば……なんてことはない。子孫に託していたのですね」


「どこまでも人を愛し、人に託すか、クロノスよ」


「懐かしい。そうだ、あの神格は、間違いなくクロノスだ」


「どういうことだ? シルフィに何が起きた?」


 明らかに雰囲気が違う。今のあいつからは神々しさと神聖さが溢れていた。


「農耕神クロノスと、時空神クロノスの力を同時に発動させとるんじゃ」


「両方の血が入っていることは確かです。ですが、まさかこんなことが……」


「できるさ。あいつはシルフィだ」


 あいつはなんだってできる。神の血を引いていて、王族で、俺たちのシルフィだ。


「この力は、わたしとみんなの未来を繋ぐ! クロノス! ツインドライヴ!!」


「血の力を制御するのではない、まるごと吸収して、糧としたんじゃ」


 完全に傷が消えていた。ただただ神を超えた人間がそこにいる。


「小娘が……腕の代償はでかいよ! あんたの国ごと消してやる!」


「国なんて関係ない。今のわたしは、ジョークジョーカーのシルフィだ!!」


 これがシルフィの真の力なのだろう。パワーもスピードも、圧倒的にヘカテーを超えている。


「がああぁぁ!!」


 胴体を切り裂かれ、鮮血が舞い、死が神を襲う。

 誰の目から見ても、力の差は明らかだった。


「どうして! どうして人間なんかが!!」


 最早当てようとすらしていないような魔法の連打も、鎌により一撃で切り裂かれていく。


「もう負けない。絶対に!!」


「消えろ! お前も! この場にいる人間どもも!」


 天高く舞い上がり、空を覆い尽くす紫の火球を生み出した。

 おそらく、あれ一発で銀河の数百は消えるだろう。


「小娘に負けるくらいなら、ここですべてを消してやる!!」


「やっちまえシルフィ!!」


「神を……狩る!!」


 落ちてくる火球へと飛び、袈裟斬りに全てを狩り尽くす。


「セイヤアアアァァァァァ!!」


「こんな……ティターンが……人間などにいいいいぃぃぃ!!」


 火球もろとも両断され、邪神は大爆発を起こして消滅していった。

 後に残るは鎌が消え、ゆっくり空から舞い降り、俺の胸へと飛び込んでくるシルフィだけだ。


「わたし……勝ったよ」


「よくやった。それでこそ俺たちのシルフィだ」


 こうして最終試練は幕を下ろす。

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