第143話 お城ってでかいよね。お城だもの

 フルムーンの城は、見上げると首が痛くなりそうなほどでかかった。

 学園でも大きな施設はあったが、これは広さも桁違いだな。


「はー……王族ってのは凄いところに住んでるな」


「凄いでしょー。遠くからでも真っ白な姿がどーんと見えるからね」


「はいはい、ぼーっとしてないで入りましょう」


 ぱんぱんと手を叩いて俺達の意識を戻すサクラさん。


「ミナ、お父様は?」


「既にお待ちです」


「それじゃあ行きましょう」


「出迎えとかないんだな。こう、ずらーっと並んだり」


 金持ちってのは両側に執事とかメイドとか、ぶわーっと並べてお出迎えのイメージだ。


「そんなことをしたら王族が帰ってきたのがばれるでしょう」


「無用な混乱は避けるべし、よ。サカガミくん」


 国民が集っちゃうし、仕事を中断させるのも悪いからなんだとさ。

 完全に無駄な行為だし。俺もない方がありがたい。さて、城の中はというと。


「またなんとも豪華な……」


 広い。とにかく広い。天井が高いよ。シャンデリアとか高そうな絨毯とかある。

 調度品は少ないし、清潔感のある城内なんだけど、まず広い。


「まあ外観がでかいんだから、中も広いわな」


「ふむ、しかも普通の石造りではないのう」


「ふふー。特殊な鉱石の混ざった頑丈なお城なのさ!」


 俺にはわからん。豪華な城ってことしかわからんよ。


「ふむ、金持ち特有の下品さがないのう。調度品が最低限で、快適に過ごせるよう作られておる城じゃな」


「あら、リリアちゃんにはわかるのね」


「それなりにのう。高位の錬金術と建築技術で作られておる」


「話は後にしよう。とりあえずお父様にご挨拶だよ」


 はい胃が痛い。うーわなんだろうこの緊張感。

 玄関ホールから伸びる、これまた広くて大きな階段を上がって二階へ。


「お帰りなさいませ」


「お帰りなさいませサクラ様! シルフィ様!」


 すれ違う人々が頭を下げている。本当にお姫様なんだなあと実感していたり。


「玉座の間とか行くんですか?」


「身内が帰ってくるのに、いちいちそんな場所使わないわよ」


 使わないらしい。緊張するので行きたくないしナイスだ。


「この時間なら書斎にいるよね?」


「ええ、なので最短距離で向かっております」


「胃が痛い。本当に会わなきゃだめか?」


 別に交際を認めてもらうとか、そんな要件ではないのに……なんか緊張するわ。


「そこまで緊張しなくても……私も何度かお会いしているけれど、無闇に怒鳴り散らす方ではないわよ」


「イロハは女だし。フウマの重要人物だしさ。全然境遇が違うわけだよ」


「緊張しないように手を繋いでいてあげようか?」


「最悪な状況になるからやめろ」


「こちらです」


 大きな両開きで木製の扉だが、俺にとっちゃ地獄の門である。


「ミナです」


「ご苦労。入ってくれ」


 用件も伝えず、普通に入ってくれだ。つまり事情を把握し、ミナさんを信頼しているんだな。


「失礼します」


 シルフィとサクラさんの後ろから、俺とリリアがそーっと入っていく。

 書斎ってこういうところか。本棚が十個は存在し、家のリビングより広い。

 日差しの差し込む窓際に、でっかい机がある。豪華な室内だ。


「お父様!」


 シルフィとサクラさんが、短く切り揃えられた真っ赤な髪のおじさまのもとへ。

 ちょっとヒゲはえているのが貫禄あって似合っている。あれがお父様か。

 ダンディさと体格のよさから、王族というか熟練の戦士っぽいぞ。


「久しぶりだなシルフィ。見ない内に大きくなって」


「もう、お父様ったら」


 シルフィを軽く抱きしめ、頭を撫でる王様。優しい人というシルフィの評価は本当らしいな。


「只今戻りました。お父様」


「お帰りシルフィ。サクラ」


「ええ、只今戻りましたわ」


「ところで彼らは……」


 こっち見てきたー。値踏みするような、珍しいものを見るような目だ。

 そりゃお姫様のお友達の男だもんな。


「はい。同じ勇者科で、同じギルドのお友達です!」


「ミナから聞いてはいたが……そうか、君達が」


 ハーレムの主ですとか、好きな人です! とか言い出さないように注意しておいてよかった。


「アジュ・サカガミです」


「リリア・ルーンです」


「フルムーンの王、ジェクト・フルムーンだ。シルフィからの手紙と、ミナからの報告で聞いている」


 どんな報告されていることやら。ひとまず様子見だな。


「シルフィが学友を連れてくるなど初めてだ。イロハ殿だけに世話になり続けていて、心配だったのだよ」


「お世話だなんて、シルフィは親友ですから」


「そうだったな。いや失礼。これからも娘と仲良くして欲しい」


 なかなかフランクなおじさまじゃないか。それでも礼節にうるさかったり、問題があるかもしれないので油断はしないようにしよう。


「はい、よろしくお願いします」


「こちらこそお願いしますのじゃ」


「娘が男を連れてくる……初めての経験だが、なんだが不思議な気持ちだな」


「ご安心を。一切手を出しておりませんので」


 事実である。俺からなにかすることはない。キスもしていない。胸を張っていこう。


「親バカを考慮してもよくできた娘だと思うが……本当に何もしていないのかね?」


「はい。一切手を出しておりません。むしろ気を遣って体への接触を極力避け、デートとみなされないよう、二人での外出に誘うこともなく、こちらから愛をささやき口説くなどもってのほかです」


「そ……そうか……うむ、ああ、なんというか安心したような、残念なような。これが親心か」


 俺の発言にちょっと引いているけど、いいおじさんらしいな。

 シルフィが横で不満顔だけど、まあ我慢してくれ。


「それでお父様、王国の危機らしいですね」


「ああ、困ったことにな。相手はクロノスの血統を揃えろと言っていたが」


 そこで、室内が真っ白な床と、真っ青な空だけになる。


「これはっ!?」


「なんだこれ? 城ってこんな機能ついてんのか?」


「いいえ、こんなことは初めてよ」


 全員が混乱しているところから、第三者がやっているのだろう。

 雲一つない青空だ。風も吹いていない。壁も天井も消えた。


「神域か……本物の神様のお出ましじゃな」


「フルムーンの血統。クロノスの子孫よ」


 声がした方に一斉に振り向く。そこには、水の壁とその奥から歩いてくる男が一人。


「自己紹介させていただこうか。おれはポセイドン。水やら大地やらまあ……実に様々な神をやっているハンサムだ」


 聞いたことがある。こいつかなり有名な神だ。

 長く伸びた青い髪と青い瞳。首から下をガードする輝く鎧は金色。

 なんだこいつ。めっちゃイケメンだけど……神様って美形しかいないのか。


「即席ですまないが、おれの世界に招待した」


 そこでポセイドンが俺たちを見る。まあ完全に部外者だしなあ。


「世界ってなんだ?」


「力のある神は、自分の世界を作り出せるものがおる。今回はわしらを呼ぶために、即席でシンプルな空間を作って呼び込んだのじゃ」


「正解だ。どうやらそちらのお嬢さん方は、おれとは異なる次元の神力を持っているようだな。面倒だからまとめて入場させたが、面白い」


 やっぱりわかるのか。リリアとイロハの力を感じている。こいつが今回の敵か。


「彼らは私達の関係者です。どうか、一緒に話を聞く権利を」


「……まあよい。ハンサムと金持ちは多少のことではうろたえん。器が広いことを示してやろう」


 よくわからないけどセーフだったみたいだ。

 いや実際ハンサムだけどさ。自分で言うかね。


「お招きいただき光栄です」


「さっそくだが本題に入ろう。クロノスを継ぐ者よ、なぜ聖地に手を出した? ノアに誰も手を出せぬよう、監視するのも王家の役目であろう?」


「おっしゃるとおり。こちらで聖地への侵入及び開発計画は阻止しました」


 ジェクトさんとポセイドンの会話は続く。俺達は事情がよくわからないので聞いているだけ。


「そうか、確認次第魔物は消そう」


「その……それで、もう一人の神様はなんと?」


 なんだ別のやつがいたのか。これ以上話をややこしくするなよ。


「…………何の話だ?」


 怪訝な顔ってこういうことか。イケメンがやるとかっこよくなるんだな。

 ってかポセイドンが知らない?


「先日フルムーンに連なる者を集めよと、城にいらしたのは……?」


「知らぬ。魔物は侵入を阻むため、おれが出した。人を襲わないようにしてあるはずだが?」


「はい。それは確かです。ですが、それはノアへ来なかった場合に、人間を襲わせるためでは?」


 ジェクトさんとポセイドンの会話がかみ合っていない。


「おれが来たのは、クロノスの血を継ぐ者が集結していたからだ。事情を聞くならばうってつけであろう? 近いうちに聞こうと思っていたからな」


「では、先日神を名乗り、箱舟にて待つとおっしゃったのは?」


「おれではない。このハンサムフェイスと、海神ポセイドンの名において誓おう」


 完全に別人らしい。となると神様ってのは誰なんだ。


「どうやら食い違っておるようじゃな」


「お互いに起きたことを、まとめてみちゃどうです?」


「ふむ……いいだろう。イスを出す。くつろぎながら話せ」


 何もない場所に座り心地のよさそうなイスが人数分出る。

 神様ってなんでもありだなおい。


「ではまずジェクトよ。全てを話せ」


 さて、面倒な作業が始まりそうだ。

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