合宿終了と戦況の変化

 適当にガンマと料理作って、女子が出てきたら風呂入ってリビングでぼーっとしている。別にやることもないし、あとは寝るだけなので、リリアが全員にアドバイスし終えるまで待とう。


「では終わりじゃ。各自明日の完成に向けて寝ておくように」


「はーい!!」


 終わったか。合宿所ってやることないよなあ……突然だから遊べるものも持っていない。暇が一番の敵かもしれん。


「さて、部屋で寝てもよいぞ。全員分料理などしおって、疲れておるじゃろ」


「まさか下ごしらえで終わっていいとは思わんかった……ガンマめっちゃ料理できたから、あんま疲れていない」


「自分のことくらい自分でできないアサシンとか論外スからね」


 大国の料理は作れるらしい。地元民を装ったり、作れると共感から油断を誘えるらしいよ。実に手際がよかった。そんなわけで言うほど疲労は溜まっていない。


「あいつらは強くなるのか?」


「高レベルの実戦さえ積ませてしまえば、戦闘力は上がる。あとは覚醒条件次第じゃ。こればかりは本人の素質じゃな」


「勇者科は大変スね。ころころ授業内容が変わるんじゃ、対策も取れないでしょ」


「まったくだ。明日もどうなるかわからん。ガンマも寝ておけよ」


「結界で補強してあるから、誰も家に入れないはずじゃ。安心して眠るがよい」


「んじゃありがたく……そっちもお気をつけて」


 そして個別に割り当てられた寝室へ行く。意外と広いし清潔だ。学園の施設ってみんな綺麗で整っていて非常に助かるよね。

 やることもないしリリアとベッドに入る。城より少し狭いけどまあいいか、冬は冷えるしな。寝やすいからこれでいこう。


「明日も特訓か……試験はどうなることやら」


「おそらく領土の争いを激化させる方向じゃろ。外部のトラブルが多すぎて、国取りができておらぬ」


「国取りには5ブロックが邪魔じゃね?」


「ブロックごとシャッフルでもしかねんのう」


「生態系こわれる」


 学園の技術力ならやりかねん。領地を移動させるだけなら、転移魔法とかで……いやどんな被害出るかわからんし、流石にないよな。


「何があるか知らんが、しれことA2型が出てきたら呼べ。そっちに行く」


「うむ、あれはまあ……少し骨が折れるのう。ギリ倒せなくもないが」


「シルフィとイロハも倒せるか?」


「しれこ討伐はかなりギリじゃろ。楽勝なのはおぬしくらいじゃ」


 あいつらも神を殺した経験がある。並の下級神なら楽勝で倒せるはずだが、それでも倒せないとなると厳しいな。俺が本体見つけてこっそり殺すべきか? だがアジトが判明しなければ……無駄な思考だなこれ。


「足手まといにはならぬよ。わしら三人はまだまだ強くなる。おぬしの横に立つことができるということは、繋ぎ止める鎖にならないということじゃ。安心せい」


「ああ、家族でも友人でも、増えれば弱点でしかない。所詮奴隷の鎖と同じだ。そんな邪魔くさいものとお前たちを一緒にしたくない」


「わしらはどんなことでもできる。神殺しからゲームの相手や毎日の食事まで、お互いにそうあることが理想じゃな」


「俺はまだまだ鎧無しじゃ無理だけどな」


「そこは成長に期待じゃよ。ゆっくりじっくり教えてやるのじゃ」


 話しているだけでどんどん眠くなる。俺が眠りやすいテンポで話しているのだろう。暖かくていい匂いで、目を閉じるとすっと眠気が来る。


「できることからやっていけばよい。今は陰陽術をもっとできるようになればいいのじゃよ」


「そうだな……よろしく……頼む……」


 頭を優しく抱かれるように包まれると、じわりと警戒を解いていく。ここ最近は寝ていても戦闘になることを想定して、どこか気の抜けない就寝だったことを実感する。面倒な試練だ。そこまで考えて俺の意識は途絶えた。


「アジュ、起きてるかい?」


 そして朝も早くからホノリが起こしに来た。これも習慣化しそうだから控えたい。


「今から寝る」


「二度寝やめろ。特訓するんだよ」


「がんばれ」


「こいつは……」


 寒いんだよ。あと久しぶりに熟睡できたので、もう少し寝ていたい。


「わしがちゃんと連れて行くのじゃ。朝ご飯は食べておいてよいぞ」


「わかった、リリアに任せるよ」


 もう朝が弱いのは治らない気がしている。鎧の効果で無理矢理健康にすることはできるだろうが、このぼんやり眠い状況は結構好きなのだ。二度寝できる前提だけれど。なので寝よう。


「ほら起きるのじゃ」


「眠いのに……いいからこっち来い」


 お前がどっか行くと寝づらいんだよ。ふらふら移動するんじゃない。


「ほれもう着替えたんじゃから、起きてご飯じゃ」


 勝手に魔法で制服に着替えさせられている。ちくしょう眠くないぞ。入り口でコート持って待っているし、しょうがない行くしかないか。諦めてもそもそと布団から出る。起床時間が早いんだよなあ……まだ七時くらいだろこれ。


「アジュくん、学園からの通達よ」


 食事を終えるとタイミングよくフランがやってくる。何か手紙のようなものを持っているな。


「本日午後のポイント発表で、一位のブロックに5ブロックの指揮権を移乗し、領地とする。ですって」


「うーわ絶対なりたくねえ。っていうか急すぎるだろ学園」


「一気に戦火のど真ん中じゃな」


「リリアの国は平気か?」


「こういうことに備えて、どうやっても二位で止まるように調整しておる」


 流石に賢い。うちは中間を維持しているので、まず対象外だろう。

 近くにいたメンバーと対策を練る。といっても一位にならないようにすりゃいいだけだが。


「シルフィとイロハも問題ないな?」


「うむ、一位のめんどくささは実生活で知っておるからのう」


「アジュさんが謎の敵ぶっ倒したのは功績に入らないんスか?」


「ない。おおっぴらに説明していい案件じゃないから、試験にはノーカウントだ」


「なら問題なしね。あとは国と国でバトルさせるって書いてあるわ。同盟組んでばっかりで領地の変更がないからって」


 楽して試験を突破しようという魂胆が見抜かれている。今までは基礎固めの段階だったから、学園側も無理強いはしていないのだろう。だがもう何週間だ? ここらで状況を変化させたいのだろう。


「決まったものは仕方がありません。特訓開始です!」


 そしてリリアによる超限界ギリギリぶっちぎりバトルが始まる。


「おぬしらの一歩だけ先を行く実力のゴーレムを出す。戦闘スタイルもこの先覚えられるであろう技術も入れてある。しっかり倒せれば一段階上の戦士になれるはずじゃ」


 水と土と葉っぱでゴーレムを作っていた。本人に似せてある。芸術の才能もあるんだな。


「当たり前のように言われましたね」


「つまりオレらのコピーを量産できるってことスね」


「リリアちゃんの国とは戦いたくないねー。死んじゃうんじゃない?」


「頑張れ。俺は瞑想とか精神統一とかそういうのが課題らしいので見守る」


「ずるくない?」


 だって殴り合いとかできないし、やりたくないし。魔法使いは後ろから戦うもんだろ。ならこれでいいのさ。


「ではスタート!」


 そして戦闘を始めるみなさま。俺はそれを見つつ、また紙に魔力を流す。


「ここからは集中を乱さない特訓じゃ。わしが色々するから、札への魔力を一定に保つように」


「わかった」


 リリアが膝に座ってくる。あぐらかいている状態で座られるので、すっぽりと収まりがよい。


「久しぶりにゆっくりできるのう」


 なぜがこっちに向きを変えて座ってきた。俺のほっぺを両手でむにむにしてくる。


「ゆっくりさせろや」


 無駄にうざい。地味に集中が乱れるぞ。


「少し季節の変化に慣れておらぬな。あまり鎧を頼ってはいかんぞ」


「わかっている。ええいやめんかい」


 お返しに同じようにふにふにしてやる。すべすべで柔らかい。こいつのどこに超人を超えるパワーがあるんだろうな。


「式神に集中するのじゃ」


「お前これ好き勝手したいだけだろ」


「にゅっふっふっふ、ほれほれ撫でてやるのじゃ。よしよし、修行頑張って偉いのじゃ」


 頭を撫でてくるが、なんか微妙に腹立つ。こいつずるいぞ。好き勝手したいだけやん。ほら札が崩れた。


「仕方ないやつじゃな。一緒にやってやるのじゃ」


 新しい札を用意すると、俺の両手をリリアが包む。手の大きさ違うから包むっていうか添えている感じだけど。


「魔力に頼ってはいかんぞ。集中して、精神のオンオフを作るのじゃ」


 俺の中からパワーが溢れてくる。最初に魔法を覚えたときも、こうして引き出してもらった気がするな。不思議と落ち着くので、今のうちに習得しよう。


「なるほど、感覚として掴めばあとは自由が効くな」


「うむ、気の持ちようじゃ」


 ちなみにみんなは戦闘中である。なにやら叫び声とか雄叫びとか必殺技の詠唱とか聞こえるが、まあ俺にはよくわからん。


「次はもっと妨害のレベルを上げるのじゃ」


「そっちをメインにするな」


「耳舐め音声というものがあってじゃな」


「絶対やるなよ。あとこっちの世界にねえだろ」


 軽く話しながらでも集中は途切れない。よしよし、これなら実戦投入できるぞ。


「人前でできる限界を見極めるゲーム!」


「そのゲームは販売停止だ。みっともないことはやめろ」


「もう抱きつくくらいではときめきが足りんじゃろ。かといってキスとかするべき状況ではない。こういったパターンにおける適切なスキンシップとは?」


「それがわかる俺は俺じゃないぞ」


 無駄に抱きついてこようとも、今の俺は術に集中しているのだ。むしろなんか落ち着くので集中力アップである。


「最初から自分には性欲ないと諦めておるじゃろ。おぬし元の世界基準で言えば性欲ある方じゃぞ」


「マジで?」


「うむ、平均は絶対にある。まああの世界自体が……まあよい。諦めるでない」


「はいはい、術の修行が終わったらな」


「こちらはもう終わりましたよ」


「早いな」


「アジュくんずっといちゃついてただけじゃない?」


 どうやら全員ゴーレム倒せたらしい。それなりにぼろぼろである。

 回復魔法をかけつつ、休憩途中に学園から手紙が来た。


「5ブロックの所有権は2ブロックのものみたいね。今攻めるのは禁止だって。まあいきなり戦地になったらきついものね」


「2ブロック……知らんやつらだ」


 クレアが7ブロックで、ガンマがいるのが6ブロック。うちの連中を除けば2ブロックだけまったく知らんな。


「私らも情報はないよ。あんまり話したことないし」


「徹底した防御態勢を取っている。というより壁で城の全容すら見えない。潜入は不可能」


「どういうことだ?」


 どうも調査すらできないほど厳重らしい。厄介な超人でもいるのだろうか。


「なんか城っていうんスかねあれ……すげえシェルターみたいな……外敵どころか国民すら城に入ったやつはいないそうで、姿を見せないらしいス。潜入しようにも入り口がないとか」


「城なのに? 塀くらい飛び越えたらどうだ?」


「結界と砲台でガードされるッス」


 怪しすぎる。うちも完全な自給自足ができるようにしているが、もっと厳重な警備らしい。


「強いのかね? いきなりこっちに侵攻はしないだろうけど」


「成績は悪くないはずです。ただ勇者科は全員と交流することに向いていないので、どうしても知らない人が出るんですよね」


「途中からぶち込まれた組もいるからなあ……」


「暗くなってても始まらないわよ。とにかく今は強くなったんだから、対策できたと思いましょう」


「それもそうか」


 フランは王族で姉だけあってまとめ役というか、こういう時に切り替えが上手いな。人の上に立つべくして生まれているのだろう。


「ガンマ様、イノ様より急ぎ帰還するようにとの仰せです」


 なんか伝令さんが来た。ブロック違うとこういう事が起きるんだな。


「わかった。すぐ城に戻ると伝えろ」


「はっ」


「というわけでオレはここまでス。新必殺技も習得できましたし、新鮮なアジュリリも補給できたんで、もう本当になんとお礼を言っていいか」


「気にするな。こっちも世話になった」


 みんな新技とかできたらしい。すまん見てなかった。実戦で見たら褒めてあげよう。それでなんか知ってましたよ的な空気になればいいじゃん。


「サカガミ様、アオイ様より帰還要請です。至急城へお戻りください」


「おっとこっちも呼ばれたか」


「ちょうど合宿も切り上げどきじゃな。これにて終了。戻るのじゃ!」


 こうして短期合宿は終わり、それぞれの拠点へと帰っていく。これからまた戦いの日々なのかと思うと少し億劫だが、幸いなことに6ブロックは好戦的な連中じゃないし、きっとなんとかなるだろう。


「アジュさん、各ブロックで不満を訴えている人が続出しています」


「それ解決してねえのかよ」


 たまには休ませろや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る