第152話 そしてラブコメに戻るのであった
俺とシルフィが全てを終わらせて外に出ると、いつものメンバーが待っていた。
事情を話し、面倒なのでシルフィの力とリリアの魔法で、全員城まで転送してもらう。
俺達と兵士の皆さんは無事、城の召喚ポートに到着した。
「まだ昼か……寝よ」
そして腹へったので城で夜食もらって昼まで寝た。そしてまた寝る予定だ。
「アージュー朝だよー。っていうかお昼だよ。起きて」
客室にシルフィが入ってくる。俺はまだベッドの中だ。
しかし豪華な部屋とベッドだな。流石フルムーンのお城。
「はあ……眠いからやだ……」
「ほーら起きる」
「説明はしてくれたんだろ?」
「うん、ちゃんとサクラ姉様のお手柄になったし、お母様も無事だったよ」
「じゃあもう俺は起きなくていいじゃん。夕方くらいに起きて帰りの列車乗ろうぜ」
実はちょっと疲れている。何故なら慣れない行軍にこっそりついていって神様ぶっ殺したから。
軍の人達って凄いんだな。隊列組んで歩くだけでしんどそう。
「お父様もお母様も呼んでるよ」
「人違いだろ。俺を呼ぶ理由は何よ?」
「今回の件でお礼とお食事がしたいって」
「解決したのは俺じゃないぞー」
ノアの機能は本体ごと封印し、新しい力はギルドメンバーにしか話していない。
ここでボロを出せばシルフィが王位継承者になってしまう。
「付いて来てくれた軍のみんなも含めて、聖地奪還の祝勝会的なやつの計画もあったのに」
「そういうかしこまったやつ嫌い」
「大丈夫。みんなでわいわいやるパーティー的な軽い……のもアジュは嫌いそうだね。混ざってアジュの存在が公になってもまずいしさ」
「勿論だとも」
自慢じゃないが、そういううるさい場所は嫌いだ。行きたくない。
「だから王族とギルドメンバーだけのお食事にしました! わたし達以外は夜に祝勝会してたよ」
「すまないな。助かるよ」
疲れているときの俺はもう寝ることしか考えていない。飯とか食えないのだ。
「本当は朝ごはんでその話をする予定だったみたいだけど、アジュはお昼まで起きないよって言ったら、お昼ごはんには呼んで欲しいって」
「まあ、腹は減ったな」
「でしょ? ほらほら起きる。まだ疲れているのかな?」
「疲れは取れたよ」
「つまり辛いんだね? 苦しいということでいいんだね?」
シルフィの目が輝いている。頷いたら詰むようななにかが発生している。
思い出せ……なにかやばい。理由はわからないが、とにかくやばいぞ。
「いや、辛くない。起きる」
ぎりぎりだった。もうシルフィは俺の寝ているベッドに乗っていたし、顔が近い。
だが思い出した。おまじないってやつを実行しようとしやがったんだ。
「ちょーっと長く話しすぎたか……寝ぼけている間がチャンスなんだね!」
「やめろ、そういうなし崩し的になんとなくするのはだめだ」
「はーい。さ、着替えて……着替えるのはやいね」
いつの間にかパジャマから私服に変わっている。
「はい、これでいいわね。食堂に行くわよ」
隣で俺のパジャマの匂いを嗅いでいるイロハさん。忍術使いやがったな。
ちょっと久しぶりだなこの状況。
「なにしてるのさイロハ」
「着替えを手伝っただけよ。さ、国王様を待たせるものではないわ」
俺のパジャマ……しかもズボンを重点的に嗅ぎながら移動しようとする。
「まてまてパジャマ返せ」
「洗って返すわ」
「洗わなくていいから返せ」
「これからもっと汚れるのよ? 洗って返さなきゃ失礼じゃない」
「汚すなや!?」
やばい。なんかイロハさんが本気だ。本気で俺のパジャマを手に入れようとしている。
「わかったわよ……汚さないように使うわ」
「返せよ!」
「上だけでもわたしが……」
「ダメよ」
「なぜお前が決める!?」
しっかりと胸に俺のパジャマを抱きしめているイロハ。
シルフィに取られることを警戒しているのだろう。
俺はもうイロハに取られているけれどな。
「いいからもう返せって、ここでごちゃごちゃすると無駄に時間かかるだろ」
「そうね、いいわシルフィ。上はあげるわ」
「ありがとうイロハ」
「いいのよ、親友じゃない」
「勝手に分けんなー俺のだぞーっと……」
「アホじゃな」
ベッドに座る俺の上に、さらに座っているリリア。お前はいつ来たんだ。
「遅かったようねリリア。もうパジャマは私達のものよ」
「構わんのじゃ。好きにもっていくがよい」
「俺のだっつってんだろ」
「やけに静かね……」
「にゅっふっふ、匂いを嗅ぐか移すかの違いじゃよ」
なにやら意味深だけど、絶対にしょうもないことだ。
「ほれ、さっさと昼食に行くのじゃ」
「ああ、そうだな」
先に入り口まで歩いていくリリア。状況が掴めないが後に続く。
「そうだね、急がないとね」
「ええ、行きましょうアジュ…………これは!?」
俺の両側に立った二人が困惑している。なんだよもう。まだなにかあるのか。
「なぜ……リリアの匂いがするの?」
「くっつくだけで、わたしでもわかる!」
俺はまったくわからない。お前らなんなのさ。
「にゅふっふ、イロハよ、アジュに着せた服はどこから取ったものじゃ?」
「ベッドの横にあったわ。それが今日の着替えだと思って」
「そう、そこじゃよ。そのシャツは、ベッドに忍び込んで添い寝をしていたわしが……一晩抱いて寝た服じゃ!!」
「なっ、なんだってえぇぇ!?」
シルフィがすごーく驚いている。もうさっさと昼飯食わせてもらえませんかね。
「着替えた服には当然わしの匂いがつく。今日一日アジュに抱きつこうとすると、服からわしの匂いがして微妙な気持ちになるがよい!」
「し……しまった!?」
「そ、そんな手があったなんて……」
膝から崩れ落ちるアホ二人。なんだよこの状況は。
「っていうか添い寝ってなにさー!?」
「シルフィはアジュの部屋で寝ることができぬ。城では顔を知られているイロハも同じ。ならば朝になれば服を狙いに来るじゃろ。しかし、わしとアジュは城の人間では王族くらいしかその顔を知らぬ」
「やられたわね」
「ずるい! 帰ったらわたしが寝る!」
この隙にシャツを着替えるというファインプレーをかまし、食堂へ行く。
「遅いわよサカガミくん」
「すみませんアホが三人もいて遅れました」
「ハンサムまちぼうけだったぞ」
フルムーン一家とポセイドンがいた。
豪華なテーブルに豪華な食事がある。腹減ってきたわ。
全員適当な席に着き、ジェクトさんが軽く挨拶。無事に飯を食い始める。
「いいもん食ってるな……肉が美味い」
「美味である。ハンサムでも大満足だ」
とりあえず高そうな肉から食っていこう。柔らかい、味の濃い目の肉だ。
「食べながらでいいから聞いて欲しい。此度の騒動、身内の恥を晒すものとなった」
「私がエリスの誘いを断りきれなかった……心の弱さ、未熟さが招いた結果です」
ジェクトさんと王妃レイナさんの謝罪を聞きながら、魚料理に手をつける。
焼いてある魚は美味いな。刺身とか出てこなくてよかった。
シンプルに焼き上げて香草と塩で味付けしてある。こういうの結構好き。
「本当に迷惑をかけた」
「俺達はなにもしていませんよ。サクラさんの力です」
「そうですよ、姉様の指揮とクロノスの力によるものです。全てはサクラ姉様のおかげです」
口調がお姫様っぽいシルフィ。そうそうサクラさんのおかげですよー。
「おっと、そうだった。よくやったぞサクラ」
「いえいえ、これも王家の宿命ですわ」
「では、表向きの手柄は全てサクラのものとします」
表向き? おかしい。なんかばれているっぽいぞ。
「おぬし……レイナさんを治療して、シルフィとノアに入ったじゃろ」
「いやいや、あれはサクラさんで」
お茶を飲んで落ち着こう。口の中もすっきりしたし、ついでにピザに手を伸ばす。
チーズがたっぷり使われたやつを食う。肉が美味い。乗っているのは鶏肉だなこれ。
「あの時、私は意識を失ってはおりません」
「ならはっきりとサクラさんが見えていたはずです」
「その後、もう一人サクラが駆け寄ってきて、ノアから出てきたのはシルフィとサカガミさんでしたね」
うーわそうきたか。確かにそうだな。シルフィのことしか考えてなかった。
「ご心配なく。このことは私達以外には知らされておりません」
「サクラがレイナを救出し、首謀者と決着をつけて聖地を封印した。そう伝えてある」
「そりゃ助かりますが……いいんですか?」
「身内の不手際を解決していただいたのです。この場にいるものだけの秘密とします」
よーしよーしいい感じ。この感じなら言いふらされることも無いだろう。
「流石になんのお礼もしないというのは私自身が納得いかん。ついでになにか欲しいものはないかな? 例えばシルフィとか」
「お父様!?」
「はっはっは、ご冗談を。俺にはもったいないですよ」
この程度想定していないとでも思ったか。さらっとすっとぼけてやる。
「むうぅ……」
シルフィがご不満の様子。我慢しなさい。ややこしくなるから。
「だが褒美という点はハンサムも賛成だ。ノアを守った礼だ。何が欲しい?」
「……ポセイドンはなにか持っているのか? 出せるものがあると?」
こいつは丸腰で鎧着ているイメージしかない。神って財産とかあるのか?
「武器も鎧も持っているだろう。ううむ、ハンサムさは分け与えられん。困るな」
「私は何もしていないから辞退するわ」
「わしもじゃな。ほぼなーんもしとらんのに礼は受け取れぬ」
「俺だけ貰うとなんかあれだろうが」
「一番の功労者なので問題無しよ。サカガミくんへの個人的なお礼だもの」
欲しいものと問われると困る。金はそれほど困っていない。武器と防具はある。
そもそも上級者用の高級武器なんて扱えないから無駄になる。
「一番欲しいのが魔法のレパートリーと交通手段だからなあ……学園からほぼ出ないもんで行ってない場所もあるし……才能とか? だめだ物じゃないな」
「ではフルムーン王国と、それに連なる場所や国への入国証ではどうかな?」
「そんなの必要でしたっけ?」
列車に乗ったらもう王都だったのでよくわからない。
「普通に立ち寄る分には列車券を買って、簡単な審査をすればいいわ」
「学園の生徒ならそれが証明にもなるから、ある程度は移動も快適だしねー」
「今回はこちらがお呼びしましたので、手続きは全て終わらせておきました」
「蔵書の多い大図書館や貴族御用達の、一般人では入ることを許されない場所へもある程度入れるものだ」
「……いいんですかそれ? ありがとうございます。ではそれを四人分で」
これはありがたい。ある程度予約もできるらしいので、温泉街でも探して行ってみよう。
「ちゃんと私達の分を入れてきたわね」
「そういうところで妙な優しさを見せるのはなんなのじゃ」
「……うっさい。俺だけじゃガイドがいないだろうが」
「姉様、これがアジュの萌えポイントです」
「なるほど、ちょっと理解したわ」
できればしないで欲しい。俺に萌えポイントとか気持ち悪いです。
「ポセイドンはどうするか……魔法は学園で教わっている……あ、そうだ。最近召喚獣を手に入れたんだけどさ。その召喚板と魔石が初心者用の安いやつなんだよ。一匹契約したらもう無理なやつ」
「ほほう、よかろう。海神の名にかけて、ハンサムな加護を魔石に込めてやる。もう半端無いぞ。上級者用でも足元にも及ばんやつをくれてやる。上級神の加護はえぐいからな」
「面白いじゃないか。さっそく城のものに言って、極上の召喚板と魔石を用意させよう」
なんか凄いものができそうだ。俺に扱えるものにしてくれよ。
「収納機能もつけてはどうじゃ? もうそれ一つで旅から戦闘まで全部できるハイパーなやつ。わしも協力してやるのじゃ」
あ、これ悪乗りしてんな。めっちゃやばいやつ完成しそう。
超強力な魔法でも絶対に傷つかないやつを作る計画が進んでいる。
「よろしければ私もご協力いたします。試してみたい新技術がありまして」
レイナさんはどうやら、ものづくりが好きなタイプらしい。
「手配完了いたしました」
いつの間にそんなことしたんですかミナさん。
「やはりミナがいると助かるな。同居しているシルフィが羨ましいよ」
ジェクトさんの太鼓判である。フルムーンが誇るパーフェクトメイドだな。
一日あれば楽勝で完成するらしいので、ちょっと協力しつつ観光することにした。
「滞在日数が一日延びたな」
「おぬし今日帰るつもりだったんかいな」
「理由もなくだらだら城にいたらだめだろ。俺達は一般人です」
「王族に仲間入りしてしまえばいいのさ!」
「胃に穴があきそうなんで遠慮します」
さて、飯食ったら観光だな。どこに行くか決めておこう。
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