アイドルの護衛が終わって日常へ戻る

 リフレッシュして数日後、シンフォニックフラワーの護衛に戻った俺達は、順調に仕事をこなしていた。今日はなんか防音室でネモフィラとローダンセが曲を聞かせてくれるらしい。ネモフィラはギターが弾けるようで、ローダンセはピアノだ。


「カエデなーんにも聞いてないんですけど」


「俺達も知らんぞ」


 両ギルドのメンバー全員いる。二人だけの新曲ということだろうか。


「今日はどうしてもアジュさんとリリアさんに、お礼も兼ねて新曲を披露したいと思いまして」


「この曲ができたのはお二人のおかげですよ」


 身に覚えがない。リリアもないようだ。


「私達は歌手。説明するより歌ったほうが伝わるでしょう」


「そんなわけでお届けします。聞いてください」


「かおすわんだふるわーるど」


 それはギターとピアノが繰り出す軽快なリズムであり、合いの手を入れるポイントがとてもわかりやすく、それでいて意味がわかるようなわからんような歌詞だ。つまりまあ、なんというかこれは。


「萌えアニメの電波ソング?」


「じゃな。OPでかかるやつじゃ」


 完全にアニメのあれである。聞きやすいしかわいくはある。二人の芸風に合っているかは知らないが、シンフォニックフラワーでやっても違和感はない。


「ありがとうございました」


 そして拍手が起こる。アイドルがやるにはいいんだよ。いいんだけど、どうしても深夜アニメとか知っている身としてはツッコミ入れたくなる。我慢したけどもさ。曲自体はみんな褒めていた。


「これは新しい風が入ってきましたわ!」


「いいですねえ! でもこれとお二人はどう関係してるんですか?」


「二人はタコの怪獣から守ってくれました。あの一件で混沌をエンタメにできると閃いたんです」


「あれかよ」


「あのカオスを極めたような空間で、とてつもないインスピレーションが湧いたのです。これぞまさに神のお告げ」


「完全に邪神やんけ」


 こっそりリリアに危険がないか聞いてみる。精神汚染とかはされていないらしい。歌が原因で復活したりもしないそうだ。ならまあいいか。


「聞いたことない雰囲気の曲だけど楽しかった!」


「そうね、ライブで盛り上がるならいいかもしれないわ」


 シルフィとイロハにも好感触だったようで、この世界でも好きな人はいる音楽なのだなあと思ったりした。次のライブではこれにダンスをつけて発表するらしい。


「振り付け考えますよー! では知ってそうなアジュさんとリリアさん!」


「俺!?」


「なんでそうなるんじゃい」


「さっきなんか知ってる雰囲気だったでしょー!」


 カエデはアホに見えて、こうやって何気ない会話とか仕草を覚えている。シラユリいわく、歌いながら客の反応とかを見る癖がついたようで、こいつマジでアイドルやっているんだなあと感じた。


「お二人の知っていることを教えて下さいな」


「んー……ダンスは複雑じゃなくてもいい。客と盛り上がるところは簡単で繰り返せて大振りじゃないやつだな」


「それはどうしてなのかしら?」


「うー、やーとか繰り返すとするじゃろ。わかりやすければ客が何も考えずに同じ動きで盛り上がれる。しかし大振りだと客同士でぶつかるのじゃ」


「似たような理由で、飛んだり跳ねたり腕を回すのもNGな。あくまで客と一緒にやるパートの話だが」


 正直ライブって行ったことないから詳しくない。基本的なことと、あとは声優ライブの配信見たくらいだが、基本はそう違わないはず。


「お客さんの動きを制御できるようなってこと?」


「そういうこと。アイドルの客に民度は求めるものじゃない。はじめから想定しておくべきだ」


「身も蓋もないわね……」


「学園の警備は強固であるが故に、我らの宴にて狂乱の度を超えたことはないが……新たなる盟友のために安全は確保すべきか」


「アルメリアの言う通りじゃな。まずはデビューライブを成功させることじゃ」


 こうして振り付けの研究が始まり、作業は順調に進んでいった。途中でファンの意見を聞きたくてイノとユミナを呼んでみたところ、イノが固まり、ユミナがゆっくりと倒れるというシーンもあったけど割愛。なんとか完成までこぎつけた。


「やりましたよおおぉぉ!!」


「みんなおつかれさま~飲み物とってきたわ」


「ありがとうございます」


 全員ぐったりしている。そりゃダンス開発って頭使いながら動きまくるからね。間違いなく俺には無理よ。


「おつかれさん。素人意見だが、かなりいい感じだったぞ」


「とても楽しかったわ」


「ありがとうございます。みなさんにもお世話になりました」


「そういう依頼だ。気にするな」


 あれから危険なこともなく、アイドルの練習見ているだけだった。依頼としてはかなり楽な部類なので、こっちは何も負担がない。素晴らしいね。


「ライブ、ぜひ見に来てください。最高のパフォーマンスをお見せいたします」


「それをもってお礼の締めくくりとしますねー」


「もちろんいくよ! 楽しみにしてるからね!」


「んじゃそこで護衛の締めくくりだな」


「はい、今までありがとうございました。全力で楽しませてみせます!」


 そしてライブ当日。なんとシンフォニックフラワーの順番は最後である。結構でかい会場なのに出世したなあ。などと誰目線なのかわからんことを舞台裏で考える。


「ううううー……やっぱりなんか緊張しますよー」


「大丈夫。ろーちゃんはちゃんとできる子」


 二人はシンフォニックフラワーとして初舞台だ。緊張もするだろう。ソロとは違う、既存の人気グループに入るプレッシャーとかそりゃあるよな。


「ネモちゃんは落ち着いてるねえ。怖くないの?」


「少し怖い。けど楽しい。歌うのは楽しいよ」


「同意できてしまう自分があれだなー」


「ソロでやってても限界だったかもしれない。新しい場所に来れたのはろーちゃんのおかげ」


「おかげっていうか巻き込まれたけど、まあこっちも感謝しておきますよ」


 そう言って笑い合う二人には、もう緊張はないようだ。


「ふっふっふー、もう二人はメンバーですからね!」


「みんなでカバーすればいいのですわ」


「さあ宴の幕があがるぞ!」


「全力で楽しみましょう~!」


 シンフォニックフラワーの紹介が終わり、四人がいつもの口上でポーズを取りはじめた。ここまではいつも通りだ。


「みんなー! 今日は新メンバーを紹介しちゃいまーす!!」


「うおおおおおおお!!」


 会場がどよめく。そしてライトが当たる中、二人が手を振りながら入ってくる。


「永遠に心に残る思い出をあなたに、神秘の歌姫ネモフィラと」


「あなたの初恋いただきます。明るく楽しく朗らかに、ローダンセでーす」


「それでは聞いてください! 新生シンフォニックフラワーで、かおすわんだふるわーるど!!」


 結論から言えば大成功で終わった。曲は受け入れられ、新メンバーも好評だ。もともと才能と努力を両立させている連中なので、違和感なく六人組としてやっていけるだろう。


「いいライブだったな」


「次も楽しみだね!」


 ライブも成功して挨拶も済ませた。ギルドカウンターで報酬を貰って完璧な仕事が完了した。色々あったがまあよし。終わりよければすべてよし。

 というわけで自分の魔法ラボまでやってきた。そろそろ研究もしていく時期だろうし、暇な時間は案外少なそうだからね。


「まーたアジュが遊んでくれなくなるよ」


「家に帰ってこなくなりそうね」


「交代で見張るのじゃ」


「そこまで熱中する気はない、はず。今日のところは魔法科の授業範囲だけだよ。研究と実験はまた今度だ」


 いきなり大規模なものをやるほどアホじゃない。基礎からしっかりやるつもりだ。道具は揃っているから、あとは素材だな。


「しゅるいがおおくてしんどそう」


「そらゼロから始めるならそうじゃろ」


「うううーむ、がんばるか」


「珍しくやる気出してるね」


「ラボがかっこいいからな」


 理由かっこわるい。素材は明日買い物ですませるとして、晩飯どうするかな。


「なんか買ったっけ?」


「軽く食べられる量はあるはずよ」


「今出かけるとトラブルにあう気がする」


 もう今日っていうかしばらく平穏な日々でお願いします。


「そう言うと思って出前頼んでおいたのじゃ」


「ナイスだ」


「さすがリリア!」


「ありがとう。それじゃあみんなで食べて泊まる準備をしましょうか」


「四人泊まるのはきついと思うがねえ……」


 こうして無事に日常に戻るのであった。

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