リリアと飯食って猫カフェに行く

 まったく意味のわからない展開を終えて、色々と事情聴取されて夜までかかった。そして学園は休校となりましたとさ。なので朝からベッドでごろごろするのだ。


「うあー……起きちまった……」


「寝るにも微妙な時間じゃのう」


 リリアと一緒に大の字になって寝る。もうすぐ昼だが少し早い。こういう時にすぐ眠れないのは、昨日の敵がなんとなく思い浮かんでくるからだろうか。


「なーんもやる気せんのじゃ」


 ころころと転がって俺にくっついてきた。暇なので雑に撫でる。そしてほっぺたをむにむにしてやるぜ。


「にゅわー……なんじゃ?」


「お前がたまにやるからお返しだ」


「小癪な……むにむにマスターには程遠いのじゃ」


 俺のほっぺたをむにむにしてくる。痛みとかないし、マジで顔のマッサージになっている説。全行動に意味をつけようと思えばできるだろうし、なら俺は無意味にやっていこう。


「マスターしなくてもできることはあるんだよ。うらうらー」


 アゴの下あたりを撫でてやる。こいつ触り心地悪い場所ないな。


「にゅふふ」


 しばらく撫でると、どういうわけか俺の頭を撫でてくる。嫌な気分じゃない。ちゃんと安らぐように動いてくれているようだ。


「飽きた」


「こやつまじで……」


「斬新なことねえかな。たかいたかーい」


 リリアを持ち上げてみる。軽いな。これでどうやって成人男性に力で勝っているのだろう。不思議なやつだ。


「わーい、とか言うと思ったか。くすぐりの刑じゃ」


「俺にはそんな効かないんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ」


「こ、こんなことが許されてよいのか」


「人生の悲哀をかんじますねっと、完全に眠気消えたぞこの野郎」


「もうすぐお昼じゃ。ちょうどよいじゃろ。何か食べに行くのじゃ」


 昼飯はない。シルフィとイロハは自分の陣営と神々との話し合いだ。

 俺とリリアだけ暇。リリアはヒメノ陣営と昨日話し合っているし、俺を野放しにしないという名目がある。


「店はやっているんだよな?」


「うむ、休校になっただけじゃ」


 学園の運営を即日完全に止めるのは不可能だ。なので生徒だけ休みにして、学園側で安否確認を行っている。神々と先生は学園中を探索しているらしい。


「じゃあ腹減ったし外食するか」


「油そばとスタミナ丼どっちがよい?」


「んー……昨日なに食ったっけな……」


「油そばは餃子付きじゃ」


「んじゃそっち行こうぜ」


 そんなわけで二人して静かな道を歩く。この辺は学生が多いので、自宅にいるか検査を受けているのだろう。俺達は色々と例外なのだ。


「静かでいいな」


「うむ、無人に近いのは新鮮じゃな」


「またあの空間にいるんじゃないかと思っちまうな」


「あれはそう何度も起きるものではないじゃろ」


 あの気色悪い空間は鎧があっても見たいものじゃない。生物が嫌悪する要素がふんだんに盛り込まれてお出しされていた。美的センスを疑うわ。


「だといいが……学園って治安悪くないはずだが」


「もっと平和なんじゃが、色々起きすぎたのう。とりあえずおぬしのせいではないのじゃよ」


「主人公補正とやらじゃないのか?」


「それはおぬしを世界になじませたり、無理やり理屈をつけたり、ピンチを打開できるよう世界を捻じ曲げたりするものじゃ。望まぬ邪神など呼び込まぬよ」


 どうやら杞憂らしいな。面倒事が普通にあるんだから、結局悩みの種は消えない気もするが、今は昼飯のことだけ考えるか。


「あの店じゃな」


 新装開店したばかりなのか、綺麗で客の入りもいい。うまそうな匂いじゃないか。運良く並ばずに入れたので、二人で油そばと餃子を食う。


「おぉ、いけるな」


「うまいのう。濃いめじゃがしつこくない」


 チャーシューとネギに肉そぼろっぽいものが入っている。そこに半熟の味玉が乗って完成らしい。かなり好みの具材だ。


「味変しなくても十分食い切れそうだが……ここはシンプルにタレと、ラー油いってみるかな」


「わしは酢と辛い赤いやつ入れてみるのじゃ」


 こうして楽しくうまいものを食う。変な戦闘と護衛のストレスを消していこう。そこでふと思い出した。


「しれこだ」


「なんじゃ急に」


「昨日のタコ怪獣だよ。あいつしれこにくっついて目覚めたあれ。あの化け物に似ているんだ。雰囲気というか、同じジャンルな気がする」


「ほほう、どっちが強かった?」


「しれこ。圧倒的にあっちが上。ラスボスってもしかしてあいつだったのか?」


 完全に勘だが、あれがラスボスなら強さに納得がいく。異常なまでに理不尽を押し付けてくる。鎧で全部無効にしていなければ、きっと苦戦する部類なんだろう。


「可能性は高いのう。ボスが消滅しているのはよいことじゃ」


「あれより強いやつがいないと助かるな」


 残党もオルインにいるのが少数なら神が倒してくれる。今の俺達は普通の学生なので、食事してふらふらするのみ。ちなみに餃子は口の中がさっぱりするスープに入った水餃子だった。油そばの後だからありがたい。


「満足いく飯屋だったな」


「うむ、また来るのじゃ」


「さて暇だが……帰って寝るのもなんかなあ」


「行動のパターンを増やすのじゃ。猫カフェか犬カフェじゃな」


「いいな。動物は癒やされるぞ」


 この近くにあったはずだ。癒やされよう。それはもう切実に癒やされよう。戦闘が多すぎます。まだ二年になったばっかりだぞ。

 犬カフェは遠いので猫カフェへ。前に来たことがある店だ。


「昼は人が少ないな」


「チャンスじゃと思ったが、猫ちゃんが寝ておるのう」


 店内はあまり人がいない。今日は仕方ないのだろうし、多く猫と触れ合えると思ったが、そういや猫って昼間寝ているよな。


「にゃー」


 白くてふわふわした猫がリリアの足にすりすりしている。リリアが優しく撫でると、そのまま手に顔を擦り付けていた。


「よしよし、お出迎えできて偉いのじゃ」


「いいな懐かれて。ほれ、怖くないぞー」


 近くで俺を見ている黒猫に、そーっと下から指の匂いをかがせる。くんくんしている間は動かないでおこう。かぐのが終わったみたいだし、指で軽く撫でてみよう。


「避けられた……」


 結構よくあることだ。猫は臆病で警戒心が強い。大抵はこうなる。嫌がったらその子には無理に触らない。次の起きている猫を探す。寝ているやつはむやみに触らないようにして、灰色の猫に近い座椅子に座る。ふかふかで寄りかかるとリラックスできるいい椅子だ。


「ほらおいで。怖くないぞ」


 手を伸ばして指をかがせる所までは同じ。根気よくいこう。かぎ終わってもこちらを見ている。興味を持っているのだろう。ならばあぐらをかいて動かないようにする。速く動くものは苦手なはずだ。


「よしよし、おいで」


 ゆっくりとこっちに歩いてくる。そしてギリギリ手が届かない位置で座った。香箱座りというやつだ。もう少しだな。


「やっておるのう」


 リリアが横の座椅子に来る。既に二匹猫がくっついている。ずるい。膝の上と足元でくつろぐ猫たち。リリアちょっとそこ代われや。


「もっと穏やかな気持ちで接するのじゃ。緊張してはいかんぞ」


「そのつもりなんだけどな。おっ、来た来た」


 俺達の匂いに慣れたのか、足をかいでいる。俺の横まで来て座った。よし、これならいけるかも。


「よーし撫でるぞー」


 そーっとそーっと背中を撫でる。いきなり頭にいってはいけない。よし、受け入れている。調子に乗らずに慎重にいこう。毛並みがふさふさで綺麗だねえ。


「おっと、悪い悪い」


 背中から首に移動し、いよいよ頭を撫でようとしたら振り返った。噛まれないように手を引っ込める。


「うーむ、むずいな」


「今のは撫でろということじゃろ」


「えぇ……」


「手に頭を近づけたんじゃよ。にゃー?」


「にゃー」


 自分のところに来た猫と意思疎通ができていて大変羨ましい。

 リリアの言うことを信じて再チャレンジ。背中から首の近くへ撫でる位置を変えると、頭に近づけた時点で顔を寄せてくる。慎重に頭に手を乗せた。


「おぉ、乗った。よしよし」


 本当に頭を撫でろという動きだったらしい。できる限り優しく撫でてあげる。


「ははは、舌が出っぱなしだぞ」


「リラックスしておるのじゃな」


 俺の足に寄りかかって寝ている。くつろいでくれているのは嬉しい。あぐらの上には乗ってくれないけど、これはこれでいい。

 店員さんに頼んでおいたおやつが来た。鳥のささみを細かくしたものかな。木のスプーンであげていこう。


「ほれおやつだぞー。食うか?」


 眠そうにしていたのにすぐ食べた。


「順番じゃぞ。割り込む子にはあげないからのう」


 リリアに四匹群がっている。順番におやつをあげているようだが、なんでそんなに来てくれるのさ。マジでずるいぞ。二匹くらい俺に来い。


「おっと、落ち着け。ちゃんとやるから」


 俺の横にいたやつがもっとくれと膝に乗った。現金なやつめ。さらにあげるとスプーンを持つ手に手を乗せてきた。まだ食ってるんだから戻すなという強い意思を感じる。


「ちからがつよい」


「がっちり固定されておるのう」


 もう一匹茶色の子が来たのでそっちにもあげる。意外にもケンカしない。交互にあげるということを理解しているのだろうか。かわいい。


「悪いな、もうおやつおしまいだ」


「こっちもなくなったのじゃ。みんないっぱい食べて偉いのう」


 おやつがなくなっても、最初の子は膝の上で寝てくれた。いいぞ、動物に懐かれると心が和む。寝顔かわいい。もう一匹も俺の足元で寝ている。


「みんな毛並み綺麗だな」


「ちゃんと手入れされておるのう」


「撫でたい。けど起こしそう」


「軽く手をおいてみるのじゃよ。こんな風に」


 リリアの真似をして手を置いてみる。抵抗はない。そして温かい。横向きに寝ているので、相当信頼してくれているようだ。かわいいな。


「いい気分転換になったじゃろ」


「ああ、こういうところは気持ちが落ち着いていい。助かったよ」


 こうして猫カフェを満喫してリフレッシュした。休校も終わるだろうし、護衛と魔法科頑張ろうと思った。猫がもたらすプラス思考すごいな。

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