第197話 ご先祖様公認になりました

「そんなわけで九尾を倒してリリアを助けました」


 かいつまんで九尾討伐を説明。

 鍵について知っているようなので、リリアキーについても話す。


「そう、小さい頃に考えたヒーローに……素敵です」


「うむ、関心だな。よくぞリリアを守ってくれた。因縁を一つ解決してもらったのだ、この太陽神ラー……感謝感激である! いやいやあっぱれ!」


「一族の悲願でしたものねえ。わたくしも肩の荷が下りましたわ」


「うむうむ、わしの目に狂いはなかったのじゃ」


 なんとか美味いことまとまったな。

 無事に終わりそうだ。かーなーり緊張したぜ。


「そういうことだったんだね」


「大変だったわねリリア」


 シルイロコンビも祝福である。三人共仲が良くてなによりですよ。


「それだけのイベントだ。無論進展はあったんだろう?」


「進展? 九尾は倒し切りましたよ。二度と復活しません」


「いいえ、男女の仲の進展ですよ」


「そっちですか!?」


「一応その日の夜に一回キスしてそれっきりじゃな」


「言うなや!? お前めっちゃ気まずいだろ!」


「まあ仕方がないわね。それはしても許されるわよ」


「むしろリリアにしたことで解禁したし」


 その解禁システムに同意した覚えがないです。

 まあ誰か一人にってのは不公平だし、別にいいけどさ。


「……この状況でそれ言うか?」


「いやいや結構。それもオルインに呼んだ目的だ。生涯のパートナーとして、これからもリリアを頼んだよ」


「まあ嫌われない限りは一緒にいますよ……ってそこまで知っているんですね」


「まあね。達人が生まれることは世界を救うということだ」


「そのへん全然わからないんですが」


 いい機会だ。ここでちょっとだけ聞いておこう。


「主人公補正については聞いていますか?」


「ええまあ。最強の能力ですよね。勇者科の力と似ている気がします」


「この世界をフルに活用し、養殖と天然物のいいとこ取りで主人公を増やそうというのが、この世界の裏テーマですよ」


 物凄い優しい笑顔でぶっちゃけられた。

 なんだよ裏テーマって。表はなんだとか気になるだろ。


「学園はそのためにある。世界をより平和に発展させていくという思惑もあるがね」


「それはどこまで誰が知っているとか……」


「葛ノ葉のように特殊な人間と一部の神々だね。王族には少数だが知っているものもいる。この世界で大国による戦争が極端に少ないのはそのためさ」


「戦争などして貴重な戦力や達人を減らす意味が無いのじゃ」


 なんというか、それで国って動くものなのか。

 謎だ。そこまでしてなにに備えているんだ。


「これ以上は長くなりますし、ここはリリアと末永くお幸せに、ということではいけませんか?」


「返答に困ります」


「わたし達が入っていけない空気だ……」


「これは不利ね……」


「わしらは三人でアジュを攻略中の身。全ては四人で一緒じゃ」


「ありがとうリリア。三人でがんばろうね!」


「精一杯アジュを振り向かせるために団結しましょう」


 結束が強くなっている。本来いいことなんだけど、俺は何をされるのかちょい怖いぞ。穏便にな。


「仲が良くて素敵です。四人でお幸せに」


「はい!」


 三人がめっちゃ元気にお返事しました。

 ハーレム肯定派らしい。これはやばい。強烈に外堀が埋まっていく。

 卑弥呼さんの感覚もちょっとおかしいぞ。


「そこにわたくしが入っても?」


「それは却下だ」


「なぜですの!?」


「お前が一番理解できん。しょっぱなから好意マックスだったろ。意味がわからん。怖い。なんだよなにを狙って奇行に走ってんだよ」


「奇行扱いですの!?」


「アマテラスの奇行は昔からだ。億年単位で改善できていない」


「絶望的ですね」


「あんまりですわ! これはアジュ様に慰めてもらうしか……」


「それを奇行だっつってんだよ」


 こいつはもう手遅れだ。なんとかにつける薬なし。

 俺は好意の理由がわからない相手は嫌い。不気味なんだよ。


「ではリリアのどこが好きになったか……いや、三人のどこが好きか。そろそろ聞いていこうか」


 ラーさんが悪い顔だ。明るくていい人かと思えば……やっぱ神様ってのはろくでもないな。


「ではお茶菓子とお菓子をもっと用意しますね」


「手伝いますよ。ついでに俺はちょっとトイレへ」


 卑弥呼さんと一緒に出る作戦だ。流石に戻ってくるまでなにも起きないだろう。


「逃げおったな」


「どうせ戻ってくるのよ。待ちましょう」


「そうだね、ちゃんと考えてねアジュ」


 いかん。この世界に逃げ場がない。

 卑弥呼さんと一緒に部屋を出て歩く。今のうちに打開策を考えよう。


「大変ですね」


「ええまあ……いつものことです」


 お茶をいれる手伝いをし、お茶菓子を見繕う。

 せんべいがあったので確保。皿に盛って完成。


「それは楽しそうですね」


「そうですか?」


「ええ、リリアがとっても楽しそうで安心しました。アマテラスちゃんから、案内人としてアジュさんを連れてくると聞きまして。どんな人なんだろうと楽しみにしていたんですよ」


 リリアのことを大切に思っているのだろう。

 それは九尾という枷を付けてしまったことへの負い目もあるのかもしれないな。


「案内人って、具体的にどういうことなんですか?」


「この世界に訪れる資格のある人間を、数百年から千年に一度だけ選ぶことができるものです。その人がいなくなっても問題ないように、五十年以内に消滅する世界から、英雄や天才が選ばれるものなんですよ」


「英雄でも天才でもありませんよ」


「ええ、ですがリリアはあなたを選んだ。鎧と剣と鍵を渡し、この世界に入ることができるよう、存在をこちらの世界に移し替えた。それほどまでにアジュさんを想っていたのでしょうね」


「そりゃありがたい」


 俺の生活は全てリリアのおかげだ。異世界でのんびり好きなことをして生きる。

 なんと充実したことか。今後何があろうが、この生活と三人だけは守っていこう。

 それだけは俺の命題としていい。あいつらと楽しく生きる。邪魔者は斬る。


「あの子には、まだ困難が立ちはだかるやもしれません。リリアをお願いしますね」


「俺が生きている限り守り続けます」


 宣言してトイレに行く。場所はもう聞いた。

 そして厨房へ戻ると『先に運んでおきます。ゆっくり考えてくださいね』と書き置きがあった。


「至れり尽くせりってやつだな。これで問題は……」


 そこでぐるりと周囲を見回す。長く広い廊下と、無数にある襖。


「あいつらのいる場所がわからないってことだけだ」


 はい迷いました。広すぎるわこんなん。


「目印とかあったはず。思い出せ。庭が見える位置だったはず」


 中庭が見えて、ちょっと豪華な襖で、上に赤い札みたいなものが。


「あった。ここか……悪い、遅れた。ちょっと道に迷って……」


 なぜか裸の女がいた。正確には着替え中の女だ。

 なんだ同居人がいたのか。また面倒なところにでくわしたな。


「悪い」


 謝罪をして襖を閉める。


「きゃああああぁぁぁ!?」


 ああもう面倒なことになったな。女の悲鳴を聞いて、他の連中が駆け寄ってきた。


「どうしたの?」


「ああ、なんでもない。ちょっと着替えに遭遇しただけだ」


「着替え?」


「中に着替えている女がいた」


「あ、アルヴィトちゃんね」


 卑弥呼さんは思い当たる節があるらしい。

 みんなが来たので、帰り道に迷うことはなくなったな。怪我の功名というやつだ。


「ちょっと待ちなさいよ! なにさらっと逃げてるわけ!」


 服を着て出てきた女。なんで巫女服だ。

 鮮やかなオレンジ色の髪で、本来背中まであるだろう髪を二つに縛っている。

 目が赤いのは怒っているからではないだろう。


「あいつがいた」


「それは災難じゃったな」


「まったくだよ」


「あんたが言うな!」


 なんかご立腹である。着替えを見られたんだから、まあしょうがないか。


「アジュ様をお迎えに行くべきでしたわね。今回は不幸な事故ですわアルヴィトちゃん」


「そういうわけだ。悪かったな」


「なんでその男を信じるんですか! こっちは覗かれたんですよ!」


 アルヴィトの肩にそっと手を置くシルフィ。

 その眼差しはどこまでも優しく、なにかを諦めたようであった。


「アジュはね、自分に好意がある女の子が着替えていても、一切覗こうとなんてしない人なんだよ」


「そんなアジュが見知らぬ女の着替えを覗こうなんて……絶対にありえないわ」


「安心なさいアルヴィトちゃん。アジュ様は性的な目で貴女を見たりはしていませんわ」


「どうせうっわ……面倒な場面に出くわしたな、うっぜえ……とか思っているだけじゃよ。一ミリも興奮なんぞしておらん」


「それはそれで傷つくわね……」


 理解がある仲間でなによりだ。ここで揉めると本当にうざい。


「ラッキースケベはスケベな男以外には、なんの価値もないと理解して欲しい。少なくとも、やましい気持ちはないぞ」


「なんなの……この状況はなんなの……?」


 困惑しているアルヴィトとやら。これはうまいこと解決しそうだな。


「偶然覗いてしまったのでしょう。それならば同居人がいることを教えず、初めてのお客様にちゃんと場所を教えなかった私にも責任があります」


「そんな、卑弥呼様に責任なんて」


「悪かったよ。誰かいるとは思わなかった」


 再度謝る。まあこんなもんでいいだろう。故意ではないことは伝わっただろう。


「卑弥呼様に言われたら引き下がるしかないわね……まあ許してあげるわ」


「助かる」


「あれ? アルヴィトさんって……もしかしていいヴァルキリーの?」


「そういえば聞いたことがあるわね」


 そこで気付く。以前ヴァルキリーに一番強いやつがいると聞いた。

 そいつの名はアルヴィト。


「そうよ。あたしがヴァルキリーの頂点、アルヴィトよ!」


 薄い胸を張って偉そうにしている。またなんとも意外なところで出会ったもんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る