遠距離攻撃と裸パーカー
腹一杯になって探索を続ける俺達四人。
入ると出入り口に結界が張られ、魔物が召喚される部屋を超え。
壁から槍の代わりに水風船が飛び出してくる部屋では、俺の服と顔にだけ見事に風船がぶち当たり、リングの数字が一気に半分まで減ったことに慌てたりしながら三階までやって来た。
「結構体力使うぞこれ」
「本物はもっと疲れるのじゃ」
「でも森でバテバテだったころから進歩しているわよ」
「レベルが上がればこんなもんさ。しっかしこの階も同じ作りか」
「相変わらず学校の中じゃのう。感覚が狂うのじゃ」
「三階はマップあるよ。って言っても一本道だけど」
貰ったマップを見る。確かに一本道でその先に大きな部屋がある。
そしてまた一本道の先に大きな部屋だ。これが外周からぐるっと中心まで続く。
「ご丁寧に大部屋はギルドごとにモンスターハウスに挑戦してもらいますって書いてあるぞ」
結界のせいで敵を全滅させるかギブアップするしかない。それが三つか。ハードだな。
「今のアジュならいけると思うよ?」
「そろそろチーム戦の練習しようぜ」
二階はほぼ俺が戦っていた。いや俺の修行なんだからいいんだけどさ。結構戦えたし。
でも連携プレーとか合体技とか憧れるじゃん。
異世界来といて憧れない男子とかいるのかよ。
「では遠距離攻撃の手段を教えるから、二個目をイロハ、三個目をシルフィが担当するというのはどうじゃ」
「おおー面白そう! わたしやるー!」
「うまく協力出来たらご褒美が欲しいわ」
「うちのギルドはお金に余裕がありません」
普通に暮らす分には平気だけどな。それ以上はキツイ。贅沢は敵だ。
とりあえず扉の前にできている列に並ぶ。俺達の前に二組いるな。
「別に金品が欲しい訳じゃないわ。興味もないし」
「だね。貰っても困っちゃうよ」
「んじゃ何がいいんだよ? 女が欲しいものとかわからないから具体的に頼む」
「別に身体で払ってくれても構わないわ」
「却下で。飯かなんかでいいだろ」
俺達の番が来たので強制的にこの話は止まる。
部屋の中は体育館の床と壁をイメージすればいい。あんな感じだ。
「どこまでも学校だなこりゃ」
全員入ると結界が張られる。遠くの魔法陣から現れたのはでかい鳥だ。カラスに近い。
全部で二十匹くらいいる。魔法陣が消えると襲ってくるから準備するなら今のうちだ。
「ふむ、空中戦か……わしが新しい鍵の使い方を教えてやるのじゃ」
今回は俺一人だ。リリアとイロハとシルフィは後ろに控えている。
「頼む。なにか気をつける点はあるか?」
「キーの使い方次第じゃ。ショットキーでよい」
「ショットキーね」
『ショット』
右手に光が集う。なんかモヤモヤしてるけど、形が定まらない。
「好きな銃でもイメージすると良い。形はその時で変更できるのじゃ」
好きな銃ねえ。あんまり詳しくないんだよな。かっこよさでリボルバーあたりにするか。
「お、出てきたな。悪くないぞ」
白くて装飾の入ったリボルバーだ。見た目重視だな。
マグナムとかそういう名前付きそう。
「反動とか無いから気にせず引き金を引くのじゃ。引くときは魔力を打ち出すイメージじゃ」
カラスの魔法陣が消える。一斉に飛び上がる烏の群れ。
「うっし、ガンシューは苦手じゃないぜ」
ゲーセンでよくやってたからな。ゾンビが大量に襲ってくるやつとか。
引き金を引く。本当に反動がない。光る弾丸が打ち出されて敵に当たる。
カラスの上半身をふっ飛ばしてしまうほど威力が高い。
「おおー何あれ、かっこいいじゃん! がんばれー!」
シルフィが応援してくれるし頑張ろう。
「突っ込んでくるのじゃ。近づいてきたやつから落とせば良い」
「わかってるさ。連射できるってのは便利でいいやなっと!」
上空から突っ込んでくるカラス群をガンガン連射して撃ち落とす。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……これでななつ!」
このカウントするのやってみたかったんだよ。アニメとか見てプチ憧れだった。
「おおっと!」
撃ち漏らし、接近を許した敵が飛んで来る。
横っ飛びで回避して狙いを定めるが、すぐに他の敵が来る。
「銃の形を変えれば良い。できる範囲で変わるはずじゃ」
前方から三体来ている。一気に吹っ飛ばすイメージでマグナムをショットガンに変える。
「うっし、これでどうだ!!」
両手で構えて連射する。魔力の散弾が雨のように撃ち出され、前方の敵を穴だらけにする。
「よっしゃあと三体!!」
動き回る鳥相手にライフルは無理。マシンガンよりはショットガンでいい。
後変化させるとしたらなんだ?
「レーザーだ! レーザー出したい!!」
魔力弾を撃っている。実弾じゃないなら点じゃなく線で撃ち出せてもいいはず。
銃を右手首までを包む筒に変える。
ゆっくり魔力を込めて威力を高めると先端が光り輝く。
「いけええぇぇ!!」
発射されたビームが鳥を焼きつくす。
「よーし成功だ。やればできるんだぜ!」
ショットキーを解除する。同時に部屋の結界も解除されたみたいだ。
「いいないいなー。わたしもそれ撃ちたい!」
「無茶言わないの。相変わらずでたらめな力ね」
「キーは使い方次第で化ける。大事なのは発想力じゃ」
「みたいだな。こりゃ面白いぜ」
連れ立って大部屋を出る。
「次は私の番ね。大丈夫、うまくやるわ」
「期待してる。前衛と後衛どうする?」
「貴方が好きな方でいいわ。どちらでも合わせてみせるから」
「そりゃ助かるな」
かるーく打ち合わせ。フェンリルの力は完全に取り込んだらしいので、使ってもデメリットはないとのこと。
「貴方も鎧を使っていいわよ」
「目立たないか? ローブ持ってきてないぞ」
「部屋の中で解除すればバレんじゃろ」
「そうだね。わたしもどっちでもいいよー」
鍵に慣れることも必要だな。さて、どうするか。
列に並んでいるうちに決めよう。順番待ちはあと三組だ。
一組増えてるってことは俺達が早かったのか、次が厳しいのかどっちだろうな。
「それじゃあダメよ。念には念を入れましょう。私のパーカーを貸すわ」
「いやそれはちょっと。ほらサイズ合わないかも」
イロハのパーカーはちょい大きめだし、着れば制服より隠せるかもしれない。とか思ったがやめよう。サイズが合わないと言っておこう。女の子の着てたやつとかハードル高いし。
「制服を脱げばいいのよ。ダメなら肌着も脱いで。上半身裸でパーカーを着なさい」
「ただの変態じゃねえか!?」
「大丈夫よ、変態呼ばわりされても私は嫌いにならないわ」
「変態呼ばわりがイヤです」
「じゃあ自宅でいいから私のパーカーを素肌に着なさい」
「なんのために!?」
さてはこれ鎧隠すのが目的じゃないな?
「わたしもそれだけで嫌いにはならないよ」
「むしろ爆笑じゃな。ちょっと見たいのじゃ」
「さあ、私の匂いに包まれたパーカーを素肌に着るのよ。同じにおいフェチの同士じゃない」
「変態度たっけえなおい!? お前そういうプレイがしたいだけだろ! 同士でもない!!」
「人がいるところでプレイとか言わないの。さ、後二組よ。グズグズしない」
なんか着ないとダメっぽい。アイドルが生着替えするカーテンみたいなんをリリアが出してくる。なに余計なことしてるんだよ。
仕方ないので着替える。うわあ女の子の服っていい匂いするわあ……ダメだすごい言葉に出来ない気持ちになるわこれ。
「すぅ……大丈夫よ……ふう……似合っているわ。元々パーカーは男女ともに着用できる優れたものよ」
「とりあえず俺の服の臭いを嗅ぐのをやめろ!」
「そうだよ! せめて上着くらいわたしにくれてもいいじゃん!」
「そういう問題じゃねえよ!!」
服の臭いを嗅ぐな。頼むから。ってかシルフィはにおいフェチじゃないだろ。
リリアはこの状況が面白いのか笑いっぱなしだ。
「両方イロハが持ってるのはズルいと思います! 片方わたしが持っててもいいじゃん!」
「絶対に渡さないわ。絶対に!」
「なんでそんな頑ななんだよ!!」
「ふひゃひゃひゃひゃ!!」
リリアがもう大爆笑している。騒ぎ過ぎたのか前後の順番待ちギルドの人達がこっち見てなんか言ってるな。うるさくしたらだめだよな。皆さんの声を聞いてみよう。
「おい、なんだあのギルド……やべえぞ……」
「素肌にパーカーって変態だな……でも女の子三人共すげえ可愛いな。あんな可愛い子が学園にいたとは不覚……」
「あのパッとしない男に惚れてるんじゃないかしら?」
「なんであんな男に……さっき四人のギルドだって言ってたわよ」
「マジかよ……変態男のハーレムか……なにやったんだよあいつ」
「いやね、弱味でも握られてるのかしら」
俺が変態扱いされてる!? やべえどうする? 見ず知らずの人に変態じゃないと話しかけるコミュ力はない。うわあやべえ……変態男のハーレムギルドとして知られてしまう……なんでこうなった。
とりあえず俺にできることは早く順番が来て欲しいと願うことと、どうか噂になりませんようにと願うことだけだった。
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