ダンジョンの罠と戦闘

 ダンジョン科のお手製迷宮をクリアして単位をゲットするべく、俺達はその一歩を踏み出した。

 ドーム型の建物の中央にそびえ立つ塔。こいつの五階が目標だ。


「リングはつけましたね? ではジョークジョーカーの四名様いってらっしゃいませー!」


 なぜかメイド服を着ている受付の女の子に見送られて塔に入る俺達。


「今の女の子角あったな。あのグルグルしたのは……羊の角か?」


「女の子ばっかり見ないの! もう……ちゃんとルールわかってる?」


「わかってる。気をつけるよ」


 簡単にまとめると。

 ・みんなが着けている腕輪は生命力を感知・数値化するもので、初心者の数値がゼロになるとアウト。

 ・即死という設定のトラップにモロに引っかかるとアウト。

 ・生徒同士の妨害や戦闘行為は原則禁止。魔物関係のトラブルの時は共闘の許可が出る。

 この辺に気をつけよう。そう誓って入ると意外な光景だった。


「なんだこれ……学校の廊下?」


「学校の廊下だねー。あっちに見える部屋とか教室の中っぽいよ」


「中々面白い趣向じゃな」


「そうね、こういうのも擬似ダンジョンの楽しみの一つよ」


 完全に学校だよ。学校の中がダンジョン化したって設定なのかね。


「いいじゃないか。そういう日常が非日常になんの大好きだわ」


「中二心にググッとくるのう」


「いいねー。なんかドキドキするねー」


「もう……何処に罠があるかわからないのよ? 油断しないで」


 イロハに注意されて我に返る。そっか、罠とかあるんだよな。

 廊下は四人で並んでも楽勝で通れる広さだ。天井まで三メートルくらいだな。


「悪い悪い。しかし罠ね……こんな広い廊下で罠か。落とし穴でもあるのかね」


「あるわよ」


「えっ」


「落とし穴あるわ」


 イロハが前方に苦無をカカッと突き刺すとバカンと開く落とし穴。

 深さ二メートルくらいだな。


「うわ、あっぶねえ。助かった」


「やっぱり忍者いないとダメかー」


「帰ったら撫でなさい」


「ふむ、横を通れそうじゃな」


 落とし穴は中央にある。横に一メートルくらい道が残ってるので普通に通れるな。


「100%詰む状況はないわ。落ち着いて対処すればいいだけよ」


「そうだな。俺の訓練だもんな。俺が気をつけないと」


 みんなで落とし穴の横を通る。右側に俺とリリア。左側にシルフィとイロハ。

 ジャンプで渡れる距離じゃないので横を通る。たぶん左組は飛べるけど。

 途中でガコっと音がして正面と背後の壁が開く。現れたのは土で作られた棒人間みたいな何か。


「おいちょっと待てまさか敵かあれ」


『ソード』


 とりあえずソードキーは使っておく。

 四角と丸の粘土細工みたいな敵だ。頭と両肩、肘、膝が丸い。

 それ以外が角材みたいにカットされた土で作られている。


「簡単に作れる訓練用の敵ね」


 ゴーレムとは違うんだろうか。こっちに向かってくる。


「飛び道具とかはないから適当に戦えばいいわ。剣も使えばリーチで勝てるはずよ」


「ザコだから大丈夫。こんなふうにザックリ斬ればいけるよ」


 正面からくる敵をあっさり倒すシルフィ。背後の敵はリリアとイロハによって倒されている。


「よっし、そこそこできるところを見せてやるさ」


 それなりに体力ついたしかもしれないし。なせばなる!


「ヒントじゃ。その剣はめっちゃ切れ味がよい。最高じゃ。その剣と同等のものは全世界に一本あれば奇跡じゃ」


 つまり土くらい楽勝なわけか。一歩前に出る。土人形が腕をこっちに伸ばしてくる。

 攻撃のつもりなんだろう。下がりながら剣を横薙ぎに振る。

 伸ばされた敵の右腕が切断され、落とし穴に落ちた。


「よし、これで右腕は使えないな!」


「蹴りも来るから気をつけてね!」


 なら先手取ろうじゃないか。少し屈んで敵の両足を狙って斬りつける。

 すっぱり切れた人形はジタバタするだけだ。


「よっこいしょっと」


 胴体に剣を突き刺すと、崩れて土くれに変わる。

 こいつら動きがトロい。完全に初心者用だ。


「残りもいくか!」


 残党が迫って来るが、奴等が腕を突き出すより俺の剣が早い。

 二体目の胴体をぶった斬り、三体目の頭に剣を突き刺す。

 思った以上に素早く動けている。


「いいねいいね。強くなってるよアジュ。かっこいいじゃん!」


「そうね。最初より戦い慣れしているわ」


「そういう時期が一番危険じゃ。慢心するとポックリ逝くから気をつけるのじゃ」


「わかってるさ。せっかく仲間ができたんだ、こんなところで手放さない。一緒にいられるように頑張るさ」


 俺に仲間ができて同居するなんて思っていなかったからな。

 新鮮で、もっとこの状況を続けてみたい。


「……アジュの恥ずかしさの基準がわからないわ」


「自分がなにを言っているのかちーっともわかっとらんのじゃ」


「つまり無理に言わせるんじゃなく、それとなく誘導すれば言質が取れるってこと?」


 なんか三人が会議に入っている。

 内容はよくわからないけど褒められてはいないだろう。


「俺なんかミスったか?」


「ううん、全然だよ! 全然だから先に進もう!」


「そうね、強くなっているって話してたのよ。先を急ぎましょう」


 たったか先に進む三人。離れるわけにもいかないし俺も後を追う。

 そこから先はスケルトンを倒したり、カラーボールの飛んでくる罠なんかを突破して二階に上がる。


「はーいお疲れ様でーす!」


 階段を上がった先にまたメイド服を着た女の子がいる。

 今度は耳が尖っているから多分エルフだ。


「こちらは二階のチェックポイントです。この部屋に結界が張ってありますので安全ですよー」


 チェックポイントというものを体験させるために、二階に上がった直後にあるとのこと。


「はい、ギルド証確認完了でーす! 出店もありますからぜひぜひ寄って行ってくださいね!」


 周囲には木製の長テーブルと長椅子がある。高級なものではなく屋台の椅子だ。


「五階までの屋台はですね。全部合わせて一週間で二百食売ると私達に単位が入るんですよー! ぜひ! ぜひ寄って行って下さい! 味は保証しますから!」


 調理科のクエストらしい。俺達に単位が入るわけじゃないけど安いならまあいいか。


「これはお昼ご飯を屋台で食べるという約束も達成できそうじゃな」


「私とリリアで席を取っておくわ。行きたそうな二人に何を買うかは任せてあげる」


「ありがとーイロハ! じゃあさっそく行ってみよー!」


「ありがとな。走ったりして逸れるなよシルフィ」


 四人がけの席を確保してもらい、シルフィと並んで歩き出す。さらっと腕くんでくるのやめてください。

 散策の途中で見たことのある顔発見。


「お、サカガミとフルムーンか。久しぶりだな」


 いたのはヴァンとソニアだ。座っている席にはホットドッグとでっかいパフェが乗っている。

 パフェがヴァン側に、ホットドッグがソニア側にある。


「ああ、マイウェイとブランシェか、久しぶり」


「久しぶりね。元気だった?」


 気さくに話しかけてくるソニア。


「元気だよー。そっちも元気そうだね」


 ヴァンは美味そうにパフェを食い始める。

 がっつくタイプかと思いきや、行儀よく早めのペースで食べている。


「ふっ……癒しの一時だな」


 似合わねえセリフ出たなおい。金色の目がパフェに釘付けだ。

 俺達のことなんか見ちゃいない。

 引き締まった筋肉をお持ちの男が、パフェ食ってるのは違和感あるけど気にしない。

 人の趣味はそれぞれだ。オタク趣味だった俺に言う権利はない。


「ああそうだ」


「なんだ? パフェはいらないぞ」


「頼まれてもやらねえよ。ヴァンでいいぜ」


「ん、そうか。んじゃアジュでいい。サカガミって言い難いだろ?」


「じゃあわたしもシルフィでいい」


 こっちの発音がどうなってるか知らないけど、サカガミに比べてアジュは言いやすいだろう。


「私もソニアでいいわ」


「うっし、これでダチだな」


「いいのか、こんな簡単に友達になって」


 俺達と簡単に友達になろうとするヴァンとソニアに驚きを隠せない。


「アジュは深く考えすぎ。わたしもそう思うけどさ」


「オレの人を見る目を舐めんなよ? 野菜から旬の魚までカンで見分けられるぜ」


「つまり節穴だな」


 結局カン頼りじゃねえか。しかも人を見る目に言及していない。


「私もシルフィさんと友達になりたいって思ったのよ。なんだか同類な気がしたの」


「よくわかんないけどよろしくね」


「よろしく。オレは友人とパフェくれるやつだけは裏切らねえ」


 まさかの男友達だよ。正直同性の友達は欲しかったので嬉しい。

 こっち来てから順調すぎて怖いな。


「敵からパフェ奢られたらどうするんだ?」


「おかわりしていいか聞いてダメなら斬ればいいさ」


「一杯目を食べるのは確定なんだね」


「人から奢られる飯ってのは、一味違うんだぜ」


「よくわからん」


 まず他人と飯食う機会があまりない。おごられる機会はもっと無いよ。


「気が向いたらいつでもパフェ奢ってくれていいからな」


「了解。そんときゃ肉料理でも奢ってくれ。パフェはきつい」


「パフェのよさがわからねえとは嘆かわしいぜ。いいかまずクリームと……」


 あ、これ長くなるな。パフェはちょい甘すぎて完食できないんだよなあ。


「なにバカなこと話してんのよアンタは」


「おいおい止めてくれるなソニア」


 パフェを食べきったヴァンの解説を止めてくれるソニア。ナイスだ。

 今日もちょっと太めでウエーブかかったツインテールが靡いてるぜ。


「アンタは甘いものの話すると長くなるんだからやめなさい。二人は仲間を待たせてるのよ」


「いいよ気にしなくて。ちょっと遅くなるくらい、ね」


 そう言いながらシルフィは組んでいる腕に力を入れてくる。

 胸とか当たってるので勘弁して欲しい。


「待たせても悪いだろ。さっさと行こうぜ」


 とりあえずこの状況は色々まずいので早いとこ戻ろう


「あー……アジュくんもそっちか」


 ソニアにおもっくそ溜息つかれたんですけど。


「そっちの意味がわかんねえって」


「わかるように見せてあげるわ」


 ソニアがヴァンと話し始める。


「ねえ、ヴァン。明日は私と買い物に行く予定よね?」


「覚えてるさ。それがどうした?」


 当然とばかりに頷くヴァン。ヴァンとソニア二人だけのやり取りは続く。


「わざわざヴァンを連れて行く理由は何だと思う?」


「ギルメンだし荷物持ちだろ?」


「二人で、行くのよ?」


「他にも連れて行きたいのか?」


 がっくりと項垂れるソニア。


「わかったでしょ? こういうことよ」


「どういうことなんだかね?」


 意味がわからないといった風なヴァンが俺に聞いてくる。


「すまんヴァン。俺に聞かれてもわからない」


「お互い大変だね!!」


「ええ、本当に大変よね!!」


 何故かガッチリ握手しているシルフィとソニア。いつの間に仲良くなった。


「頑張って! お互い伝わると良いわね!」


「うん、わたしはソニアのこと応援してるから!」


「私もよ。じゃ、仲間が来たから私達はこれで。行くわよヴァン! グズグズしない!」


「慌てなくても今日は逃げないぜ。んじゃまたな。アジュ、シルフィ」


 仲間らしき人達の元へソニアに引っ張られていくヴァン。あっちも苦労してそうだ。


「そんじゃ俺達も焼きそばかなんか買って帰るぞ。話し込んじまったからな」


「はーい。リリアとイロハが待ってるもんね」


 案の定、遅いと言われたともさ。

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