8ブロックVS9ブロック

 クレア達が帰ってから五日が経過した。兵士達をみんなに任せ、書斎で街と採石場の開発状況を調べているわけだが……あがってきたデータは、なんとも言い難いものだった。


「曖昧と言うべきか、可能性に満ち溢れていると言うべきか」


「お給料色々と、学園側へ献上するポイントと、他国への売値など、まだまだ問題は山積みですね」


 細かい調整はずっとミリーに補佐してもらっている。本人は将来の会社経営に活かせると乗り気だ。


「しばらく学園側に売って金に変えることも考慮しておく。あと残っている問題は……」


「報告。9ブロックが部隊を送ってきている」


 イズミがノックもなしに入ってきて、唐突にそう告げた。場が少しだけ緊張に染まる。


「早いな。6ブロックが怖くないのか?」


「本隊が来ているわけではなさそう。むしろ本命のスパイを街に放つため、わかりやすく偵察していると予想」


「だが変装している連中をどう暴く?」


「ほぼ不可能。まず敵軍を把握できていない。同じように変装させて他国に送り込んだけれど、まだ戻らない」


 敵の行動が早すぎたのだ。どんな部隊がどれだけいるかもわからず、本来様子見が続く展開のはず。それを逆手に取ったか、もしくは単に侮られているか。後者であるとありがたい。


「調べてみるか。イズミと行く」


「国王自らですか?」


「そういや俺トップだったな。どうも偉い位置ってのは慣れない。まあ問題ないさ。軽く街に出て、そこから敵がいる場所まで行くぞ」


「了解」


 そんなわけでイズミの部隊数名と変装して街に出る。歩いている男がそれとなく増え、一人がイズミの横に来た。


「敵が増えました。国境の草原に集結しています」


「偵察部隊は?」


「別です。どちらかが囮か、どちらも本隊か」


「兵を集めろ。敵が来ている以上、迎え撃つ準備は強制されている」


「了解。布陣は?」


「同盟がどこまで本気がわからんから、7ブロック方面に少しだけ残せ。採石場ルートも残す。街の警備もな。他で国境まで行くぞ」


 そして移動が開始される。そこでまあ気づくんだよ。初めての経験というか、移動って時間かかるんだなって。


「そうか、これが普通の行軍か」


 今までの戦いが例外過ぎた。光速移動できる超人と一緒か、フルムーン騎士団という圧倒的な練度を誇る順超人軍団を見ていたため、普通の感覚が薄れていた。


「普通じゃないとどうなりますの?」


「もっと早いというか……これはどっちなんだ? この部隊も優秀って解釈で……いいんだよな?」


 俺とイズミ、フラン、ルナが一緒にVIP用の送迎車に乗っている。ミリーとホノリは城に残した。これもまた速いは速いが、別にマッハで動くわけもなし。まあ動いても俺が耐えられないかも。


「あっくんの中ではどんな予定だったの?」


「長くて二時間くらいで到着するかと」


「無理でしょ。ブロックが結構広いのよ?」


「ちなみにフルムーンだとどうなると思う?」


「どうって、装備とかにもよるけど、まあ一時間あれば整列して出迎えてくれると思うぞ」


 装備や距離、環境によってかなり左右されるはず。だが冬の雪国とは言え整地された道だ。よく舗装されていると思う。ならばあの集団はやってのけるだろう。


「はー……大国ってそういうものなのね」


「はいはーい! じゃあ忍者もそんな感じなの? ずらーって整列する?」


「忍者は整列なんてしない。戦いが始まった時点で、静かに、そーっとそーっと敵の城の中にいる」


「うわーお」


 誕生三百年に満たない国にはフウマがいる。そんな言葉があるくらいだ。どこにでも入るし、いくらでも国を崩す。そう考えるとフルムーンとフウマが組むのやばいな。


「あっくんあっくん、どうして騎士団の行軍を見たの? 団長さんに会ったことあるのかな?」


「あるけど全員じゃないぞ」


 よくわからんが興味を持たれたらしく、車内はずっと雑談・質問タイムだ。あんまり好ましい展開じゃないが、話せる範囲で話す。


「結局はシルフィの横にいたという偶然だ。これを恩恵と呼ぶか偶然と呼ぶかは好きにすればいい」


「お姫様だもんねー……」


 これで大抵は納得してくれる。運のよかった一般人だ。まさか神との殺し合いのため、俺が呼ばれたとは思うまい。


「疲れた……最近知り合ったやつと長話するのしんどい」


「疲れたまんまで戦えるの?」


「俺はファイターじゃない。戦闘は任せる」


 戦士のカテゴリーじゃないと、結構な頻度で言っている気がする。まあ事実なんで認めて欲しい。


「見えました! 敵軍です!」


 車外をそっと伺うと、草原の先に小さく小さく集団が見える。おかしい。ここまで簡単に来られて、罠もなく、進軍も止まっているように見える。


「なぜここなんだ? あいつらはなぜ魔法の一発も撃ってこない?」


 こっちは結界を張れるやつを出し、いつでも全面をガードできるよう対策していたのだが、完全に無意味だった。


「国境を軍で超えることは、それこそ本格的な戦いとなる。そこまでのつもりはないのかもしれない」


 国境には砦があり、一応の柵もある。警備兵もちゃんといる。それは相手も同じ。つまり攻め込むには労力がいるわけだ。


「これ交渉とかするタイプの案件か?」


「かもしれないわね。どうするの? 王様くんがいくの?」


「俺は交渉とか無理だ。フラン、王族の力を見せつけてやれ。何か礼はするから」


「まったくもう、ダメな王様くんね。いいわ行ってあげる。代わりに綺麗なバレッタが欲しいわ」


 バレッタ…………銃弾だっけ? でなきゃハンドガンだよな。魔法だけじゃ心もとないし、魔法以外の攻撃手段が必要ってことか。確かにこれから戦闘は続くだろうし、用心深い性格は見習っておくべきだ。


「わかった。いいやつを見つけておく」


「ありがと。それじゃ行ってくるわね」


 ということでフランが兵士とともに前に出る。面倒なので要約する。

 ・いきなり兵を動かしてどういうつもり? 戦争でも始めるの?

 ・国境の警備を厳重にしない国なんてあるわけないでしょ。ここからはそっちの出方次第よ。じゃあ模擬戦しよう。

 ・じゃあの意味がわからないから帰れ。

 ・練習ばっかりで兵士にストレスたまるし、何もさせずに給料払うよりいいじゃん。これからの予行練習にもなるし。

 ・よそでやれ。

 ・いいや攻めるね!!

 という感じ。なんか戦闘始まりそう。いやなんでやねん。他所でやれやボケ。


「ごめんね。なんか合同演習ってことになっちゃったけど」


「相手が攻める気なんだし、ある程度はしょうがないだろ」


「敵の指揮系統と戦法の把握だけでも僥倖。奥の手は隠しつつ応じるべき」


 なんだかんだ兵士も乗り気である。訓練ばかりに飽きたのか、タダ飯食らいと言われたくないのか、まあモチベがあるならそれでいい。


「ならやるぞ。ルナの歩兵部隊とフランの魔法部隊で迎え撃つ。イズミ部隊はサポートだ」


「王様くんは?」


「俺は前線出ていいのか? 国王が最前線で暴れるなんて国……結構ありそうだな」


 ジェクトさんもザトーさんも先代ゲンジ・ヒカルさんもやりそう。この世界の王族おかしい。


「とりあえず奥で護衛部隊と一緒にいる。捕まったら面倒だし」


「そうね、国家乗っ取りとかされても困るものね」


「よーっし、ばしっとびしっと準備しよー!」


 そして準備が終わり、自陣の奥から敵を見る。

 向こうも同じく歩兵中心かな。数はほぼ同じ。あっち側だけ十倍の兵力とかありえないだろうし、初期だけはある程度戦力の均一化がされているのかも。今後は知らんけど。


「敵魔力を感知。撃ってくる」


「反撃と結界開始!!」


「オオオオォォォ!!」


 直球で、もしくは山なりに攻撃魔法が飛んでくる。こちらも結界を張り同じように魔法の応酬が始まる。


「いくわよみんな! 撃ち返して!!」


 撃ちながらじりじりと結界ごと前進する。今回は敵の力を見たいので、なるべくだがレパートリーを隠しつつ、敵には出させる方向で行こう。


「あと少しで接敵」


「よし、歩兵部隊突撃!」


 お互いの結界が触れ合い、歩兵が躍り出る。


「ウオオオォォ!!」


「いくぞおおぉぉぉ!!」


 怒号が戦場に響き、でかい声が耳に入る。これは慣れないといけないんだろうなあ。無駄なことを考えていると、先陣で煙が上がる。


「どうした?」


「煙幕のようです!」


 伝令の兵士がやってきて状況を話す。どうやら敵の戦略らしい。


「そうか、それでお前さんはどこの誰だ?」


「伝令部隊でございます」


「伝令は兜を脱いで左膝をつくのがルールだろ。訓練したことをやれ」


「失礼いたしました!」


 兜は取ったが、口は布で隠されているし、頭もバンダナで隠されている。正体を見せないか。やはり敵にも厄介なのがいるねえ。もう少し対策を考えないとな。


「ああ失礼だ。訓練を聞いていなかったのか? そんなルール無いぞ。うちの軍は特殊なマークと布で分けているから、それを見せてみろ。存在するならな」


「ちっ!」


 伝令が斬りかかってきたが、イズミによって止められ、バックステップで距離を取る。


「引っ掛けかよ。いや気づいていたのか?」


「さあね。こういうやり取りが好きなんだよ。一回やってみたかっただけさ」


「はあー、醜態晒しちまったか。お前ら! トップだけでも潰すぞ!」


 伝令の一部がこちらへ武器を向けてくる。十人近いな。こんなに通しちまうか。反省会でもしよう。


「やはり敵が紛れていた。ここで掃討する。許可を」


「いいぞ。前線はフランとルナに任せる。危険を感じたら下がれと伝えろ」


「了解」


「いかせるかよ!」


 敵がイズミと伝令に詰め寄るので、攻撃魔法で撹乱してやる。その隙に味方伝令がちゃんとすり抜けていくのは褒めるポイントだな。


「そう冷たいことを言うなよ。トップを潰すんだろ? 急がないと囲まれるぜ?」


「黒髪黒目のぱっとしねえ男。報告通りあんたがアジュ・サカガミだな」


「みんなそうやって覚えるよな」


「強者のオーラがないのは潜入では美点」


「変なフォローどうも。ついでにそいつ倒しちまってくれ」


「了解。殲滅開始」


 そして近場で戦闘が始まる。ので俺は離れていようね。


「待ちな! 逃げるんじゃねえ!」


「逃げないでくださいお願いしますだろ? んん?」


「てめえさては嫌なやつだな!?」


「敵本陣まで来る度胸は認める。だが俺は戦いたくない」


 速攻で本陣まで来る胆力は褒めよう。だが国主がピンチではいけないのだ。逃げる大義名分があるって素敵。


「なら黙って斬られろ。こっちもお嬢のわがままと無茶ぶりでめんどくせえんだよ」


「そいつは気の毒にな。ライトニングフラッシュ!!」


「気合と根性だ!!」


 なんと真正面から突っ込んできやがった。近づかれるとわかる。こいつでかい。180後半くらいはあるな。剣の間合いも広い。手練か。近すぎて距離が離せないぞ。


「面倒なやつ」


 前線ではさらに爆発が続いている。煙の量が多すぎるな。こりゃ乱戦になるか。


「あんたの首だけはいただくぜ! お嬢は恨みがあるみてえだからな!」


「恨み? 悪いが勇者科の女とあんまり交流がない。どんなやつだ?」


「濃い黄色の髪で、気難しくてわがままな貴族っぽいやつだよ」


「…………一学期の期末試験あたりで戦ったかも」


 紺色髪のナイフ二刀流女と一緒だったやつかな。不思議だ。恨まれるほどのことをやった記憶がない。


「他にもいたぜ。緑の髪でメガネかけてて、気が強くてわがままなやつとか。あいつらフルムーンとフウマのお姫様の腰巾着とか、権力のおこぼれにあずかってるとか言ってたし、気位の高いやつは気に入らねえんじゃね?」


「うーむ……そんなもんかねえ。迷惑かけた覚えはないぞ」


 王族経由でトールさんとか知り合えて、魔法の技術が上がっている。一概には否定できん。けどなあ……俺のポジション結構きついぞ? 最上級神とか正体不明の邪神とか、こっちの情報を与えずに始末しないといけないし。まずあいつらのイベントが鎧抜きだと無理ゲーになる。そして手を出さないくらいに下心のないやつじゃないといけない。


「わからんなあ……俺になりたいか?」


「別に。オレはつええからオレでいい」


「お前嫌いじゃないわ」


 シンプルで大変よろしい。でもこいつ敵なんだよなあ。しょうがない。少しだけちゃんと戦いますかね。

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