ヒロイン陣営の描写とか少し入れたかったんです

 9ブロックと草原で乱戦になっている。そして目の前には強そうな男。仕方がないのでカトラスを抜いておこう。


「お前の首だけでも持っていけば、今日の癇癪は収まるはずだ。オレらの平穏のために負けな!」


「理由がかわいそう」


「同情を敗北という形で還元してくれ」


「意味がわからん」


 斬りかかって来そうなので、先手を取って斬りかかる。だがやはり打ち合いは不利だ。というか普通に押し負ける。こいつどシンプルに強いぞ。


「このまま押し切ってやるぜ!」


「サンダースプラッシュ!」


 雷の霧を探知機代わりに使う。スピードもパワーもあるタイプらしいので、なるべく回避に専念しよう。


「しゃおらあ!!」


 声でわかる。その一瞬前に探知できるんだけども、どうも気が抜けるんだよなあ。


「へっ、たいしたことねえな!」


「そりゃそうだろ。そんなもんだよ。だから手加減しろ」


「断る!」


 これは面倒だな。自分より技量が上のやつを殺さずに仕留める方法がわからん。時間稼ぎでもするかな。適当に話題をふるという、別の課題が生まれるわけだが。


「お前は強いよ。きっと名のある戦士になれるだろう」


「褒めても手加減はしねえぞ?」


「昔いた場所と、ここの戦士で違う点がいくつかある」


「急にどうした? 時間稼ぎか?」


 まあバレるよねえ。けど気にせず続行だ。雑でも時間さえ稼げたらいいのである。


「まず身体だ。いわゆる達人超人と呼ばれる人間相手には、脳を揺らす意味がない。脳まで頑丈なんだ。そして金的が効かない。毒が効かない。人間という脆弱な種族が持つ欠陥を修正、あるいは進化させることができる」


 人体の急所が鍛えることで急所ではなくなる。弱点を克服し続けられる。というよりここが起点世界ならば、別の世界は弱点とリミッターを用意された世界なのだろう。


「なるほど。それで次は?」


「簡単だ『何をやってもいいから殺す』という意思をしっかり持つ。行動に移す『その順序を経ないと』動けないかどうかだ」


「オレにわかる言語で離せ」


 そうか理解させないと気を引けないのか。やっぱ苦手分野じゃないか。


「殺そうと朝から決意する。そのまま相手のところに行き、殺す。こんなのは普通だ。次にルール無用の勝負。これも何をやってもいい殺し合いの場だと頭に刷り込み、ようやく臨んで、やっぱり負ける」


「負ける? 覚悟ができていないからか?」


「違う。この世界の連中は覚悟を決めるという儀式をしない。戦場や果し合いとは死に直結していると、遺伝子が受け継いでいる。大前提で、改めて思い直すという工程が必要なものじゃないんだ」


「なんでもありは、なんでもあり。そう理解できているか、ということかね?」


「そうだ。そんなできて当然のことができていない連中だった。例外はいるけれどな」


 あくまで一般論ね。正直それも完全に適用できたか怪しい場所だったけど、こいつの注意を話に向けるにはいいだろ。


「で、時間稼ぎは終わりか?」


「まあ上々だよ。お仲間はやられたみたいだぜ」


 周囲は完全に仲間で埋まっている。こいつだけを孤立させた。流石にこの状況で勝ちに持っていくほどの実力はあるまい。


「このまま降参したら衣食住が保証されたり……」


「しない。っていうかそれが狙いかお前」


「だって負けそうじゃん。負けて帰ったら何言われるか……このまま部隊ごとそっち行けねえ?」


「スパイ丸出しやんけ」


 なんだろうこいつ計算なのか素なのかわかんねえ。悪意みたいなものがない。クソ厄介だぞ。


「あれだぞ、会議の場とか、兵が見ているところで説教始まるんだぞ。厳しさアピールだよぜってえ」


 話しかけてきながらも、こっちの兵を的確にさばいては有利な間合いになろうとしている。実戦経験は豊富っぽいな。


「そんな意識高い系の飯屋みたいな……そもそもなんで攻めてきた?」


「お前らなら勝てるって踏んだらしい。お嬢は自分とこの連中を囲い込んで、そっちが戦力整う前に兵の心を折るって言ってたぜ」


「作戦としちゃ悪くないが……」


 俺がトップという点で侮られるのはわかる。フランとかイズミは強いと認識されていないのか? こいつらの背景がわからん。


「実際強いんだよ。囲まれてんのはオレだけだろ。後はこっちが押してるはずだ」


「イズミ、報告」


「それで正解。地力が少し違う」


 マジかいな。とりあえず防御陣形にさせて、次の策を練ろう。


「お前捕虜にしたら敵の士気下がる?」


「無理じゃね?」


「開放してやるから撤退宣言しろ。お前がトップの指揮系統を混乱させる役割なのは見抜いている」


「ありゃあ……どっから?」


「俺の話に乗ってきたろ。あの時点でフランに指揮を預けてある」


「お嬢め……ぱっとしねえ男だから絶対勝てるとか言ってたくせに……」


 まあ弱いと思われているのはありがたい。こいつを開放して退却が妥当だろう。こいつめんどいし。さっさと帰って、どうぞ。


「ほら撤退命令出せ」


「オレの言う事聞いてくれるかわからん。お嬢が切れて突撃命令出すかも」


「何の役にも立たないなお前」


 なんか銅鑼の音が聞こえた。こっちにそのシステムはない。つまり。


「撤退の合図だな。まあオレは帰れねえからお世話になるぜ」


「頼むから帰ってくれ。お前どのくらい偉いんだよ」


「一応はあっちの五個ある部隊の一隊長かな」


 それなりのポジションか。じゃあ命令させろよ。そこそこ強いのは感じた。この絶望的な状況下でまだ重症を負っていないあたり、かなり戦場慣れしている。


「危険。敵が急激に下がっている。魔法による斉射が来ると予想」


「全軍防御陣形! 結界発動準備!!」


「オレまだいるだろうが!?」


「こいつ残して撤収!!」


 やはり危険が迫ると行動は早いもので、みんなさささーっと下がって結界を展開。少し遅れて魔法が飛んできた。


「オレがいるっつってんぎゃあああぁぁぁ!!」


 敵は吹っ飛んでいった。さらばだ。めんどくさかったので助かったぞ。


「これ演習ってていだよな? どう終わるんだ?」


「もう日も暮れる。砦に退避すべき。敵もそうしている」


 流石にぶっ通しでやるほど気力も体力もないか。ありがたい負傷兵を集めて砦へ退却した。


「捕虜がいます」


「おっす。こっちに飛んじまったぜ」


「帰ってもらえる?」


「あっちの捕虜と交換すりゃいいじゃねえか」


 どうしてそういうちゃんとした発言をするのさ。一理あるからつっぱねられんぞ。


「安い部屋に監視つけてぶち込んどけ」


「別にこっちで暴れさせてくれてもいいぜ? 7ブロックとの戦闘とかにさ」


「そこまで信用ないんだよ。じっとしていてくれ」


 というわけで敵の捕虜ゲット。あっち陣営との取引材料に使うこととなった。

 さて、こうしてゆっくりと砦のリビングで寛ぐわけだが。


「落ち着かねえ……初見の砦でゆったりできねえ」


「意外とナイーブなのね王様くん」


「休息は大切。和むような下ネタを考える」


「やめろその労力を休憩に使え」


 とにかく休もう。雪の中で戦うのは想像を超えて体力を削ぎ取られる。それをよく理解した。したなら明日から考慮しよう。だもんで四人でホットのお茶を飲みながら、リビングで雑談と会議タイムだ。


「あっくーん! 兵の配備と交代の連絡終わったよー!」


「おつかれ。全員休んでくれ。俺はベッドをなんとかする」


「枕持ってきたんじゃないの?」


「ベッドがなんか違う。寝心地悪い。ああもう……あいつらがいりゃ眠れるんだが」


「…………まさか一緒に寝てるの?」


 しくじった。寒さと眠さと寝心地の悪さとストレスだ。そのへんが原因であいつらを思い出したらなんかこうなっただけだ。


「……違うそういうことじゃない」


 俺から誘ったことはない……はず。そういう一線はちゃんと引いている。あいつらは飛び越えてくるけれど。駄目だ考えるな。確実に今日の寝心地が悪くなる。


「いいか、そういう関係じゃないし、一線超えたわけでもない。間違えるな。相手に失礼だぞ」


「妙に焦っている。今までで一番の動揺を確認」


「どこまでやっちゃったのか白状するのだー!」


「違う手は出していない!」


「なんのフォローにもなってないわよ」


 横にいないと妙に安眠できないんだよ。膝枕とか、なんか横にいる体温的なやつとか、ちょっと落ち着くだけだ。ただそれだけだ。


「仲がいいのね」


「まあ……それでいいか」


 ああもうさっさとこの試練終わってくれ。俺の家はあそこだけだ。あいつらがいる家以外でのんびりするのむずい。







 ――シルフィ陣営―――


 夜が更けていく。それはどこの陣営も一緒だと思う。同じ部分があれば、違う部分を意識してしまう。それはしょうがない。


「ううぅぅ……アジュがいない……もう一週間も会ってない……眠れない」


 国主に与えられたお部屋は広くて、なんだかフルムーンの自室を思い出す。そう感じてしまえば、もう思い出が止まらない。


「シルフィちゃんは寂しがり屋だねい。あじゅにゃんがいないと寝れないのかにゃ?」


 お部屋にももっちが遊びに来てくれた。他のメンバーは知っている子達だったけれど、あの子達はフルムーン第二王女のわたししか知らない。ついそういう対応をしてしまう。アジュ風に言うなら人見知りモードなんだろう。ももっちの明るさに助けられている。


「ベッドが……冷たいんだよぅ……お城のベッドなんだよぅ……」


「そりゃお城に住んでるんだし。お部屋暖房効いてるよね?」


「お部屋は温かいけど、そうじゃないんだよう……」


 暖房の暖かさも、ベッドのあったかさも違う。アジュのぬくもりがないと寂しい。今までこんなに長く離れたことがないから、余計に寂しさだけを感じるわけで。


「アジュはね、一緒だとあったかいんだよ。あったかくて、あじゅだーってなる」


「よくわかんなにゃいけど、大好きなんだね」


「うん、わたしは弱いから。みんながいないとだめなんだ」


 イロハに支えてもらって、一緒にいてもらって、それでなんとかやれていた。アジュとリリアが来て、ゆっくり動き出したわたしの時間は、もう四人じゃないと動かない。


「シルフィちゃんに勝てる人なんて、全学年でも五人くらいじゃない?」


「みんなのおかげだよ。それに戦闘で勝てたって、誰もいないのは寂しいよ……アジュは一人でも平気っぽいけど」


 自由な人だからなあ。ちゃんとご飯食べてるかな。知らない女の子と仲良く出来てるのかなあ……あんまり仲良くなってても嫌だなあ。


「あれは特殊ケースだと思うよ。それに今頃泣いてるかもしんないじゃん。シルフィちゃんがいないと眠れないよーって」


「あはは、想像できないなー。でもそうだったら嬉しいな」


 あの人はきっと、一人でいることが普通で、だから寂しいという概念がない。あっても苦しいとは思わない。それはわたしにはない強さだけど、少しだけでいいから、その心にわたしの居場所があればいい。そう考えると、少しだけあったかくなる。


「もっと積極的になっちゃえばいいのに」


「なってますー。なってもアジュはその気になってくれないんですー」


 そこに不満はある。けれど満足してもいる。もっと手をつないだり、腕を組んだり、一緒に寝たり、膝枕してあげたり、キスしたり、その先……とか、考えちゃうこともある。いつかできたらいいな。けどそれは今じゃない。できることから……いけない。また寂しくなる。


「ねえ、アジュはあじゅにゃんなんでしょ。ならわたしにも何かつけてよ」


 自分でもどういう心境なのかわからないけど、雰囲気を変えたかったのかな。不思議な事を言っている自覚はあった。


「おぉ、リクエスト貰ってつけるのは初体験だぜい。ギルメンの代わりは荷が重いよん?」


「あはは、違うよ。代わりなんていない。だから、これはわたしがお友達を増やしたいだけ」


「しょうがないなあ。寂しがり屋のお姫様だねえ」


 今まで我慢できていたのになあ。四人でいることに慣れちゃったんだね。それは嬉しいけど、もっと別の時に感じたかったかな。


「じゃあシルフィだからしーちゃんだ!」


「うん、じゃあ今日からしーちゃんだね!」


 ちょっと新鮮だ。お姫様のあだ名をつけようって人はあんまりいない。失礼な名前をつけると自分の身に危険が降りかかるとか、そういう怖さがあるのかも。

 ももっちはイガのお姫様だし、アジュの鎧についても見てるし、なんとなく他の子よりも話しやすい。


「しばらくめそめそすることもあると思うけど、よろしくねももっち」


「おう、私におまかせだよ、しーちゃん」


 お友達も増えたし、かっこ悪いままじゃいられない。明日からもがんばろう。

 アジュに会えないうちに、少しでも強くなっておくんだ。できることが増えれば、それだけ一緒にいられる。褒めてもらえる。もっと強くなるから、待っててね。

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