第202話 必然の女神を捕縛せよ

 敵はヴェルダンディとヘルヴォル。まずは能力を探るか。


「サンダースマッシャーっと」


 かなり弱め。指先から一本発射。これで死ぬならもうほんと困る。


「ふんっ!」


 割り込んできたヘルヴォルが、その鎧で受ける。どうやら無傷。


「おおー、すごいすごい。やるじゃん」


「舐めているのか貴様?」


 またヴェルダンディの横に戻った。なにがしたいんだこいつ。

 俺にむかってくる気がないようだ。


「いや……捕獲しなきゃいけないからさ。あんまり強くやると殺しちまいそうで怖いんだよ。次はもうちょい強めでいくな」


 手のひらから魔力波を出してみる。ドラゴンは消せるレベルだ。


「無駄だ!」


 ヘルヴォルに消される。あいつ頑丈だな。これにはちょっとびっくり。


「ヘルヴォルにばかり気を取られて、私を忘れるか……愚かよの」


「気を遣ってやったんだよ。さっさとチャージ終われ。なにか貯めてんだろ?」


「気付いて止めぬか。傲慢な人に死を」


 なんか魔力を貯めていたので放置。どのくらい強いか知りたい。

 で、空に飛んだあと光の玉を撃ってきたわけだが……なんか普通。

 空を覆うくらいにはデカいんだけどさ。


「ありきたりだな。もうちょい特別な技とかないのか?」


 適当に右手を開き、強めに突き出す。

 その風圧で上空に吹き飛ばし、人差し指を立てて横一閃。

 真空波で玉を真っ二つにして消す。


「今の攻撃で全力なら降参してくれ。戦っても無駄だ」


「こいつ……本当に人間か?」


「ほっほっほ、愉快愉快。前座は嗜み。前菜のない料理など、つまらぬであろう」


 楽しそうに笑いながら降りてくる。余裕あんなあ女神様よ。


「一回でメイン料理もってこい。コース料理とかちまちま出されんの嫌いだ」


 普通にカツ丼と味噌汁出された方が嬉しい。


「ふむ、そんな日もあるな」


 会話中に気付いたが、なぜかヴェルの魔力が上がっているな。


「なぜに魔力が上がっているのかねヴェルさんや」


「略すな。失礼であろう」


「長いんだよ。なんか徐々に上がっていってんな」


「それが必然。徐々に魔力が上がるのも、私が死なぬのも必然よ。そして」


 もうめんどい。後ろに回って首トーンってしよう。やってみたかったし。

 思い立ったら即実行。一年に一度くらいのアクティブさで、ほぼ光速で移動。


「そこであろう?」


 振り返りもせず、俺に向けてビームが放たれた。

 見きれない速さじゃないので体を傾けると。


「これも必然よ」


 直角に曲がってきた。面倒なんで叩き落とそうとしたら大爆発。

 周囲の木々をも吹き飛ばす。


「おぉ……お前マジで凄いな。見切られたの多分初めてだぞ。いやマジで」


 なんかちょっとテンション上がっちゃった。拍手とかしてあげよう。


「これで無傷だと……やはり貴様人間ではないな!」


「人間だよ。完全に人間だよ。善良な一般人だよ」


 ちょっと手加減しすぎたかな。でもこれ以上は即死させてしまうかも。

 もうちょっとだけ加減を調整しよう。


「死なぬか。最近の人間は頑丈よな」


「いえいえそれほどでも。本当にどうやった? 俺の動きを見切ったのか?」


「全ては必然よ」


 まーた必然か。それ自体がなんかの能力なのかね。


「ちなみに、首を攻撃しても人は気絶などせぬ。物語上都合が良い演出よ」


「ええぇ……なんじゃそら」


 あーあダメか。ちょっとショック。


「やつあたりライトニングフラッシュ!!」


「無駄だ! むううぅぅぅん!!」


 立ちはだかるヘルヴォル。そしてまーた無傷。膝が笑いまくってるけど。


「お前も妙なやつだな。弱めに撃ったとはいえ、ヴァルキリーが死なないレベルじゃないぞ」


「我は軍勢の守り手。何かを守るために受けた攻撃は、全て無効化される」


「メイン盾か。やっぱり盾がいないとダメかー。今回のことでそれがよくわかったよ」


「ならば降参しろ。攻守揃った我らに敵はなし!」


「こっちも都合があってな。そうもいかんのよ」


 話しながら赤マフラーの片方を地面に突っ込む。

 背中に隠しながらだから気付かれないはず。

 あとはヴェルの背後に潜行させて、不意打ちかけるだけ。


「ふむ、ここかの」


 数歩移動されたせいで外す。ヘルヴォルの背中に直撃。


「ふほおぅ!?」


「おや、まーた避けられたな。結構強敵だったりします?」


「神をなんだと心得る?」


「自分勝手で自由な奴ら」


「間違ってはおらんな」


 痛みでごろごろ転がっているヘルヴォルを無視して話す俺たち。


「耐久テストは終いにしようか。ここの結界ならば、私が本気を出しても壊れまい」


 数万本の光の線が俺を襲う。魔力からして、一発一発が月程度は砕ける威力だ。


「おおっと、急にマジになりやがって」


 避けて安全そうな場所へ。行った時にはもう、その場所を線が取り囲むようにして迫る。


「どうした? 自慢の速さはその程度かえ?」


「挑発には乗らんよ」


 今のはちょい反省。逃げやすい場所に誘導された。大方そんなところだろう。

 密集する光の線をくぐり抜け、適当な場所へ移動。


「先程のお返しをせねばな」


 地中から更に威力を上げた光の渦が飛び出した。


「ちっ、鬱陶しい!」


 魔力を足に込め、地面を踏みつける。衝撃で散った魔力で渦を消す。

 敵の魔力波上がり続けている。今のは光の線の更に十倍くらいの威力だ。


「もういい、寝てろ!」


 結構強めの魔力波だ。さっきより強くしたから、もしかしたら死ぬかもな。


「なんのこれしきいいいいぃぃぃ! むうん!!」


 耐えやがった。辛そうに荒く息を吐いているが耐えやがったぞ。


「うーわマジで面倒なやつ来たな。俺の動きにここまでついてきますか」


「うむ、大変満足しておるわ。褒めてつかわす」


「そりゃどうも!」


 音速を越えての動きも、正確に避けようとしやがる。

 そういう時は力技だ。さらに速度を上げるぜ。


「ならばこれでどうかの」


 ここら一帯に魔力の波をばら撒きやがった。

 まるで重油の中を歩かされている気分だ。


「ま、もっと速く動けばいいだけだな」


 速さに限界なんてない。即接近してボディブロー。


「オラアァァ!!」


「障壁!」


 魔法の障壁を張ってきたが、そんなもん無意味だ。

 ぶち破って二人を同時に殴り抜ける。


「げばああぁぁぁぁ!?」


「まさかこれほどとは……必然化が間に合わぬ!!」


「ぶっ飛べオラア!!」


 アッパーで天高く打ち上げる。

 重力に従い落下し、地面に小規模なクレーターが完成した。


「あ……うぅ……こんな……品性の欠片もない手段で……」


「喋るだけの余力があるか。殴っている時、なんか妙だったな。途中から反応が鈍くなった」


「ぐっ……くく……必然化の速度を上回って攻撃するとは」


 必然化というワードと、鎧の知識を動員。超速理解。


「なるほど。動きを見切っていたわけじゃないんだな。俺の攻撃をかわすために必要な行動を先に見てんのか」


 俺の攻撃を避けたい。そのために必要最小限で達成できる行為を知る。避けられたのは偶然ではなく必然。そう感じるほど完璧な行動を検索、実行できるんだ。


「正解。よくわかったの。しかし、次は更に避けてみせようぞ」


「ああ、だからその能力も消した」


「なんだと?」


「もともと捕獲するってことで超手を抜いていた。死ぬほど、いや死なない程度にな。でもぶっちゃけ能力なんて消してよかったんだよ。だから能力を殴り殺した。もう二度と発動しない」


 なにやら自分の体を探り、魔力を循環させているヴェルさん。

 気付いたみたいだな。自分の能力が消されていることに。


「ヴェルダンディの力は無敵の能力ではないのか……」


「そこが間違いだ。未来予知とか、心を読む能力ってのはな。雑魚狩り専門能力なんだよ」


「そこは私も同意しよう」


 未来や心を読み、理解し、解決策を練って、動く。

 こんなもん遅すぎる。運と知力が同居しているテーブルゲームとかじゃなきゃ、なにやっても無意味だ。


「俺の本気の動きにはついていけないし、全体攻撃には避け方なんてない。格下を狩りやすい能力だが、実力が拮抗した時点で無用の長物だ」


「その半端な強さが仇となる。雑魚狩り能力で倒れていれば幸せだったと、死ぬ間際に後悔することになるわけだ。人間よ」


 一瞬で膨れ上がるヴェルの魔力。巨大な何かが森を潰し、空を塞ぐ。


「これは……ハチ?」


 大きな銀色の女王蜂だ。ヴェルダンディの正体は女王蜂か。

 その周囲を何かが飛び回る。兵隊バチのようなそれは、つい先日見た機械。


「アーマードールか」


 三メートル近いアーマードールが、女王の十分の一以下だ。

 あまりにもでかい。空一面に羽と巨体を広げ、こちらを見下ろしている。


「管理機関なんてクズと協力してんのかよ」


『抜かせ人間。利用してやているだけだ。矮小な野望しか持たぬクズが、神と交渉しようとしている。それが気に入らぬが、我らに擦り寄る一部だけを使ってやっておる』


 声があたりに響いていた。一部。つまり機関は全員がこいつらの協力者じゃない。


「過激派か」


「くだらん。私に言わせれば、機関全てが過激なクズよ」


「妙に意見が合うな」


 言葉のニュアンスを読み取る。鎧の力で、声の抑揚とかから。

 普段の俺じゃあわからなかったかも。だが過激派が協力していることは理解した。


「おしゃべりはここまで。さあ、この姿を晒した以上、死んでもらうぞ!!」


 捕獲は中止。こいつは消す。

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