第203話 蜂女討伐戦

 ヴェルダンディこと、妖怪蜂女とのバトルが始まるわけだが。


「無駄にデカい……」


 なんかもう面倒になったな。今になってもうすぐ鍋なのを思い出した。


「さあ消えよ! 地獄で愚行を悔やむがよい!」


 機械の働き蜂が飛んでくる。遠目には豆粒サイズだったのが、どんどんでかくなり、パイルバンカーやビームブレードで俺に迫る。


「もういいだろ」


 拳を握り、強めに前に突き出す。

 こちらに向かっていた雑魚を根こそぎえぐり取り、ついでにヴェルの羽を片方ぶっ飛ばした。


「なにぃ!?」


「そろそろ飽きた。今日うち鍋なんだよ」


 捕獲しなきゃいけない数分前とは違う。殺していいなら楽勝だ。


「ふざけるなよ……神を侮って生きていられると思うな!!」


 丸太のような、いやそれを通り越して、山そのもののような巨大な針が迫る。


「そりゃハチだもんな」


 右手でしっかりキャッチしまして。

 力を込めたら砕けるわけだ。そらもうバッキバキに。


「なんだとおぉぉぉ!?」


「せーのっ!!」


 結構なパワーでパンチ。何かがぶつかる音が響き、ハチ女の下半身が消える。


「自慢の針もなくなっちまったな」


「ありえん……ありえんぞ……」


 声が震えているな。叫び声をあげないところを見るに、痛覚はないのだろう。


「か……かかれ! 数で押せ!!」


 アーマードールの大群が押し寄せる。

 ちまちま潰すのも性に合わない。群がってくるまで待ち、一気に魔力を解き放つ。


「ずあありゃああぁぁ!!」


 敵も景色もぶっ飛んで、綺麗に害虫駆除完了。

 景色は後で直すか謝ろう。

 しかも今ので魔法が思いつきそう。帰ったら試してみるかな。


「力押ししかしない敵が、これほど楽だとは。まあ特殊能力も無効だけどさ」


「終わらん! このようなことで、傷もおわせること無く終わるなど! 神の誇りが許さぬ!」


 なんか光り始めた。自爆するつもりらしい。

 迎撃ついでに攻撃魔法の練習もしておこう。

 両手に雷と鎧の不死・転生消滅の効果を貯めて、一気に解き放つ。


「プ・ラ・ズ・マ……イレイザー!!」


「無念……せめてヘルヴォルよ……どうか……ああ……ダ……さま……」


 自爆前に存在ごと消してしまえばいい。

 これで地獄にも冥界にもいけない。完全消滅させないと復活しそうだからな。


「そういやヘルヴォルがいないな……」


 召喚機が鳴っている。起動し、シルフィの声がするのと、爆発音が響くのは同時だった。


『ヘルヴォルが黒くなって! スクルドと!』


「今行く」


 急いで鍵を取り出し、鎧を変える。


『シルフィ!』


 シルフィキーで変身。時間を止める。神は時間を止めても、無理やり入ってくる可能性がある。俺の鎧の魔力には勝てないだろうが、大至急向かおう。

 念のため、もう一本の鍵も使う。


『アンサー』


 アンサーキーは回答・正解を導き出す鍵だ。

 俺が望むことの答えを、俺の記憶と鎧の知識から、魔力量に応じて見せてくれる。

 これで最短距離で家に戻れるな。


「必ず潰す」


 光速の三十倍で動く。数秒で行けるはず。

 景色が初めてきた時に見た順番に変わっている。

 よし、もうすぐだ。


「うおっと」


 黒い光線が数本飛んでくる。たいした速度じゃないので避けておく。

 問題は家のある方向から飛んでいること。


「なんだありゃ?」


 浮いているのは六枚羽の天使。黒い羽がとにかく目立つ。

 家に向けてビームを撃とうとしているみたいだ。


「ちっ、ウオラアアァ!!」


 発射前に飛び蹴りかまして吹っ飛ばす。

 木々を巻き込みながら、豪快に転がっていく天使。なんかシュールだ。


「アジュ!」


「お前ら無事か?」


 三人共無傷だな。急いで来たかいがあった。とりあえずひと安心。


「ええ、私達はなんとか無事よ」


「鍋が……鍋がちょっとこぼれたのじゃ」


「マジか……天使の分際で人間様の飯に手を出しやがって」


 こちとら鍋を気にして、早めに女神を殺してきたってのに。

 なんちゅうことしてくれたんだ。


「大丈夫さ。まだ食材はある」


「お鍋はひっくり返る前にガードしましたよ」


 ラーさんと卑弥呼さんが、特殊な結界で鍋を宙に浮かせている。

 よしよし、まだ肉が入っていない。ならよし。


「あれは天使ではない。スクルドとヘルヴォルだ」


「一人にしか見えませんが?」


「スクルドが持っていた注射器を、自分に刺したらああなったわ」


「ルシファーと声が聞こえたのじゃ」


 俺は回避したが、こっちのスクルドは成功したわけだ。


「ルシファーって地獄に封印されたやつだよな?」


「正解じゃ。脱走して仲間になったのじゃろ」


「そんでトウコツと同じく変身エキスが造られたと。いやラーさんなら勝てるでしょ」


「一度捕らえたんだけれどね。ヘルヴォルに気を取られて、あんな感じになったんだ」


「しかもヘルヴォルを取り込んでから妙なんじゃよ」


 どうやら飲み込まれて、文字通り一つになったらしい。

 哀れなりヴァルキリー。


「敵が戻ってきたよ!」


 空に浮かぶ堕天使さん。スクルドかルシファーかはっきりして欲しい。


「なんであいつ動けるんだよ。ヴェルダンディは死んだぞ」


「さらっと女神を殺してきたんだね」


「中堅レベルでしたね。神としちゃ普通。並レベルです」


 ヘルの方がうざかった。ヒメノの足元にも及ばない雑魚でしたよ。


「なんかね。あの敵おかしいんだよ」


「例えば攻撃するじゃろ?」


 リリアの魔力ビームが、堕天使の腹に風穴を開ける。


「すると復活する」


 落ちてくる寸前で再生し、もう一度空へ舞い上がっていく。

 なんだその無駄な根性は。


「しかもあの黒い羽から敵が出るのよ」


 黒い羽一枚一枚から、別の堕天使が生み出される。


「うっわ……うっざいな」


「家に被害が出ないように戦うのは面倒だったよ」


「ラファエルとかミカエルと呼ばれる天使じゃな。まあ雑魚じゃ」


「んじゃ消そう」


 魔力波を撃つ。消せたけどなーんか効きが悪い。


「ヘルヴォルの特性か」


「特性?」


「メイン盾なんだよ。自分以外への攻撃を防ぐと無効化できる。まあそれ以上のパワーで殺せるから、気にしなくていい」


「完全に消滅させても増えるんだよ。こんな風にね」


 ラーさんの指先が、ほんの少し、本当にちらっと光る。

 そして内側から光の飲まれて消える堕天使軍団。


「おおーこりゃ凄い」


 流石太陽神。上級神はもうレベルが違うね。光を内部に撃ち込み、一気に爆発させる。眩い光が全てを消す。説明は簡単だが、恐ろしいほどの純度の魔力をコントロールしているから可能なことだ。


「あ、復活しましたね」


 黒いスクルド……黒ルドが浮いている。


「無理やり話させるとか?」


「会話できる機能が無いようじゃ」


 どうするか悩んでいるうちにも堕天使が生産され、俺達に殺されている。

 心底うざいので、さっさと終わらせたいが。


「まーたなにか出てきたよ……」


 黒ルドの胸から現れましたのは、丸くて水色に光る玉。

 その光が照らす場所より、アーマードールの増援が出現。

 お客さん多すぎませんかねこの家。


「アーマードールのコアじゃ。なんじゃいあいつ。どんだけ要素盛り込む気じゃ」


「ヴェルもアーマードールを使っていた。召喚先を特定できないかね?」


 いい加減機関の連中には飽き飽きだ。ここらで消息を掴んでやる。


「あのコアが特別性なら、製造元くらい特定できるわ。でも肝心のスクルドが復活する。無傷で奪うのは難しいのよ」


 ここでアルヴィトから意外な発言。こいつ有能だな。


「コアと黒ルドを切り離しても解析できるか?」


「できるわ。召喚はコアに書き込まれているから、スクルドは魔力でそれを発動しているだけ。問題はどう切り離すかよ」


「なら任せな」


『ソード』


 さて、それじゃあ大手術の始まりだ。

 周囲の時間を止めて、浮いている黒ルドを地面に叩き落とす。


「……無駄に緊張するなこれ」


 鎧の知識と剣の力により、コアにゆっくり剣を差し込んでいく。

 これでまずスクルドとコアの繋がり、そしてコアの内部にあるスクルドの意識と権限を刺し殺す。


「よし、摘出完了。イロハ、影筆」


「はい先生」


 気分はすっかりオペである。

 イロハに『全権限をアルヴィトに移譲する』と書き込んでもらった。


「結界」


「はい」


 リリアと卑弥呼さんで厳重な結界を張り、コアを隔離する。


「消毒」


「任せろ」


 剣で完全消滅させる下準備。空中へ投げて三枚におろす。


「はっ!」


「せいっ!」


 俺とラーさんの魔力波で消毒。堕天使などという汚物は消しましょう。


「掃討」


「はーい」


「終わったらお鍋ですよ」


 俺とシルフィで時間を止めて、全員で堕天使を掃討。

 アーマードールは景観にふさわしくないので、きっちり消そう。


「はぁ……つっかれた……鍋食おうぜ」


「おつかれさまー」


「すまないね。我々のごたごたに巻き込んでしまって」


「いいですよ。悪いのは機関とヴァルキリーです」


 鎧を解除。コアは保管してもらって、全員できりたんぽ鍋を食べた。

 実は初めての経験だったけれど、これが予想外に美味い。

 野菜も肉もいい塩梅で、味が染みているのか、醤油ベースのスープも美味かった。

 運動で腹が減ったせいか、かなりあった具材は全てなくなる。

 今度家でも作ってみようと、俺はひっそりと誓った。

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