新魔法と電撃の応用

 プールに遊びに来たのに、水関係の敵と戦うことになった。


「サンダードライブ!」


 ちょっと実験。水の上に電気を走らせてみた。

 敵との距離は十メートルちょい。当たりはしたが威力は落ちている。


「魔力って物理法則効くのか」


 前はもっとスムーズにできた気がするんだけどなあ。


「そこで主人公補正じゃよ。頭で考えるのではない。心ができると納得すればよいのじゃ」


「んなこと急に言われてもなあ……」


 アイスゴーレムさんの足が水になり、水上スキーのようにこちらへ移動してきた。


「なんだありゃ」


「水と氷の中間なんじゃよ」


「結構速いから気をつけてね」


 本当に意外と速い。横っ飛びでかわすが、すれ違いざまに繰り出された拳に反応が遅れた。


「ちっ、面倒な」


 剣の腹で受け止め、そのまま後ろへ飛んで距離を開ける。

 なるほど、そこそこ威力があるな。真正面からの切り合いは不利だ。


「動いて、斬る!」


 猛ダッシュで切りつけて駆け抜ける。止まれば反撃を食らう。


「回復してません?」


「床が水だからよ。そこから欠けたパーツをくっつけているの」


「じゃあさっきはなんで死んだ?」


「核を攻撃するか、回復できない量の攻撃を叩き込めばよい」


 結構無茶な注文してくれるな。

 正確に敵の弱点をつくのは苦手。というか素での経験がない。


「鎧に頼ってっからな」


 ゴーレムの肘がぐるぐる回転している。

 なんだあれ。水が渦を巻き、嫌な予感が広がっていく。

 避ける準備をしよう。


「敵をよく見るのじゃ!」


 ロケットパンチのように氷の腕をすっ飛ばしてきた。

 素早く横に回避。流石に見てりゃそれくらいはできる。

 飛んでくる拳はかなりでかい。三十センチくらいはあるぞ。


「サンダースラッシュ!」


 電撃を縦に凝縮して、斬撃として飛ばす。

 拳を半分くらい斬るも、途中で燃料切れを起こして消える。


「このくらいの魔力だとこんなもんか。面白い。実験開始だ」


 いい機会なので、魔法の強弱を変えたりして精度と威力を確認しよう。


「サンダーシード!」


 剣を床に立て、一気に振り上げて水しぶきを飛ばす。

 これはダメ。水飛沫が小さすぎて魔力を維持できない。

 途中で飛沫そのものが分散してしまうのも原因だな。


「ダメか。次、ライトニング……フラッシュ!!」


 両手から迸る雷撃の渦は、見事氷のロケットパンチを消し飛ばす。

 一匹巻き込んでいるのを感じ、更に威力を増してみる。


「はあぁぁ!!」


 よしよし、魔力の電撃は氷も水も通すしぶっ壊せる。

 一匹撃破だ。これで通せると心が理解した。通し方も感覚でわかった気がするぞ。

 ついでにさっきの水しぶきで新魔法思いついた。


「魔法は心の力。恥ずかしがらずに叫んでノリで使うべし。サンダースプラッシュ!!」


 目の前に大きな雷球を作り、真正面に向けて全力でぶん殴った。

 破裂した雷球は、水しぶきのように分散して、微弱な電撃の嵐となる。


「静電気よりちょっと痺れるくらいを想定したが、結構足止めには使えるかな」


 アイスゴーレムにばっしばし当たっては、ちょこっとだけ動きが止まる。

 人間相手なら十分隙を作れるだろう。問題点も見つけたい。


「おお! なんか綺麗! いいよー! アジュかっこいいよー!」


「魔法は創意工夫と本人次第。よい傾向じゃ」


「そのまま勢いに乗りましょう!」


 もう一度サンダースプラッシュを発動。

 わざわざ雷球を出さなくても、拳を突き出せば集約した魔力を破裂させられた。

 こうやって洗練されていくの超好き。死ぬほど楽しい。


「なるほどね。こりゃ使い所が難しいな」


 今度は水の壁を出されて全弾かき消された。

 個々の威力が弱いから、ちょっと強い壁には阻まれる。

 必殺まで威力を高めるならライトニングフラッシュでいい。

 乱戦中の目眩ましに使うとかだな。


「うおっ!? とっとと……あっぶね!」


 残り一匹が接近戦を挑んでくる。

 水場なのもあってか移動でもたつき、うまいこと距離を離せない。


「そういや移動技ないな」


 電撃で移動技って思いつかない。これは想像力の問題かも。


「敵をもうちょい増やすのじゃ」


 さらに二匹追加される。しかもでかい。体格で上回る相手にはスピード勝負だ。


「リリア、回復用意」


「何する気じゃ?」


「全力出してみる」


「うむ、思いっきりやるがよい」


 さて、倒れる心配はなくなったな。

 人差指と中指を額に当て、集中して魔力を頭から全身へ流す。


「リベリオントリガー!」


 いつもの切り札発動。しかし、なんか安定しない。

 足元から電気が余分に流れ出ている。


「そうくるか……」


「集中じゃ。言い方を変えるなら自分の世界に入るのじゃ。主人公は勢いで法則なんぞ無効化できるものじゃよ」


「簡単に言ってくれるな」


「水の上を歩く訓練を思い出すのじゃ」


 あれか。あの時は確か……できて当然、ごく自然に、無意識で。

 こっちが集中しているってのに、おかまいなしに敵が来る。


「ちっ、オラア!」


 地面を蹴って無理矢理上空へ。身体強化されている今ならできる。


「これどうやって着地するんだ?」


「そういうことを考えてはいかんのじゃ」


 敵の腕が飛んで来るのを剣で弾き、空中で回転して避けるその時。


「…………ん?」


 リベリオントリガーは全身に循環し、外壁としても纏われている。

 髪も青白く光るし、オーラのようなもので体が照らされるわけだ。

 その一部が制御を離れて飛び散っていく。

 それは円の軌道を描くもので、サンダースラッシュと似ていて。


「やってみるか」


 空中でくるりと横に一回転。なんとなくこれでいける気がした。

 ならば正解なんだろう。俺ができると決めたんだ。

 正解かどうかは世界じゃない、俺が決める。

 俺に主人公補正ってのが定着し始めているのなら。


「世界よ、俺に従え!!」


 回転して遠距離からの回し蹴り。

 足から離れず、電撃が長いムチのようにしなってゴーレムをなぎ倒す。


「いける!」


「電気に実体っていうか質量もたせてる? 物凄く高度で繊細な作業なのに……アジュってたまに凄いことするよね」


「リベリオントリガーで全身が魔力まみれだからできることじゃ。意識して区別しているわけではない。凄いことに変わりはないがの」


 電気の両手を地面へ伸ばし、続いて両足を伸ばして着地。

 俺自身に衝撃は来ないから、そのままゆっくり降りてしまえばいい。


「まだ使い道がありそうだな」


 魔法名が思い浮かばないということは、これは副産物なのか。

 それともさらに上の段階があるのかね。


「こういうのは……どうだ!」


 剣と電気の腕を結びつけ、敵に向かってぶん投げる。

 氷の胸を貫いて刺さる剣。そしてしっかり握ったまま伸びている電撃。


「こいつで終わりだ!」


 もう一度ジャンプして、魔力で俺自身を剣のもとへと引っ張る。

 途中で足に回転する電撃をくっつけて威力アップ。


「オラアアァァ!!」


 見事蹴り砕き、室内に衝撃と氷の結晶が舞い散っていく。


「よしよし、なかなか楽しかったぜ」


 魔法を解除して、みんなのいる場所まで戻った。

 いい気分だ。気持ちが上向きになるという、俺にしては珍しい現象が起きている。


「どうだ、かーなーり頑張ったぞ」


「うむ、男前に見えるのじゃ!」


「戦ってるアジュもかっこよかったよ!」


「素晴らしいわ!」


 拍手喝采。たまには外に出てみるもんだ。新魔法と戦闘スタイルが増えたぞ。

 これからも研究していこう。魔法はいくらでも遊べて楽しい。


「よし、疲れたから少し休もう。遊ぶのはその後だ」


 収穫十分。その後もちょっとプールで遊んでから自宅へ帰った。

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