異世界武器屋探訪
比較的安めな武器屋が並ぶ区域にやって来た。
まだ外は暑いので、どこかに入りたい。
「おすすめとかないか?」
「あじゅにゃんはどんな武器がお好みかな?」
「普通のやつで。円月輪とか拳につけるやつはダメ。剣くらいのリーチは確保してくれ。ハンマーのように重い武器は無理。ちょいとわがままかな」
「いや、ガチで選ぶなら要望は細かい方がいいだろう」
「初心者向けを多く扱っていて、大きなお店は……あれとかどうかな?」
三階建てで、レンガ造りに見える大きな店。
通りに面しているショーウィンドウには、綺麗な武器が並ぶ。
この世界に来て、武器とは芸術品に近く、綺麗だと感じることがある。
「完全にうちの関わっている店だぞ。まあいいか。サカガミの事情を知らせすぎるとまずいし」
「そういうことさー。あじゅにゃんは秘密の凄い人だからねー」
ホノリの行きつけのひとつらしい。大手鍛冶ギルドと武器工房の系列店かな。
「いらっしゃいませー。おやホノリお嬢様。武器の売れ行きですか? バッチリですよ」
店員は金髪で短めのポニーテール。角は……牛かな。長身の女だ。
「いや、今日は客だよ。こいつの武器を見て欲しい。あとお嬢様は恥ずかしいから勘弁して」
鍛冶科だし繋がりがあるのだろう。
「おやおや、彼氏ですか?」
「まさか。こいつはもう予約されてるよ」
「そういうことじゃ」
ここで無言でいることこそ、俺のやるべきことだ。
否定も肯定もしてはいけない。武器を見よう。
「初心者用の武器を探しています」
「ほうほう、いっぱいありますよー。そのお腰の剣、ちょいと見せてもらっても?」
「どうぞ」
渡した剣を抜き、なにやらうんうん唸っている店員さん。
「超初心者用ですな」
「ええ、これと同じか、ひとつ上くらいを探しています」
さっき言った条件をそのまま言う。店員さんはちゃんと聞いてくれる。
「では剣を色々見てみましょうか」
剣コーナーへ移動中、ちょっと気になったことを聞いてみる。
「さっき言っていた武器の売れ行きってなんだ?」
「ちょっとした縁でね。自作の武器を並べてもらってんのさ」
「リウスさんの武器は頑丈さと手入れのしやすさが素晴らしい! 好評ですよー」
「ほのちゃんの武器は、置いて欲しいっていうお店が結構あるのさ!」
鍛冶職人の血を色濃く受け継いでいるのだろう。
「最近さらに質が増して……ちょっと方向性が変わったというか、もっと上を目指している感じって評判です」
ソードキーの影響だな。あれを目指すのなら、半端な覚悟では到達できない。
「はい刀剣コーナーです。初心者用コーナーも充実の品ぞろえだよ」
二階全部が武器の並ぶ場所だ。清潔で、しっかりと固定された様々な武器は、見ているだけで楽しい。これはテンション上がるわ。
「おー見事なもんだ」
「お兄さん、流派はございますかい?」
「流派って言われても……実戦と……フルムーン流? とフウマ流かなあ。ミナさんのってフルムーン流だよな?」
「ぐっちゃぐちゃだねえ」
「あっちの剣術に、ちょっとおぬしが使いやすいようにアレンジが入っておる」
習っている剣がそんな感じだ。
ミナさんとシルフィ、あとはイロハにコタロウさん。
初心者講習で戦士科に行くことはあるが、それは訓練目的で、流派の習得とかじゃない。むしろ我流スタイルを見つける場所だし。
「特別な型はないですね。切り合いや鍔迫り合いは苦手です」
「ふむむ、ククリとかどうでしょ? 引っ掛けたり、峰打ちできるタイプもありますし」
独特な形だ。先端から軽く弧を描くように太く造られた刀。
「ちょっと工夫のいる刀ですが、慣れたら独特の使い心地ですよ」
試しに持ってみる。重心が今までの刀とは違う。
刃も太め。扱いに修練が必要っぽい。
「ちょっと重いかな。鞘にしまうのが大変そうだし」
「その鞘を改良すれば使えますよ。学園製のいいやつですねえそれ」
「特殊合金だね。それでも安い方だよ。もっとどんな剣でも収納できるやつは高いのさ」
どうやらいいものらしい。ならあまり形に拘らなくてもいいか。
「ん、あれどうだろ」
「カトラスですね」
湾曲した刀身と、刀に近い細身の刃。刀よりはちょっと短いけれど、拳をガードする部分もついているので、指を切られる可能性も減りそうだ。
「よいかもしれぬのう。切れ味に特化させた剣じゃな」
「指ガード部分と刀身が綺麗だな。電気流しても大丈夫ならこういうのがいい」
「電気?」
「あじゅにゃんは雷属性なんだよ。武器に魔法付与もできちゃうし」
「おお、レアスキルですか。そいつは面白い」
やはりレアか。雷って俺以外で使っているの見たこと無いな。
「魔法に耐えるとなると……魔法伝導率とか、耐久力の検証が必要ですねえ。ちょっとお高くなりますよ?」
「今までの剣はなんで平気だったんだ?」
「初心者用に、とにかく丈夫に、扱いやすく作られておるからじゃ。おぬしの魔力が弱かったのもあるのう。手入れもこそっとわしらでしておった」
どうやら俺の知らないところで、ギルメンやミナさんによる修復と魔法強化が行われていたらしい。
「今度から自分の武器は自分で手入れするか、予備を持っておくのじゃな」
「そうだな。今までありがとよ。んじゃ手入れのしやすさも考慮するか」
「雷の付与魔法使える人少ないんですよねえ……ちょいっと武器の耐久実験とか付き合って欲しいくらいですよ」
炎や氷に耐久性の高い武器とかあるらしい。
もしくは魔力をより効率的に流すとか。いわゆる属性剣もあるんだとさ。
「使い手が少ないってことは、武器も少ないってことか」
「オーダーメイドになるじゃろうな」
「あんまり特殊な武器じゃなくて、普通の武器を扱えないとなあ」
でなきゃソードキーでいいし。超軽くてレアな武器じゃ訓練にもならん。
「カトラスは確定なのかい?」
「レイピアみたいに突き主体のものはきつい。細すぎても無理。バスターソードみたいな太くて重いのもしんどい。なんか手に馴染むんだよこれ」
カトラス確定かな。色々持ってみたり振ってみるが、しっくりこない。
他になきゃこれでいいかも。気に入ってしまったんだよ。
「長い刀はいいの?」
「今のやつ以外も使いたい。使える武器を増やしつつ、ベストを模索する感じ」
「ほのちゃんが作ってあげたら?」
「ここまで来てか? 店に失礼だろ。俺はこいつでもいいし」
ホノリの武器は頑丈で手入れがし易いらしい。
俺向けだが、ここまで来て買わずに買えるのも失礼だろう。
店員さんも親切にしてくれているしなあ。
「手に馴染むってのは大切ですよー。なんなら作っていきます?」
「作る? 自分で?」
「リウスさん、鍛冶制作や委託の許可お持ちですよね」
「あるけどさ……」
学園から許可をもらうと、武器屋とか工房に自作の武器を売っていいらしい。
そのため大きな武器屋には、大抵工房が近くにあるらしく、そこで共同作業なんかもするんだとか。
「材料さえ集めてくれたら、うちの工房もお貸しします。リウスさんの作った最新作独占販売! これは儲かりますよ! しかもレアスキル雷の実験済みとして売り出せる!」
「実験て……俺も参加するんですね」
「してくれたらお安くしますし……材料集めもしてくれたらもっとお安く!」
「悪い話ではないのう」
ちょっとだけ小声でリリアと相談。
「爪と牙ってどんくらい残っている?」
「牙四本。爪が十本じゃな。目玉は二個。目玉は残した方が良い」
「爪か牙を半分くらいだな」
「ちょっと近くの鉱山に行って、ずばばーっと採掘ですよ。量はこっちで許可取りますので、それ以上は取らないでくださいまし」
もう金儲けのことしか考えてないなこの人。
なにやらホノリと相談が始まっている。
「行くかどうか決めてないぞ」
「決めてくれたら、ちゃんとクエスト出しますよー?」
悪い話じゃない。材料集めて武器ゲットって楽しそう。
ついでに学園の施設も見て回れるし、安く手に入るのならば歓迎だ。
しばし悩み、ちょっと長めの相談タイムに入ったのだった。
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