第165話 魔界でお父様にご挨拶

 学園と魔界を繋ぐ巨大で豪華な門をくぐり、俺達は魔界へとやってきた。


「ようこそ魔界へ! 歓迎するぞジョークジョーカー諸君! ハーッハッハッハ!」


 テンション二割増しのマコ。里帰りが楽しみだったのだろう。


「ここが魔界か……想像していたより普通というか……もっと地獄みたいな場所だと思ったが」


 太陽が二つ。月が一つ。昼なのに星が煌く空。木々がうねうねしているし、葉が赤かったり黒かったりするけれど、それほど予想外でもない。


「地獄は魔界じゃが管轄が違うのじゃよ」


「全員門に入る前に魔法を染み込ませたろう? あれが通行証代わりだ。間違って地獄に行っても鬼が迷子案内をしてくれる」


 そういやマコの魔力をじんわり染み込ませたな。

 なんか儀式だと言われて従ったっけ。


「まあ生身の人間が来た時点で迷子として対応されるがな。オレ様が迎えに行くことになるから迷わないように」


 勘違いしてはいけないのが、魔界は別に人間界と敵対してもいないし、戦争やっているわけでもない。

 ぶっちゃけ戦ってすらいない。魔界のどこどこ産の果物でーすとか学園で売っている。

 調理科の魔族が出している出店には、独特な調理法で評判のいい店もあったりな。


「太陽が二つあるのにそれほど暑くないな」


「あれは魔星だ」


「ませい?」


「魔力の源じゃよ。あれと太陽や月の光が重なって魔族の力となる。人間でいう太陽の光で成長するようなもんじゃ」


「……そういうことだぞ」


 マコがふくれっ面である。


「すまんのう、ガイドは現地のものに任せるとするかの」


 ああ、リリアに解説役を取られたのが寂しかったのか。


「すまないルーン。よーし、オレ様がばっちり案内してやるから感謝でむせび泣くがいい!」


「お嬢様。お迎えに上がりました」


「案内が……ああ……すまない……ありがとう」


 迎えに来たメイドさんだろう。ひどくがっかりしたマコを見てうろたえている。


「何か粗相を……?」


「いや、なんでもない。足は?」


「直通の魔列車を準備しております」


「ご苦労。こっちがオレ様の四天王だ」


 とりあえず挨拶と自己紹介を済ませる。メイドさんはちょっと驚いているみたいだった。

 全員人間なのがまずかったか? まあどうしようもないのでほっとこう。


「ではこちらへどうぞ」


 魔列車という名の黒いだけで普通に見える列車に乗ること一時間。

 そこから見えるお屋敷まで馬車で三十分。ついにその巨大なお屋敷へと到着した。

 ザ・貴族様の洋館である。


「眠い……」


 中途半端に乗り物に乗ると眠くなるよね。もう寝たい。


「これから挨拶に行くんだから、もう少しだけしゃきっとしていてくれ」


「頑張ってアジュ」


「応援が必要なのか……挨拶したら部屋で寝ていいぞ」


「頑張るぜい」


 玄関の扉が開く。中は吹き抜けの二階まで吹き抜けのエントランスホールになっていた。

 そこにやたら黒にまみれた服で、赤マントのおじさんが仁王立ちしている。

 輝くような銀髪の渋い美形おじさんだ。凄い筋肉してやがる。


「父上、ただいま戻りました」


「フッフッフ……ククク……アーッハッハッハ! よく帰ったなマコ!!」


 あれが親父さんか。ええぇ……マコの格好は遺伝なのかよ。


「久しぶりだな。ますます母さんに似て美人になってきたじゃないか」


「いえそんな。父上こそお元気そうで何よりです」


「まあそう堅苦しくなるな。そちらがマコの四天王かな?」


「はい。里帰りの際に連れ帰って欲しいとの父上の頼みを聞き入れてくれました」


「そうかそうか。無理を言ってすまないね。マコの父、二代目アモンだ。これでも魔王の一人だよ。おじさんでも二代目でもアモンさんでも好きに呼んでくれ。自慢じゃないが心は広いぞ。私の領地のようにな! カーッカッカッカ!!」


 テンションたっけえなあ……一応しっかり自己紹介はした。

 魔王は複数いて、アモンは襲名した苗字兼名前らしい。

 つまり今のマコはマコ・アモンだ。


「そうかそうか。四天王ができたか。マコを支えてやってくれよ」


「はい。まあ支えられているのはむしろこちらですよ」


 さらっとマコの株を上げておいてやる。これも仕事だ。っていうか早く寝たい。


「よくできた男だ。だが、マコに色目を使うんじゃあないぞ? マコが欲しかったら私くらい強くなってくれ。」


 多分鎧使えば倒せるんだろうけど、黙っておこう。俺は四天王最弱でございます。


「ご安心ください父上。この三人がサカガミの恋のお相手です」


 いやそれは違う……最近違わないかもしれないけれど違うから。


「楽しい仲間じゃあないか。いいぞ気に入った。さ、客室にご案内して」


 ふっつーに楽しい仲間で流された。豪胆なおじさんだな。


「夕食まで時間がある。好きに部屋でくつろいでいたまえ。自宅だと思ってくれて構わない」


「なにからなにまですみません」


「いやいや、マコが人間のお友達を連れて来たんだ。歓迎するよフハハハハハハ!!」


 高笑いを挟まないと会話できんのかい。マントをばっさばっさしおってからに。


「明日のパーティーまで羽を伸ばしてくれ。私の領地はいいぞ! 綺麗で観光名所が多い! クハハハハハ!!」


「パーティーというのはその……私達も出ていいものですか? 魔族の血が入っていない私達が?」


「なんなら俺達は外で待機していますが」


 っていうか貴族様のパーティーとか出たくない。絶対に面倒じゃないか。


「心配ない。人間の四天王がいる魔族もいるさ」


 はい、出ることが決定です。はじっこでだらだらしていよう。そう決心した。


「あれは面倒なことを避けようとしている時の顔だね」


「余計なこと考えておるのう」


 ギルメンにばれている。まあいいさ。いざとなったらフォローしてもらおう。


「ではオレ様が案内しよう。父上、失礼します」


「ああ、あとでゆっくり話そうね。久しぶりに会った娘と一家団欒というやつを楽しみたいから」


「はい、また夕食時にでも」


 そして豪華な客室へ案内される。俺達四人に並んで一部屋ずつ。

 高級ホテルよりは金持ちの屋敷という感じだ。

 調度品が豪華で家具がアンティークっぽい。


「で、なぜ全員俺の部屋にいる?」


「無論なーんもやることがないからじゃ」


「知らない場所でアジュとあんまり離れたくない……」


「そうね。見知らぬ土地で一人は心細いもの」


 言いながら擦り寄ってくるイロハをかわす。スルースキルが物理的に上がっているな。


「アモンさんがいい人そうで助かったな」


「相当の魔力だったのう。しかもわしらを怖がらせないように極力押さえ込んでおった」


 当然俺は全く気付かない。だってそんなんわかるわけないだろ。


「ただ単にひたすら強いというのは、それだけで魔族の憧れなんだ。それに加えて父上は戦わず和解したり、不思議なカリスマを持っている」


 カリスマっていうのかねあれ。気さくなおじさんであることは理解した。


「さてサカガミ。服を選ぼうか」


「服? パジャマなら持参しているから問題ない」


「パーティーに制服で行くつもりか……」


 今は全員制服だ。防具としても性能がいいし、動きやすくて肌触りもいい。

 伸縮性、通気性もいいからこれ一着でだいたいどうとでもなる。


「全員分の服を用意してある。好きな服を選んでくれ」


 クローゼットにずらっとドレスが並んでいる。


「おおー、すごーい」


「それじゃあお言葉に甘えて。アジュ」


「ん、終わったら起こしてくれ」


 女の服選びは長くなるに決まっている。ベッドがあるんだから寝てしまおう。


「一緒に選ぶのよ」


「女の服なんてわかるわけないだろ」


「似合うかどうかだけでもいいからさ」


「似合う似合う」


「まだ着てもいないのに!?」


 本当にわからないんだよ。お前らは素材がいいんだから、何を着ようが似合うに決まっているだろうが。


「はいはい、ほら脱がせたわよ」


 いつの間にか俺の服が脱がされている。ベッドの中だったので、こいつらには見られていない。


「汚いな流石忍者汚い」


「一応下着は残してあげたでしょう?」


「勝手に服を脱がすな!」


「そうね、そこは反省するわ」


 自分のカバンに俺の服を入れようとしているイロハさん。


「いやだから返せよ!?」


「落ち着くのじゃ。まずアジュの服は独占しないようにテーブルに置く」


「俺のだよ。俺が独占していいものだよ」


「本当にアジュの服だとしたら……アジュは今服を着ていないはず! 証明するためにベッドから一回出るべきだと思います!」


「んなわけあるかあ!!」


「オレ様は部屋に戻る。満足したら服を選んでおけよ」


「いや助けろよ!?」


 マコに置いていかれると困るので、渋々服選びに付き合うことになった。

 決まったみたいだけど、正直服の良し悪しなんてわからんよ。何を着ても似合うんだから。

 俺の服もタキシードっぽいやつに決まり、今度こそ夕飯までの数時間を仮眠に使うのだった。

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