別の学院があるらしいよ

 朝。つまり俺がまだ寝ている時間だ。

 もちろんのことベッドにいるわけだが。


「誰もいないな」


 他人の家だからなのか、ちょっと自重している気がします。

 毎回隣にいるのは少し困る。


「つまり寝てもいいということだ」


「もう九時じゃ。さっさと起きるのじゃ」


「はやっ……いやまだ寝ていていいだろ」


 ベッドの横にリリアが来た。

 シングルベッドだからか、いつもより距離感がつかめない。

 中央で寝ているのに、楽々距離を詰められた。


「ほれほれ起きるのじゃ。朝ごはんできておるぞ」


「眠いのに……食ったら寝ていいか?」


 魔界は程よく暖かく、実に睡眠日和です。

 そういやここ魔界だったな。


「ほーれ、もう魔法で着替えさせたのじゃ。二度寝はできんじゃろ」


 あら本当。いつもの学園制服だわ。

 洗濯されて真っ白じゃない。


「お前らはなぜに俺の服を脱がす手段があるのさ」


「パジャマのままは確実に二度寝するじゃろ」


「制服も素材が柔軟でな。寝ようと思えばいけるぜ」


「では私服にするのじゃ」


 普通のズボンと長袖のシャツにされました。

 ちなみに不便だからとリリアが買ってきた。

 俺が服なんぞ自腹で買いに行くわけなかろう。


「……全員いたりしないだろうな」


「わしらと何人かだけじゃろ」


 この家にいるメンバー全員と食事とかめんどい。

 十人を超える場所が嫌いです…………五人でもしんどいな。

 んなことを考えながら移動し、なんか豪華な机で飯を食う。


「本当に起きてこねえんだなお前さん」


「ええ、普段寝ていますので」


 ヴァンとバエルさんがいた。朝っぱらから酒のんで肉食ってやがる。


「みんなで食べようという案もあったのですが、マスターが嫌がるだろうと」


 アスモさんが横で紅茶をいれてくれる。なぜかメイド服で。


「なにやってんですか?」


「マスターのご奉仕メイドになろうかと」


「いりません」


 冷たい紅茶は心が落ち着く。

 取れたはずの疲れで寝てしまいそうだ。


「少し詰め込み過ぎて疲れたのかもしれんのう」


「回復はしてもらったよ」


「心労を癒やすメイドが必要ですわね」


「それはアスモさんではありませんね」


 疲れたおかげでちょっと魔法のアレンジができそうだ。

 まあ今日は適当に遊ぼう。連続で戦闘は拒否します。


「俺はとりあえず今日だけでもゆっくりしようと思います」


「おう、しばらく遊んでりゃいいさ」


「オレは食休みしたらまた修行だ」


「昨日も散々やったんだろうに」


「おう、おれっちが徹底的にな。頑丈なやつだ」


 魔王との特訓に耐えるって相当だぞ。

 よく食らいついていけるもんだ。感心する。


「ぶちのめされたおかげでな、新技ができそうだ」


「まだ成長できるのか」


「オレは転んでもただじゃあ起きないぜ」


「ほう、やるな。俺にはできない芸当だ」


 転んだら担架でゴールまで運んで欲しい系男子だからな。

 担架に枕とか水が常備されていると素晴らしい。


「もうダメ人間まっしぐらじゃな」


「好きな時にだらだらできるダメ人間でありたい」


「だらけてばかりではないか」


「いいんだよ。俺は俺の都合と、三人の都合を優先します。他の人は各自頑張ってください」


 まず徹底して自分が楽できる基盤を作る。

 自分が辛いのに、他人に奉仕することは無い。断言しよう。


「でもマスター、その生き方を続ければ、それだけ人は離れていくかもしれませんよ?」


「さっさと離れてもらえますかね?」


「えぇ……」


 いや邪魔なんだよ。そいつが善人か悪人かは関係ない。

 勝手に近づかないでください。

 人脈や世界が狭くなることを嫌う層の思考が理解できん。


「アジュへの理解が足りていないわね。それじゃあハーレム入りは認められないわ」


 いい具合に食い終わったところで、イロハとシルフィ登場。

 家を探索していたらしい。元気だな。


「アジュ、プールあったよ!」


「そうか、溺れないようにするんだぞ」


「ナチュラルに断られた!?」


 この家なんでもあるな。あとで俺も探索しよう。


「マスターの水着、選んで差し上げますわ」


「行くって言ってません」


「さ、オレは訓練訓練っと」


 そそくさと逃げるヴァン。ずるいぞ。

 ソニアとクラリスが待っていたようで、三人で去っていく。


「これはプール行くしかないね!」


「そうね。もう少ししたら寒くて泳げない季節になるわ」


「たまにはサービスしてやんな。マーラも休日はそうやって過ごしてたぜ」


「その休日を誰かさんのせいで学園に持っていかれたと恨んでいましたよ」


 マーラは学園で魔王としてお仕事している。

 ギャラは破格で、寝泊まりする場所も高待遇。

 さらに自分の女を連れてきていいという条件らしいが。

 それでも面倒事はごめんだねえ。


「さ、おれも訓練見てやんねえとな」


 バエルさんが逃げようとしています。

 そこにパイモン登場。何やら話し始めた。


「魔界に浮島が来ましたよー」


「おんやあ、そんな話あったかい? まーたおれが行くんじゃねえだろうな?」


「別の魔王が担当するはずです。ボクもマーラさんも違いますねー」


「あー……私と……あと二人くらいの領地を通るはずだったわねえ」


 なにやらアスモさんがいなくなる好機到来。

 それ以外の一切は不明です。


「天学の連中め、よりによってバカンス中に来るかねえ」


「てんがく?」


「エリュシオン天空学院じゃな。巨大な空飛ぶ島にあるリッチな学院じゃよ」


「ほー……まあ学園が世界に一個ってことはないわな」


 膨大な敷地を誇るブレイブソウル学園だが、それでも全員が通えるわけじゃない。

 交通・費用・体調・風土まで様々な理由で通えない人間もいるだろう。


「にしても空飛ぶ島ねえ……ロマンがあるじゃないか」


 そんな場所に行くなら、普通に学園くればいいんじゃないかな。

 逆に大変だと思います。


「俺の領地通りませんよね?」


「通りませんよー。あそこは何人たりとも侵入を許していません」


「お前さんの逆鱗がわかんねえからな。できる限り触らずにそーっとしておく方針だぜ」


「なら安心ですね」


 知らないうちに荒らされていると気分が悪い。

 ここは素直に感謝だ。


「で、その天学ってのはどういうところなんだ?」


「基本的には雲の上じゃ。時折様々な場所に降り立っては、そこの猛者に教練を願う」


「ずっと空なんて場所にいるとな、選民思想ってやつが芽生える」


「自分たちが一番強いと錯覚してしまう。だからたまーに達人に倒してもらうのですよー」


 ドMなのかな。俺には理解できん。

 そんなことのために魔界にやってくるとか、ご苦労なことだ。


「だがしばらく降りてこなかったはずだぜ」


「ん? 前にバエルさんが相手をしたのでは?」


「そりゃ十年近く前だ。今どうなってんのか、情報が少なくてな」


「卒業生とかいるでしょう?」


「ほとんどが学院に就職してしまうし、指導者が変わったとかで秘密主義になっちまってるのさ」


 はい怪しい気配がしてきましたね。

 これはいけませんよ。完全に面倒事だよ。無駄なバトルしそう。


「…………プールいっとくか」


「いいの?」


「できる限り学院にかかわらずに遊ぼう。これ以上はダメだ。俺が鎧で解決することになりそう」


「……いつものパターンね」


 一同うんざりである。今のうちに遊んでおこうね。


「マスターに迷惑はかけられませんわ。名残惜しいですが行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 アスモさんは自分の領地へ、バエルさんは訓練へ。

 パイモンはちょっと書類仕事。マーラさんは例の書斎だ。


「じゃあ今のうちに遊ぶぞ」


「うむ、出発じゃ」


 家の中を少し歩くと、大きな室内プールがある。

 なんかえらい豪華に作ってやがるな。

 競技用と大人数で遊べるやつが完備。


「魔王って……本当にわからん」


 金持ちの気持ちは理解できん。

 無駄なことは考えず、着替えを済ませてプールへ。


「お、来たか」


 三人がやってきたが、なぜか全員スク水である。

 お前らちゃんとした水着持っているはずだぞ。


「今回のテーマは、学生ならではの思い出。そしてマニアックさじゃ!」


 ほほう、こいつはバトルより面倒なことになりそうだぜ。

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