買い物して晩飯を作ろう

 シルフィとアンジェラ先輩と一緒に晩飯の買物中。

 スーパーみたいなもんが学園内にもあるので、そこで安いやつを探す。


「シルフィ、わかっているな?」


「わかるよ。こっちのどれでも二個選べるやつは、一見お得だけど、あっちの特売のお肉の方が安い」


 選べるやつはフライドチキンだったり、焼き鳥だったりのまとめ売り。

 これは加工して調理されているせいで高い。


「そうだ。当然質は落ちるが、だからこそ安い。料理されていないということもある」


 こうして一緒に買い物する時は、シルフィに庶民感覚を植え付けるのだ。


「こっちのチャーシューは、特売の鶏肉やハム切り落としより少し高いな」


「特売を一個にして、こっちも買う?」


 シルフィも応用が効くようになっている。

 完璧な庶民の感覚までもう少しだな。


「いいや、そろそろ割引される」


「そっか、そこを狙えば鶏肉とチャーシューが買える!」


「そうだ。あとは麺さえ確保しちまえば、安くて美味いラーメンにできる。ネギ買っとけば、数日昼飯ラーメンか焼きそばにできる」


「いやいや何やってんの? シルフィお姫様っしょ?」


 アンジェラ先輩が呆れと困惑の混ざった眼差しを向けてくる。


「共同生活していますし、今後のためなんですよ」


「ん~? お姫様の今後っしょ? 豪勢なごちそう食べまくるんじゃないの?」


 まあ何も知らなければ、そういう反応だろう。ごく自然なことだ。


「甘いですね先輩。わたしたちの将来というのは、アジュと一緒にいる未来ということです」


「俺が学園を卒業した後、なんかめんどくさくなっちゃって、自宅でずーっとだらだらし始めたら、今のような豪華なご飯は食べられないんですよ」


「えぇー……」


「だからしっかり節約できるようになって、庶民生活も覚えて、みんなでアジュを支えたり養う練習なのです!」


「いやいや……えぇ……ガチ本格的にわかんねー」


 今日一番の混乱が先輩を襲っているようだ。

 両手で頭を抱えて、うんうん唸っている。


「そこ甲斐性とか見せるシチュじゃね?」


「そういうのめんどいです」


「アジュにそういうの求めちゃダメです」


 甲斐性なんてなくていい。つまり都合よくATMになれということだからな。

 俺はそういうの嫌いでございますともさ。


「しまったシルフィ、野菜がとにかく安いぞ」


「このへんの農業科のやつっしょ。鮮度も見た目も悪くないねい」


「わかるんですね」


「ガチ料理プロ目指してんなら当然っしょ」


 先輩の目利きを信じるなら、買って損をするものではない。


「よし、仕方がない。チャーシュー諦めて野菜買おう」


「そうだね。また安くなっている日に買おうね」


「いやそんくらいあたしが買ってやるし」


 買い物かごに野菜とチャーシューを入れてくる先輩。


「いいんですか?」


「料理教わるわけだしねい。あとシルフィかわいそうだし」


「じゃあ先輩が作るように、ちょっと多めに買いましょう。今日ミナさんいるか?」


「姉さまの方に行ってるよ」


「んじゃ五人分だな」


 四人プラス先輩の練習用に食材を買う。

 目利きをお願いしてみると、ずばっと一番いいやつを選んでくれる。

 俺にはどれがいいのかわからない。


「四人暮らしなんだよねい?」


「ええ、たまにミナさんとか、フウマの護衛が来ますけど」


「めっちゃおもしれー環境じゃね?」


「悪くはありませんよ」


 雑談というか先輩が一方的に喋る。

 適当に相槌うちながら、買い物済ませて自宅へ。


「おじゃましまっすー!」


「台所に行きますよ」


「まかせろい!」


 今日食うもの以外をしまって、手を洗ったら料理開始。

 今から作っておけば、晩飯までに用意が終わる。

 最後に温めればいいだろう。


「できてるやつをまず食わして!」


「遠慮とかしましょうって」


 スロットから、小魚の佃煮入れた容器を出してやる。

 なんかタッパみたいなんありましたよ、この世界。

 材質違うけど、そこは魔法コーティングとかですわ。


「煮物? よくわかんねー。食っていい?」


「食いながら見ていてください。シルフィ、野菜準備」


「いいけど何作るの?」


「俺に考えがある」


 まずは佃煮を食わせてみる。少しつまんでもしゃもしゃ食いおるわこやつ。


「ほほう、これはこれは……砂糖と……フルムーンの醤油だね。高いやつ。ちょい味濃いね」


「産地わかっちゃいますか」


「ご飯どうぞ。一緒に食べるとおいしいですよ」


 いつの間にかシルフィが白米を用意している。

 こういう気配りが上手い子だな。


「あんがとシルフィ。おおおぉぉ!? いいねこれ! マジ合うじゃん! 味濃いめなのがガチいいっしょ!!」


 結構好評みたいだ。買い物に時間かけたとはいえ、よくそんなにがっつけるな。


「ははあん、こういう系かアジュくん。でもちょいと物足りない感じだろう?」


「わかります? いい小魚がまだ決まらなくて。こっちにゴマぶっこんだやつありますよ。ちょっと魚が大きめ」


「そっちも食う!」


 こっちの世界の小魚で、一番佃煮に合うのは何か。

 それはまだ研究中である。調べるのも楽しくて好き。


「あーいいねこれ。小腹空いたときにサイコーじゃん?」


「ちまちま食うといいですよね」


「ちょっと味濃いけどね」


 魚をしらすレベルからめざしレベルに変えたやつ。

 これはちょっと未完成。味付けの加減が難しい。


「後で作り方も教えます」


「頼むぜい!」


「アジュ、野菜切ったよ」


「よし、それじゃあうどん作るか」


 あっちの世界の料理で、俺がいまぱぱっと作れそうなものを選ぶ。

 野菜が安かったし、これでいくことは決めていた。


「うどん?」


「寒くなってきたからな」


 芋とキノコと大根切りまして、にんじんとすこーし鶏肉を準備。


「つゆ作るぞ」


「おだしはどうするの?」


「フルムーンのやつでいい。ちょいとフウマのやつも隠し味な」


 鍋に湯を沸かし、つゆ二種類を混ぜて沸騰させる。

 ちょっと量は少なめでいい。そこにまず大根だ。

 鶏肉はアクが出ちゃうので、別の小さな鍋で煮る。


「時間を……まあ二時間だな」


「はーい」


「んー? 何やってんのそれ?」


「企業秘密です」


 シルフィに鍋内部の時間を進めてもらっている。

 これ超便利よ。食いたいもんぱぱっと食えるし。


「つゆってたま~に流通してるあれ? 鍋とかに入れるやつ。あれ麺に合うん?」


「ラーメンのつゆにしてません? そっち想定したもんじゃないですよ」


「ほほー。勉強になるねい」


「できたよー」


「んじゃ残っている野菜入れて。俺が麺やる」


 アクを取った鶏肉を野菜の鍋に移し、鶏肉が入っていた鍋の湯を野菜鍋へ少し入れる。

 鶏肉の入っていた鍋を水洗いしたら、うどんを煮る。

 横でシルフィが野菜入れて鍋をじっくり見る。

 特に指定がなければ、時間操作はなし。


「いいコンビだねい。慣れてる感じ」


「半年以上一緒ですからね」


 言っていた麺が茹で上がる。よしよし問題なし。


「白い麺かー。前にどっかで食ったな。フウマのもん?」


「だと思います。作り方はシンプルですよ。ごまかしが効かないレベルで。だもんで俺は市販のやつ使います」


「そこ自作しないん?」


「体力いるんですよ。俺はそういうのきついです」


 スープの味見完了。問題なし。

 最後に器に全部入れて、買ってきたネギを刻んで少し入れる。


「別に鍋のままでもいいぜい」


 一人分だけ作る鍋だから、このままテーブル持っていけば器になるわけだが。


「流石に客相手にやるのもどうかと思いまして」


「普段はやってるわけだ」


「俺くらいですけどね」


 レンゲとフォーク持って先輩の元へ。


「はい特製……っていうほど何もしちゃいませんが、しっぽくうどんでございます」


「しっぽく? よくわかんねーけど面白い名前してんねー」


「冷めないうちにどうぞ」


 まずスープからいくようだ。レンゲで意外と上品にゆっくり飲む。

 味わっているのだろうか。


「佃煮と違ってさっぱりだけど、深い味……これはこれでうまいっしょ!!」


 これのいいところは、野菜とつゆの味が混ざり、そこにほんのり鶏肉入るところ。

 全部が邪魔せずに主張してくるので、味がちょいと複雑だけどくどくない。


「うんめーし! いいねこれ! 麺がつるっとしてて、きゅっとしてやがる!」


 猛烈に豪快なスピードでうどんが胃に収まっていく。

 すげえ食欲だ。


「つゆが大根に染みている!」


「そこプチこだわりです」


 大根だけ早めに煮ておくのだ。おいしくなるぞ。


「ぷっはー! よっしゃ完食! うまかったぜい!!」


 なんとか気に入ってくれたようだな。

 めっちゃいい笑顔しておる。


「素朴なんだけど暖かい味? いいじゃん好きだぜい!」


「アジュはフウマっぽいの得意だよね。いつもおいしいよ」


「それほどレパートリーがあるわけじゃないが、好みの味ならそれでいい」


「いやあ好みだわ。満足。次の料理ある?」


「満足とは……今日はあと一品ちょっと惣菜作るだけです」


 ここから先輩の力を借りる。というかこれ目的のところあり。


「カニクリームコロッケを完成させたいんです」


「聞いたことねー料理ばっかだねえ」


「好きだねえアジュ。また改良してるの?」


「改良っていうか完成しないんだよ。理想の味にならん」


 なので先輩に作ってみてもらおう。

 腕がいい人に見てもらい、新た案境地へと至るのだ。


「俺が手順を見せます。先輩は晩飯までにこれを作れるようになって、おかずとして出してください」


「おもしれーじゃん。やってやるってばよ!」


 まず俺が作ってみせ、試食もさせた。

 さあ晩飯に期待しておこうか。

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