そもそも魔物ってなんなのさ
フウマの秘宝が保管された社の中で、俺・リリア・イロハ・シルフィ・コジロウさんとコタロウさんが、囲炉裏を囲んで円になって座っている。
人数分の座布団が奇跡的にあったことでコタロウさんが喜んでいた。無駄なミラクルだな。
「ではざっくりまとめよう。ひとつ! 拙者と妻であるフェンリルは危険なやつらを逆さフウマ城へと封印した!」
またテンション高いな。コジロウさん愉快な人だったんだな。もっと忍者って物静かだと思ってたよ。
「ふたーつ! 来るべき時のため、継承の儀を突破できる強者を探していた! であってる?」
シルフィが乗り出した。こういうノリに乗っちゃうのがなんともシルフィらしい。
「みっつ! 継承者が現れた時、この社の封印を解き、できれば封印した連中を倒して欲しい! ということじゃな?」
ここでリリアが乗る。まあ想定していた。ここからボケ大会になると時間が無駄になるので、慎重かつ迅速に動こう。
「では、敵の詳細と、封印について具体的にお願いします」
「具体的にどんなものか、各々わしが用意したフリップに絵を……」
「書くな書くな! どっから出した!」
「魔法で出した。どこから出したかは曖昧じゃ」
便利だな曖昧魔法。シルフィとイロハが受け取ろうとするのを全力で阻止。
「ふむ、このふりっぷというものは便利だな」
いかん。コタロウさんがもう持っている。興味を示さないでください。
「普通にお願いします」
「絵は……だめか? 巻物の絵も拙者が書いた。少々絵心というか美術の才があってな」
「絵クソうまいんですね。でも手早くお願いします」
「ご先祖様の絵……気にならないといえば嘘になりますな。里にも名作の数々が残されておりまして」
コジロウさんが乗ってきた。ダメだ。根本的にイロハの血族だということを忘れてはならない。意外と天然混じってるしボケにも乗る。俺が軌道修正せねば。
「まず封印は解いたらどうなりますか?」
「外の湖に直通の穴があくよ。湖は全部凍るから、足場にでも使おう」
聞いといてよかった。コタロウさんの解説は続く。
「封印の抜け穴ができる。これは逆さフウマ城まで直通だ」
「完全に封印を解かずに、穴から人員を送り込んで倒せるということですな?」
「その通りだ。だが拙者と妻ですら封印するしかなかった存在だ。並大抵の力では勝てぬ」
「ではその敵というのは?」
「ヘルだ。簡単に言ってしまえば身内だね。義妹だ」
身内の意味がわからん。義理ってことはフェンリル側ってことか。
「この世界の魔物を従えて、城を作り出し、侵攻を企てた。だから拙者とフェンリルと、義妹のミドガルズオルムという巨大な蛇で封印した」
「家庭環境特殊すぎるでしょう」
フリップにコタロウさんと、でかい蛇とフェンリルが描かれている。絵に迫力があって引き込まれるっていうか、めっちゃうまいな。
「なに、人間になれば美人だったさ」
「では、封印までの経緯なんぞざっくりお願いするのじゃ」
「そうだな、地下を掘ったというか別次元に作った城の入り口をくっつけてきたというのが正しいか」
「想像もできませんな」
それほどの敵が相手か。めんどいな。なんとか被害を出さないように終わらせたい。
「城から侵攻してくるヘルを止めるために戦い、最下層でグレイプニルという紐で縛って封印した」
「紐? 紐なんかで縛って大丈夫だったんですか?」
「ああ、特殊な糸でね。それで妻を捕獲しようとした神とひと悶着あって、結婚のきっかけになったりしたものだよ」
「封印したんですよね? 倒して欲しいってことは……」
「うむ、所詮封印しただけだ。いつかは破れる。倒せるうちに倒してしまいたい」
フェンリルクラスの敵を永久に封印しておくのはしんどいだろう。気持ちはわかる。
「つまり最下層のヘルを倒せばいいんですね?」
「そこにたどり着くまでの魔物も危険だ。異形が徘徊している。おそらくはヘルの配下であろう」
「ヘルのオリジナルモンスターってことですか?」
「わからん。淡々と、最後の一匹になっても生物を殺すために襲ってくる。死体をなぶることもしない。ある意味プロだな」
そこは普通だな。大半のモンスターは、なぜか不利になろうとも逃げるという選択をしない。中には逃げることをメインにするやつもいるらしいが、少なくとも俺が戦うザコは死ぬまで向かってくる。
「ヘルの作った魔物か、もしくは旧型ということじゃな」
リリアのトーンが暗くなる。これは言った後で説明がめんどいと気付いたんだな。
「ちょいと気になるな」
「リリア、なにか知ってるなら教えて」
みんなの視線が集り、リリアが渋い顔で説明を始めた。
「仕方がないのう。今の魔物は複数のタイプがおる。悪いものが精霊とくっついて結晶化した際に近くの生物を模したタイプ」
「倒すと石が出るやつだな」
「正解じゃ。それと、死にかけで弱っていたり、負の念や瘴気に触れ続けて生物のまま変質させられたものじゃ」
「ここまでは中等部で習ったわね」
これが殺しても死体が残るタイプだな。っていうか授業でやった。初心者用の座学に出といてよかったな。
「ドラゴンなんかは原生生物であって魔物ではない。死体が残る普通の生き物じゃ」
「リリア殿、それではご先祖様がおっしゃる魔物とはいったい何者で?」
「今の魔物になる前の段階じゃな。まだ生物を半端に真似し、決まった種族も持たず、それでいて生物を殺す異形じゃな」
プロトタイプってか悪意そのものって感じだな。俺の倒してきたウサギや黒いアヒルとは違うということか。
「三つのタイプには共通点として『生物を殺すことが目的』で、『生殖能力と器官が存在しない』という特徴があるのじゃ」
「なんでそんなことになった?」
ここでシルフィが飽きたのか、俺の肩に寄りかかって休み始める。長いこと話し込んでいるからな。俺もちょっと眠い。
「意味が無いからじゃ。元々は負の力、悪いものの集合体。わざわざ生物の複雑な器官を真似して、子作りして、赤子から育てるなど無意味極まりないのじゃ」
シルフィに対抗してリリアが俺の膝に座る。いや邪魔だよ。普通に話せや。
「その期間は明確に生物にとって弱点というか油断しちまう時間だからな。増えるのに効率いい方法があって、無意味なら避けるか」
完全な負の存在が形を作って、生物を殺しにかかっているということだな。臓器がないのは作る必要がなく、弱点を減らすためなんだとさ。
「生物を食べている化け物もいると聞くわよ」
正面に座るイロハがめっちゃ見てくる。ご先祖様と父親がいる手前、積極的にくっつくのをためらっているのだろう。
「燃費の大小の問題じゃな。死ぬまでひたすら暴れて力尽きるアホ。何かを食べて消滅を避けようとするもの。あとは普通に魔物っぽい原生生物じゃろ。そこらへんを区別するのは面倒じゃからのう」
イロハさんから強烈な視線を感じる。目が離れろと言っている。俺も邪魔くさくて困惑しているんだよ、と視線を送るが通じない。アイコンタクトってムリゲーだよな。
「旧型はほぼ絶滅しておる。そやつらが死ぬ時に噴出して、世界に散った瘴気が今の魔物を作ったりもしておる」
「拙者の時代には両方いたな。これも時の流れか」
「異形は未知の化け物であり、個別に対策が要る危険な敵が多い」
完全に背中を預けて解説しているリリア。説明してもらっている立場だし、あんまり邪険にはしたくないけど……イロハが拗ねているのでどいて欲しい。
しっぽが床をばしばし叩いているじゃないのさ。
「殺すことが目的なので、なぶる気も無い。替えが効くから逃げもしないし、最後の一匹まで向かって来る、ということですかな」
「そこらへんは知能の差でもあるかのう。知恵が回るものは人でも魔物でも厄介じゃ」
なんとなく倒していたが、結構やばい連中だな。そら達人を育成する学園もできるってもんだ。
「大昔の危険な魔物がいるって授業でちょっとだけ聞いたかな。本当にいるんだね」
「大半が駆逐され、昔話となったということかしら?」
「そんなもんじゃろ。わしも全てを知っているわけでも、体験したわけでもないのじゃ。あくまで知識じゃよ」
魔物を増やすボスモンスターは、原型に近い強さになっているヤツも多いらしい。それが瘴気を振りまいて魔物が増えるケースもあるとか。
「そんなのと……正直きっついなおい」
「恐るべき存在ですな」
今の俺にはイロハこそが恐るべき存在だよ。シルフィが気付いて離れてくれたけど、機嫌が直っていない。とりあえずリリアを膝からおろす。
よし、しっぽが止まった。このままヘルの話題にしよう。
「ヘルについてもっと知っておきたいな」
「半分腐った人間だ。地獄を作り出し、死者を蘇らせる力を持つ」
「戦うのめんどくっせえなそれ。どうせ不死身だろそいつ」
「じゃからこそおぬしの剣と鎧が有効なんじゃろ」
不死者を完全に消滅させることができるから復活は無い。まあ一回殺せばいいならいけるかもな。
「なにか奥の手があるようだな。では、行くのは拙者とアジュ殿と……」
「フェンリルの力が必要でしょう? 私も行くわ」
「全員で行っちゃだめかな?」
「生半可な人間では死にに行くようなもの。しかも結界に穴を開ける。つまり進入を防ぎ、結界を維持する必要がある」
結局俺とイロハ、コタロウさんが突入組み。
魔力が膨大なリリアと、時を止めることができるシルフィ。
そしてフウマ結界の術を使えるコジロウさんが居残り組みとなった。
「それでは、結界を開くぞ」
何があってもイロハを死なせるわけにはいかない。
俺のやることは、仲間に死人を出さずに、ヘルを完全消滅することだ。
そして社の外で儀式が始まった。
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