アジュ・リリアVSやた子

 やた子とかいう黒い羽生えた女と戦うことになった。


「我が名はやた子。人間どもよ……力の全てをここに示せ。クックック」


「お前そんなキャラじゃなかっただろ!?」


「ほほう、このリリアちゃんに挑むとは片腹痛いっす! やってやるっす!」


「お前もキャラ変えんな!!」


「ウチの口調取られたっす!?」


 緊張感ゼロっす。戦闘前だよな?


「ちょーっと本気でやるっすよ。死んじゃダメっすよっと!」


 やた子が自分の翼から一枚羽を取る。

 何やってるのか疑問に思いながら見ていると、真っ黒い剣へと変わった。


「やた子ちゃんブレード装着! 吶喊っす!」


 視界からやた子が消える。首を左に傾け、後ろからの刺突を振り返らずに躱す。

 ついでに剣を指でつまむ。


「うおうマジっすか!?」


 剣を引っ張ってくるが離す気はない。

 どれだけ力を込めても微動だにしない剣を諦めたのかやた子が手を離す。

 剣は羽に戻って地面に落ちる。どうやら手を離れると戻るみたいだな。


「アジュさんを見くびってたっす。そんな余裕ぶっこかれたまま弄ばれるとは……」


「いや十分早いさ。音速くらいは超えてるだろ。凄いって」


「敵に慰められたっす。こいつぁ惨めっすね」


「そんなことで落ち込んでどうするのじゃ。ほれ、ホットドッグやるのじゃ」


「優しさが五臓六腑に染み渡るっす。あむ、うむ、おおう、美味いっす」


「戦闘中に飯食ってんじゃねえよ!!」


 頼むから緊張感持ってくれ。敵に出されたもん警戒もせずに食うなよおい。


「ああ無常っす。こんな親切な人を斬らねばならないなんて。なんて可哀想なやた子」


「斬るなよ。終わりでいいじゃないか」


「ダメっす。いくっすよ。とうっ!」


 頭上をビュンビュン飛び回っていてウザい。黒い羽が落ちてくるのもさらにウザイ。


「使ってないキーでも試しますかね」


『ストリング』


 指先から光で編まれた紐が迸る。あっという間に空間に張り巡らされる紐。


「こんな物切っちゃえばいいだけっすよ!」


「だろうな。だが鍵ってのは組み合わせ次第さ」


『ソード』


 ソードキーの力を紐に流し込む。紐を切ろうとしたやた子の剣がするりと真っ二つに切断される。


「うーわなんすかこれ」


 ストリングキーは概念や物質を紐状にするキーだ。

 ソードキーで出した剣の切れ味と強度、なんなら重さまでそのまま紐にできる。

 しかも紐は俺の意志で自在に動く。

 ショットキーと組み合わせれば、紐の弾丸という一見意味のわからないものもできる。


「さて、動くと斬れるぜ。どうする?」


「身動きできないウチにいやらしい事する気っすね……日頃モテない生活を送っていることへの憂さ晴らしにど変態なプレイをされるっす! ぱっとしない顔から想像もできない性癖が牙を剥くっす!」


「くたばれ」


『ショット』


 当たっても痛いだけで死なない、野球ボールくらいの弾丸を連続で射出する。


「いたたたた!! マジで痛いっす!!」


「そうかそうか、そりゃよかったぜ。ちなみにそこから後ろに吹っ飛ぶと紐の中にダイブしちまうぜ。死にたくなければ耐えろ」


「鬼がいるっすー!!」


 実際にはソードキーは解除してあるので死にはしない。後始末面倒くさそうだし。

 ヒメノの知り合いっぽいので面倒な展開は避けたい。


「ギブギブ! 一回休憩タイムっす! タイムを要求するっす!」


「ヒメノの連中は、タイム取る習慣でもあるのかのう」


 ぜえぜえ言いながらなんとか持ち直すやた子。タフだな。その根性は褒めてあげよう。


「もうアジュさんはいいっす。人間にここまで一方的にボロカスやられて泣きそうっすよ。次はリリアさんを調べるっす」


 上空へと飛び上がるやた子。バサっと翼を広げると両手を天に掲げて笑い出す。


「ふはははは! ダアアアブル!! やた子ちゃんビイイイム!!」


 両手から魔力を込めた黒い波動が螺旋状に回転しながら襲い来る。


「ネーミングセンスどうにかせい。ハイパーリリアちゃん砲! 発射じゃ!!」


「見事なまでに同レベルだ!?」


 白と黒の波動がぶつかり大地が激しく震える。名前の割に威力高いな。


「色々物が壊れてくぞー」


「ここは即席で作った世界だから平気っす。リリアさん、さては接近戦弱いと見たっす。覚悟!」


「んなわけないじゃろ」


 周囲を高速で飛び回るやた子。速すぎて一筋の黒い線と化す。


「必殺やた子乱舞!!」


 一撃離脱の斬撃を何度も繰り出す。

 どんどんリリアの周りが黒い線に塗りつぶされていく。

 リリアも自身を魔力で強化し、扇子と魔力による結界で斬撃を弾いている。

 しかしやた子は速度が落ちることはない。


「おいおい大丈夫か。俺がやるか?」


「この世界に来てから本気でやっとらんからのう。わしがやるのじゃ」


 リリアの体から立ち上る魔力に別の色が混じる。初めて見る力だ。


「魔力じゃない……妖気!? 魔力と妖気のハイブリッドっすか!? 簡単に混ざるもんじゃないっすよ!!」


 一瞬リリアの髪の色が変わった気がする。そして両手の甲に現れる純白の鉤爪。

 魔力と妖気が混ざり合って何本ものしっぽに見える。

 魔力だけならシルフィ達よりも上だ。


「なぁに、わしは両方に住み着かれておるだけじゃ。死にたくなければ必死で抗うが良い」


 両者が筆舌に尽くし難い、呆れる程の速度でぶつかり合う。

 やた子の作り出す黒線を塗りつぶす勢いで、リリアの鉤爪が引く白線が空間を蹂躙していく。

 黒い線が一本引かれるまでに十本以上の白線が引かれている。実力差は明らかだ。


「ちょちょちょきついっす無理っす!? なんすかもう! こんな強いとかズルイっす!」


「なんじゃもう終わりか。つまらんのう」


「正直俺も驚いてるぞ。強かったんだな」


「あまり使いたい力ではないんじゃが、まあよい。これでテストは終わりじゃな」


「もう終わりっす。めっちゃ上位の神格と膨大な妖気が混ざってる人なんて初めて見たっすよ」


 胸と局部がギリギリ見えない程度に服を切り裂かれているやた子。

 リリアよ、お前はなぜそんなことをしている。こいつの性格からして確実にわざとだ。


「うぅ……こんな人達になんで護衛が必要なんすか……さては口実に使っただけっすね…………」


「口実ってなんのだ?」


「素で言っとるじゃろおぬし」


 いつの間にかいつものリリアに戻っている。

 そら素だよ。意味わからんもの。ここで呆れられる理由は何よ。


「観念したっす。ヒメノ様はアジュさんのお家にいるみたいっすから、一緒に行って欲しいっす。このままじゃ怒られるっす。お願いっすよ」


 縋ってくるやた子を直視できずに了承してしまう。これがいけなかった。

 俺とリリアは服が完全にエロい方向にダメージくらっているやた子と一緒に家に帰ってしまったのである。


「今帰ったぞー」


「ただいまなのじゃー」


「おかえりなさい。ヨツバが探してたわよ。今まで何処に……」


「おかえりアジュー! 晩ご飯できてる…………」


「おかえりなさいまし! あらあら、やた子ちゃん。その格好はどうされましたの?」


「こんなになるまで弄ばれたっす。もうお嫁に行けないっすよ」


 大げさだな。別に戦ったら服くらい破れても不思議じゃないだろう。


「その女は誰? どこで拾ったの? 捨てて来なさい。今すぐに捨てて来なさい」


 めっちゃ早口なイロハ。捨て犬拾ってきたんじゃないんだから。


「アジュが知らない女の子といる。そっか……わたし達に飽きたんだ。捨てられちゃうんだ。もういらない子なんだね。キスもまだなのに捨てられるんだ」


「とりあえずハイライト消すのやめろ。それ超怖いから」


 シルフィがめっちゃ怖い。なんなの? なんなのこの状況は?


「よくわからんけど落ち着いてくれ。ちょっとした戦闘訓練だ」


「ちょっとした戦闘訓練で服がそんなにいやらしく破けるわけがないでしょう」


「わたし達には手を出してくれないのに! 知らない女の子なら手を出すんだ! 捨てられる前に舌くらい入れてやる!」


「頼むから落ち着け!? こんなんリリアがやったに決まってるだろ!!」


 なぜ俺がこんなことしたという発想になるのかわからん。

 俺の性格は知っているだろうに。なんか気が動転してるな二人とも。


「うむ、わしじゃ。中々眼福じゃろ?」


「悪い。ぶっちゃけ好みじゃない」


「今日一番ひどいっす!?」


 この後誤解を解くのに時間を使いすぎて晩飯が冷めた。

 もう疲れたので事情説明とかは明日早く起きて、聞く気が三割くらいあったら話半分くらいで多分聞くんじゃないかという結論を出して寝ることにした。

 さて明日は何時まで寝るかな。二度寝は確定だ。

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