第193話 大激闘ヒメノ戦

 鏡の世界は無人の世界。そして同じ舞台。

 手っ取り早くコピーしたわけだ。


「では上へ行きますわよ」


「はいよ」


 ジャンプして瞬時に宇宙へ。どうせ星は脆いから壊れる。

 なら最初から宇宙でいい。


「さて、鎧のロックは外し気味でお願いしますわね」


「おう、上級神の力ってやつ、見せてもらうぜ」


 お互いに高めた魔力は、ほんの少し体の外に出ただけで星々を砕く。

 なるほど。少なくともこの段階で十尾になる九尾より上だ。

 無駄にややこしいな。


「ここで真の姿をお披露目ですわ!」


 ヒメノの服が日本神話に出てくるようなものに変更。

 羽衣みたいなものまでひらひらさせている。

 十億倍くらいまで魔力が上がったな。


「面白い。だあありゃあああぁぁぁ!!」


 俺が更に上を往く。そして合図もなしに、お互いの拳がぶつかった。


「やるな。ここまで強いやつは初めてだ」


「あらあら、ようやく褒められましたわ!」


 今の一撃から生まれた衝撃波で、この星系から星が消える。

 周囲には星だったものの欠片すらも残っていない。


「オラアアアアァァァ!!」


 無人だし、偽物の世界だからどうでもいい。

 ひたすらにラッシュの続く格闘戦にもつれこんだ。


「素晴らしいですわ! 一度しっかりと戯れたかった。最悪ベッドの上でなくてもいいから戯れたかったのですわ!」


「ベッドを最低条件みたいに言うんじゃねえ!!」


 アホな会話をしているが、俺達の動きは既に光速の二十倍くらいまで加速している。

 動くだけで魔力と物理的な衝撃が宇宙に散らばり、三百六十度、見渡す限りの星から光が消えていく。


「では、アジュ様。こんなのはいかがでして?」


 ヒメノから離れた光が星々を掴み、一つに握り潰して再構築していった。


「なんだ? なにがしたい?」


「わたくしの魔力を込めまして、銀河を丸々使った必殺魔球ですわ!!」


 星を一つにまとめ、そのエネルギー全てを圧縮したらしい。


「大銀河ボール一号! アジュ様のハートを狙い撃ちですわ!!」


 かつてないほどの光量で迫るボール。

 避けても二発目が来るだけだろう。


「ならこれだ!」


『リリア!』


 リリアキーで鎧をチェンジ。迫る光をそのまま吸収してさらにパワーアップ。


「それがリリアとの絆の鎧。願いが叶いましたのね」


「ああ、ガキの頃の願いは……本当の願いは叶い続けているさ。リリアのおかげでな」


「では見せていただきましょう。はっ!!」


「オラア!!」


 さらに加速し、魔力波を撃ち合い、背後の取り合いをしてみる。

 こいつ弱点とかないのか。少し強めに暴れてみるも、やはり対応された。


「なんか互角になるように調整してないか?」


「そこそこ本気ですわ。光の力を吸収しつつやっているだけですわ」


「そういや光か太陽の神だったな」


「ええ、なので凄い光パワーはさらに加速いたしますわ」


「名前なんとかしろ。んじゃもっと色々試すか」


『シュウウティングスタアアァァ……ナッコオオォォ!』


 必殺技キーも使う。この程度じゃ死なないだろう。


「ふっふっふ、受けて立ちますわ!」


 一秒に数千億の拳が舞う。その全てが必殺の一撃だが、それを避け、打ち返し、似た技を繰り出してくる。


「やるな。この時点で今までのどんな存在より上だ」


「全力さえ出せればこんなものですわ!」


「んじゃ色々試させてもらおうか」


『イロハ!』


 黒い忍装束に赤マフラー。実はお気に入りだったりする。


『魔狼剣・蒼牙!』


 影と闇が染み込んだ黒い剣。そこに蒼く美しい炎が灯る。


「闇など照らして差し上げますわ!」


「その光まで包み込むだけさ」


 ヒメノが放つ光の渦を、剣で斬り裂き急接近。

 闇は光より弱いわけではない。

 表裏一体。どちらも必要であり、強弱は術者による。


「剣でも負けませんわよ」


 ヒメノが取り出した剣から妙な神聖さを感じる。

 オリジナルの剣? 即席で作ったにしてはきっちり作られているし。


「まずどうやって鍔迫り合いをしている?」


「アジュ様が魔力でコーティングしてくださっているからですわ」


「そりゃまあ……そうしないとお前も斬っちまうし。ぶつかったら砕けるだろ普通の剣は」


「その優しさを愛情と受け止めても?」


「オラオラオラオラアァァ!!」


 こいつは真面目にやることができんのか。

 切り結んでも死ななそうなのでガンガン攻めよう。


「激しい愛。この愛こそ純愛。そう、ふたりのラブストーリーが今ここに!」


「うっさいわ!!」


「愛の光よ!!」


 全身から光を吹き出し、ヒメノの魔力がぶち上がる。

 この光、普通のやつがちょっとでも浴びたら消えるな。


「この宇宙を愛で照らしてみせますわ!」


 全方位から降り注ぐ光が、俺を逃すまいと距離を詰め。


「ラブフィニッシュ!!」


『シルフィ!』


 押し潰す前に時間停止で逃げる。

 ヒメノの背後に回り込み、一撃与えようとして、気付く。


「お前……動けるな?」


 感覚でわかる。どの程度か知らないが、こいつは動けるはずだ。


「理由を言え。全力じゃないとはいえ、止まった時間にどうやって入った?」


「アジュ様が全力ではないからですわ」


 やっぱり動けるのか。とりあえず話せるみたいだな。


「特殊能力というものは、現象ではなく能力。つまり術者がいますわね」


「そうだな」


「ならば、その術者の魔力と同格か、圧倒的に差があると無意味になるのですわ」


「そりゃまたなんで?」


「止まった時間を展開する魔力に、無理矢理自分自身を覆う膨大な魔力をねじ込むのですわ。そうすれば止まった時間の中に入って活動できます」


 完全な力技だ。だが能力である以上は術者を上回ればいい。

 その理屈は理解できる。


「ん? 俺の魔力のほうがちょっと上だろ?」


「この世界の宇宙全域に散布された魔力と、自分を覆うだけの魔力ならば、密度が違いますわ」


「一極集中か。確かに雑に撒いたからなあ。こじ開けるのは難しくないか」


「それをわたくしで試したのではなくって?」


「ばれてんのか」


 ヒメノは強い。ならば他の連中では試せないことをやってみようと思った。

 こちらの予想を超えて頑丈だったのは嬉しい誤算だ。


「ま、鎧を全力で使うのは気持ちよくていいな。期末試験でストレス溜まっててさ」


「実力を隠して戦闘。昼夜問わないサイレン。そして管理機関のお相手。お疲れ様でしたわ」


「機関は俺には調べられん」


「ええ、手は打ってありますわ。ご心配なく」


「そうか、んじゃ最後に一発撃って終わるか」


 この世界が壊れるギリギリまで魔力を上げよう。

 いつまでも遊んでいるわけにもいかない。


「ええ、そろそろお夕飯の支度がありますわ」


「お前料理できるんだったな」


「……食べに来ます?」


「あいつらと相談だな。妙なもん入れそうだし」


「入れませんわよ。それでは必殺ヒメノ神拳奥義! 愛の光ナックル!」


「ウオラアアァァ!!」


 お互いの拳が激突し、とうとう耐えきれなくなった宇宙が崩壊し、ガラスが砕けるように散っていく。


「戻ってきたか」


 仲間の魔力を感知。間違いなく元の世界だ。


「やはり壊れてしまいましたわね」


「よく耐えたほうだろ。次はもうちょい頑丈な世界を作るか」


 そのまま星へ降下。みんなが待つ場所へゆっくりと降り立つ。


「終わったぞ」


 鎧も解除して完全に帰る体勢が整った。


「おかえり。怪我とかない?」


「ない。鎧は無敵だ」


「お疲れ様。これで君達は個人でもギルドでもEランクだ」


 やっと終わったか。鎧の使い方にも慣れてきた。

 これならクエストが難しくなってもいけるだろう。


「はい。じゃあしっかり休むこと。解散!」


「また会おう諸君! フハハハハハハハ!!」


 先生と学園長は帰っていった。お疲れ様です。


「さて、それでは皆様を夕食にご招待ですわ!」


「なぜそうなるっす?」


「アジュ様とお約束しましたわ!」


「どういうことじゃ?」


「要相談つったろうが。どうする? もう夕飯作るのめんどいんだよ」


「それが理由なのね……」


 そう、俺は夕飯作るのめんどいんだよ。

 疲れました。だから仕方ないね。


「まあ全員で行けばよいじゃろ」


「アジュをひとりで行かせるわけにはいかない!」


「そうね、最悪私達で守りましょう」


「やりましたわあああぁぁぁ!!」


「あんまりうるさいと帰るぞ」


「じゃ、ちゃちゃーっと行くっす!」


 さて、こいつら普段何食ってんのか気になってたし。

 楽しみにしておくか。

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