最低最悪の存在あらわる

 マーダラー・タクトの襲撃を退け、なんとか駅へと到着した俺たち。

 客に被害が出るのを避けるため、そそくさと駅から離れ、イガの拠点である屋敷へと入った。


「ささ、どうぞ」


 なんか広い洋館だった。ミステリーとかに出てきそうな外観だ。

 外も中も忍者が多い。警戒レベルが上がったのだろうか。


「わかっちゃいたが洋風だな」


「うむ、面白いじゃろ」


「フウマとは全然違うよねー」


「そう考えると不思議ね。三勢力含めて忍者と呼ばれているのだもの」


 そんなとりとめもない雑談をしながら、応接室へと通される。

 広くて豪華だなあという感想しか出てこない。慣れてきている自分に驚いたよ。


「こうして面と向かってお話するのは初めてかな。ワシがイガ忍軍トップ、サンダユウ・モモチである!!」


 白く長いひげと、同じく白髪を伸ばして後ろでまとめた男だ。

 歴戦の勇士といった雰囲気を纏う、初老の男性である。確かラグナロクで見た気がするな。


「せわしなくてすまんが、早速本題に入りたい。マーダラーという不逞の輩に天誅を下す!」


 この場には俺たち四人とももっち、コタロウさん、そしてサンダユウさんのみ。

 カーテンを締め切り、誰も入れないように結界を張って会話をしている。


「場所は把握できているのでござるか?」


 会話進行はコタロウさんとイロハに任せ、俺達は静かにしていよう。正直割って入る部分がない。


「うむ、先日飛び立つのを部下が確認した」


「飛び立つ?」


「山奥にある研究施設跡地を調べに行ったところ、突然浮上し、空へと上っていったとのことだ。遙か上空に存在を確認している」


 浮いたのかよ。でっかい研究施設が浮き上がり、なんとも不気味な要塞として君臨しているらしい。


「巨大な暗殺者の城だ。雲の上にあるせいで、常人では足を踏み入れることすらできぬ」


「無闇に捜索隊も出せぬでござるな」


「兵を無駄死にはさせられぬ。少数精鋭による突撃で殲滅するしかなさそうだ」


 まあその方向だよな。人数集めると、防衛が手薄になってしまう。

 だから守備に人員を割き、超人勢で一気に叩き潰すのがベストとなる。


「しかしどうやって根絶やしにするのでござるか? 一匹でも残せば同じことになるでござろう」


 空飛ぶ忍者城を破壊し、そこの敵を皆殺しにしても、別の場所に残党がいては意味がない。確実に全滅させなければいけないのだ。


「三幹部を潰す。それが勝利への近道と知れ!」


「幹部……タクトとテイルみたいな?」


「左様! やつらは司令塔が崩れれば何もできぬ。三幹部が司令塔となり、無数のマーダラーを統括しておる。その思考や脳波まで完璧に統率され、命令から神経を動かし実行するまでを一秒以内に、それも全部下を一斉に操作できることを目的とした兵隊じゃ!」


 クソ厄介だな。人間の形を保てているか怪しいレベルまで改造し、同時に全身に特殊な術を浴びせ続けて同調させ、完全に個を消す。そうして全にして一、一にして全の兵隊を作る。それを指揮する権限がある特別な改造人間が、三幹部らしい。


「つまりあれでしょ、脳みそ繋げたりできるから、死んだ直後にデータが味方に流れてってるってことっしょ!」


「流石はワシの娘よ。流石の洞察力じゃあ!」


「それで対策が超早いのでござるな」


 指揮官が潰れない限り、ガンメタ連コインが続くわけか。最悪だが、対策が見つかっただけまだ希望はある。


「幹部を潰して、ボスも叩く。これでほぼ無力化できる。指令なしでは自律行動など取れぬ。傀儡は傀儡よ。やがて己の体すら維持できずに崩れるだけじゃわい!」


「少数精鋭で動かせるように、幹部クラスだけが人間形態を維持してるみたいだよ。むかーしの実験だから、生きてる人がすっくないのかもねい」


「まず始末すべきは三幹部でござるな。そいつらが量産されている可能性は?」


「技術の発達度合いにもよるが、おそらく無い。適合できる人間の絶対数が少なすぎることも、研究が進まなかった原因らしいのでな」


 ひとまず天空の城と幹部を倒すまで、勢力の垣根を超えて協力するという方向で固まっていく。

 俺たちは細かいことは横にやり、おおまかな戦闘計画を聞いておく。これは面倒な戦になるだろう。


「では準備が整い次第、奇襲をかける。ここからは食事でもしながら談笑といこう」


 当然だがこういう席は苦手である。食うだけ食って静かにしていよう。

 運ばれてきた料理は流石にうまい。金持ちというのはいいもの食っておられますな。


「他に質問はあるか?」


「本筋と関係ないことでござるが」


「気楽に構えてよい。言ってみよ」


「サンダユウ・モモチという名前はどこから?」


 地味に気になり続けていた。サンダユウ・モモチって、イガかコウガの忍者じゃないっけ。しかもあっちの世界の。ゴエモンとかいる忍者軍団だったような……なのになぜこっちの世界に? 実は転移してきていて対決とかしたのだろうか。


「フウマに対抗したらしい。どうせ忍者を名乗るなら、最強のライバルの名を名乗る、それが発祥だと聞いておる。そこからトップでも特に秀でた者が、自ら名乗るようになった」


「フウマのライバル?」


「初代フウマと激闘を繰り広げた、終生のライバルであり、最も忍者を苦しめた存在という言い伝えがある。おそらくそれにあやかったのだな」


「あっ、それ半分くらい嘘でござるよ」


「は?」


 ご本人から異議が出ました。


「拙者の知るあの爺は、本当にたちの悪いやつで……性根が腐っていて、正々堂々から最も遠く、人情を理解せず、いつもいつも卑劣な罠を仕掛けるわ、ターゲットを派手に殺すわ人を惑わすわで、もう最悪でござった」


 めっちゃ恨んでいることがわかる。好敵手じゃない。嫌な奴として認識されているタイプだ。


「何より派手好きで、忍者だというのに金に汚く、酒飲みながら戦争するようなやつで……死ぬまで忍者の風上にも置けない阿呆ゥでござった」


「失礼ですが、そんな男の話自体しなければ、湾曲されて広まらないのでは?」


「もしもあの腹黒性根腐り爺がこっちに来たら、めっちゃ苦労すればいいなって」


「完全に私怨だ!?」


 コタロウさんから邪悪な笑みが漏れている。元の世界で色々あったんだろうなあ。


「やつが偶然こっちに来たら、勝手にサンダユウを名乗るアホとみなされるか、忍者の敵として追われて苦しめばいいと思ったでござる。まさかプラスの方向で名乗られるとは誤算でござった」


「未来というのは不確定なものじゃな」


「まったくでござる。はっはっは」


「……名乗る身としては非常に複雑極まりないのだが……」


 聞かなきゃよかったみたいな顔である。うんまあそうね、次の世代に引き継がないであげて。ももっちが継ぎたくなさそうな顔してますよ。


「もしも生きていたら、間違いなく行動に出る。よって保険かけていたつもりでござったが……いやはや」


「この話やめましょう。食事ありがとうございました。俺たちはしばらく部屋でおとなしくしています」


「それなんだが、イガ・コウガから君たちに護衛をつけることとなった」


「うえ? 私聞いてないよ? あじゅにゃんの護衛は私でいいじゃん。一番安全だし」


「たわけ。まだ修行中のお前が何を偉そうに。他の者の方が余程安全じゃ」


「いやそういう意味じゃなくてさ……」


 ももっちは俺といると死亡率が下がると思ったんだろう。けどサンダユウさんは鎧を知らん。ももっちが護衛じゃ足りないと思ったのか。解釈違いだな。面倒なことになるから訂正はしない。


「先程軽く募集したのだが、ぜひにと申し出る者がおってな」


「物好きですね。そいつら疑うべきでは?」


 怪しすぎるだろう。シルフィとイロハならわかるが、俺とリリアは一般人設定だ。そんなやつの護衛を、このクソ忙しい時に申し出るとか絶対に敵やん。


「食事が終わったら紹介する予定だった。ひと目だけでも会ってもらえんか?」


 ぶっちゃけ邪魔。知らんやつがいると鎧を使えない。無駄な縛りプレイが始まる。うざい。

 だが知らんガキをフリーにしておくのは危険だと思われているのかも。

 どうすればいいかとリリアに視線を送ってみる。


「まあよいじゃろ。厚意を無駄にするのもあれじゃ」


 流石に断れんか。仕方ない。一回だけ会ってみることにした。


「よし、許しが出たぞ! 入れ!!」


「はぁい!」


「失礼いたします」


 入って来たのは若い女二人組だ。どちらも俺たちと歳は同じくらいに見える。


「コウガ忍者のエリカでーす!」


 量の多い緑髪で、長い髪を少しだけツインテール気味にしてリボンを付けている。

 洋服にフリルが付いているのでそういう趣味なんだろう。無駄に胸を持ち上げて強調するタイプの服だな。好きじゃない。


「イガ忍軍所属、シエラでございます」


 こっちは灰色の髪が肩まで届き、ゆるくウェーブかかった落ち着いたやつ。

 無駄に胸元が開いたメイド服だ。ロングスカートで、こちらは寡黙なメイドっぽい空気を纏っている。清楚感出したいなら、胸元開けるのマイナスだと思う。


「二人は姉妹だ。ちょうど屋敷に来ていてな。手が空いているからと志願してくれた」


 なるほど、目の色が二人とも緑色で、顔つきが似ている。


「では早速お部屋にご案内いたします」


 なんとなく好きになれない雰囲気を出しているのだが、最初はそれが何故だかわからなかった。


「えぇー! アジュさん勇者科なんですかぁ! すっごーい。憧れちゃいますぅ」


 うんまあ判明したよ。こいつビッチ臭い。明るく元気なんじゃない。ビッチで金持ちとかに取り入ろうとする媚の売り方なんだ。今回はたまたま歳が近いから、年頃の男子が好きそうな服と言動をしているだけ。


「どうですかこの衣装? ちょっと恥ずかしいですけど、男の人は照れちゃって隙ができたりするんですよー。ふふふっ」


 そう言って、わざわざ胸を両手で持ち上げている。

 おぉ……これは胸くそ悪いな。俺の一番嫌いなタイプだ。


「もー、どうして目をそらすんですかー? 見ちゃっていいんだゾ!」


 お前なんぞ見たくねえんだよクソビッチが。

 ああもう最悪。マジで気分悪い。こいつ最低だよ。

 処女っぽい雰囲気出して男を弄んでいるタイプだ。


「アジュさんなら見られてもいいかなーって。わたしもあじゅにゃんって呼んでもいいですか?」


 はいはい、今までその演技見破られてないのね。すごいすごい。死ね。

 こりゃ病気持ってないの奇跡だなこいつ。


「それはやめとけ。俺は一般人で、別にでっかい権限があるわけでもないぞ。媚びていいことはない」


「そうなんですか。もー、そんなの期待してませんよぅ。媚びてないですぅ」


 はいすこーしテンション下げやがった。演技のクオリティ低いなお前。


「程々になさい。お客様に失礼でしょう」


 こいつはこいつで荷物を持ち、俺の横に並んでいる。姉妹に挟まれる位置だ。吐いていい?


「はーい。ねえあじゅにゃんさーん、もしかしてお姫様と、恋人さんだったりするんですかぁ?」


「いや、普通の同級生だ」


 これは事前に話し合った。下手に仲がいいと認めると、人質作戦とかやられそう。

 よってただの同級生であると打ち合わせし、同意を貰ってある。


「えぇー! あじゅにゃんさんかっこいいのに。フリーならモーションかけちゃうぞー」


 それが悪い方に働いたのは初めてかも。もう帰りたい。


「うわぁ……」


「アジュの心のケアが必要かしら」


「あまりくっついたりせんようにするのじゃ」


 ギルメンがドン引きしている。俺をそっとしておいてあげよう的な空気が流れるのはよっぽどの時だぞ。


「部屋についたぞ。俺はここまででいいから。中には入ってこなくていい」


「えぇー、お別れですかあ? そんなの悲しいですぅ」


 お前が悲しかろうが知ったことかよ。


「ももっち、少し話がある」


「うん、こっちは任せて。ケアが必要そうならすぐ呼ぶから」


「わかった。辛かったら言ってねアジュ」


「気持ちが落ち着いたら連絡くれればいいわ」


「ゆっくり待ってやるのじゃ」


 ギルメンが優しい。労りと同情の念がありありと……少しだけ救われたよ。


「またね、あじゅにゃんさーん!」


 そして俺とももっちだけが客室に入り、ドアを閉める。


「ちっ、汚物が……おいももっち」


「いやもうほんとごめん。あんなの来るとは思わなくってさ」


「知らされていなかったのなら、そっちに罪はないさ。謝らなくていい。だがあいつら何なんだ?」


 悪いのはあの姉妹だ。一時間と経たずに、あそこまで不快にされるとは思わなかった。


「あじゅにゃんがいいとこのお坊ちゃんだと思ったんじゃない? 誘惑されてるねえ。見た目は悪くないけど、どうせ無駄なのにね」


「見た目でギルメンに勝てると思ってんのかあいつ」


「無理だよねえ。でも年頃の男の子なら、いくらでもたらしこめると思ったんじゃない?」


「クズめ」


 あの三人を超える人間を探すということは、それこそ世界規模でお触れを出して捜索を開始し、大規模なオーディションで五次審査くらいまで必要になる。見た目はもちろん、各分野のトップによる厳正なる審査を繰り返さんと無理よ。


「はあ……ももっちは常識人で戦力になる凄いやつだったんだな」


「ありがたみがわかったかなん?」


「ああ、十二分にな。とてつもなく凄いやつだよお前は」


「気持ち悪いくらい素直だ……かなりへこんでるね」


「なんかメイドの方に紙渡されたんだけど」


「どれどれ? うわっ……」


 先に読んだももっちが引いた。恐る恐る読んでみると『入浴・就寝の際はお声をおかけください。お手伝いいたします。サカガミ様のシエラ』と部屋番号込みで書かれていた。


「危険だから勝手に風呂に入るなってことか?」


「一緒に入るつもりなんじゃない?」


 嫌な予感がしたので、晩飯は部屋に四人分を運んでもらい、ギルメンと食べた。

 部屋が上客用なのか、広くて快適なのが救いだよ。


「辛かったわね」


「ああ、これほど精神がすり減るのは久々だぜ」


「ベッドで横になるのじゃ。わしらは気持ちの落ち着くお茶でも入れるとするかの」


 三人ともわざわざちょっと距離とってくれている。ありがたい。


「気を遣わせているな」


「この部屋にはあの姉妹の匂いがなくて落ち着くわ。アジュの服からは少しするけれど」


「ダッシュで着替えるぞ」


 ダッシュで脱臭とか口に出してしまいそうになるほどきつい。

 無駄なことを考えていると、ドアのノック音がする。


「誰ですか?」


「です。お飲み物をお持ちいたしました」


 部屋に来るんかい。やんわり断ろう。


「いえ大丈夫です。お気になさらず」


「そういうわけにも参りません。護衛ですから」


「なら部屋の外で護衛をお願いします」


 あっちも仕事だろうし、なんでも禁止にしてしまうとトラブル起きそうでなあ。いまいち強く断れん。


「では部屋の前に台ごと置いておきます。ごゆっくりどうぞ」


「意外と早く帰ったな」


「普通のお茶じゃな」


 リリアがお茶のカートを運んできた。どうやら毒は入っていないらしい。

 一通りくつろいで、気分が落ち着いたらもうすっかり夜もふけていた。


「風呂って大浴場行かないとダメか?」


「内風呂があるじゃろ」


「じゃあそれに入って今日は寝る。お前らは三人同室なんだろ? 早めに寝ておけよ」


 そして何事もなく風呂に入り、寝室へと向かう。さっさと寝てしまおう。


「お待ちしておりました。冷たいお飲み物です」


「えぇ……」


 飲み物用意して待機しているシエラとエンカウントしました。これもう不審者でよくね。


「お世話係も仰せつかっております」


「どうも。じゃあもう寝ますので、後は外でお願いします」


 ソファーに腰掛け、飲み物はひとまず横に置く。腕輪が反応しないし、何も混ぜられていないようだが、一応後で解毒関係は調べておく。


「いいえ、ここからですわ」


 横に座らないで欲しい。他人がいると落ち着かないんだよ。


「お風呂でしたら及びいただければ、お背中お流しいたしましたのに。せっかくサカガミ様を知る機会が、一つ減ってしまいましたわ」


「まずなんでいるんですか?」


「決まっていますわ。夜のお世話をいたします」


 すげえ嫌な予感がするので帰ってください。距離を詰めるな。服を脱ごうとするな。帰ってくれ。


「どうかお気になさらず。わたくしをただ欲望を処理するためにお使いください」


「そういうの迷惑です」


 やはりこいつら非処女だ。初対面で看破していたが、嫌悪感が尋常じゃない。寝る前にビッチの臭気なんぞ吸いたくない。


「どうしてもとおっしゃるなら、どうぞ拒んでください。わたくしがすべて終わらせますので、ただ寝ているだけで結構です」


「本気でいらないです。マジで帰ってください。照れとかじゃなくて、本当に」


「それでは、一夜の思い出をお作りいたします」


 うそやんぶっ殺していい?

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