魔王戦決着
俺とマコはレベッカという女を、できるだけ早く倒さねばならない。
なぜならば。
「ふっふっふ、そんなことでは使用済み下着は渡せないっす!」
「速い! 加速してるわたしが追いつけないなんて!」
「ほーらほら急がないと下着にウチの匂いがついて台無しになるっすよー」
「なんてことを……貴女には良心というものがないの!?」
あれをなんとかしないといけないからだ。
「と、いうわけで頑張れマコ」
「少しは手伝おうという姿勢を見せてくれ」
「いや二対一だしなあ……こう……いいのか? 魔王なのにあんまり活躍せずに終わるぞ?」
「わかった。援護してくれればいい。手伝ってくれ」
「随分自信があるのね。同時でもいいのよ」
「うちは魔王様の顔を立てるのさ。安心しろ、俺も戦いはする」
一応マコの試験だからな。ボスくらい倒してもらおう。俺達から十メートルほどの距離を取り、魔力を高めていくレベッカ。これは精霊魔法か。
「いくぞ! 魔王炎撃拳!!」
身に纏う赤いオーラを拳にまとめ、巨大な炎の塊となって打ち出す技か。
火の精霊に協力してもらうと火属性攻撃ね。シンプルでいい。
「火には水よ。これでどうかしら?」
レベッカの両手から溢れ出す水が、壁となり弾丸となり、使役者であるレベッカを守る。そこそこの腕だな。こっちに飛んできた水弾はながーく伸ばしたマフラーで撃ち落としておく。
「おいおいこっちにも飛んできてるぞ。ちゃんとコントロールしてくれよ」
「……普通に貴方も狙ってるんだけど」
「そうか、んじゃ水には火だな」
ぱぱっと印を結んでマフラーの両端に火が灯る。
やがて小さな火は巨大な炎の龍となって熱気を撒き散らす。
「火遁・双龍爆炎波ってな」
文字通りマッハで飛び回る双龍は水を蒸発させ、蒸気は視界を遮るほどになる。
「きゃあ!? なによこれ……あなたなんなの!?」
「俺に気を取られてばかりでいいのかな? 我等が魔王様にご注意だ」
蒸気に隠れて接近したマコによる火拳の連打が始まる。
「魔王炎撃乱舞!!」
「くっ、初めからこれが狙いか!!」
マコの奇襲に正面から水魔法をぶつけていくレベッカ。蒸発した水を上に集めて凍らせてる? 氷柱としてぶつけるつもりか。なかなか賢いやつだ。
「マコー上から魔法が降ってくるぜ。一旦距離をとれ」
「なにいっ!? 小癪な!!」
華麗なバックステップで距離を取る。地面と一緒に串刺しになることは避けられた。
「ええいうまくいきそうだったのに……アドバイス禁止!!」
「えぇ…………」
「でかしたアジュ! 褒めてやろうではないか!」
「もったいのうございますよ魔王様」
「水がダメなら雷よ!」
「ならばオレ様の雷で迎え撃とう!!」
マコとレベッカの身体からじんわりにじみ出ている電気が膨れ上がる。
大気が震えるほどに練り上げられた雷が、二人の間でぶつかり合う。
「おおおおぉぉぉ!!」
「負けるかあああぁぁぁ!!」
「がんばれーまけんなー」
「適当な応援しとらんで援護せんか! オレ様の見せ場だぞ!」
気合入ってんなあ。力は互角、いやマコが若干有利か。じわじわとレベッカの電撃が押され始めた。やはり魔力量とコントロール、そして精霊と協力するという点において相当の才能があるな。それを努力によって磨き続けていれば、そりゃ強くもなるってもんか。
「援護って言われてもなあ……俺がヘタに乱入すると勝っちまうぜ?」
「勝負なんだから勝っていいんだぞ!」
「そら相手に悪いだろ」
「なにを言っとるんじゃまったく……」
いつのまにか俺の隣にリリアがいる。審判やってるんじゃないんかい。
「おぬしがおらんと解説してもつまらんのじゃ」
「左様でございますか。マコーとっておきの必殺技とかないのかー?」
「いいだろう見せてやる! すまないが時間を稼いでくれ!!」
「ほいほい」
二人の間に割り込み、飛んできた雷をはたき落とす。
「悪いな。しばらく俺と遊んでもらうぜ」
雷の連射を手刀で切り捨てる。鎧のおかげで雷だろうと精霊だろうと倒せるから楽でいい。マコの準備が整う僅かな時間を稼ぐだけ。
「待たせたな! これがオレ様の必殺技その六だ!!」
マコの右半分から水色の、左半分から真っ赤なオーラが吹き出ている。水と火の精霊が同居しているのか。その六と言われても一から五までが何かは知らん。
「精霊魔法の同時使用か……よほど精霊と仲がよいのじゃな」
「説明よろしく」
「実力の伴わぬ者は精霊を同時に体に宿すことができぬ。精霊は相性もあれば、力を貸してくれるかどうかの交渉もある。水と火精霊は相性最悪じゃ。マコのように精霊と仲良くなる才能があって初めて成立する。いわば精霊間の交渉人のようなものじゃな」
「フハハハハ! ハーッハッハッハッハッハ!!」
「なるほど、マコのためなら一時休戦ってことか。たいしたモテっぷりだぜ」
「おぬしも見習ったらどうじゃ」
「できるわけねえだろ」
「精霊の同時使用なんかして、身体が持つはずがない! 雷に集中して一点攻撃すればこちらの勝ちよ! 行きなさい雷よ!!」
「ならば真っ向から打ち砕いてくれるわ!! 必殺、超魔王双撃波!!」
炎と水がお互いにチョコとバニラのソフトクリームみたいに混ざり合って射出される。蒸発することも消火されることもなく、レベッカに向けて一直線に突き進む。元の世界では見られない、法則を無視した攻撃に、正直かなりテンション上がる。
「私の雷が取り込まれていく!? 攻撃しながら精霊を説得して懐柔したとでも…………きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
レベッカがふっとばされて敗者ゾーンへ転送される。勝負あったな。
「あーあ負けちゃったっすね。まあわかりきってたっすけど。それじゃウチも降参っすー」
「なんだまだ戦ってたのか?」
「えーウチら忘れられてるっす?」
「途中からわたし達のトレーニングみたいになってたね」
「そうね、でも楽しかったわ」
シルフィもイロハも無事か。
なんだかぐったりしているし、顔から疲労が色濃く出ている。
「二人ともおつかれ、こっちは終わったぜ」
「勝者マコ!! これにて試験の全工程を終了する!!」
おっちゃんの声で闘技場の風景が変わり、室内へと戻る。
とりあえず鎧は解除しておこう。
「クックック、フハーッハッハッハ!! 勝った! 勝ったぞ!! 勝ったんだ!!」
マコの笑い声が会場に響いていた。
まったく、これでようやく依頼も終わりか。手間かけさせてくれる。
「ありがとう。みんながいてくれたから、私は勝つことができた。なんて言ったらいいか……本当にありがとう」
試験が終わり、文句なしで合格したマコと一緒に闘技場を出た。
もう日が沈みかけている。
「いいさ、キッチリ依頼料ももらったし、やることやっただけだ」
こうもまっすぐ感謝された経験が少ないから、どうしていいかわからん。
「また何かあったら頼むよ」
「いいぜ、Fランクじゃ受けらんねえかもしれないけどな」
「それじゃ、早く上げないとねー」
「何かあればオレ様も手伝うさ。その必要もなく上がるだろうがな」
「どうだか……ま、楽しかったぜ。またな」
いい経験になった。珍しい物も見て、依頼も完遂。
なかなか充実した一日じゃないか。
「またね、マコ」
「マコならきっといい魔王になれるのじゃ」
「また会いましょうマコ。でもアジュは私達のものよ」
「そうだな、少々残念だが……まだそちらの輪に入れるほどではないな」
「入らないほうが正常っつうか普通だから安心しろ。常識人枠が増えるのはちと魅力的だけどさ」
「まるでわしらが常識人ではないぶっとんだやつみたいじゃのう」
「そうよ、シルフィはまともよ」
「そこは自分を推していこうよイロハ……」
まともじゃない自覚はあるんだな。安心した……いや自覚があってこの状態なのは余計やばいんじゃないかね。
「ありがとう、アジュ・リリア・シルフィ・イロハ。くっつくのは自宅でやるのだぞ? それならオレ様は何も言わん」
「だとさ、聞いたかお前ら。魔王様候補のありがたいお言葉だぞ。人前でくっつくのは控えてくれ」
「私達は勇者科だもの。魔王の甘言に惑わされてはダメよ?」
「どうせ家でも自分からはくっついてくれないくせにー」
「むしろ家でならよいと解釈すればいよいじゃろ。できることからこつこつ積み上げるのじゃ」
「なるほど、ありがとうマコ! さっそく帰ってやってみるね!!」
「やるなやるな」
「あら、魔王様のお言葉を無視するのかしら?」
都合よく解釈をかえすぎだろこいつら。
「ふむ、上に立つものとして、労ってやることは大切だぞ。それもまた修行だ」
「よーし、早速家に帰ってわたし達を労う特訓だよ!」
「いいわね、行きましょう!」
「よしよし、わしがきっちり教えてやるのじゃ」
「うむ、オレ様は祝福するぞ!」
「まったく、やっぱり魔王ってのは勇者の天敵なんだな」
そのままマコと別れ、俺達は家に帰ることにした。
ミナさんが晩飯作ってるだろうし。
まあ頑張ってくれたんだ、たまーには出来る限りやってみるとするか。
その後どうなるか不安だけどな。
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