屋上バトル
黒いアクセサリーに操られた生徒を止めるため、行動を開始する俺達とヴァン一行。
「よーしサクサクいくよ!」
次々にアクセサリーだけを狙って切り落とすシルフィ。
うまいこと人混みの中をすり抜けている。
「いい腕ね。流石私のお友達。いえ同じ悩みを持つ同志」
「よくわからんが、シルフィに友達が増えて何よりじゃな」
リリアとソニアがアイドル達を囲むようにバリアーを張る。
「あっちの方が面白そうだ。オレはあっちで暴れてくるぜ。ヒャッハー!!」
ヴァンがより体格の良い、屈強な男が暴れている場所から場所へと移動しては、アクセサリーごと生徒をぶっ飛ばしている。活き活きしてるなあいつ。
「あらあら楽しそうね~私も混ぜてもらおうかしら~」
平然とヴァンに追従する形で男達を槍でめった打ちにするクラリス。
あいつ白魔法専攻じゃなかったか。
戦ってる所を見るの初めてかもしれない。
槍かと思えば三節棍になるし。槍の刃を収納して棍にできるみたいだな。
「クラリストマホ~ク」
棒の両端からでっかい刃が飛び出す。
なんだあれどうなってんだ。かっこいいじゃねえか。
「はいは~い。あんまり動かないでね~。間違えて切っちゃうわよ~?」
トマホークをブンブン振り回しているのにアクセ以外が切れていない。凄腕だなあ。
桃色ふわふわヘアーでおっとりお姉さんオーラ出てるのにな。トマホーク持っててもちゃんとお姉さんだよ。
「私達が戦っている間に他の女に見惚れているとは。納得いかないわ」
「うおぅ!? 違うって戦い方が珍しかっただけだって!」
いつの間に背後に立ったのさイロハよ。
「私達にちゃんと手を出していないのに、他の女に手を出さないように。でないとアジュの貞操は保証しないわ」
「俺の貞操なのに保証される側なんかい」
「もう貴方を抱くことに全員で本気を出すわよ。深夜に影で全身をやんわり動けなくして、私達が勝手に無理矢理やってるだけでアジュは悪く無い。というあまりにも男に都合のいい逃げ道を用意して全力で襲うわ」
「具体的な案はやめろ。凄く怖いです。絶対思いつきじゃないよな? 計画自体は前からあるだろそれ」
「あるわよ。シルフィがアジュの服を着る前の時間に戻せば、簡単に全裸にできるんじゃないかとか。リリアの避妊魔法は何回戦まで持続するかとか」
「怖えよマジで。避妊魔法の話聞かれてたなそういや」
よりによって一番まずい奴に聞かれていたな。
「アホなことやっとらんで戦わんかまったく。まだまだ敵が来るのじゃ」
「私はちゃんと戦ってるわよ」
いつものように影が敵を押さえつけてから攻撃している。
俺だけ戦ってないのもまずいか。
「真面目にやりますよーと」
『ストリング』
「さらに倍率ドン」
『ミラージュ』
ミラージュキーで十倍に増えた紐が会場の生徒をビシバシ縛る。
警備の人間や無事だった生徒も倒し方を理解したのか、地味に数を減らしてくれる。
ありがたい。俺は応援してるぞ。
「いやあ便利だわ。俺が動かなくていいところが最高にいい」
「楽をすることを覚えてきたわね」
「これは改善の余地有りじゃな」
なんと言われようと楽をする。怠惰な時間こそが至福の時間よ。
接近戦とか自分からしてどうする。
「だってギルメン以外なんてどうでもいいし。問題にならないなら全員ぶっ殺して終わりでいいしさ。いっそ突然爆発して全員死んでくんねえかなこいつら」
「よっし終わり!」
こちらに勢い良く飛んで来るシルフィ。どうやら終わったらみたいだな。
「残念。こういうときにはボスが居るもんだぜ」
ヴァンの視線を追う。そこには砕いたアクセの破片と黒いモヤで出来たなにかがいる。
人間の上半身に似ている。モヤが腕と頭と胴体を作る。
ご丁寧に胸に破片が集まっている。弱点丸出しだな。
「全身ができる前の今がチャンスじゃな」
よく見るとじわじわと下半身も作られている。完全体となったアレと戦うのダルそうだ。
「それじゃあ最後はみんなでしめてもらうのじゃ。ほーれパス。アイツに向かって必殺シュートじゃ」
リリアの作り出した魔力の玉。バスケットボールくらいあるそれを俺の足元に転がしてくる。
「ここで俺かい……鎧使っていいか? こういうの苦手だ」
「特別に許可するのじゃ」
『ヒーロー!』
「いくぜ、ほれ!」
「ほいきた!」
俺の蹴ったボールが敵の頭をふっ飛ばし、敵の背後に回ったシルフィがこちらに蹴り返すことで左腕のもやもやを散らす。
「いくわよ!」
「はいは~い」
ボールを受け止め、生成される敵の下半身と右腕をイロハとクラリスが潰す。急ごしらえでそこまで合わせられる運動神経が羨ましい。超人ばっかりか。
「では威力を上げてやるのじゃ」
「手伝うわ」
リリアとソニアの魔力でボールが膨らむ。輝きを増し内包する魔力量が数段上がっている。
「最後は合体シュートいくぜ」
「乗った。技名どうする?」
「アドリブで。二人でってとこが肝心だぜ」
「オーケイ行くぜ超必殺!」
ボールを天高く蹴り上げ、俺とヴァンも飛び上がる。
「ツイン!」
「ダブル!」
異なる掛け声の後、俺とヴァンの声が重なる。
「シュート!!」
俺達二人の渾身の必殺シュートは見事黒いもやもや野郎をぶち抜き完全消滅させる。
鎧を解除して一件落着。いや、まだだな。
「やったぜ。いや、しくじったな。ダブルとツインで意味が被ってるじゃねえか」
「ここはツインだろうがよ。今のはアジュが悪い」
「なんで俺なんだよ。ダブルの方がいいだろ。百歩譲ってクロスだ」
「クロス? なんでだよ絶対ツインだろ。ここはセンスが問われる箇所だぞ」
「だからこそダブルなんだよ。ダブルっぽいだろ」
ツインもまあかっこいいけど俺的にはダブルだ。二人合わせてってんならクロスだ。
「あの二人はなにをやっているのよ」
「バカをやっておるのじゃ」
「私達は関わらないほうが良さそうね」
「あーあはは……ダブルかっこいいと思ったわたしがおかしいのかな?」
「そうね~でもクロスが一番だと思うわ~」
外野の声は気にしない。シルフィはいいセンスだ。
「それじゃあオレ達はアイドルを送ってくる。報酬貰ってくるから下にある店で待っててくれ。ガッツリ食える店な」
「事情は知らないけど。アジュくん達は目立っちゃまずいんでしょ? 私達で行ってくるから。今のうちに逃げなさい」
「また遊びましょうね~」
こちらに気を使って送り出してくれるヴァン達。ありがたい。さっさと行こう。
「助かる。んじゃ待ってるぜ」
それぞれ分別れの言葉を告げて、そそくさと逃げるように去る俺達。階段を降りて店に向かう。
「結局あの黒いのなんだったんだろうね」
「破片くらい回収すればよかったかしら?」
「やめとけ、どんな害があるかわかったもんじゃない」
「あれは危険じゃ。分析は専門家に任せるのじゃ」
「そうそう、手を出してもいいこと無いさ。そういや買い物はいいのか?」
みんな手に買い物袋とか持っていない。
「家に送ってもらったよー」
「どんな下着か乞うご期待よ」
「見せることを前提にするな。下着ってのは本来見えないものだ」
「そこで自分だけが見ることができる。というのがレアでよいじゃろ」
「残念だが否定も肯定もしないぜ」
「他にもお買い物しておいたからね。家でダラダラできるグッズが増えました!」
シルフィは本当にわかっている子だな。家でダラダラできる。つまりリラックスした状態でいられるということ。これはとても大事だ。ただでさえ女の子と同居は気を使うんだから。
「ナイスだ。雨の日とか休日とか、なんとなく外に行きたくない日とかに使おうぜ」
「どんどん外に出なくなる日が増えそうね」
「ああ増えるさ。自宅はいいぞ。二度寝だってできる。本を呼んで眠くなったら寝ることもできる」
「寝てばっかりじゃな」
「あんまり外に出ないようだと寝込みを襲うわよ」
「ちょっと外に出てみようかな!」
この後報酬にちょっと色つけてもらえたヴァン達に飯奢ってもらって家に帰った。
屋上での出来事がなんなのか解析には時間がかかるだろう。とりあえずゆっくりしようと思ったら。
「お待ちしておりましたわ!」
ヒメノだよ。家の前で仁王立ちだよ。腕くんで巨乳を強調していくスタイル。ダラダラできるグッズ見たいんだけどなあ。
「黒いモヤについてお話がありますわ」
今回は真面目に聞いてみようかな。
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