第528話 初音の母

「……創、お母さんたちが挨拶したいって」


 樹と色々と話していると、初音がそう言ってきたので振り返る。

 するとそこには、初音の母親と思しき女性と、初音の妹と弟たちがいた。

 初音自身が、中学生にしては美人というか、比較的キリッとした美貌を持っているのである程度予想していたが、母親の方は超絶美人なんだよな。

 中学生の母親には見えない。

 

「天沢さん。改めてになりますが……初音の母の陽子と申します」


 丁寧にそう言ってきたので、俺は言う。


「あぁ、いえ。白宮と一緒の時にすでにご挨拶は……」


 ギルドビルにきてくれた時に、すでに一応挨拶はしていた。

 ただ、会が始まるまでの手持ち無沙汰な時間、初音がうちに所属することになった経緯とか、その周りの色々な説明は雹菜はくながギルドリーダーとして行ったため、俺の方はお茶汲みと化していたからほとんど話していなかった。

 だからだろう、陽子さんは言う。


「天沢さんとはあまりお話しできていなかったものですから……初音を誘ってくれたのも、天沢さんだということでしたし、お話をしたくて」


「それは確かに……娘さんのことですもんね。心配ですよね……」


 俺みたいな怪し気なやつが急に誘ってどうこう、みたいなのは。

 と急に思って言うと、陽子さんは首を横に振って言った。


「いえ! そんなことは全く……。そうではなくて、ただまずお礼を言いたくて」


「お礼ですか?」


「はい。うちは……その、見ての通り、家族がたくさんで……家の収入の多くを初音に頼っています。私も働いてはいるのですが、子供たちを見なければなりませんから、中々難しいところもありまして。でも初音は頑張りすぎてしまう子なので、一人でソロとして冒険者をやってくことに、問題を感じつつも中々言うことが出来ず……」


 陽子さんはそう言って、家庭事情を赤裸々に語ってくれた。

 これに初音は、


「お母さん頑張ってる。それに生活費とかはお母さんがちゃんと稼いでる」


 と擁護する。

 そうなのか。

 中々この人数だとシングルマザーでは難しくないか?

 と思ったが、これに陽子さんが、


「冒険者協会で働いてまして、時短ですけど結構給与はいいのです」


 と意外な事を言う。

 結構な難関なはずなのだが……。

 これに初音が、


「お母さん、もともとお父さんと冒険者してた。結構いい腕」


 と言ってくる。


「そういえば結構な魔力を持っておられますもんね。初音のお母様だからと深く気にしてなかったですが……」


 冒険者の実力というのは、遺伝することもあることで知られる。

 特に魔力量についてはわかりやすい。

 冒険者でもない母親がかなりの魔力を持っている、ということも間々あるのだ。

 じゃあ冒険者になればいいじゃん、と言いたくなるだろうが、なったら死ぬ可能性がある職業に率先してつくやつは、今更な話だがネジの抜け落ちてるやつであるのは言うまでもない。

 魔力を持っていても冒険者などにはならない、という者も多いのだ。

 だから陽子さんもその口かと思っていたが、違うようだ。


「私など大したものでは……」


 謙遜する陽子さんに、初音は、


「隠蔽系のアーツはお母さんも教えてくれた」


 と言う。


「父親の方じゃなかったのか……」


「お父さんも昔教えてくれてたけど、昔だから結構忘れてることが多くて。でもお母さんに話を聞いたり見本を見せてもらったりした」


「ってことはかなりの実力者なんだな……」

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