第320話 魔導具倉庫

「……おう、悪りぃな! 今、時間あるか!」


 魔導具倉庫は少し離れた場所にあるということで、俺たちは車に乗せられてそこにたどり着いた。

 車は黒塗りの高級車であり、なんというか《黒鷹》らしいのは言うまでもない。

 聞けば、防弾設計であるのは当然らしいが、それに加えて多くの魔道具で強化されている特注品だということで、もしそんじょそこらのはぐれ個体の突進にあったとしても、少なくとも車体はびくともしないだろうという。

 内部の人員は……?

 という気もするが、それについてもある程度の安全策がとられている上、そもそもこれに乗って移動するのは大抵腕利きの冒険者であるので問題ないらしい。

 まぁ、下っ端は普通の車に乗るか、とある意味納得だった。


 ちなみに、魔導具倉庫があった場所は郊外の広い敷地であり、当然、《黒鷹》の所有する土地である。

 なぜこんな不便かつ広い場所に、と思うが、こればかりは国の基準で決められているから仕方がないという。

 どんな基準か、と言うとある程度以上の質・数の魔導具を集積して保管する場所は都市部から離れた場所に設けなければならないというものだ。

 我が《無色の団》程度の規模であれば、持っている魔導具の数も質も大したことないが、《黒鷹》程ともなると規模が違う。

 もちろん、先ほどまでいたギルドビルにもそれなりの魔導具保管施設はあって、一応見せてもらったが、それほどの数もなく、欲しいものはここにはないだろう、と言われてしまった。

 確かに、そこにあったのは回復系の薬品と、低級冒険者向けの替えの武具ばかりで、ギルド戦での報酬というには少々期待はずれのものばかりだったのは事実だ。

 そこでこうして郊外の倉庫までやってきた。

 とは言っても、無人の野っ原にデカい倉庫が……というわけではなく、それなりの人が定期的に入れ替わり立ち替わり動いていて、活気のある場所であった。


 そんな中の一人に、たった今、賀東さんが話しかけたところだ。

 その人物がこちらにやってきて……。


「……あっ、賀東の兄貴!」

 

 と、賀東さんの顔を確認して言った。


「おう、博美。忙しいとこ悪いな……こいつらが前に言ってた奴らだ。基本的に俺が案内するが、お前もここの責任者として先導してくれ。で、お前ら、こいつは《黒鷹》の資材管理部の部長、佐倉博美だ。ナリは小さいが、この倉庫のことでこいつが知らないことは何一つない。同時に、腕利きの鑑定士でもある」


「皆さん、佐倉博美です、よろしくお願いします!」


 そう言って頭を下げた佐倉は確かにだいぶ小さな人だった。

 百四十と少しくらいだろうか。

 職業柄か、比較的大柄な人が多めの冒険者界隈には珍しいかもしれない。

 ステータスの関係で実は別に体型はそこまで関係ないのが冒険者の適性だが、リーチとか考えると戦士系は身長があった方が有利なのは間違いない。

 術師系だと関係がなくなるが、でもこの人は戦士系に感じるな……体内に蠢く魔力の流れが、軽い身体強化のように見える。

 なぜかけているのかは謎だが。

 いや、資材管理ということだから、そのためかな?

 力がないと難しい作業だろうし、素の力では難しいだろうし。

 そんなことを考えているうち、佐倉さんとうちのギルドメンバーのほぼ全員の挨拶が終わる。

 残ってるのは俺と静さんだけで、まず俺が、


「天沢です。よろしくお願いします」


 と握手した後、


「私は宮野……」


 と静さんが挨拶しようとした直後、


「あ、あなたがあの宮野静さんですね! あぁっ! 私の《上位鑑定》でも一切何もわからない!! 名前すらもわからない!! すごい! これが万物鑑定士……!!」


 と叫びながら手を握り、ぶんぶん振り始めた。

 助けを求めるような視線を賀東さんに向ける静さんに、賀東さんは言った。


「まずこいつがいきなり鑑定したことを謝罪する。絶対にやめろと言い含めて置いたんだが……どうにも魔導具狂いでな。うちの奴らの中でも唯一、言うことを聞かねぇ。魔導具が関わらなきゃ、誰よりも従順なんだが……」


 だいぶ頭を抱えた様子なのだが、彼の悩みを表しているようだった。

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