第321話 鑑定の難しさ
「……魔導具のことって……静についても?」
雹菜がそう尋ねると、賀東さんは言う。
「……博美は《上位鑑定》持ちだ。大抵の鑑定系スキルが特定の物品に特化したものばかりなのは知ってるだろう? そっちの方が、場合によっては深く鑑定できたり、派生スキルを得られたりと秀でている部分もあるんだが、それでもより多くのものを鑑定できる鑑定士というのは重宝される。なぜかは分かるよな?」
「……迷宮の中で見たこともない魔導具や魔物を発見した時に、その場で鑑定できるから。特に高位の冒険者になればなるほど、その重要性は深く理解してるでしょうね。相手が急に状態異常系の攻撃をしてきたりする魔物が多いところで、それを先んじて見抜けていれば対策がいくらでも取れるし、また弱点なんかがわかってればそこを集中的に攻撃すれば楽に倒せる。可能であれば、みんな、鑑定士を連れ歩きたいと思ってる」
「その通り」
これは事実で、だからこそ、魔物鑑定系のスキル持ちは低級でも結構重宝される。
魔導具系はその次だな。
流石に二人も鑑定士を連れて行くとなると色々と大変になるのでみんな避ける。
鑑定士は魔物から得られる魔力などの経験が鑑定スキルに相当な割合で奪われるのか、強くなる速度が一般的な冒険者よりも遅いのだ。
今だと、《転職の塔》があり、そこで《鑑定士》系統の職業の出る者がそれなりに確認されているようで、そのために昔ほど取り合いになったりはしないが、やはり魔物鑑定と、全てのものを満遍なく鑑定できる単純な鑑定のスキルを持っているものは重宝されるのだった。
その中でも《上位鑑定》は鑑定系スキルの中でもトップクラスに貴重なもの。
《下位鑑定》《中位鑑定》《上位鑑定》と育てていかなければ得られず、しかしそこまでに至るにはどれだけの経験を積まなければならないのか分からないほどのものだ。
そういう人物を普通に抱えている《黒鷹》のトップギルドぶりが分かる。
賀東さんは続ける。
「……そういうことだから、博美のやつは結構頻繁に、俺と迷宮に潜るんだが……俺たちが潜るのは、大抵、迷宮でも未踏の場所ばかりだからな。当然、そこに存在する魔物、魔導具、そのほかの素材など含めて、ほとんどが見たことがないものばかりだ。そうなるとな……博美でも鑑定できないものも出てくる」
「《上位鑑定》でも……でも、そうしたらどうやって……」
俺がそう呟くと、賀東さんがそれを拾って答えてくれる。
「鑑定をするのか、ってな。簡単だ。持ち帰って、さっき言った特殊な物品の上位鑑定系を持ってるやつに見てもらうんだ」
「あぁ、なるほど。当然と言えば当然か……」
慎が納得したようにそう言った。
ただ、賀東さんはさらに続けて言う。
「だが、ごく稀に、それでも正体の分からない品と言うのが出ることも、ある」
「えっ、じゃあそれは……永遠に正体わからないままなんですか?」
これを直接尋ねたのは、美佳だった。
彼女は好奇心旺盛な方だから、気になったのだろう。
まぁ、これについては俺も気になるが。
そして賀東さんは言った。
「いいや? 以前見つかったものは、オークションにそのまま出した。だいぶ強そうな魔剣だったんでな。だが、呪いがかかってそうにも見えたし、触れるのも恐ろしかったから聖属性でエンチャントした布に包んで、そのまま持ってったんだよ。で、店の方で値付けしてくれと半ば投げた。すると、しばらくして連絡が入った。鑑定できたから正確な値付けを出来たとな」
「ええ、どうやってです……?」
「簡単だよ。万物鑑定士様が鑑定してくれたのさ。そのことを聞いて以来、博美の奴は、万物鑑定士のファンだ。ああなるのも理解できるだろ?」
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