第319話 見学
「……まぁ《転職の塔》と魔境調査については後でさらに詰めておこう。本当なら、お前らを魔境調査に誘って、なんとか参加を決めてもらう、だけのつもりだったが、この感じだと単純にそれだけじゃすまねぇからな」
賀東さんがそう言った。
これに雹菜は、
「そうしてもらえると助かるわ」
と答える。
これは他人事というわけではなく、ここまで込み入った話になってくると、今の《無色の団》の手に負える案件ではなくなってくるからだ。
せいぜいが、参加するくらいで。
大半の事務的な手続きやら、連絡やら、具体的な計画の組み立てやらは、賀東さんたち《黒鷹》が行う。
「……他人事っぽく言ってるが、これはかなり重要な話だし、お前らにもそれなりのところを担ってもらうからな。今日は事務関係についても勉強していけ。あと、事務員も増やせよ。いくらなんでも、お前らのとこの規模と看板で今の数だと少なすぎるぞ。当てはあるのか? なかったらしばらく貸してやるが」
賀東さんのこの発言は、通常だったら内部情報を知るためにスパイを送り込む、みたいな話に聞こえることもあるだろう。
だが、彼に限ってはそんなことはないというか、わざわざそんなことをする理由がない。
本当にうちのギルドの全てを知りたいなら、圧力をかけるなり実力でねじ伏せるなりの簡単なやり方がある。
単騎であれば賀東さんは雹菜と互角か、少し勝るくらいなのだと思われるが、そもそも《黒鷹》は規模が違う。
普通に総力を挙げてこられたら普通に《無色の団》は終わりである。
そういうわけで、ただの善意だな、これだ。
けれど、バレるとまずいことがあるのは間違いないので、受け入れるわけにもいかない。
それに……。
「いえ、最近だけど、事務員増員の当ては出来たからなんとか大丈夫よ」
「お、そうなのか?」
少し驚いているから、このことは流石に賀東さんも情報として手に入れていないのだろう。
それも当然で、当てとは、梓さん周りの妖人から事務を取るということだからな。
流石にこればかりは、容易に流れない話だろう。
妖人に関しては、《オリジン》である梓さんががっちりと囲っている。
たとえS級冒険者が探ろうとしても難しいのではないだろうか。
それくらいの人だ。
「ええ……事務能力も折り紙付きの人ばかりになるはずだから、そこは心配してないの。ただどれくらいのこと任せてもらえるのかは先に聞いておきたいし、見学もしておきたいのは間違いないわ」
「ま、そうだろうな。よし、行くか。あぁ、ついでに魔道具倉庫も案内するから、見ていけ。武具に関してはお前ら全員選んで良いぞ……いや、雹菜くらいに合う品があるかどうかはなんとも言えねぇが。そのクラスの品は、うちの奴らにすでに使わせちまってるからな。細剣は敏捷強めの女共に人気があってよ……」
「私はいいわよ。それより、他のみんなの強化が出来るとありがたいわ」
「そうか。なら、早速行くとしよう。俺直々に案内してやる……聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ。別に隠すことなんかなんもねぇからよ! あぁ、流石に依頼人の個人情報とかそういうのはだめだぞ? そういうの以外な」
これにはみんな頷いたのだった。
それから、賀東さんの案内でギルド《黒鷹》の各部署を回った。
いずれについてもしっかりと機能していて、参考になる部分も多かった。
それぞれがかなりメモを取ったり、質問をしたりしていた。
俺もまた、そうした。
後日、分からないことがあったらいくらでも聞いてくれという話だったから、賀東さんは本気でうちのギルドの後見的役割をこなしてくれるつもりなんだろう。
そして、それらの見学全てが終わった後は、魔道具倉庫へと向かうことになったのだった。
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