第318話 順序

「……でも、北海道魔境調査のスケジュールとかの影響はどうなんですか? めっちゃ大規模にやる予定なんですよね……?」


 これを口にしたのは意外にもカズだった。

 ここまでの話がここでされるとは思っていなかったからか、つい疑問が口から出たのだろう。

 ただ、賀東さんは特に気にした様子もなく答える。


「それについちゃ、何とでもなる……いや、むしろ魔境調査のために訓練が必要だという名目にすりゃ、政府にしろ冒険者省にしろ、断らねぇだろ。星宮の方は……」


 そこでチラリ、と樹の方を見たが、これに樹が答える。


「僕に期待されても……父に言ってみるくらいのことは出来るけどね。資材とか大量に集めてる最中だろうから、あまり遅らせられすぎると損害も大きいから。せめて保存系のスキルを持ってる冒険者を相当数つけて貰えば交渉くらいは……。食糧と回復系の資材はどうしても保存期間がネックだからね。それ以外についてはただ置き場所の問題になるだろうから、そこは先んじて函館基地の方に運んでおくとか、青森の方で止めとくけど集積しまくっておくとか、そういう感じのことが出来る……かもしれない」


 経営にはノータッチ、みたいなことを普段から言っている樹だったが、思いのほか具体的に色々と言う。

 実務自体をしているわけではないにしても、後継者としての教育の一環でかなりの情報を与えられているのだろう。

 賀東さんはこれを聞いて頷き、


「それくらいのことなら、何とかなる。特に、《転職の塔》にこだわってる奴らがいるからな。魔境調査に振り向けようとしてた人材の中でも優秀なのを一時的にとはいえ《転職の塔》の方に振ると言えば、かなりの協力を取り付けられるはずだ。そもそも、あいつらは支援系が多いからな……だからこそ、どれだけ弔い合戦しようともほとんど進めてねぇわけだが」


「こだわってる人たちと言うと……五大ギルドから外されてしまった大規模ギルドの人たちね」


 雹菜がそう尋ねると、賀東さんは頷いて答える。


「あぁ。奴らはそれぞれのギルドを代表するような強力な冒険者を失ったわけだが、それだけが理由で五大ギルドを外されたわけじゃねぇ。弔い合戦にこだわりすぎてるから、この国のギルドを代表するギルドの地位はふさわしくないってなったのが大きいんだ。それについちゃ、奴らも認めてるから、素直に降りた。素直に降りるくらい、《転職の塔》攻略にこだわってるわけだ……もうあいつらは元のギルドの垣根すら気にしなくなってるからな。《影供えいぐ》とか名乗って、全員が黒い装束纏って毎日転職の塔に突っ込んでく」


「《影供》って何ですか?」


 首を傾げたカズが尋ねると、賀東さんは説明する。


「影供……神様仏様とか、亡くなった人の像に供物を祭ることを言うんだが、自分達がその供物だって名乗ってるのさ。もう死兵みたいなもんだ……だからあいつらに関しては、俺も魔境調査に誘えねぇって諦めてたんだが……」


「今回のことで糸口くらいにはなりそうね」


 雹菜がそう言った。


「あぁ。次の段階へ転職できる部屋まで辿りつけりゃ、確実に協力してくれる……ハズだ。そしてそうなれば、魔境調査にも希望が見えてくる……これはやっぱり、そうしろってことなのかもしれねぇな。迷宮には攻略の順序ってもんがある。魔境も同じってことかね」


 迷宮の攻略順序は、フロアを闇雲に歩き回るのではなく、敵の強さが徐々に上がるように進むのが定石であり、確実だというやり方のことだ。

 特に、だだっ広い開けた迷宮のフロアなんかだと、次の階層まで真っ直ぐに行きたくなるが、それをすると詰むこともある。

 それを指しているのだろう。

 今までだと、魔境調査に関しては詰みかけていた状態にあったが、《転職の塔》の攻略が出来れば、まさに順序通りの攻略になるのかもしれない。

 そんな期待が持てそうだと、そう言う話だった。

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