第317話 試練

「……それで、その後は?」


 時が戻って現在。

 第一次北海道魔境調査について語る賀東さんに雹菜がそう尋ねた。

 ここまで聞いただけでも、北海道、函館の危険さがはっきりと伝わった。

 そんな中を歩き回って、これだけの情報を持って帰ってきている賀東さんに尊敬の念が湧く。

 ただ、これだけで終わりとも思えない。

 何せ、第一次も第二次も、それなりの情報は持ち帰られたものの、総合的には失敗だったという話だったからだ。

 もちろん、一般には伏せられているようで、上位ギルドがその関係者にしか事実は伝えられていないようだが。

 こればかりは隠蔽に思えてしまうが仕方がないところだろう。

 何せ、一般人がはっきりとそれについて知ってしまえば生きる希望が潰える。

 この世界はいずれ魔境に飲まれ、魔物たちに蹂躙され、そして人間の生きるとちは消え去ってしまう。

 そうとしか思えなくなるような話だからだ。

 とはいえ、薄々は皆それは感じているのだが、確定してしまいそうな情報を大々的に出すのはどうかという話だ。

 そもそも、第一次も第二次も失敗と言っても、さらにその次の第三次も失敗するとは決まってない。

 少なくとも賀東さんにそのつもりがないことは彼の目を見ればわかる。

 希望を失った者のする表情ではない。

 

「その後は、大したことがねぇ……というか、語れることは少ないな。函館駅に行って、そこには確かに迷宮が存在してたんだが、そこを俺たちはしばらく探索した。これについては意外なほどに成功したぜ。もちろん、最下層まで踏破、なんてことは出来なかったが、当面の間、魔物が氾濫しないようには出来たと思う。ただ途中で引き返した。それはボス部屋の前でな。中にいるボスが、部屋の入り口から見えたんだが、倒せる気がしなかったんだよ」


「ちなみに何がいたの?」


「聞いて驚くな。レッサードラゴンだ。《転職の塔》の前にいたやつが、そこにもいた……」


「また? いえ、別におかしくはない……のよね。魔物ですもの。どこに至って……」


 だが、微妙な違和感を覚えているような表情を雹菜がしているのは、やはり何か妙だ、と思っているからだろう。

 それを言語化出来ていないのだ。

 俺はなんとなく思ったことがあるので、少し口を挟んでみた。


「《転職の塔》にしても、函館駅ダンジョンにしても、なんだか人類の試練のように立ちはだかってる気がしますね、レッサードラゴン」


 そう、まるで重要拠点を守っている守護者のようにそこにいる。

 迷宮の存在が、全く誰の意思も入っていない自然現象だというのならそれでもおかしくはないが、俺は迷宮にしろ何にしろ、そういうものに干渉できる存在がいることを向こうの世界で知った。

 何か意図があっているのではないか。

 そう感じているからこその発想だった。

 これには雹菜も賀東さんも少し目を見張って、それから頷いていた。


「……試練。そう、試練なのかもしれないわね……そう考えると、納得がいくところがある。函館駅のレッサードラゴンを倒せば……何かが起こる? 《転職の塔》の時の先が、開かれたように……」


「もしくは、《転職の塔》の先を攻略し切るくらいの力がないと、挑めないマップだ、とかな。なんだかゲーム脳みたいだが、迷宮からしてゲームみたいな話なんだ。ステータスにしたって……あながち外れてはいねぇのかもわからねぇ……」


 どうなのだろうな。

 そうすると、すぐに第三次魔境調査などしてしまうのもどうかと思うが。

 日程はある程度定まっているのだろうし。


「いっそ、その前に《転職の塔》攻略を頑張ってみるとか?」


 ただの思いつきで言ってみたが、賀東さんは、


「それも悪くはねぇな。五大ギルドが挑んでも厳しかったが……あの時よりみんなの地力も上がってる。それにマップもある程度明らかになってるし、やれることは多いはずだ……」


 そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る