第316話 函館の街

 函館の街が魔物共に支配されている、と言っても人がまったく進めないようなレベルに蟻の大群みたいにいる訳じゃない。

 それでも確かにゴブリンとかオークとかは結構な数を見たが、これに関しちゃ俺たちの敵じゃなかった。

 まぁ無視して進んでも良かったんだが、こういう奴らは放置しておくと増えるらしいからな。

 迷宮だとどこからともなく現れるのか、気づいたら再湧出してたりするもんだが、魔境での魔物の増え方には、普通の繁殖ってのもある。

 これについては世界中の魔境で確認されてることで、まぁそういうことだから、出来るだけ間引ける時に間引いておくのが重要って訳だ。

 俺たち調査隊が本州に戻った後も、函館軍港の軍人たちは周囲の調査警戒を行い続ける予定だから、その人たちのためにもなる。

 ちなみにこの時の俺たちの目標地点はまず、函館駅、そして可能なら五稜郭まで行くことだった。

 理由は色々あるが、知っての通り、駅ってのは迷宮が出現しやすいからな。

 多くの魔物が函館中に現れてる原因の中でも、軍港近くで最もヤバいのは函館駅だろうって予測はすぐに立った。

 軍の地図に書いてある魔物の分布を見ても、それに魔力測定系の魔道具やスキルを持ってるやつにも調べさせても、やっぱ函館駅がヤバいってことで一致したな。

 ここを一旦攻略すれば、軍港近くの魔物は間違いなく減るだろうし、そうすりゃ今後の調査もやりやすくなる。

 いつか北海道全体を取り戻したいとは考えているが、それでも千里の道も一歩からだからな。

 確実な目標を片付けていくべきだと考えていた。


「……一番調査しておきたいのはやはり五稜郭ですが、難しいでしょうか」


 道路を慎重に進みながら副長の恵がそう尋ねた。


「分かってるだろ。あそこは函館駅なんかよりも何倍もヤバいぞ。あっちの方角からすげぇ魔力がここからでもビンビン感じるぜ……」


「それは私も感じてますが……。すみません。五稜郭をある程度まで攻略出来れば、函館の奪還にかなり近づくんじゃないかと思ったので」


「まぁそりゃ間違いないがな。今回はあくまで遠くから見るくらいのことを目標にしておいた方がいい。俺たちは今回、完全な函館奪還の為に来た訳じゃねぇんだ。それはまだ先の目標だな……とりあえずは函館駅。後は……あぁ、函館山も後でどうにかしたいな。あそこに強力な魔物がいるって話だし」


「鬼系の魔物が巣食ってるという話でしたね。うちのギルドは妙に鬼に縁がありますね……」


「あんまり望んじゃいないんだがな。だが、鬼系の魔物はドロップ品が美味い。俺の武器だってそうなんだしな。魔境の魔物でドロップは起こるらしいし、そういう意味じゃ悪くはねぇな」


 ただ、魔境の魔物は死亡してもその遺体が消滅しないことが多い。

 消滅することもあるのだが、多分その違いは地上で繁殖したか否かや、地上に出てからの期間などにあるのではないかと言われている。

 実際、ここまで倒したゴブリンやオークは消滅しないものが多く、しかし函館駅に近づくにつれ、消滅するものもポツリポツリと出るようにやっていた。

 迷宮から這い出して期間の短いものなのだろうと思われた。


「私も総長のような強力な武具が欲しいものです」


「お前はオーダーメード品持ってるだろ。まぁ、ドロップ品のがスキル乗ってることもあるから欲しいのは分かるが、こればっかりは運だからな……よし、この辺りの魔物は大体掃討した。先に進むぞ」


「はい」

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