第56話 危険と、これからの目標

「……気づくも何も、はっきりと《ステータスプレート》に書いてあるからな。見れば誰だってわかるだろ」


 俺が呆れたようにそう呟くと、雹菜も苦笑して頷いた。


「まぁ、そうよね。でも、創のと比べたら地味な内容だから、流されるんじゃないかと少しだけ思っていたわ」


 若干冗談めかした口調で言ったので、本気ではないだろう。

 そもそも、雹菜の話を聞いていれば分かったが、やはり今はアーツを持っていることそれ自体が、かなり珍しいということになる。

 一応、B 級以上ということになる、高位冒険者だけが持っていることが確認された、とは言っていたが、ほとんどがA級以上とも言っていた。

 しかし雹菜はそれこそB級なのだ。

 にもかかわらず、アーツを持っているということは、相当の珍しさ、将来性を感じさせる要素、そういうことになりはしないか。

 まぁ、雹菜の将来性なんていまさら言うまでもない話だろうが。

 何せ、何度も言うようだが高校生で既にB級なのだからな……。

 いくら必要とはいえ、五百万円もする魔道具をポンと買えるだけの財力を持っているくらいだ。

 今後の人生は安泰……とまでは言えないか…

 冒険者というのは、どれだけ強くたってそうだ。

 いつ死ぬのかは誰にもわからない。

 雹菜だって、豚鬼将軍に殺されていてもおかしく無かった。

 一寸先は闇、それが冒険者という存在だ。

 俺はそんなことを考えつつ、雹菜に言う。 


「流すはずないだろ……ただでさえ《ステータスプレート》については気になることが一杯あるんだから。一気に知識を流しこまれたとは言え、自分で色々調べたり疑問に思ったりしないと、その知識も活用できないようになってるくらいだ。目についたものは全部確認したくなる……」


 これは正直な気持ちだ。

 今、《ステータスプレート》を持ってる人間はみんな、同じ心境だろう。

 いや、持っていなくても、だな。

 持っていない人間は一般人で、冒険者としての適性がない人間ということになるが、家族や親戚が持っている、という場合には無関係ではいられない。

 それこそ、テレビで言っていたように子供との血のつながりが、とかいう話にもなりうるのだ。

 それ以外にも医学的な情報が分かることから、本来なら詳細な検査をしなければ見つからないような疾患も見つかる可能性があるし、有用な扱い方も出来るものでもある。

 それでもやっぱり一番は、冒険者としての活用の仕方になってくるだろうが……とにかく気になることたくさんだ。


「これの仕組み全部を理解できる日はいつになるのかは謎だけどね……いろいろいじってみてはいるけど」


「それはな……それより今は雹菜のアーツだよ。《氷姫剣術》ってなんだ? ここには技名が表示されるんじゃ無かったか?」


 《〜流氷拳突き》とかがアーツとなる、そんな話だったはずだ。

 それなのにいきなり例外である。

 しかしこれに雹菜は冷静に答えた。


「基本的にはそうよ。でも、それはあくまでも一つ、二つしか技がなかった場合ね。《〜流〜突き》、とかそういうのが一定数以上あると、どうも統合される……みたいなの」


「……つまり、雹菜は複数のアーツを持っている?」


 素直に解釈するとそういうことになる。

 

「そういうこと。創はまだ気づいてないみたいだけど、アーツのところをタップしてみると分かるわ」


「えっ?」


 言われてみて、そのことについて意識してみると、頭の中にぼんやりと知識というか、《ステータスプレート》の新たな扱い方が浮かんでくる。

 それはつまり、個々の項目をタップすることで詳細が表示されることがある、ということだ。

 ただ、その詳細というのは、内容の説明というわけではなく……。


「ええと、これは。《天沢流魔術》……《上級炎術(擬)》《最下級身体強化(擬)》……」


 ちょうど、《天沢流魔術》の項目が開かれて、ツリー構造のようになる。

 そしてその下にそれぞれのスキル……のようなものが表示された。

 スキルではなくて、これがアーツか。

 俺が身につけている、個々のアーツ。

 しかし(擬)って。

 つまり、もどきとか模写とか模造品とか、そういう意味だよな……?

 まぁ、本物ではないから、正しいか。

 本物は、スキルの方だ。


「へぇ、そんな表示になるのね? でも(擬)って割には、本家よりも威力が高かったけれど……」


「本物より優れた模造品ってことか?」


「私にはそんな風に感じられたけど……単純に、似せただけの非なるもの、ってだけかもね。それにしても、そういう風に表示されてるということは、やっぱり創は他のスキルも同じように模倣して、自分のアーツにしていけるってことじゃない?」


「……それって最強じゃないか?」


「どうかしら。いえ、すごいのは間違い無いのよ」


 どうかしら、のところで俺が少しがっかりした顔をしたのを認識したからだろう。

 慌てて雹菜がそう言ってくる。

 続けて、


「私が気になってるのは、消費の方よ。《上級炎術(擬)》を発動しただけで、創は倒れてしまって一週間ほど使い物にならなかったじゃない? 無尽蔵に無双できるって感じでは、今はなさそうだから」


 冷静な意見を述べる。


「それは確かにそうだな……《最下級身体強化(擬)》の方はそんなことにはならず、使い続けられたけど」


「その違いは、多分、身体強化の方は十分に魔力が足りていたからよね……これって結構怖い話よ」


「……俺は無茶が効くってことか」


「前向きに捉えるならそういうことになる。でも、ネガティブに考えるなら、死ぬまでスキル……じゃないか、アーツを使い続けることも可能ってことになる。そもそも普通なら、魔力を使い果たせば立てなくなるし、無理に生命力を使うこともそれなりの冒険者なら不可能では無いけど、限界がある。それに、分不相応なスキルはそもそもほとんど覚えることが出来ないわ。でも、創は……」


「全く実力が足りてなくても、見て、仕組みを理解出来れば、それこそ普通なら絶対に覚えられないスキルもアーツとして覚えられてしまう……?」


「そうよ。《上級炎術》がまさにそれね。今の創では魔力が足りなくて、一発発動させるだけでも生命力まで奪われるようなスキルということ。本当に気をつけないと……いえ、そもそもまず実力を上げればそういう心配もなくなるのよね……」


「迷宮に潜って、魔物の力をいっぱい吸収すれば、なんとかなるかな?」


 俺にはそれくらいしか浮かばなかったが、雹菜はうなずく。


「それが単純にして一番の方法だと思うわ」


「じゃあ、これからはそれを頑張ってみるか……」

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