第57話 幼馴染との初めての迷宮

「……さて、準備はいいかしら!?」


 俺の幼馴染の一人、美佳が、狭霧町でも特別に設けられた広い空き地のような広場で、俺と慎に向かって珍しくテンション高い様子でそんなことを言った。

 雹菜との相談から三日ほど経ち、今日は土曜日。

 つまり学校は休みで、だからこそこうして俺たちは昼間からこんなところにいられるのだった。

 普段だったら夕方くらいにならないとどうしても自由時間にならないからな。

 まぁ、もう三年である俺たちに登校日はあまりないのだが、それぞれ内定の決まったギルドで研修だったりと、平日は中々、予定が合わない。

 土日なら比較的開けやすいため、今日はこうして集まることができたのだった。

 ちなみに、なぜ集まったのかといえば……。


「美佳、恥ずかしいからやめろって。おのぼりさん……とは思われないだろうが、調子に乗った変な高校生だと思われるぞ。いくら俺たち三人での初めてのダンジョン攻略だと言ってもな」


 慎が美佳の肩を叩いて呆れたようにそう言った。

 そう、俺たちは今日、先日約束したダンジョン攻略をするためにこうして集まったのだった。

 ここは、俺たちが住む氷室区狭霧町に存在するダンジョン、《氷室第三ダンジョン》……通称狭霧ダンジョンの入り口前であり、《乗代ダンジョン》と似たような、地面が不自然に盛り上がって、ポッカリと口を開いた洞窟のような迷宮入り口がそこに存在していた。

 その前には沢山の冒険者が潜る前のミーティングをするために集まったりしている。

 もしくは、一緒に潜る人間を募集していたり、あとはただのナンパとか、出てきた冒険者から特定の素材を売ってもらえないか交渉したりとか、そんな人々もいるな。

 まぁ、どこの迷宮でも見られる光景だった。


「仕方ないじゃない。楽しみだったんだもの。学校の模擬ダンジョンなら何回か一緒に探索したりしたけど、やっぱりあれって本物じゃないから」


「まぁそりゃあな。安全性とか考えるとどうしても仕方がないんだろ。授業で人死にが、なんてことになったら責任問題になるからな。それでも全国的にそれなりに事故は起こってるけど」


 慎が言ったことは実際に正しく、毎年、冒険者関係の学校では、通常の学校ではあり得ない数の怪我人や死亡者が出ている。

 ただ、やってることがやってることなので、怪我人が出るのは当然の話なので問題はない。

 死亡者についてだな、問題があるのは。

 模擬ダンジョンで、ということは滅多にないようなのだが、学生同士で喧嘩したりしてひどいことになる場合が結構あるのだ。

 授業の中でなら、よほどの重傷を負わない限り治癒できるような《場》が用意されているので、たとえ模擬戦したところでそこまで酷いことにはならないのだが、そうではない場所で冒険者としての才能を持った存在が小競り合いでもすれば、そうなるのはさもありなんということだ。

 《ステータスプレート》のステータスの数値で分かったが、冒険者というのは腕力20もあれば、通常の人間の四倍の力がある。

 普通に殴りかかっただけで、とんでもないことになるのは明白だ。

 その意味では《ステータスプレート》がしっかりとわかりやすい形で数字にしてくれたのはありがたい話だったかもな。

 自分の持ってる力、というのは客観的に理解しにくい。

 軽く撫でたつもりでも、普通の人間からしてみればヘビー級ボクサーに殴られたようなものだ、みたいなことになりうると数字でわかれば、考えなしの高校生でも注意するだろう。

 もちろんのことだが、そんな事故など起こせば冒険者として活躍する場所など今後一切与えられないし、普通に処罰される上、武器を使って攻撃したと見做されて重い刑罰が科されるので、そもそも普通はやらないのだが、どんな場所にもバカというのはいる。

 そして全国的に見れば、結構な数になってしまう、という恐ろしい話だな。

 

「……なんにせよ、今日は本当に命がかかってるから無茶はしないように頑張ろうな」


 俺がそう言うと、二人は深くうなずく。

 それから、


「創のことは私と慎でしっかり守るから、安心してね」


「おう、何があっても怪我させねぇぜ」


 そんなことを言ってくる。


「ありがたい話だけど、ほぼ寄生になっちゃうから、少しくらいは戦わせてくれよ……?」


「それは勿論だ。そのために来たんだからな。じゃあ、装備も確認終わったし、早速潜るか?」


「そうしましょう」


「あぁ」


 慎の言葉に美佳が頷いたのに続いて、俺も返答をする。

 そして、三人揃って、迷宮の入り口に進んだのだった。

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