第410話 ゴブリンとの交流について
「でも、それが本当ならゴブリンと一度話してみたいな」
それが今の俺の正直な気持ちだった。
以前だったら、魔物と話してみようなんて気にはまずならなかっただろう。
けれど、ペルシュと、短時間であってもあれだけ深い交流を持てたのなら……。
それに彼が願っていただろう、ゴブリンの存在したという証を、この地球に残せるのなら。
そのために俺がやれることがあるのなら。
出来ることはしてみたいと思ったのだ。
「創の考えてることは分かるわ。でもそうなると……やっぱりはぐれゴブリン目撃情報があるところをいくつか探してみる感じになるわね。少し時間がかかると思うけど……」
「はぐれゴブリンじゃないとやっぱり駄目なのか。迷宮のゴブリンじゃ……」
一番手っ取り早いのは、それだ。
迷宮のゴブリンは本当にどこにでもいる。
浅い層において出現する魔物としてスライムと並ぶほどに有名な存在であるほどだ。
だから迷宮のゴブリンであれば簡単に試せるのだが……。
「言ったでしょ。迷宮のゴブリンとじゃ、話そうとしてもうまくそれが出来ないってね」
「それってどんな感じなんだ?」
「《翻訳士》を抱えてるギルドで、それを試したところに聞いたんだけど、向こうの言ってることは分かるそうよ」
「なら……」
「その内容は『ニンゲンダ! ブッコロシテヤル!』とか『コロセコロセェ!!』とか、そんなのばかりだって」
「……おい、物騒にもほどがあるだろ」
ペルシュと同じ種族とは思えない野蛮ぶりだ。
いや、人間にだって、とても理性があるとは思えない振る舞いをする奴もそれなりにいるのは事実だから、そういうものか?
「加えて、こっちから、どうか話を聞いてくれないだろうか、みたいなこと言っても、反応に変化はないみたい。なんというか、こっちの言ってることは聞こえてないみたいな振る舞いらしいわ。だから、会話しようというのは無理という話ね」
「そうなのか……はぐれはそう言うことはないのか」
「ええ。といっても、まだ一件だけしか確認できてないけどね。まぁもうすでに話してる人はいるのかもしれないけど、仕入れられたのはって意味で」
「冒険者が先んじて得られた情報を隠すのはいつものことだから、まぁそれはな」
「そういうことね……で、その一件だと、同じように、話を聞いてくれって話しかけたみたいよ。そこで返ってきたのは『……なぜ俺たちの言葉が分かる? いや……俺たちとは……? 俺は……』という内容だったみたい。それで、さらに、俺の言葉が分かるのか、もっと話を……、と言ったところで、ゴブリンの方が逃げてしまったみたい。少し探してみたけど見つからずじまいでね。かなり巧妙に隠れているのだろうってことよ」
「その反応は……どういうことなんだろうな? まぁ迷宮のゴブリンと違って会話できることははっきりしてるから、それはそれで有用な情報なんだが」
「それこそ、しっかり話してみないと何も分からないわね。ただ、向こうに知能があることはもうはっきりしたわ。その情報はすでにマスコミも得てしまってるみたいだから……報道されるのも時間の問題でしょうね。そうなると若干面倒な気はするけど」
「なんでだ?」
「イルカとかクジラの保護団体とか考えれば分かるでしょ?」
「あぁ……そういう」
「ま、それもあってさっさとゴブリンと交流持ちたいってのが政府の考えのようね」
「それはどういうことだ?」
「ああいう団体って、あくまでも代弁して権利を主張するでしょう。イルカやクジラはこうしたいと考えてるはずだから保護する、そのために自分たちに寄付や支援を、と。でもゴブリン自身がして欲しいことをはっきり言えば……」
「あぁ、間に入れない訳か。なるほどな」
「そういうこと。そんなわけで、うちにも政府からゴブリンと交流を持てたらすぐに連絡をっていう話も入ってるのよ。だから、創が心配しなくても、はぐれゴブリンとはどうしても話をしないといけないのよね」
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