第409話 推論

「……とんでもない話ね」


 全てを話し終わって、雹菜は頭を抱えてそんなことを呟く。


「気持ちは分かるよ。というか、経験した俺自身でさえも、本当にあったことか?という気持ちはあるからなぁ……」


 世界が崩壊したとか、どんな世界でも寿命があるとか、そんな物事の存在の根幹みたいな話を唐突に聞かされ、そして実感させられるとは想像してもいなかったからな。

 しかし、紛れもない事実ではある。

 あの老ゴブリンは流暢に話していたし、この世界の人間に匹敵する、いやそれ以上の知性と器を感じた。

 確かにあの世界には、以前、ゴブリンの楽園があったのだと……。


「信じてないわけでは全くないけどね。創のめちゃくちゃな体験はいつものことだわ。それより……その老ゴブリン──ペルシュさんから受け取ったという《何か》についてなんだけど……」


「あぁ、それな。それは俺にもあんまり分からないんだよな。確かにステータスは少し上がったような気がするけど、その程度でさ」


 そう言う俺に、雹菜は意外にも首を横に振って、


「いえ、そういうことじゃなくてね」


 そう言ったので俺は首を傾げる。


「ん? なんだよ」


「えーっと……そうそう、テレビを見る?」


「急に何を……」


 俺がそう言っている間に雹菜はテレビのリモコンをピッと押して、電源をつけた。

 するとそこにはニュースが映っていて、そこでは女性アナウンサーが真剣な顔で、


『……一時間ほど前にテロップで流れたニュースですが、確認が取れました。《転職の塔》にて取得できる職業の一つ《翻訳士》ですが、他国の言語を容易に話せるようになるというのが特色と考えられていました。しかし、一時間ほど前の政府発表によりますと《翻訳士》の取得できるスキルに《ゴブリン語》という謎の言語が確認され……』


「え?」


 俺が首を傾げると、


「聞いての通りよ。ちょっと貴方たちが来る前に各方面に確認を取ってみたんだけど、事実みたいだわ。スキルに《ゴブリン語》というのが色々な人に出ているらしいの。加えて、早速使ってみた人もいて……どうなったか、聞く?」


「あ、あぁ……」


 俺がおそるおそる尋ねると、雹菜は言った。


「簡単に言うと、ゴブリンと会話できたみたい。迷宮のゴブリンとだと、向こうの言ってることが多少分かる程度で、こっちから話しかけてもあんまり反応はしてくれないみたいだけど……。ただ迷宮外のはぐれゴブリンとはしっかりと会話が出来たらしいわ。驚いて向こうはすぐに逃げてしまったらしいのだけど」


「ゴブリンと会話が……なんで……」


「……推測なんだけど、それが、創の貰ったもの、だったんじゃない? ペルシュさんは言ってたんでしょ。繋げるための方法はあるって。あまり意味はないけど、とも言ってたみたいだけど……それって多分、この世界の現れてるゴブリンが、今回みたいに話せるようになるってことじゃないの?」


「どうしてそう思うんだ?」


「ペルシュさんの話だと、彼の世界は崩壊してしまって、彼以外のゴブリンは全て世界の影にすぎないって……こっちの世界に出現するゴブリンもそうだって話だったでしょう」


「あぁ」


「つまり、こっちの世界のゴブリンと、ペルシュさんの世界のゴブリンは直接的な繋がりはないけど、でもコピーみたいな存在って事になるわ」


「それは……そうなるか」


「だから、こっちの世界にゴブリンがいても、ペルシュさんの世界のゴブリンの血が繋がれた、みたいな話にはならないけど……でもコピーにしろ、それがずっと生き残っていくなら、それはペルシュさんの世界があった証拠みたいなものにはなるんじゃないのかしら……感傷的かしらね」


「……いや、言われてみると……納得がいく。しかし、ゴブリンが言葉を話せるようになったのは……ペルシュがそのために必要な何かをくれたから?」


「そうなんじゃないかしら。それがなんなのかはわからないけど……」


「うーん……」

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