第20話 測定室
《白王の静森》のギルドビルは、やはり日本でも名の知れた大規模ギルドのものだけあって、格が違った。
俺は自分の内定ゲットのために、数々の大規模ギルドを行脚しているが、それでもこれだけの規模のものはほぼない。
自動ドアの入り口から入ると、すぐに受付があって、きれいなお姉さん二人が受付嬢をしていた。
俺たちが近づいてくるのに気づいて、すぐに立ち上がり、
「ようこそ、《白王の静森》ギルド、東京駅支部へ。本日はどのようなご用件で……ッ!? も、申し訳ありません!」
そう言った。
途中までは流れるような口調だったが、雹菜の顔を確認するや否や、顔を蒼白にして頭を下げる。
それに対して雹菜はいつものことだ、といった感じでひらひらと手を振って、
「そんなに畏まらないでください。私はただの女子高生ですよ……」
と言うが、受付嬢の方が、
「いえ、白宮様は、白宮代表のご姉妹でいらっしゃいますし、白宮様ご本人も、B級冒険者としてこのギルドを引っ張っておられるお方です。敬わないなど……」
そう言ってふるふると首を振った。
俺は結局タメ口で喋っているし、普通の友達扱いをしているが、B級冒険者の扱いとしてはむしろこの受付のお姉さんの方が正しい。
いきがっている不良ですら、B級冒険者を前にしたらちびるほどの力を持っているのだ。
まぁ、そもそも、冒険者ではない一般人が、たとえスキルゼロの俺の前に立ったとしても勝てはしないだけの力の差があるのだが、その辺は意外に伝わっていないところがあるな。
分かっている人は分かっているのだが、学校で先生に逆らって悦に浸るレベルの不良だと、知らないことも結構ある。
そしてそうであっても、B級冒険者がどれだけヤバいかはみんな分かっている、ということだ。
「お姉ちゃんはともかく、本当に私なんて大したことないんですけどね……」
「冒険者の一人として、その意見は受け入れられません。それで、白宮様、本日はどのような……?」
「あぁ、ちょっとスキル測定装置を使用したくて。この人のスキルを測りたいんですよ。今、空いてますか?」
「それでしたら、二時間後までは使用申請はありませんので、測定室に向かっていただければ大丈夫です」
「そうですか。じゃあ、そうしますね……創、行こうか」
「あ、あぁ……」
俺は会話に口を挟めず、ただただ雹菜の後をついていく。
なんだか情けない気分になってくるが、これがスキルゼロと、大規模ギルド所属のB級冒険者の威厳の差というか、扱いの差なんだよな。
今の時代、強い冒険者こそが尊敬され、力を持っているのだった。
******
「さて、と。準備はいいかしら?」
スキル測定室、との札が張られている扉の中に入ると、そこにはガラス張りの大きな正方形の空間と、そこをモニタリング出来る小部屋とに分かれていた。
「ここでスキル測定するのか? 役場のものと全然違うんだけど」
「町役場なんかにあるのは大抵、簡易装置だからね。最下級スキルくらいしか調べられないもの。でもここにあるのは精密測定が可能なものよ。迷宮算出の魔導具がコアに使われているから、未知のスキルもある程度、調べることができるの。それでも分からない時もあるのだけど……滅多にないことだからね。気にしなくていいわ」
「へぇ……そういうもんか。まぁ、俺としては別に準備も何もないよ。どうすればいいんだ?」
「ガラス張りの部屋の中に入ってもらって、その中心にしばらく立っていてくれる? こっちで色々操作するから、じっとしていてくれれば大丈夫よ」
「分かったよ。服はこのままでもいいのか?」
役場だと出来るだけ薄着になってくれ、とか言われるからな。
精密に調べるとなるとまさか裸にならないとダメとかはないよな……?
「あぁ、大丈夫大丈夫。役場のものは服で魔力とか遮られるくらいで検出出来なくなっちゃうのよ。ここのは平気」
「良かった……じゃ、頼む」
「ええ」
そして、俺がガラス張りの部屋の中に入ると、モニタリング室の方で雹菜がコンソールを操作し始める。
すると正方形のガラス張りではない壁の方から、色々な光が俺に向かって照射される。
これによって、魔力とか精霊力などを測定し、どんなスキルを持っているかを調べる、というわけだ。
役場のものは、タンニングマシンのような小型のものだが、やってることはやはり同じで何かよく分からない光を照射されるのだ。
目は瞑ってもいいが、瞑らなくても特に視力等に影響するようなものではないらしい。
ただ眩しいは眩しいんだよな……。
そうして、十分ぐらい経ってから、部屋の中に、
『もう戻っていいわよ』
とマイク越しの雹菜の声が聞こえた。
俺はガラス越しに頷いて、モニタリング室の方に戻る。
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