第21話 測定結果

「……結果はどうだった?」


 モニタリング室に戻り、雹菜に尋ねる。

 ここまでしっかりとした測定装置に測定してもらったのはもちろん初めてのことで、俺は楽しみになっていた。

 町役場では小さな機械だし、市役所まで行ってもせいぜい病院のレントゲン室みたいなところ程度だ。

 まぁ、測定装置は導入するのに結構な金額がかかるらしく、どうしようもない話なのだが。

 そもそも、俺のように最下級スキルがないかどうか確認する、くらいの駆け出しなら、それで十分なのだし。

 ……改めて考えると怖いな。

 何の才能もありません、という結果がまた出るのかと思うと。

 今更の話というか、ただの確認にしかならないのは確かだが、これだけしっかりした装置にかけてもそれでは、もう俺には何も望めないという話になってしまいやしないか。

 そう思うから。

 そんな俺に雹菜は、


「ちょっと待ってね……あっ、出た出た」


 そう言って、モニタリング室の中にいくつもあるディスプレイの一つを見る。

 どうやらそこに結果が表示されているようだが、その顔色はなんというか、微妙だった。

 それで俺は結果を理解してしまう。

 俺は雹菜の肩をぽん、と叩いてから、


「……もう分かったよ。何、遠慮することなく、はっきりと言ってくれ。俺は受け入れるから」


 そう言ったのだが、雹菜の表情はさらに微妙なものになった。

 ……なんだ?

 どうしたんだ。

 困惑する俺に、雹菜は言う。


「あのね……確かに、創の測定結果は……スキルが、ないのよ」


「……そうだよな。そういう顔だと……」


 思った、と言う前に雹菜は首を大きく横に振って、


「違うの! これを見て!」


 そう言ってディスプレイの向きをこちらに向けてくる。

 そこには数多くの測定結果が書かれてあった。

 スキルの有無だけ調べるものかと思っていたが、厳密には違うようだ。

 魔力量とか、精霊力のランクや質などまで書かれている。

 それもかなり細かく。

 ただ、問題はそこではなかった。


「これは……ええと、スキルがないって、ことなんじゃないのか?」


 そこにはこう書かれていた。


 名前:天沢 創

 所持スキル:《》


 これだけで分かろうと言うものだ。

 もちろん、記載内容はこれだけではなかったが、他の部分は省いている。

 やはり、俺はスキルゼロで……。

 しかし、残念そうな表情の俺に、雹菜は不思議そうな顔で言うのだ。


「もしかして、創、よく分かってない?」


「よく分かってないって……スキルが書いてないのは分かるけど」


「だから、そうじゃないのよ」


 流石にここに至って、俺も何か変だと思い始めた。

 首を傾げて、


「……どう言う意味だ? 何か変なのか、これ」


「極め付けに変よ。本当にスキルのない人……いわゆるシチズンとかシンプルとか言われてる人たちね。彼らを測定すると、所持スキルの欄は、はっきりと、なし、と書かれるわ。でもこれは……」


 それで一体、雹菜が何に注目しているのか、理解した。


「言われてみると、よく分からない括弧があるけど……これってそういう設定なんじゃないのか?」


 装置のというか、パソコンのというか。

 ない場合はこう表示されるようになっているのだ、と思って気にしなかった。

 確かに役場で渡された測定結果の用紙には、はっきりと《なし》と書かれていたが……。


「そんな設定ないわよ。ここで一体どれだけの人のスキルを測定してきたと思ってるの。私も何度も立ち会ったもの。それこそ、このギルドに就職しようと来る人たちは、創みたいな冒険者系の学校を卒業した人以外にも一杯いるからね」


「まぁ、年齢が上の方になると、わざわざ入り直すより直で受けにくる、いわゆる中途採用狙いの人が多くなるよな」


 これは仕方のない話だ。

 他の国ならともかく、日本だとどうしても、冒険者系の学校は高校扱いになることが多く、そしてそういうところに社会人になってから入りなおそう、と思える人は少数派だ。

 大学でもそう言う講座をやっていたり、それこそ社会人向けのスクールとかもあるにはあるが、どっちかというとギルドがそんなところに行くくらいなら最初からギルドに試験を受けにくることをウェルカムという感じであるため、よほど事前準備に余念のない人以外は、今の職業についたまま、フラッと転職気分でギルドに行ったりすることの方が多いのだった。

 そういう人たちのふるいわけに、スキル測定はちょうどいいのだろう。

 スクールとか行かなくても、最低限のスキル取得条件くらいは満たそうとする人が多いからな。

 それで一つぐらいはスキルを持っていることが普通だ。少なくとも、大規模ギルドに中途でも入ろうとする人たちは。

 雹菜の話はそういうことだった。

 けれど、そういう時に、スキルがない場合、はっきりと、ないと書かれると……。

 なのに俺の結果は……。


「これについては、全く理由が分からないわね。やっぱり、創。貴方には何かあるわよ。でも……ここでは調べることが難しいみたい。ごめんなさい……」

 

 雹菜が残念そうにそう言ったが俺としてはむしろありがたい話だった。

 

「いや、むしろ調べてもらえてよかった。俺はスキルゼロで、何の才能もなくて、この先どう頑張っても冒険者にはなれないのかもって、そう思ってた。でも……俺には、何かが、あるんだな……それが何なのかはさっぱりだけど、さ」


「……うん。そうよ。だってB級冒険者の私を助けたのよ? 豚鬼将軍まで倒して。そんな貴方に、何もないわけがない! でも困ったわね……とりあえず、データは消しておいて、と」


 呟きながら、雹菜はコンソールをいじって、今の測定結果を削除した。


「どうしてそんなことするんだ?」


 別にこんな人間の測定結果が残っていようとどうでもいいだろうに。

 そう思ったが、雹菜は、


「さっきも言ったけど、たくさんの人の検査結果を見た私が初めて見る結果なのよ? 余人に知られたら、どうなるか分からないわ。少なくとも、うちの姉のおもちゃに……」


 そう言いかけたところで、


「……お姉ちゃんが、どうかした?」


 と、突然背後から声が聞こえて、俺は驚いて振り向く。

 するとそこには、雹菜とよく似た、しかし少しばかり大人にして、色気が増したような存在が立っていた。

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