第382話 創の感想

「……いやぁ、最近の学生ってのは、とんでもない奴がいるもんだな。あれで一年だろ!? 化け物かよ……」


 俺がベンチでそう呟くと、雹菜が笑って答える。


「さっきの創の相手の……大和君ね。あれだったら王華でも十分通用するレベルだわ。冒険者になってもD級くらいまではすんなり上がれるでしょうね」


「だよな!? しかも最後の奴はなぁ……まさか自分に《雷術》放って反応速度を上げるって。軽い自殺行為だろ」


「術系スキルを覚えてる、それなりに高位の冒険者は割と術を纏って何かしらの能力を上げる、みたいなスキルは覚えてたりするわね。今だとアーツ化してることも多いけど」


「そうなのか……ってことは、雹菜も?」


「そういうことね。私の場合はアーツに組み込まれている方よ。《氷姫剣術》に統合されているみたい」


「なるほど、通りで見た記憶がないわけだ」


「そもそも覚えにくいスキル系統だから、高位冒険者であっても覚えてないことも少なくないわ。それなのにあの若さで覚えてるのは……相当な修行と才能が必要ね。勧誘したいくらいだわ」


「いいんじゃないか? つっても高校卒業までまだ何年もあるけど。インターンとか?」


「長期休みとかに佳織ちゃんと一緒に来て貰えば? なんだか良いライバル関係みたいだし、ちょうど良さそうじゃない?」


 そう言って雹菜が視線を向けた方向を見れば、佳織と大和くんが何か言い争っているようだった。

 本気で喧嘩している、というよりじゃれ合っている感じだ。

 佳織とあそこまでやりあえるとは……兄ながら尊敬するよ、本当に。

 俺には無理だ。

 まぁ別にそこまで怯えているわけでもないんだけど、なんか妙な威圧感を出すときがあるんだよな……妹や姉がいる人はきっと分かってくれることだろう。

 そういうのを軽減するために、大和君には是非にうちのギルドにきて欲しいかも、とか思ってしまった。

 もちろん、実力も折り紙付きだし。

 ついでに言うと、彼からは色々スキルをパクったからなぁ。

 《雷術》と、最後の雷を纏うやつ。

 あの二つは滅多に見られないものであるのは間違いなく、それをこんなに至近距離で観察させてくれたのだ。

 何らかの報酬があってもいいだろう。

 とはいえ、うちのギルドに入ることが報酬になるとは限らないが。

 もっと大手に入りたいという可能性も高い。

 彼はどこのギルドにも門前払いされていたかつての俺と違って、むしろ希望の星なのだから。

 まぁ言うだけ言ってみるのは、別にありだろう。

 だめだったらなんかあげられるものでも考えておこう。

 そこまで考えて、俺は雹菜に言った。 


「ま、誘うだけ誘うのはいいかもな」


「じゃ、そのうちそうするってことで。さて……じゃあそろそろかしら」


 雹菜がそう言うと同時に、アナウンスの声が聞こえてくる。

 俺と雹菜のエキシビジョンマッチを告げる声だった。

 俺の名前はともかく、雹菜の名前が告げられた瞬間の学内闘技場の盛り上がりと言ったらなかった。

 まぁ……芸能人が歌とダンスとか披露してくれるようなもんだからなぁ。

 

「人気者だな、雹菜」


「まぁね。でも、創の名前呼ばれたときにも、ちょっと歓声が上がってたわよ?」


「そうか?」

 

 気のせいかと思ってたけどそうでもなかったらしい。


「ええ。多分、さっきの試合を見て中々やると思ったんじゃない? 終始、圧倒してたわけだし」


「そもそものステータスが違うし、この学校の実技を見て色々とスキルとかパクれたからなぁ……。地力は大分上がった気がするよ」


「ってことは、私も油断できないわね」


「おいおい、本気出すのは勘弁してくれよ? 闘技場ぶっ壊れるぞ……」


「それは創もでしょ。補助系は無しで」


「身体強化はありだろ?」


「ええ。でもC級程度までにしましょう。私もそうするから」


「そうなると純粋な技量勝負になりそうできついんですが……」


「そうでもないでしょ。私の知らないスキルとかいっぱい覚えたんだから」


「まぁ……はぁ、仕方ない。できる限り情けなく負けないよう、頑張るよ。行こうか」


「ええ」


 そして俺と雹菜は闘技場ステージへと進んでいく。

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