第383話 志賀大和の感想 1

「お、そろそろ始まるみたいだぜ。二人とも出てきた」


 俺と天沢さんとの戦闘から十五分ほどが経過し、そこでやっと白宮さんと天沢さんのエキシビジョンマッチをこれから行うとのアナウンスが流れた。

 間が空いてるのは、やっぱり天沢さんは俺程度が相手とは言え、戦ってすぐにというのは疲労があるだろうから、という配慮だろう。

 あと一応、闘技場ステージのチェックとかかな。

 別に俺と天沢さんとの戦いでステージが壊れたりとかは全くなかったので問題はないが。


 あのステージは学校用とはいえ、冒険者が戦う以上、かなり頑丈に作られている。

 聞くところによると、C級程度のスキルにまで耐えきれるものらしい。

 闘技場に張られている結界と同じだな。

 製作は安心安全の星宮製……。

 普通にやったんじゃまず傷つくことはない。


 学生でC級を超える実力者なんて、まずいないからな。


 王華でさえ、そんな人間は歴史上数えるほど。

 ただその中の一人があそこにいる白宮さんなんだよな……。

 考えてみるとすごい人の戦いを見るんだな、俺たちは。


 そんなことを考えつつ、俺は横にいる佳織に言う。


「お前、どっちが勝つと思う?」


 こいつは兄貴を過剰とも思えるほどに評価している。

 少なくとも以前はそう思っていたからこそ聞きたくなった。

 今となっては、あれだけ強い人なんだからそりゃ評価したくなるだろうって感じだが。

 ただ、流石にB級でもトップクラスと言われる白宮さん相手に勝てるとは思わないんじゃないか?とも考えている。

 

 ところが、佳織は言うのだ。


「……全く分からないわ」


「本気で言ってるのか? いや、馬鹿にしてるわけじゃないが、お前の兄貴はまだE級なんだぞ。流石にB級でかつ名の通った実力者の白宮さんの相手には……」


「普通に考えればそうだっていうのは認めるわよ。でも前も言ったでしょう。うちのお兄ちゃんは……なんかおかしいの。きっと見てれば分かるわ……」


「そうかよ。ま、自分が戦うんじゃねぇし、今度は楽しませて貰うか……」


「それがいいわ」


 そして試合が始まる。


 *****


 闘技場ステージの真ん中、距離をとって向かい合う二人。

 お互いに武器を抜いて構えている。

 白宮さんの方は細い剣を、天沢さんの方は意外なほどに巨大な黒剣を。

 どこか対照的で、不思議な感じがした。

 失礼かもしれないが、俺は、白宮さんが美貌の勇者なら、天沢さんは不敵に笑う魔王のようなイメージを抱いた。

 二人とも持っているのは真剣であり、模擬剣ではない。

 まともに命中すれば死ぬ可能性すらあるが……いや、そうさせないと確信できるだけの技量があるということか。

 学生のうちは中々そこまでの自信は持てない。

 ここにも現役と学生の差を感じた。


 そして、闘技場観客席の人間全てが息を呑む中、試合開始の合図が響く。


 その瞬間のことは、多分、誰も予想していなかったのではないかと思う。


 というか、これは所詮、学生闘技場で行われる模擬戦に過ぎない。


 だから、二人は真面目に戦うにしても、演舞のような、魅せる戦いを披露するのだろう、とどこかでみんな思っていた。


 けれど現実はまるで違った。


 試合開始の合図と共に、二人の姿が一瞬ブレる。


 そして次の瞬間、二人はステージの中心で武器をぶつけ合っていた。


 周囲に衝撃波が放たれ、闘技場を包む結界がバリバリと紫電を帯びながら震える。

 

 結界の限界近い衝撃がそこに加わったからこその反応だった。

 

 ただの衝撃波で、それだけの力が……。


「……な、なんなんだよ、あれ……」


 俺が思わずうめくと、佳織が、


「……あれが、お兄ちゃんの本気なんだ……」


 俺と似たような表情で、しかし嬉しそうに笑っていた。

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