第384話 志賀大和の感想 2

 もちろん、白宮さんと天沢さん、二人のぶつかり合いはそれだけでは終わらなかった。

 鍔迫り合いの状態でギリギリと力比べを始め、それではどうやら決着がつかないと両者は理解したらしく、お互いが弾く形でステージの両端まで跳ぶ。

 

 そこでも二人とも、一瞬たりとも互いの動きから目を離すつもりはないと、剣を構えてゆっくりと間合いを探っていた。

 

 その動きは、開始直後の動きと比べると極端に緩やかにも思えたが、それが見た目通りの穏やかなものではないことは、観客達にもはっきりと分かっていた。

 

 あれは互いの隙を探すために、あえてあのように動いているのだということは。

 

 実際、十数秒、動きが止まった、と思った瞬間、天沢さんが身じろぎをすると、白宮さんがいつの間にかその場から消え、天沢さんに向かって細剣を突き込んでいた。

 

 一体いつ踏み込んだのか……いや、それよりも今は天沢さんがそれでやられたかどうかだ。

 しかし、天沢さんに傷はなかった。

 

 よく見てみれば、白宮さんの細剣の切っ先は、僅かに天沢さんの脇の下辺りを突いており、そしてそれを観客達が認識したときには既に天沢さんは巨大な大剣を振りかぶっていた。

 

 あの質量が振り下ろされれば、白宮さんのような一見、華奢な女性であれば、一撃で両断されてしまう。


 そう思った観客達は、あぁっ、と悲鳴のような声を上げる。


 けれど実際にそんなことにはならなかった。

 

 白宮さんは、天沢さんの大剣が振り下ろされる頃には既にバックステップでもって引いており、天沢さんの剣はステージに命中することになる。

 

 ステージは言わずと知れた星宮製で、たとえ剣が思い切り振り下ろされたところで傷がつくことはない。

 

 事実、俺や佳織は何度となく、この闘技場ステージを剣でたたいているが、僅かな傷がついたことすらなかった。

 それだけ頑丈なのだ。


 しかし、天沢さんの一撃は、そんな硬度を誇るステージを大きく砕く。

 

 砕かれたステージの破片はそのまま後ろに引いていた白宮さんに向かう。


 もしかして、一連の動きはここまで考えてのものなのだろうか?


 だとすればそれは恐ろしいことだ。


 たった一撃にいくつの意味合いが込められているというのか。

 

 これほどの駆け引きを出来るようにならなければ、一流の冒険者にはなれないというのか。


 高い壁を感じる。


 しかし、それに俺が絶望を感じる暇もなかった。


 ステージの破片が白宮さんに当たる、その直前に、彼女の前に氷の盾が出現したのだ。

 

 しかも一つではなく、複数。


 それはステージの破片を弾き飛ばし、さらに白宮さんが動き出すに合わせて彼女の周囲を衛星のように回り出す。

 

 なんだあのスキルは……氷で出来ているのだから、おそらくは《氷術》なのは推測がついた。


 けれどあのような動きをするようなスキルは聞いたことがなかった。


 公開されていないスキル?


 B級冒険者ならば十分にありうることだ。

 

 それをこんなところで見せてくれるのは……見られたところで大した問題がないから?


 いや、そういうことではなさそうだ、と思ったのは白宮さんの次の動きを見てからだった。

 鷹揚と構える天沢に向かう白宮さん、もう一度先ほどのような突風のような突きを放つのか、と想像したが、そうはならなかった。

 そうではなく、彼女は彼女の周囲を飛び回る盾を巧みに配置し、階段か足場のように扱ってまるで空中を機動するような複雑な動きを見せたからだ。


 あれはただの盾ではなく、足場でもあったのだ。

 

 これには天沢さんも驚いたようで、少し目を見開いているが……。


「……普通じゃない。あの人笑ってる……」


 俺がそう呟くと、佳織が、


「とんでもないわね……あんなの、どう対応するの……」


 唖然としながら凝視していたのだった。


*****


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いつも本作を読んでいただき、ありがとうございます!


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こちらも本作と同様、基本毎日投稿で頑張っておりますので、どうぞよろしくお願いします!

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