第381話 志賀大和の気持ち 13
俺は試合後、半ば呆然とした心境でベンチまで戻った。
佳織がなんとも言えない顔でこちらを見つめ、ただ俺の表情を見ると、ふっと笑って、
「……まぁ、何はともあれ、お疲れ。大和」
そう言ったのだった。
「あぁ……本当に疲れたよ。というか、勝てるとは思ってなかったけど、ああも意味分からずに負けるとは思ってなかったな。最後、俺、どうなったんだ。なんで仰向けに倒れてたんだ……?」
「そこから? 最後の方は……あんた、なんだか分からないけどもの凄い早さで動いてたでしょ? あれ何なのよ。授業でも使えば私だって勝てなかったのに」
少し呆れたような顔なのは、今まで一切、《雷纏》を使ってみせたことがなかったからだろう。
模擬戦はそれなりにやるが、その中でも決して。
その理由は簡単で、あれこそが俺の切り札だからだ。
最後の手段をそうそう見せるわけがない。
今日ばかりはそうするわけにはいかなかったから使ったが。
「あれはお前に簡単に見せるわけにはいかなかったんだよ」
素直にそう言うと、佳織は首を傾げて、
「なんでよ?」
と尋ねてくる。
「あれを使ってすら勝てなかったら、流石に落ち込むからだ」
「えぇ? いやぁ……あれは無理でしょ。少なくとも、今の私には全く対応できないわよ」
「……本当か? お前も何か切り札隠してて、実は簡単にどうにかできるとかじゃないのか?」
「あんたねぇ。私を化け物かなんかだと思ってんの? 普段の模擬戦だって結構ギリギリなのよ……顔に出さないように必死にしてるだけ」
そう答えた佳織に、なるほど、天沢さんが言ったことは確かに正しかったのだなと理解する。
「本当にそうなのか……」
思わず俺がそう言うと、
「どういう意味よ?」
と尋ねてきたので答える。
「いや、天沢さんが、模擬戦で佳織は余裕ぶってるけど足にきてたからよく見てれば勝てたって言ってたからさ。マジなんだと思って」
「……お兄ちゃん……なんでバラすかな……」
「今、自分で言ったんだから、同じだろ」
「そうなんだけど」
「……まぁそれはいいよ。で、さっきはどうなって俺はあんな体勢になったんだ?」
「そうだったわね。って言っても、私も全部はっきり見えたわけじゃないからね?」
「あぁ……それでも構わない」
「最後、あんたがもの凄い速度で動き出したのは見えたわ。それで……その一瞬後に、お兄ちゃんも同じくらいの速度で動いて……で、気づいたらあんたが仰向けになって倒れてて、お兄ちゃんがあんたの首筋に剣を突きつけてた。それだけよ」
「ってことは……《雷纏》と同じ速度で動いたわけだ、あの人は……それがE級なのか……?」
驚愕だった。
もちろん、最初の方に、天沢さんが速度を抑えながら戦っていたことには気づいていた。
だから本気で動いたとき、どれくらいのスピードを出せるのかは分からなかった。
でも、それがまさか《雷纏》と同じほどだとは考えてもみなかった。
いや……ありうるのか?
C級冒険者である父ですら、素の状態では俺が《雷纏》を使っている速度だと対応に苦慮すると言っていたのに。
まさかE級がなんて……。
父が言っていたのは、所詮、息子に対する甘やかした言葉だったのだろうか?
確かに父は俺に甘いところはあるが、それでも《雷纏》を身につけさせるために《雷術》を遠慮なく撃ち込んでくる人だ。
だから、あの台詞が全くのお世辞だったとは思えない。
色々と考える俺に、佳織が言う。
「……何考えてるのか知らないけど、私のお兄ちゃんを他の何かと一緒にしない方がいいわよ。多分、世界とお兄ちゃんなら、お兄ちゃんの方がおかしいのよ。今日、あんたとの戦いを見て分かったわ」
「え?」
「まぁ……それも含めて、次の試合で分かるんじゃない? 雹菜さんと戦うから」
「あぁ……でも、流石にB級でも上位の白宮さんとじゃ、E級の天沢さんは相手にならないだろ」
「どうかな……私は相手になるんじゃないかと思ってるよ。雹菜さん、たまに言うのよね。いつ創に抜かれるか分かったもんじゃないから、うかうかしてられないわって」
「……冗談だろ?」
「半分くらいはそんな響きがないでもなかったけど……とにかく、観戦しましょう。何か分かるかもしれないから」
「……あぁ」
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