第483話 同族

「……止まってください!」


 小さな声で怒鳴る、という器用なやり方で叫んだのは相良さんだった。

 賀東さんと共に最前列を進む彼が担っているのは、索敵だ。

 ギルド《影供》は気配を隠すの上手く、斥候として役立つスキルも多く持っている傾向がある。

 これは《影供》が結成された経緯に大きな理由があるだろう。

 彼らは以前のレッサードラゴン討伐、そして《転職の塔》の迷宮攻略で崩壊した五大ギルドの元ギルドメンバーだ。

 彼らが生き残れたのは、そういった隠匿技術や危機を速く感じ取ることの出来る能力を持っていたからだ。

 結果として、生き残り達で寄せ集まった《影供》に属するのはそういうタイプが多くなっている、とそういうわけだ。

 この事実は、彼らにとっては恥というか、結局仲間の危機に逃げてきただけでは無いか、と自分たちを責め続けてきたらしい。

 周りはむしろ、情報を持ち帰ったことを褒めていたのだが、それでも自責の念というのは中々抜けない。

 だが、今回の探索ではむしろ、彼らの持つ情報やそういった能力が極めて役に立つ。

 今だって、誰よりも素早く、見つけるべきものを見つけているのだから。

 この探索を通じて、自信というか、生きる糧というか、そういうものを取り戻すことを願ってやまない。

 

「……何があった?」

 

 賀東さんが尋ねると、相良さんは答える。


「あの大岩の向こうに魔物がいるようです。緒戦になりますが皆さん準備は良いですか?」


「マジか。気配が感じられねぇが……」


「この辺りの魔物はどうも気配を隠すのが上手なものが多いんですよ。それで以前はかなり苦戦を……。ですが、それにも慣れて、やり方を覚えました」


 事実、《影供》の他のメンバーは少し先行して魔物が隠れてそうな位置を探ったりしている。

 今回のも、大岩手前に静かに向かった《影供》のB級冒険者、土岐さんが発見したのを、ハンドサインで相良さんに伝えられたものだ。


「そうか……じゃ、土岐さんには戻って貰って、みんなで向かおう。嘗めてかかるのはしない。創! お前も補助術の準備を頼む」


「はい!」


 そして土岐さんが戻ると同時に、全員に補助術をかける。

 ここはとりあえず、全体強化だな。

 相手によって何をかけるかは変えていくつもりだが、とりあえずは地力をあげてやり、戦いの様子を見ながら足りなさそうな部分をより強化する方針で行くことになっている。

 昨日、その訓練も短い時間だったが行ったし、みんなすぐに飲み込んでくれたからやれるはずだ……。


 そして、大岩手前まで来ると……。


「……気配は少ないけど、ここまで来れば分かるわね。匂いがするわ」


 雹菜がそう言った。

 続けて、世良さんも、


「は虫類っぽいにおいですね……ドラゴン? いえ……これは……」


 と言う。

 男性陣は残念ながら、みんな、


「そうか?」


 と言っていたが、その辺の敏感さは男女で違うのかもしれない。

 正直匂いは俺にも分からないな……。

 実際何がいたかというと……。


「……おぉ、二人ともビンゴだ。リザードマンだが……うーん、同族っぽい気がしちまうぜ」


 賀東さんが大岩の向こうを覗いて言う。

 彼自身、種族として《蜥蜴人リザードマン》であるから、まさに同族である。

 ただし、賀東さんの姿と、向こうの姿は結構違っている。

 向こうの方が体が大きい上、鱗も強靱そうだった。

 鎧を纏い、武器も持っている……。

 全部で五体いて、みな、結構な実力がありそうに見えるが……。


「あれくらいなら、みんなでかかればすぐでしょう。行きますよ」


 と相良さんが言うと同時に、全員が地面を踏み切った。

 ……俺?

 俺は補助術があるから、待機だよ。

 戦えないわけじゃ無いぞ?

 たぶん……。

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